イスラームから世界を見る (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.89
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本棚登録 : 240
感想 : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480688859

作品紹介・あらすじ

誤解や偏見とともに語られがちなイスラーム。その本当の姿をイスラーム世界の内側から解き明かす。イスラームの「いま」を知り、「これから」を考えるための一冊。誕生・発展の歴史から、各地で相次ぐ民主化運動の背景まで、知っておきたい基礎知識をしっかり解説。

感想・レビュー・書評

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  • イスラム教から見た世界とイスラム教に縛られた人々の思考が初心者でも分かり易い本。
    著者の本はどれも読み進めやすいのでお奨めです。
    しかしながらクルアーンに則ったムスリムの行動を、信教の自由の名の下に一定以上認めるのか、その国の法規を厳密に適用するかで彼らが反社会的か否か、決まってきます。
    イスラーム国家ではない法治国家へ自らの意思で移住してきたムスリムの方々の中には、信教の自由による行為が常にその自由が保障されるというものではないことを理解せず世界各地で軋轢を起こす人々がいます。
    調和できない理由の一端は本書を読むと理解でき、これはまた本書が優れていることを表していると思います。

  • イスラムのことを全く知らないので、マスメディアなどに流れてくる報道を冷静に受け止めることもできない。
    世界中には10億を超えるムスリムがいるので、少しでも知りたかった。この書はそんな初心者にも優しく説いてくれた。一冊で分かった気になってはいけないが、「難しくて挫折」、させない書です。

  • チュニジアから端を発した「アラブの春」についてや、現在のシリア情勢・パレスチナ情勢について書かれた新書を探してこの本に辿り着いたのだが、9.11から今に至るまでのアラブについて、ある程度網羅的に知ることができたのは収穫。
    ただ、ちょっと俺には難しすぎたかなと。イスラム教の歴史がきめ細かく書かれてる章とか、俺には重すぎた。読者の想定を「ある程度イスラム教について知っている人」を前提に書かれている気がした。入門書という位置付けではないように思う。あと、自分自身が本を出版した直後だったので、編集の視点で「ここ2回同じ事言ってるけど」とか、「この章、結論が曖昧すぎる」とかいう感想をもっちゃうのは職業病でしょうかw

