教育幻想 クールティーチャー宣言 (ちくまプリマー新書 134)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 29
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480688354

感想・レビュー・書評

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  • 著者の作品「友だち幻想」に共感したため拝読。現代の教育の根底にある、人柄志向、心の教育を重視し、ともすれば教育は上から目線ではなく、子どもたちをの人格を尊重し、同じ立場で指導するという自由主義的風潮に疑問を呈し、かつての管理教育のような立場をとるわけではないが、起きた事柄についてしっかり指導する、教育は上の立場をしっかり保った上で行うという立場で論じている。
    教育を社会学の観点からとらえ、論述も素人にも非常にわかりやすい、良書だと思う。

  • 今まである程度の教育書を読んできたつもりだが、これほどリアリスティックに教育現場を考え尽くした本はないと思う。

    全ては生徒のためと、最終的には根性論や愛情という言葉で思考停止をしてきた自分を恥じている。

    ピュアネスのためのリアリズム
    プラトンと真善美と著者の解釈
    社会総体の批判と現実社会の生き方
    競争社会
    人に迷惑をかけなければ何しても良いという自由主義は子供には適用できない。責任を取れないから。
    自己責任を負えないうちは修行の身
    らしさも必要
    基本は家庭に責任
    私語禁止、遅刻禁止、自由の出入り禁止、完全睡眠の禁止
    フレンドリー、フラットな人間関係
    親に感謝せよより、いただきますをいわせる
    荒れている学校は汚れている
    行き過ぎたリベラリズム教育の結果、型が失われた。
    自己弁護能力が高い
    子供が発見したかのように誘う
    どんな主体的な行動も誘引を受けたきっかけは必ずある。
    言葉だけで了解を得てコミュニケーションをしようとすると、観念的で空疎な言葉が増えてしまう。それに子供は噛み付く。
    体験学習は常に新しい発見を目指す。そして多大な負担。
    学校はそもそも毎日毎日同じことを規則正しくやる作法を身につける場所。学校はルーティンの場。
    座学の軽視
    学校はそもそも産業的身体の育成

  • 教育幻想 クールティーチャー宣言。菅野仁先生の著書。社会学の博士課程を経て、社会学の専門家である菅野仁先生の視点から日本の教育問題を指摘している良書です。閉鎖社会で過ごす学校関係者や教師は視野が狭くなりがち、一般社会から見たら非常識になりがちだから、菅野仁先生のような別の分野の専門家からの意見を柔軟に取り入れることが必要だと思います。

  • 2017.4.22
    ほんと全体をふわっと読んだし、所々の主張はその前後の文脈によるし、新書レベルであまり詳しいことは言えないだろうということで、大まかに捉えました。
     つまり本著の主張は、「甘えと自由を履き違えるな」というところに、あるんじゃないかなーと。
     欲望の統御を身体化させることが教育、それは欲望むき出しだと他者の欲望を侵害するから、な訳で、互いの欲望が互いを傷つける(万人の戦い)ことを防ぐために存在するものがルールな訳で。そのルールを身体化させる必要がある。
     しかし戦後の学校教育では詰め込みと規律というものが強く、教えた形式の中でガッチガチに統御していた。その結果、言われたことしかできない人間ばかりが育ってしまった。
     この反省としてゆとり教育を導入、総合的な学習などを通して、もっと自由に、主体的に勉強できる人間を育てましょうよ、と。こうなったわけで。

     なんか、難しいんだけど、いろんな尺度の履き違えな気がするんだよね。
     規律か自由か、規律が強すぎたから自由にしましょう、というのは、やっぱり違う。二項対立なのではなく、自由と規律は裏表である。そう考えると、規律ある自由と規律なき自由=甘えとか、むしろ二項対立になる。
     つまり、自由なき規律から規律なき自由(甘え)に移行したわけだけど、本来必要なのな規律ある自由ですよね?という話。

