ことばの発達の謎を解く (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.98
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本棚登録 : 780
感想 : 60
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480688934

作品紹介・あらすじ

単語も文法も知らない赤ちゃんが、なぜ母語を使いこなせるようになるのか。ことばの意味とは何か、思考の道具としてどのように身につけていくのか。子どもを対象にした実験の結果をひもとき、発達心理学・認知科学の視点から考えていく。

感想・レビュー・書評

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  • 言葉を習得する過程について、統計データに基づき論じられている一冊。(子どもの語彙を増やすHow to本ではない)

    アメリカの研究によると、2歳初めの子どもに「red」「green 」「yellow」を教えて正しく言えるようになるのに800回かかり、使い分けるようになるのには1000回かかるそうだ。
    色については、国によって隣の色との境界線の引き方が違うらしい。(本書で紹介:鈴木孝夫氏の「日本語と外国語」より)
    日本人が「ベージュ(茶封筒のような色)」と思う色が、アメリカ人は「オレンジ」、フランス人は「黄色」として、色の呼び名が異なるのが興味深い。

    個人的な推測だが、赤かオレンジか微妙な境目の色について、親が「赤」と言えば、子どもはこの色は「赤」に分類されると学んでいくのだろう。前後の文脈・言葉を使う場面・実物を見ることが、言葉を習得で大切だと感じた。

    本の随所にヘレンケラーとサリバン先生の例が記載されていて面白かった。「愛情」のような物ではない概念的な言葉は、愛された経験がないと認識できないのだろう。

  • 赤ちゃんが、音の区切り・母音子音、名詞、動詞、形容詞、と母語を学び使いこなせるようになる過程が詳細に書かれています。

    チンパンジーに単語とその意味を1対1で結ばせることはできるけれど、ことばを使うようにすることはできない。

    ことばを学ぶとはどういうことか、
    単に単語の意味を知って、文法を知れば足りるわけではなく、システム全体(「英語独習法」では、「スキーマ」と表現されているものですね)の存在を推測し、自分の考える全体像に沿って実践し、それがそぐわない場面に出会うたびに都度修正しながら全体像を完成させて行く、それがことばを学ぶということ、そして、ことば以外の学びにも通じる人間にしかできない活動、と理解しました。

  • 本当に興味深く面白い一冊!
    もうすぐ2歳になる子供がちょうど言葉を覚え始めていて、どのように言語を習得していっているのか興味があり、選んだ一冊でした。子供が言葉を習得する過程を知ることができただけでなく、言語というものがどれほど奥深いものかを改めて知ることができました。普段何気無く使っている言葉ですが、それがどれほど複雑で、獲得するのが難しいのか。それなのに子供は自分で考えながら習得していってしまうなんて、ほんとに天才だなと感じてしまう。
    この本を読んで、子供の言語獲得のことだけでなく、大人になってからの第二外国語の習得がどうしてこんなにも難しいのかも、さらに理解できました。
    子供がいるいないに関わらず、ぜひ読んでみてほしいな思う一冊です!

  • 娘の語彙から、ひとがどうやって言葉や概念を獲得していくのか……みたいなことが気になって、前にも読んだことのある今井むつみさんの本を手に取ってみました。
    これがめちゃくちゃ面白かった!赤ちゃんが言語を獲得していく過程や、母語と外国語が同じように習得できない理由、語彙と心的辞書のシステムの話から、概念の獲得、思考の道具に至るまで、ぜんぶ興味深いし、心のへぇボタン押しすぎて壊れたぐらい。
    ヘレン・ケラーの「Water」のエピソード、あれによって彼女が何を得たか、という話もめちゃ面白かった。ことばは単なるラベリングではない、とあって、なんかすごく嬉しかったしうかうかしてられないとも思う。
    心的辞書(レキシコン)が気になるので関連書籍を読んでみたい。

  • 人は生まれたときから辞書を引きながら言葉を獲得するわけではなく,
    生活の中で言葉を獲得していくのですが,
    そのプロセスがよくわかる本です。
    私には,ちょうど幼稚園に入るころも子供がいるので,
    「なるほど,そう覚えたのか」
    という体験も相まって,
    楽しく読めました。

  • 最近、連続5つ星が続いているが、この本も本当に面白い。

    子どもがどのように「ことば」を覚えていくのか、論理的・科学的に説明されていた。
    生まれたばかりの赤ちゃんはまず名詞から覚える。
    名刺と言ってもコップや机などの形のあるものが一番覚えやすいそうだ。
    水や空気などの不可算名詞や目に見えないもの、固有名詞などはその後になる。
    そして、ある程度名詞を覚えだすと、動詞や形容詞に進んでいく。

    このように簡単に言うけれど、一つ一つのことばを覚えるのはめちゃくちゃ難しい。
    例えば「赤」といっても、薄いピンクよりの赤〜濃い茶色よりの赤まで様々でグラデーションんがあるし、「コップ」といってもガラス製や陶器製、取手のついているものやついていないもの様々あるもの全てがコップだ。

    そんな曖昧な世界をある一つの「ことば」で切り取る作業が言語の習得なのだ。
    ある具体的事象のことばを覚えたとしても、それが他の場合に使えるかはわからない。だから、覚えた言葉を実際に使ってみて、合っているか間違っているか試していく。そして試しながら修正していくのだ。
    そういったアナロジーを試しては正解を探していく。トライアンドエラーの精神に似た作業を赤ちゃんのときからひたすら繰り替えてしているのだそうだ。