  •  「イスラム」とか「タリバン」とか「シーア派」とか、よく聞くけれども分かっていない、もしかすると偏見だけで固められているかもしれないことを、分かりやすく、歴史と宗教を見ながら、今の情勢について解説する本。「パレスチナ問題」とか「クルド問題」とか、中東の時事問題の定番になっている事柄に触れられている。
     読んでいてやっぱり途中でゴチャゴチャしてきて、結局飲み込むところまで行かなかったが、たぶんちゃんと読めば分かりやすい本なのだと思う。ノートとかにまとめながら読み進めたい衝動に駆られた(結局、なかなか出来ないけれど…)。
     断片的だが、以下は気になったところのメモ。「信徒でない私からすると、ムスリムは、少なくとも戦争に向いていません。イスラームという宗教には、商業的な性格が強くて、商売の公正について細かい規定をもっています。」(p.12)というのが、まずイスラム教のイメージらしい。どっちかと言えばユダヤ教の方が商人のイメージがあったので、これは意外だった。「日本ではあまり知られていませんが、地中海の東よりにあるキプロス島は、現在もなお、南北に分断されています。」(p.69)というのは、知らなかった。キプロス島って『オセロ』の舞台だよな、と思いながら、行ってみたいとかのんきに思っていたが、「一九六〇年代から七〇年代前半にかけて、南北間で激しい衝突が起きたため、ついに一九七四年にトルコ軍が介入して、強引に南北を分断しました」(同)というところらしい。平和な地中海の島、っていう勝手なイメージと全然違う場所だった。
     こういった数々の偏見や勝手なイメージに、実はこういうことだ、という解説が色々ある部分が貴重だが、その1つにイランについて、「ひげ面にターバンのイスラーム指導者や黒衣の女性たちからイランのイメージをもつのは間違いのもとです。ターバンの下にも、黒いヴェールの下にも、『私たちはアーリア人の血筋』と言いたげな顔が隠されているからです。」(p.82)ということで、「イラン人には、自分たちを周囲のアラブ民族やトルコ民族よりも優秀な民族だと考える人が少なからず存在します。」(同)というのも、言われないと分からない。
     そしてシリアもイランも、読み終わって数日経った今ではその2つの関係ももう分からなくなってしまったが、「シリア政府も、イランからやってきてイラン革命を称える人たちがやたらと宗教的情熱を燃やすのは困ったことでしたから、大きな団体が来ると、郊外の山の中の施設に閉じ込めてしまい、そこで『アッラーは偉大なり、ホメイニ万歳』とイラン・イスラーム革命のスローガンを好きなだけ叫ばせておいて、一般の市民には見せないようにしていました。」(p.107)というのは、何ともリアルな話だと思った。
     あとは「民族主義」について。帝国主義に代わって、「民族主義」と「社会主義」が流行った、と書かれているが、「しかし、結局のところ、『民族主義』というのは残酷なもので、必ずその国のなかのマイノリティを差別し抑圧する結果をもたらします。社会主義にいたっては、盟主のソ連をみれば明らかなように、権力構造がちっとも民主的にはならず、党幹部が権力を独占して腐敗し自ら崩壊してしまいました。」(p.111)という、こういうことが分かって歴史を見れば、理解しやすくなるかもしれない。そしてそもそもこの民族主義によって国家を作ることと、イスラーム共同体とは全然違う、ということを理解しないといけない。「同じ言語を共有しているからといって、それを単位に国家をつくるという発想は、ずっと後の十九世紀ぐらいになってから確立されるもの」(p.127)という、これも意外なことだった。そして国家に納税、という発想も現在の西洋的な見方であって、喜捨はするけど「ムスリムは徴税されない」(p.132)ということらしい。(これが「中東民主化のうねり」(同)だそうだ。)
     そしてこういう現在の西洋的な見方、という枠組み(「世俗主義のものさし」(p.29))にあまりにとらわれ過ぎているということが問題なのだと分かる。(なんか平行線が交わってしまう「非ユークリッド幾何学」みたい?と思った。)「ムスリムのスカーフは、単純な話で、性的羞恥心の対象となる部位を覆っているだけのことです。」(p.158)ということも含めて。
     他にも、「多くの村にはイスラーム法学に未熟な出来の悪いタリバンが赴いて、生半可な知識で、つまりしばしばイスラーム法から逸脱した刑罰などを実施してしまいます。」(pp.172-3)という問題とか、でそもそもそのタリバンというものも「ソ連軍が侵攻したとき、アメリカはこれに対抗させるために、神の戦士、あるいはジハードの戦士、すなわちムジャッヒディーンを養成して戦わせる戦略を立てました。」(p.169)という、これが「タリバンの原型」だそうだ。
     という、上のメモも極めて断片になってしまったが、世界のことを知るのにイスラムのことを知らないとか分からないという訳にもいかないと思うので、もう少し上の話も自分の中で整理できるように勉強して、自分の無知を補っていきたいと思った。(21/02)

  • 内藤さんの本も何冊目?
    ある程度重複してる箇所もありますが、復習にいいかなw
    ムスリムの考え方などを分かりやすく説いてくれて勉強になります。とりあえず、これは読んどいた方が良い本。

  • イスラムの教えは本質的に政教分離が難しいこと、民主化とイスラム回帰が結び付いている背景や流れ、アメリカとタリバーンの関係など、とてもわかりやすくイスラムの視点で記されている。著者は見識も度量も広い。他の著作も全部読みたい。

  • <span style="color:#0033ff;"><b><キリスト教、イスラム教></b>
    P14
     (キリスト教徒と比べ)ムスリムは、中世以来のヨーロッパのキリスト教国の王たちのように、神に対して面従腹背ではありません。神に対する恐れと、最後の審判での裁きに対する恐怖はムスリムのほうがはるかに強いように思えます。
     もうひとついえば、イスラームは、現世の快楽についても、神が認めた範囲で楽しんでよいと肯定的です。

    P15
     現生の快楽についても、神の許した範囲での追及を認め、公正な商売で金儲けすることを容認し、同時に弱者をいたわることで富を再配分するというのがイスラーム的な社会システムの根幹です。だからこそ、はじまって数世紀のうちに世界に広がったのです。

    P16
     (イスラム教は)「イスラームを信じる宗教」ではなく「イスラームする宗教」なのです。
     イスラームするというのは、「唯一」の「絶対者」である神(アッラー)にすべてを預け、アッラーの定めた通りに従うことを言います。唯一神であるアッラーに全面的に服従する、あるいは帰依するといってもかまいません。そして、イスラームする人のことをムスリムと言います。
     

