「流域地図」の作り方: 川から地球を考える (ちくまプリマー新書 205)

著者 :
  • 筑摩書房
3.80
  • (9)
  • (23)
  • (17)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 256
感想 : 27
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689078

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 流域地図の作り方という表題で、どんな内容なのか興味がありました。読み進めるとなるほどと共感する部分が多くあります。最初はフィールドワークの本かと思いましたが、内容は人と自然の係り方、川の水源から下流域全体までひとつの繋がった、流域、水圏としてとらえる視点が大変面白い。

    水と人との繋がりは、そもそも生活圏として大変深いかかわりがあり、農業治水、生活の基盤を水に求めてた。現在はその関わり合いが薄れ、中流域で舗装された地上からは水は浸透せずにそのまま川に流入し、時に大きな洪水をもたらしている。

    水源付近の森林が荒れ、森林の保水力が落ちれば、上流で降った雨水は川に勢いよく流れ込むことになります。東京都でも水源林である奥多摩の様子を下流の多摩川水系の皆さんに知っておらうというプログラムがあったかと思います。

    都会では川を中心とした文化圏という考えは薄く、東京では中心から放射状にのびる私鉄沿線を中心に街づくりが進んできました。川を越え、丘陵を横切り街を作る。川の流域文化とは大きくかけ離れた都市デザインがそこにはある。

    多摩川の支流、浅川の日野あたりには、用水路も多く街中を豊かな水が流れます。古多摩川が形成した崖線(はけ)に沿っては、今でも伏流水が湧き、国分寺崖線、野川、豊田のはけにも清水が湧く、豊かな流域が残されています。

    サイクリングロードをゆっくりと川に沿って走っていくといろいろな風景に出合います。この川の上流に何があるのだろう、子供の頃の小さな冒険。
    そんな気持ちからもう一度流域の文化圏を考え直してみたい。

  • 去年の台風を筆頭に、最近豪雨が多い気がする。そんな自然災害に適応するためには、行政区分に基づいて作られた地図ではダメで、大地の凸凹が分かる自然の地図、つまり流域地図に基づいて対策する必要がある。
    たしかに、水源地や上流の宅地開発が原因で下流域の洪水が起こるのに、下流域だけが行政的に区分されていたらできる対策は限られる。地図を変えることは世界の見方を変えることだ。今こそそんな転換が求められていると強く思った。
    しかしそもそも、流域というのが、そこに降った雨水がその川に流れ込む窪地の範囲というのを理解していなかった。手の甲で考える流域の概念が分かりやすかった。

  • 関東平野の西、武蔵野台地の東端、本郷台地。本郷キャンパスの位置をこんな「流域思考」で説明するのはちょっと見慣れない?でも「東京メトロ丸の内線本郷三丁目駅徒歩10分」という東京の路線図と地図案内も、よく考えたらここ数十年ちょっとで培われた習慣にすぎません。鉄道や自動車の利用が路線図や道路地図とともに普及したように、小さな1つの専門分野としてとらえられがちな地理学・水文学の「流域」の考え方を、流域地図とともに一般的な日常に浸透させたい。そんな著者の思いが伝わる一般向けの易しい一冊。(都市工学専攻)

    配架場所:工14号館図書室
    請求記号:EC:K

    ◆東京大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2003193848&opkey=B147995561031093&start=1&totalnum=1&listnum=0&place=&list_disp=20&list_sort=6&cmode=0&chk_st=0&check=0

  • 道路でも人工的な境でもない、川の流域を再優先させた地図。そうして作られた地図を通して自然を眺めると今までと違った風景がそこに広がってる。入間と羽村の真ん中あたりに佇み、そこに降る雨はやがて多摩川を通じて東京湾に注ぐのか、荒川を経て東京湾に通じるのか、そんなことをぼうっと想像するようなぼくにとってもってこいの本。じゃっかん子ども向き。でもそれはそれで大切。