     そしてこの「規律なき」という部分に、私はうっすらと、小此木啓吾さんの『自己愛人間』の影を見てしまった。
     社会システムそのものが、個々人のナルシスティックな自己愛的自我を助長する仕組み。働かなくても食べられる、勉強しなくても点が入る、頑張らなくても褒められる、そんな教育環境の中では、全能感が適切な形でへし折られることがない。精神が病んでいる人間は基本的に理想が高すぎる、というか甘すぎる。世界は私を中心に回っていて、みんな私を傷つけるべきではない、そしてみんな私の思う通りになるべき、と思っている。いや完全に言い過ぎである。
     でもこんな自己愛的な全能感を持っていたらどう考えても生きることは苦しい。理想は理想、現実は現実だからである。学校で「現実」だと思わされてきたあまーい世界から社会に出た瞬間、本物の「現実」がそこにあって思いっきりへし折られる。こうしてニートが出来上がる。ここにあるのが「規律なき自由」である。
     そしてそれを助長しているのは社会だけではなく、教師もまたそうだと思った。規律をやめて、自由の中で育てようという、子供の無限の可能性を〜なんちゃら、っていう人。

     でもなー難しい。もしも私が教師だったら、という目線で読んだけど、とても難しいなと思った。多分私も、生徒を恐るだろう。規律なき自由が甘さだと言えるならば、規範なき自由、つまり教師としての筋を恐怖によって通せないということは、それもまた甘えではないだろうか。
     私もまさにこういう人間である。自分に甘い。怖い、めんどくさいからすぐ逃げる。この甘さとどう戦えばいいのだろうか。自由を履き違えないためにはどうすればいいのか。自分で自分の自由を許さない領域というものがあるはずである。そもそもその線引きはなんなのだろうか。そして甘さを乗り越える力は一体なんなのか。結局のところやるかやらないだけ、なのか。
     嫌だけど、やる。これは規律にも、規範(道徳)にも、言えることである。んー。

  • 本書の「クールティーチャー」は「プロ教師」と重なる。良い教師の条件を平易な言葉で定義している。「人柄志向でなく、事柄志向で」「主体性の尊重と規制・制限のバランスを取る」「学校は欲望の制御の作法を教える場(ゆえに、ルーティンの場)である」など。「自律的学習者を育てる」等の教育論は、「子どもは何を書けば大人が喜ぶ(正解)か本能的に知っている(86ページ)」ということが想像できない善良な人たちが推進していると思われる。本書はゆとり教育に批判的だが、昨今のアクティブラーニング推進に対する警鐘にもなっている。

  • 自由主義でも復古主義てもゆとり教育でもない、クールティーチャーというスタイルで現場をふまえた提言をまとめた良著。
    モンスター化している自分も自戒する必要を感じますが、いまだ方向の定まらない先生方への道しるべとなる内容だけに、ぜひ読んでほしいです。

  • クールでリアルな教育論。
    ちくまプリマー新書ということもあり、読みやすくまとまっています。
    子供の事実的側面を見る「事柄志向」と人格的側面を見る「人柄志向」を評価の際に意識しながら上手く使い分けすべきだということを教えてくれた。
    端々に出てくる単語が内田樹的なのは影響を受けているのかな?

  • 教育って、なんかみんな語るときにとかく極端になりがちですよね、もっとこう、バランスとって行きましょうよ、っていう本。
    人とその人のやった事実ってのを分けて考えよう、ってのは教育に限らず日本人は苦手だと思うから、いい教訓にはなると思う。他にもいろいろヒントはあるので、子育てとか教育とかに関して考えるヒントが欲しい人は読んだらいいと思う。

    ただし、この本は「バランスとりましょう」って言ってるだけで具体的な手法とか答えみたいなものは示していないので、そういうの期待して読むと拍子抜けするかも。

  • 「クールティーチャー」とは、人柄志向と事柄志向のバランスを上手に図れる先生のこと。事例が現場の先生からのリアルな今の教育現状で、理解に助けられると共に本当に今の日本の普通教育は壊滅寸前だと感じさせられた。徒競走に予選を設けたり手を繋がせてゴールさせることはとんでもない。教育とは常に社会に適応したものでなければならないという聖職者への教育の徹底が求められる。やはり大学院教授にでもなるか…(なれるのか?←)

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著者プロフィール

1960年生まれ。東北大学大学院文学研究科社会学専攻博士課程単位取得。東北大学文学部助手などを経て、現在、宮城教育大学教育学部教授・学長特別補佐。専攻は社会学(社会学思想史・コミュニケーション論・地域社会論)。著書に『友だち幻想』『教育幻想』(ちくまプリマー新書)、『ジンメル・つながりの哲学』(NHKブックス)、共著に『社会学にできること』(ちくまプリマー新書)などがある。

「2018年 『愛の本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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