    P19
     (イスラム教は同じ一神教でありながら、ユダヤ教、キリスト教に比べ後発)このため、後発の一神教を一定のところまで尊敬します。ただし、神のメッセージは正しかったのに、信徒がそれを間違って解釈したとみなします。(略)
     (イスラームにとってキリスト教やユダヤ教は)先輩だから顔を立てます。コーランでは、イエスも洗礼者ヨハネも、そしてモーセもダビデも「預言者」であり、神の啓示を授かったとしています。イエスは正しい人であったとちゃんと敬意を表しています。
     しかし、後代の信徒たちがその教えをゆがめてしまったことも指摘するのです(特に、ユダヤ教がユダヤ人だけを、キリスト教がキリスト教徒だけを選んでいることを嫌う)。
     もうひとつ、キリスト教徒の違いで重要な点を指摘しておきます。キリスト教の正教会やカトリックは、聖職者という存在を認めています。俗人と聖職者をを分かつのは、欲望に浸かって生きるのか、それとも欲望を絶って神に人生を捧げるのか、と言う差でした。(ただし、プロテスタントは聖職者を置かない)
     イスラームでは、聖職者の存在を認めませんし、そもそも欲望を絶つことを評価しません。

    <世俗主義>
     P27
     神をもたないで生きていこうとすることを世俗主義と言います。(略)神から離れることによって、人間は自由を得られるという考え方です。(略)18世紀ごろからヨーロッパに広まった思想で、現代では世界を席巻するほどの力をもつ思想です。
     (略)ところが、ムスリムはこの「世俗主義」を根本的に受け入れることができません。(しかし、この考え方から見るとムスリムは「いまだに神を信じる遅れた人」に見える)

    P41
     (イスラーム国家を名乗るような国でも、実際には刑罰を厳格に実行することはない、事も多い。)国際的な評判を落とすようなことになるなら、イスラーム法の規定にも目をつぶろうということのようです。(略)それに、強大な権力をもつ国王一族や、大統領一族は、イスラーム法で禁じられている行為をしても、もみ消してしまうことが少なくありません。(略)ここに、きわめて大きな問題が起きてしまうのです。
    </span>
    <イスラームの歴史>
     まずはアラビア半島に起こった。
     3代目以降のカリフ選びからもめはじめ、シーア派(ムハンマドの娘婿アリーを奉る)と彼の後を継いだムアーウィヤ(いわば力でカリフを奪い取った。ウマイヤ朝の祖、彼を認めるのがスンニ派)の両派でわかれる。
     そんな対立を含みながらも拡大していくイスラム圏。
     6世紀ごろ、東にはバグダードを首都とするアッバース朝、西にはコルドバを首都とする後ウマイヤ朝ができたことで、国家として初めて分裂する。

    <イスラームと民主主義>
     非イスラーム圏(日本や欧米等)の場合、私たちの日本と同じで、政治的な志向によって複数の政党から市民が選挙で選んだ多数派が議会をリードすれば、一応、民主的な政治となります。
     イスラーム圏も基本的には同じことなのですが、宗教色を打ち出している政党、つまりイスラーム政党が多数派になると、イスラームの規範に沿った政治をすることになります。
     (政教分離が前提になる欧米式の民主制と、祭政一致が基本のイスラムでは毛色が異なる)

    <b>政教分離は民主化の条件か?</b>
     独裁者を退陣に追い込んだ後の最大の問題は、新しい国づくりだということになる。
     しかし、そこで、今までどおりの欧米からもたらされた(押しつけられた?)世俗主義でいこうと言うものと、イスラム主義を政治に織り込もうとという両陣営の対立が激化する。前者は今までどおり、法律の中にイスラームは入れないとし、後者は逆。

     ムスリムの社会で攻勢を求めようとするとき、その基準はイスラームになる。
     欧米や日本では宗教に頼らなくても、公正な社会の実現は可能だと考える。それは、西欧近代世界のドグマが、キリスト教から離れ、宗教から離れることによって、人間は一個人として自由や尊厳を獲得できたとするからだ。

    <イスラームする人には邪魔な「国民国家」>
     現在の世界は基本的に国民、領域、主権が3点セットの国民国家である。
     しかし、これが定着するのは19世紀ぐらい。

     もし、ほんとうにイスラーム的に正しい政府をつくろうとすると、国を超えてムスリムが選ぶカリフが必要となるが、それは国民国家に縛られたままでは難しい。

     20世紀、独立した植民地が使ったイデオロギーはかつてヨーロッパが使っていた「民族主義」で、イスラーム共同体ではなかった。「力には力で対抗」に多くのアラブ人が同意したからだ。しかし、
    <span style="color:#0033ff;">P128
     一連の中東民主化運動の結果、つぎつぎとこういう民族主義の負の遺産ともいうべきリーダーたちは退陣に追い込まれていきました。中東・イスラームの世界の今後を考えると、次にまた、民族主義に基づく支配体制ができると、同じことの繰り返しになってしまいます。民意を反映するという意味での民主主義だけなら、多数派が実権を握るか、多数派と少数派が連邦のような形で権力を分けあうか、少数派が暴力を使って多数派を抑え込むかのいずれかになってしまいます。
     (略)残る選択肢は(民族主義ではなく)イスラームです。