  • 都道府県・市町村といった行政地図ではなく、河川流域を基準にした「流域地図」という考え方についてまとめた本。利水、治水、さらには自然環境や生物多様性といった生活の身の回りの環境を理解する上で、非常に合理的であり参考になった。

    日本を含む世界の大都市は、大きな河川の河口付近に造られていることが多い。そこに気候変動の影響による洪水や海水面上昇といった水害が顕在化しており、これまで経済発展一辺倒で拡大してきた都市構想は曲がり角を迎えている。

    この都市の防災を考える上で、政治的・歴史的経緯によって定まった行政地図で仕切ることはナンセンスである。河川で水害が起こる原因とは、上流域における集中豪雨と宅地整備等による涵養機能の低下であり、下流域の都市部だけで対応できる課題ではない。

    つまり、流域地図を用いて上流域と下流域の繋がりを可視化し、住民同士の交流を通じて流域圏の包括的な災害対策をつくっていくことが、環境的な視点を含めて全体最適な考えとなるであろう。

  • 鶴見川の近くを散歩していると「鶴見川流域はバクの形」というキャッチコピーの啓蒙的な看板をよく見かける。「○○川流域」とは、なんとなく「その川のほとり」くらいのことかなあと思っていたので、「流域の形」とはどういうことなのか謎だった。本書を読み、流域とは「降水がその川に集まる領域」のことを指すのだと知った。つまり境界線は尾根ということになる。それがわかっただけでもひとつ賢くなった。
    そのバク看板は、鶴見川流域センターというところが出しているもので、まさにこの本の著者の岸由二氏が中心?的な役割を果たして立ち上げたセンターだった。そうとは知らずに読み始めたのだが、鶴見川流域センターの存在は前から気になっていた。というのも、縁あって今は鶴見川流域住民なので、
    "かつては「暴れ川」と呼ばれ豪雨の度に猛威を奮っていたという鶴見川だが、近年は治水施策がうまくいっていてここ数十年は大規模水害は起きていない"
    という話は知っていたからだ。素直に、ありがたいことだと思っている。去年(2019年)の台風のときも、鶴見川の浸水被害はなかったとか(正確なところは私はわからない)。
    鶴見川の治水のキモはとにかく「流域思考」ということ。洪水は、流域で起こる。行政区域の枠を越えて流域全体で対策を講じなければ意味がない。鶴見川はそれをいち早く実行できた河川であるということだが、全国的に見ると他にそういう例はほとんどないとかどうとか(正確なところは私はわからない)。
    災害対策に限らず、環境保全の観点でも、ちょっと私たち、自分たちの立っている足元である地球のでこぼこのことを、無視していすぎやしませんかと。そういう本でした。

  • 川は高いところから低いところへ流れていき、最後に海へと出ていく。あらためて読んでみても、当たり前なことを再確認するだけかもしれないですが、そんな自然の地形の高低、うねうねでこぼこした自然そのものの地形を、流域という単位でくくって現在の行政区で区切られた地図のほかに、流域地図というものを作り、地球を眺め直そう、というようなねらいのある「流域思考」の入門書です。現在のデカルト座標は、地形というものを無視しています。それは、人間の都合で恣意的に地形を切り取ったものです。流域地図は、源流から上流、中流、下流、河口、そして本流のみならず数々の支流を含めた水系をひとつの単位として見る考え方によって作られた地図。ナチュナルで本質的な地図なのでした。この流域地図が、ではどんな役に立つのか。それは、最近頻発する豪雨によって、豪流と化したり、氾濫する河川を治水するときにまず役立ちます。行政区を越えて、水系に属する行政区まるごとの連携を促す治水策には、この流域思考が役に立つのが、わりと簡単に腑に落ちてくると思います。また、産業革命以来、地球を人間のための資源や素材に過ぎないものだと捉える、いわゆる「地球は利用するもの」という価値観が主流だったりしますが、この流域思考によって自然の地形を意識するようになることを通じると、「地球は共生するもの」というような価値観へと転換を図れるのではないかという、期待と可能性が感じられるようになります。気候変動による地球温暖化は海面上昇を引き起こし、今後、日本に限らず、主要都市を海面下に沈めることにもなります。緩和策として、温室効果ガス削減などが目標にされますが、欧米では、大豪雨の頻発や海面上昇を、もはや前提として策を講じる、適応策に舵を切り始めているといいます。具体的には、高台造成などだそうです。そして、そういった適応策に、やはり流域思考が基盤になるであろうことは、想像に難くありません。といったように、本書は150ページくらいの分量なのですが、まとまった感じととっつきやすさに助けられながら流域思考に入門できます。今年もまた台風による大豪雨などが頻発しました。今後も落ち着きはしないのではないかと、気候変動を体感できるくらいになった現在では、覚悟をするような気持ちにならないでしょうか。そんななか、いつまでも、自然を無視したデカルト座標の地図による思考を貫いていては、災害に振り回されるだけなのではないか。また、本書で取り上げられている、小網代と鶴見川の環境保全のように、生態系の多様性を守るのにも、流域思考は威力を発揮するようです。採集狩猟時代には持っていた感覚だと言います。今、それを復古することで、気候変動時代に、ある種の生きやすさが芽吹いていく、そんな可能性を感じさせる本でした。

