物語の役割 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.86
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本棚登録 : 746
レビュー : 122
  • Amazon.co.jp ・本 (126ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480687531

感想・レビュー・書評

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  • ブクログの本棚に並ぶレビューを読んでいると、自分と同じような読後感をもったレビューに、そうそう!と感じたり、なるほど、そういう感覚もあるんだと感心してしまうものもありますね。

    物語を作る視点と、読者としての立場から、本と人のかかわりについて述べられた、小川さんの3つの講演が収められています。

    「小説を書いていくとき、このテーマについて書こうという始まり方はしない。一文でテーマを表せる物語なら書く価値はない」

    「物語は特別な才能を持った小説家の頭の中で、空想の世界でのみ形作られるものではなく、実際の世界、過去を生きた人々の姿を、丁寧に追いかけていく時に、物語が自分で自分の進んでいく方向を決める」

    「実際に生きていく人々は、皆何らかの物語を持っている。生きていくことは自分の物語を作っていくことそのものである」、というのは亡くなられた河合隼雄さんと小川さんの対談、”生きるとは自分の物語を作ること” でも述べられていました。

    自分の意思ではどうにも出来ない現実を、物語として再構築しながら心の中に落とし込んでいく、この作業は我々が生きていく営みそのもののようです。
    読者として自分の心と納得のいく物語に触れることによって生まれる感動、本の世界に入り込み、疑似体験によるカタルシスの後、元の日常に戻っていく過程こそが読書そのもの。

    まえがきに、小川さんの一文があります。

    「もし、他の星から来た生物が、本を読んでいる人間を見たらどう思うだろう、と私は想像するときがあります。ときおり1枚紙をめくるだけで、そとからは何の変化も観察されない。でも、その時、人間の心がどれ程劇的に揺さぶられているか、それは目には見えません」

    本を読んで深く心を揺さぶられることの意味を考え直しました。

  • 本書は小川洋子さんが3つの講演会でお話しされた内容をまとめたものです。
    タイトルの通り、「物語とは何か?」ということが大きなテーマになっています。

    人々の一番後ろを歩いていて、人々が知らないうちに落していったものやこぼれおちたものを、そっと拾い上げてそれらがこの世にあったのだという印を文字で刻む。
    それが小説家だと、小川さんは仰っています。
    1人1人の人間がそれぞれの物語を持っていて、小説家はじっと目をこらし、耳を澄まして、そんな小さな物語を掬いあげるのだと。
    小川作品の持つ慎ましさや遠慮深さの背景を垣間見たような気持ちになりました。

    先日読んだ小川さんと河合隼雄先生の対談集『生きるとは、自分の物語をつくること』(新潮社)の内容とも相まって、じんわりと心に沁みてきました。

  • 物語は特別なものではなく、誰もが日々作り出しているもの。作家の仕事は、それらの物語を自らの感性でキャッチし、「言葉」によって形作ること。つまり、「言葉は常に遅れてやってくる」。第二部の、小川洋子さんが一つの小説を生み出すまでの過程は興味深い。小説を書いてみたくなる。柳田邦男氏の息子さんのエピソードが印象に残った。人間は、物語を必要とする生き物なのだ。

  • 小川洋子さんの小説が好きなので、特に2章 「物語が生まれる現場」は興味深く読んだ。
    このように考えて物語を紡いでいるのだというのがわかって面白い。
    登場人物を死者だと思っているくだりにはびっくりしたけど、彼女の小説を思い返してすごくすとんともきた。

    教科書を作っている友達から聞いて読みました。

  • 2015/9/30
    作者本人の経験を元に、物語がどのような過程を経て生まれるか、その役割とは何か、そして自分にとっての物語とはどのような存在か、ということを、平易かつ温かみのある言葉で綴った新書。
    小川さんの本は「博士の愛した数式」しか読んだことないんだけど、その時に文章から受けた印象とさほど変わらない。テンションも言葉の紡ぎ方も、とてもやさしい。
    日常からやわらかい言葉を発するひとなんだなぁっておもう。
    言葉や物語のもつ、無限の可能性について考えさせられた。ひとは経験をもって、言葉の意味を覚えていく。「かなしい」と言えども、状況に応じて色々なかなしさがある。
    色々なエピソードをもって物語が成立するのだけれども、「かなしい」を表現するために色々試行錯誤する。そういったことの繰り返しが、物語になる。

    第三者の存在によって完成されるのが、物語だとわたしは思います。物語には、どんな人の心にも寄り添えるようなある種の曖昧さが必要だ、という言葉に深く頷いたのであった。

  • 「物語」を読むことは、自分の心が欲してきたことです。小川さんが、その言葉にならなかった気持ちを書いてくれたような気がします。紹介されている本、特に『アンネの日記』を読み返してみようと思います。

  • 本が好きな人は読んだら楽しめるはず。
    物語がどのようにして書かれていくのか、その行程の脳内が書かれていて面白いなぁって思う。
    主人公や、概念などが先を歩いていて自分がそれを追いかけて橋をかけてあげる、そこでその足跡が物語りになるんだと。

