古代から来た未来人 折口信夫 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.60
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本棚登録 : 275
レビュー : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (143ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480687845

作品紹介・あらすじ

古代を実感することを通して、日本人の心の奥底を開示した稀有な思想家折口信夫。若い頃から彼の文章に惹かれてきた著者が、その未来的な思想を鮮やかに描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 折口信夫の唱えた概念、「まれびと」、「類化性能」、「ムスビの神」、芸能の意味、また「死者の書」の位置づけなど、極めて明快に解説してくれています。そう言えば「冬」は「ふゆ」、精霊が増えて踊る季節なのでした。

  • あの世とこの世が、ひょんなことで繋がることがある。

  • レクチャーの上手い中沢新一による「折口信夫」の講義である。とにかく分かりやすい。両名は、直感力、共鳴力に優れ、学者というには多分にロマンチストであるところが、似ている。ただ、折口の学者的な側面だけでなく、複雑であったはずの私生活についても読んでみたい。我ながら下世話な関心であるとは思うが。

  • 折口信夫といえば、ぼく的には柳田国男の弟子という漠然としたイメージしかなく、さらには大塚英志と森美夏が描いた漫画「木島日記」さらにはそのノベライズに登場する折口信夫がぼくに対してのイメージを決定させた感じがあるので、つまりこの漫画もしくはノベライズに登場するキャラクターとしての折口信夫という人物が決定的イメージとしてトラウマ的に根ざしたとも言えるので、中沢新一から唐突に折口信夫についての論説が出てくると戸惑ってしまうのだ。

    とは言え、折口信夫は師である柳田国男とは一線を画す形で民俗学を築いてきた人物であるのは間違いない。そして折口信夫が中沢新一いわく「古代人」の直系の末裔であるという確信は大塚英志が語る折口信夫ともある意味で一致して非常に愉快だ。

    この書籍はもともとNHKの番組企画から端を発しているので文章が非常に平易であった。だからか中沢新一お得意のアクロバティックな評論は控えられ、万人にわかりやすい語り口となっている。評論では折口信夫の芸能に対するこだわりから日本神道の宗教化というところまで飛躍していくが、それもこれも折口信夫という人物のキャラクターのなせる技であり、古代人というかなり超越した立ち位置から日本の思想を捉えていたからこそのことだと、中沢新一は語るのであった。総じておもしろかったが、学術的な深堀はなかったのですこしばかり肩透かしな気分だった。

  • 中沢新一が、30数年にも亘って読み続けてきたという民俗学者・折口信夫について、NHKで放映された番組のテキスト等の文章に書下ろしを加えてまとめたもの。
    折口信夫(1887~1953年)は、柳田國男の高弟として日本の民俗学の基礎を築いたと言われているが、その研究は、文字が発明される以前の時代に生き、それ故に完全な記録の残っていない “古代人”の心と動きを探ろうとしたものである。
    そして、中沢氏は、なぜ折口信夫が優れた研究を成し遂げたのかについて、「「古代人」の心を知るためには、文字記録の背後に隠されている真実を探さなくてはならないのである。そこで、文字記録されたものの行間を読んだり、ゆがめられているものをもとのかたちに戻したり、わざと言われていないことのなかに重要な問題を見つけたりできなくてはならない。しかし文字の後ろ側に隠れている真実の「古代人」の心を読み取るには、「古代人」がどういうものの考え方を好んだか、ということについて、全体としてあらかじめ直観的にとらえられている必要がある。・・・そういう直観が正しいものであるかどうかは、たいていの場合、証明できないことが多い。しかし、折口信夫の直観は、ほとんど正しかった。それは、彼が一人の「古代人」そのものだったから、としか言いようがない」と語っている。
    そして、
    ◆折口は、生命と想像の根源は、この世と存在様式を異にする他界にこそ見出され、その異世界が「まれびと」を通してこの世界にときおり現出してくるのであり、そこに芸能と文学が生まれたと考えた。
    ◆古代人の心は五感(+超感覚)を総動員するもので、いかなる近代的な思想表現様式でもその全体性を表すことができないため、折口は、学者としてだけではなく、詩人、歌人、小説家、映画のシナリオライターというあらゆる表現者としてそれを表わそうとした。
    ◆神道の宗教化を目指した折口は、神道の中には、あらゆる宗教的思考が生まれてくることのできる素型が隠されていると直観し、それを、「ムスビ」の神を作る三位一体(物質・生命・魂)の構造と論理づけたが、これは、宗教の領域を超えて、あらゆる現象を生み出していくことのできる、単純にして深淵な仕組みである。
    ことなどが述べられている。
    折口信夫がいかに類稀な感性・センスを持っていたかを感じるとともに、その思考のエッセンスを知ることができた。
    (2009年12月了)