    この言語習得の過程は科学の探究に似ていると著者は書いていたが、僕自身もまさにその通りだと感じた。
    言葉や概念がない世界に言葉という武器をもって意識できるように変えていく。
    この行為をわれわれ人間は小さい頃からずっと繰り返してきたはずだから、自らの思い込みで自分には科学が向いていないだとか思わずに、どんどん新しく思いついたことを試して失敗すればいいのだろう。

    まだまだ、書きたらないことが多いので続きはnoteに書くことにする。

  • ☆☆☆☆☆私がこの本を手にしたのは、子どもを見ているときにふと閃いた「人間が言葉を獲得していく過程は人間の観念の世界を拡張していく姿のようだ」と思ったことがきっかけだった。
    自分が言葉を身につけてきた記憶はどうにも辿ることはできないが、子どもや孫たちのことばを身につける姿には何か不思議なモノを感じさせられていた。
    「彼等は何のために、何に向かってことばを身につけていこうとしているのだろうか?」という疑問だ。

    そう思った時に、この言葉の獲得の過程をもっと理論立てて知ることから始めてみようと思い、この本にたどり着いた次第です。

    初めは『ことばを覚えるしくみ』を読んで見たが具体的過ぎて、学問をしているような感じだったので、その本でも勧められていたこの本を読んでみることにしました。

    子どもの成長段階の各ステージで、必ず発する誤ったことばの使用を、楽しみながら「今、彼等には何が起きているのだろうか?」彼らの見つめている世界を覗くと、そこには人間の完成形に近づこうとするモガキみたいなものが感じられた。

    本当に幼児期の成長の各段階、そして、“名前”や“固有名詞”、“動詞”などの具体的で視覚で捉えられる初期に覚えることばや、“形容詞”や“数字”などの抽象概念を要求されることばにわけて、どうやってことばの獲得に子どもたちが奮闘していくのかをよく描かれている。

    子どもはことばを獲得していく過程で様々なエラーを犯しながら膨大なことばの世界を消去法で、ひとつひとつ潰していく。彼らはひとつのことばを獲得する過程で、そのひとつのことばを覚えるにとどまらず、その背景にあることばのシステムの全体に少しづつ近づこうとしている。

    そして、一番印象的だったのは、最終章

    「ことばが新たな概念を生む」
    というタイトルの章では、私が期待していたことを 今井むつみ先生が語っていたこと。
    ことばを覚えていくしくみと、物事を思考して何かを発見する姿勢の共通性を述べた部分

    〜〜大事なことは、よく理解されている現象とまだ仕組みが分かっていない現象を対応づける時には、二つの現象の間の表面上の類似性(見た目の類似性など)ではなく、要素の間の「関係の類似性」を当てはめるということです。
    二つの現象をそれぞれシステムとして考え、そのシステムを構成している要素そのものの共通性ではなく、要素どうしの類似性をそぎ落とした要素間の関係性の類似性、つまり二つのシステムの間の構造の共通性を考えるわけです。〜〜

    “ことばの発達の謎”は“人類の存在の謎”を垣間見せてくれるものなんだなぁ。
    なんか、迷宮へ入り込んだ様な感覚だ。
    2016/12/23

  • 赤ちゃんがどうやって言葉を覚えていくのか、以前から不思議に思っていましたが、本書を読んでその仕組みがよくわかりました。「認知科学」という今まで触れたことのない分野の内容でしたが、著者が赤ちゃんや保育園児を対象に行った数々の実験を交えて非常にわかりやすく説明してくれており、理解しやすかったと思います。ことばの発達は「発見」「創造」「修正」、そして言語が「思考」をつくる・・・言葉のもつ不思議さに触れて、人間の学習する力のすごさ、すばらしさを大人に教えてくれる良書です。

  • 全く未知の言語をいちから覚えてみようかなぁ。

  • 今井さんは、人間の思考とことばの関係について岩波から『ことばと思考』という本を出していて、ぼくは読んでとても感銘した覚えがある。本書はこどもがことばを獲得するシステムを探求したもので、子どもは顔には出さないし、口でも言わないものの、そこにはなみなみならぬ試行錯誤の過程があることがわかる。それは一方で、ケルが言えず「足でナゲル」と言ったり、「歯でカム」が言えず「歯でフム」と言う子どもの表現を通じ、大人には気づかない語と語の間の共通性が浮かび上がってくる。子どものことばの獲得は一方で大人の外国語学習にもヒントを与えるもので、たとえば、英語のwearを使えるにはどこまで知っていないといけないかという問題だと(p182)、その範囲にヘアスタイルや香水をまとうことまで入っていたり、put onとの違いのように状態と変化を分けなくてはならないことまで知っていないといけないことが示されている。

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著者プロフィール

今井 むつみ(いまい・むつみ):1989年慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程修了。1994年ノースウエスタン大学心理学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に、『親子で育てる ことば力と思考力』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ』(共著、ちくま学芸文庫)、『ことばと思考』『英語独習法』(ともに岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

「2024年 『ことばの学習のパラドックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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