    <世俗主義国家からムスリム国家へ>
    P155
     世俗主義を礼賛してきた人たちの間違いは、善悪の判断をイスラームにゆだねる人たちを馬鹿にしてきたことに尽きます。(略)私はそんなことを言い続けていると、いつか敬虔なムスリムたちに逆襲されますよ、と何度も世俗主義たちを諭しましたが、彼らは聞く耳をもちませんでした。二言目には我々は、ヨーロッパなのだ!もうじきEUに入ろうというわれわれがイスラームとかかわり合う必要などない、と声高に主張していました。このような歪んだヨーロッパ嗜好は、残念ながら、ヨーロッパ列強との戦いで独立を勝ち取ったとる今年は、ずいぶん情けない主張でした。 

    P205
     国民国家という固い枠組みはムスリムにとって窮屈に感じられるようになってきたのが、ここ10年程の変化です。

     (日本では近代国家を創ろうとするときに国家が神道を利用して、民族の主義をはかった。だが、日本では戦前の戦争の神道利用の反省から、公の場で宗教を用いることには抵抗がある)
     その一方で、民族主義のほうは依然として力をもっています。(略)ただし、民族主義
    と言うのは、異文化との共生を実現するには相当厄介な存在です。 </span>

    <span style="color:#ff0000;">コメント
     イスラムとヨーロッパのそりの合わなさが、そもそも「神」に対する距離感のとり方だとわかって興味深かった。
     ただ、そのイスラーム自体ももちろん、問題を包含している。
     だが、著者の主張では、それは「イスラム教」が悪いのではなく、きちんと「イスラーム(アッラーの定めた戒律に従う)」しない人間が悪いのだ、と聞こえる。
     多分、著者の中でも「よいムスリム」と「悪いムスリム」の線引きがあって、後者はビン・ラディンとパッと例が浮かぶんだけど、前者の「よいムスリム」がイメージしにくかった。
     「よいムスリム」と著者の対談、みたいな形ですすめてくれても面白かったかも。
     どうしても日本ではイスラム教徒はなじみが薄いので、親近感が感じられる個人像みたいなのが欲しかった。
     そこだけが惜しい。
     あとは、「民族主義を超えるのはイスラーム共同体」とあったけど(ただし、本文では明言はされていない)、これを全面に擁護すると、ヨーロッパのイスラムに対するアレルギーはひどくなるだろうなぁ、と感じた。
    </span> 

  • 米欧を中心とした世俗主義の先進国がいくら武力に訴えても平和が訪れることは絶対にない。自国の利益ばかりを考えたやり方では、泥沼のような争いが延々と続くだけである。

  • 生き方も思想も決断も、そのすべてをアッラーに委ねるムスリム。 イスラーム国家とは、法体制がイスラームに沿っているもの。ムスリムが多数を占める国ではない。 …など、イスラーム思想の概念は把握出来たが、理解にはまだ遠い。 また、多様性を認めた事で長期の繁栄を極めた、オスマン帝国の歴史。これらの学びを深めるきっかけになる一冊。 一方で、西ヨーロッパを中心とした欧米キリスト教圏の野蛮さが、強調されて描かれている処も相対的に感ず。

  • 2014年5月に実施した学生選書企画で学生の皆さんによって選ばれ購入した本です。
    通常の配架場所: 1階文庫本コーナー
    請求記号: 302.27//N29

    【選書理由・おすすめコメント】
    私は宗教を全く信じていないが、価値観を広げるためにも読むと面白いと思う。
    (社会経済システム学科3年)

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科科学史・科学哲学分科卒業。博士(社会学)。専門は多文化共生論、現代イスラム地域研究。一橋大学教授を経て、現在、同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。著書に『となりのイスラム――世界の3人に1人がイスラム教徒になる時代』(ミシマ社)、『イスラム――癒しの知恵』『イスラム戦争――中東崩壊と欧米の敗北』『限界の現代史――イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』(以上、集英社新書)、『ヨーロッパとイスラーム――共生は可能か』(岩波新書)など多数。

「2019年 『イスラムが効く!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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