  • 市区町村などの行政区分で分けず、「流域」で災害を考えることが大切と説かれています。現状では神奈川の鶴見川だけが、行政区を越えて治水できているそうです。遊水地と多くの調整池を使って氾濫に備えるとのこと。理論や構想だけに止まらず、利害の調整を行ない、お金と時間をかけて実現していくことの重要性を感じました。

  • 水系地図の作り方
    ヤフー地図の水地図、4×3印刷、張り合わせる
    地形図
    wathcizu.go.jp
    portal.cyberjapan.jp

  • 【由来】
    ・図書館の新書アラートとhonz

    【期待したもの】
    ・漂着プロジェクト

    【要約】
    ・流域地図というのは河川を中心に区分けをした地図のこと。産業革命以降、デカルト座標の地図で構成され、行政区画割の地図に慣れすぎてしまった我々の感覚は、そのまま「大地」「地球」に住んでいるという実感からの乖離につながっている。現行地図を否定はしないが、流域地図も併用し、そこを実際に歩いて自然を体験することによって、自然との関係を再構築できる。

    【ノート】
    ・流域地図とは河川を中心に区分けをした地図のこと。水系が分かり、つまり土地や生物の生息状況と結びついた地図。Yahooでも背景図として水系図を選択できるようになっているが、まだまだ馴染みがない概念ではある。

    ・知り合いの研究者から、今、我々が馴染んで使っている地図は、たくさんある地図概念の一つでしかないということを教えられたことがあった。これは哲学的な意味からも歴史的な意味からもそうなので、例えば曼荼羅も地図の一つ。何をどう認識して表現、マッピングするかというのが地図の本質であり、今、我々が地図帳やGoogleマップなどで慣れている地図というのは、あくまでも特定の科学的コンセプトに基づいて構築された世界観に過ぎない。子どもが適当に書いて見せる居住区近辺の地図を、我々は縮尺も方角もでたらめだと言って笑うけど、書いた子の興味や行動規範を出発点にすれば、それは立派な地図なのである。

全27件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜市立大学生物科卒業。東京都立大学理学部博士課程修了。慶應大学名誉教授。進化生態学。流域アプローチによる都市再生に注力し、鶴見川流域、多摩三浦丘陵などで実践活動を推進中。NPO法人鶴見川流域ネットワーキング、NPO法人小網代野外活動調整会議、NPO法人鶴見川源流ネットワークで代表理事。著書に『自然へのまなざし』(紀伊國屋書店)『流域地図の作り方』(ちくまプリマー新書)。訳書にウィルソン『人間の本性について』(ちくま学芸文庫)、共訳にドーキンス『利己的遺伝子』(紀伊國屋書店)など。

「2021年 『生きのびるための流域思考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岸由二の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×