    あとは小説ってどういうものなのか語ってあったりして…あんまり書くとネタバレになるのでストップしますが…。本好きにとって特別な本って結構人生左右してたりしてすごい力も貰ったり、影響受けたりかけがえのないものだなぁって思い直せたりします。是非。

  • 小川洋子の3講演をまとめた1冊。
    タイトル通りに物語の効用、書くことについての内容となっている。
    これまでエッセイでも語られる内容なのだが、よい話は何度聞いても味があるのである。
    ちくまプリマー新書は中高生向けのレーベルだから、文章も平易だし小一時間で読める分量なのだが、与えられるものは多い。

    第一章では物語は何か、ということを主に『博士の愛した数式』を題材として述べている。
    第二章は『リンデンバウム通りの双子』をメインに物語の役割、創作の過程・意義について。
    第三章は小川さんの幼少期の体験をはじめ、私的なエピソードを盛り込んで語られる。

    小川さんがどんな風に物語の種を見つけ、育てていったかがわかる。
    語られた内容を踏まえると、本の読み方が変わるだろう。

    本書で特に印象に残ったのは2点。
    ”たとえば、非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき、人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形に合うようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。”
    日々日常に起こること、それ自体が既に物語である、という指摘は示唆に富んでいる。

    そして物語はあらすじに落としこむとしょうもなく感じてしまう、という箇所。
    確かに小川さんの物語をまとめようとすると、イマイチ魅力的にならなくて苦労する。
    だから、たった数行で意図が伝わるのなら何百枚も書く必要はなく、物語を書く意味がなくなってしまう、というのは、非常に共感できた。

    自身の著作以外もいろいろな物語が紹介されるが、ナショナル・ストーリー・プロジェクトから抜粋されたゲイカップル話が秀逸である。
    愛だ。

  • 大好きな小説『博士の愛した数式』の著者である小川洋子さんの、3つの講演の内容を元に構成された本。講演が元だけに、語り口がとてもやさしく読みやすくて、あっという間に読み終わってしまいました。

    人は受け入れ難い現実にぶつかったときに、無意識にその現実を変形させて、現実を受け入れようとする。嬉しいことは膨らませ、悲しいことは小さくして記憶していく。それがすでに物語を作ることである。
    …なるほど、と思いました。
    そういう意味では誰もが物語を持っている。そして語られるのを待っている。自分はそれを見つけて拾い集め、言葉を与えて小説にしただけ、と小川さんは言います。それって偉大な仕事だと思うのですが、自分はすでにある誰かの物語を掘り起こして言葉にしているだけ、と、ご本人はあくまでも謙虚。
    そして、私が小川さんに感じたのと同じ謙虚さを、彼女は数学者の中に感じたと書かれています。数学者たちは「三角形の内角の和が180度であることは、人間がそうしたわけじゃなく、もっと偉大なサムシング・グレイトによってそうなった。数学者の仕事は、サムシング・グレイトが世界のあちこちに隠したそんな秘密を見つけ出すことだ」というふうに考えている。見えない何か偉大なものに対する謙虚さを数学者たちは持っている、といいます。
    物語と数学とは全然違うもののようで、実は似ているんだという視点が面白いと思いました。
    第二部の、彼女が小説を書くときのアプローチの仕方はとても具体的で面白いです。
    物語を読むことで救われた経験は私もたくさんあります。本を読むことを楽しめる自分がいかに幸せかを実感しました。
    じわじわと言葉が心に染み渡る、やさしい本です。

  • 3カ所で行われた講演をまとめたもの。小川洋子さんにとっての物語創造の方法が語られていて、実に興味深い。「一行で書けてしまう主題を最初に意識してしまったら、それは小説にならない」、「主題なんてない方がいいのだ」という発言は、まさしく作家ならではのものだろう。批評の視点と創作の視点とは決定的に違うのだ。批評も、その方法において、創作論的批評がもっと行われてもいいのかも知れない。また、『アンネの日記』をはじめとした、彼女のホロコーストへの拘りも、本書の中で強い説得力を持って伝わってくる。小川洋子ファン必読の書。

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著者プロフィール

小川 洋子(おがわ ようこ)
1962年、岡山県生まれ。高校時代に文芸を志し、早稲田大学第一文学部文芸専修入学。在学中から文芸賞に応募。卒業後一般企業に就職したが、1986年の結婚を機に退職、小説家の道に進む。
1991年『妊娠カレンダー』で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』読売文学賞、本屋大賞、2006年『ミーナの行進』谷崎潤一郎賞、2012年『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞、2013年早稲田大学坪内逍遙大賞をそれぞれ受賞。芥川賞、太宰治賞、読売文学賞、河合隼雄物語賞などの選考委員を務める。
『博士の愛した数式』は映画化され、大ヒットとなった。受賞作以外の代表作として、『薬指の標本』『人質の朗読会』『猫を抱いて象と泳ぐ』。

小川洋子の作品

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