  • NHKのテキストを読んだ後、中沢氏が折口信夫のことを書いた本を探してみた。

    柳田国男の本も最近読んだので、二人の違いは意外。異界は天にも地の底の黄泉でもない、あくまで水平方向の海の向こう。南洋の海にノスタルジーを感じる二人は、「まれびと」・異界からの訪来者を認めるかどうかが違うという。
    折口の芸能への共感も「まれびと」の出現と関連付けて語られ、納得させられる。
    終盤の主題は小説「死者の書」から神道の宗教化。
    「死者の書」は何度も読んだし、初稿や評論、人形劇の映画も見た。亡霊の心情に成りきって書き上げたとしか思えない、あの狂おしさ。ところが郎女には亡霊と認識されない皮肉。乙女の阿弥陀への憧れ、それが異界への通路なのかというと僕には判らない。初稿には仏ではなく、キリストをイメージしているらしい記述もある。神道、仏教、キリスト教を包含する超宗教のイメージがあったのか。
    神道の宗教化については、正直判らない。言語化され、体系化されたら、それは神道ではなくなってしまうのではないか。原始的なアニミズムとして、そのまま我々と共に生きるだけで充分ではないのか。
    その場合、ヤマト側の古事記、日本書紀の体系化も拒否し、極めて狭い共感だけで成立させる。それでも神道のあり方としては良いではないかと思う。
    個人的な感想を云えば、中沢さんに感心する部分と理解不能な部分があり、折口信夫に対してもあるのだと思う。憧れて止まない対象であり、大きな疑問の対象でもある。読みやすい本だが、自分の認識の再確認になった。兎も角、折口信夫を読まなければ。

  • 柳田国男、南方熊楠とならんで偉大な民俗学者三人のうちの一人、折口信夫の思想について語った本です。もともとがNHKの番組用に語られたものであること、そして本書が若い人向けに書かれた新書であること、そういったことで本書は比較的読みやすく仕上がっています。折口信夫について書かれた本を読むのは、私にとってこれがはじめて。中沢氏に引き寄せられるように手にとったのだけれど、序文の一行目を読んですぐに手に入れようと思いました。「かれこれもう三十数年にもわたって、わたしは折口信夫を読み続けている。」何がそこまで中沢氏の心を引き付けるのだろうか。それが知りたくて読み始めました。それで、そのことがわかったのかどうかというと、「森のバロック」同様、全く自信はないのだけれど、それでもいまの世にとって、とても大切なことを、早い段階で言っていたのだろう、ということだけは伝わってきます。「ムスビの神」それがいったいなんなのか、もう少しじっくりと読んでいかないといけません。そして、折口信夫自身が書いた文章も読んでみる必要がありそうです。幸い、「ちくま文学の森」が随時文庫になっていっているので、折口の分が出てくるのがいまから楽しみです。

  • まれびとは天からは降りてこない。
    水平的に遠くの空間から来訪してくる。
    つまりまれびとは自然の奥底からやってくる存在であっても、決して神のような超越者ではない。

  • 勉強になりました。

  • 多神教か一神教かと固まることもなく
    個があって全体がありそして又個があるという
    この世の素朴な姿を素直に見ることに集中している

    そんな折口さんは
    奇跡のような学問をなした人というよりも
    社会的価値観である学問の枠を消し去って
    個と全体を貫こうとした
    稀有な人だったのではないだろうか

    ここに長いこと探し求めてきた同じ匂いを感じることができる
    これほど納得できる思いを描き出したものに
    巡り巡って出会えたことに感謝する
    それも沖縄・バリ島ウブドの引き合わせということが
    今であることにも意味があるのだろうか

    p69の
    共同体は人々の間に同質性を求める
    それによって内と外を見分け異質なものを排除する
    しかし「まれびと」の思想は外の異質なものを結びつけ
    人間だけでなく動植物に鉱物を仲間としてきたのである
    神人や童子のような宗教者は人間と神の境界を生きる人として
    自分が異質な力の集合体になろうという
    不遜な生き方を選んできた。
    p106
    宗教の組織化というのは国家の成立とともに起こるのが常である
    文字のシステムが整い思考を理論立てる
    自分の過去を組織化できてこそ宗教を構築できる
    そのために自然な共同体のレベルを超えた国家という欲望に満ちた
    概念を必要とした
    だがそれが民族の自然智の茫漠たる集合体に深刻な改造を加える事になる
    アメリカインディアンは高度な自然智をつくりあげてきた
    倫理観によって成り立つ環境を守り続けてきた
    自然な中に霊的存在を実感できる暮らし方をしてきた
    しかもその背景に「グレートスピリット」なる
    根源的で一成る存在を認めていた
    しかしその知恵の体系を宗教に成長させることを拒んできた
    あえて国家を作り出さなかった
    神道的なものが宗教に育ってしまうとそもそもの神道的な世界は
    質的に自己破壊を起こすのだ

    宗教の果てに起こる超宗教は熟れきって落ちる時にあらわれる

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著者プロフィール

中沢新一(なかざわ・しんいち)
1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、明治大学野生の科学研究所所長。思想家。
著書に『アースダイバー』(桑原武夫学芸賞)、『大阪アースダイバー』、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)など多数ある。

「2018年 『精霊の王』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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