はじめての哲学的思考 (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 74
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689818

感想・レビュー・書評

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  • とてもわかりやすい。今まで哲学入門的な本で満足したことはなかったけど、これはいい。なぜ哲学が必要か、著者なりの考えが中学生でもわかるように書かれている。入門書は歴史の流れ解説だけになったり、難解なことを無理にやさしく語ろうとして騙された感が残ることが多いけど、本書は面白くて解る本。ハイライトとしては個人的には以下の項目。
    ・「一般化のワナ」に注意しよう
    ・「問い方のマジック」にひっかからない
    ・事実から”すべし”を導かない
    ・思考実験にご用心 それはほとんどが「ニセ問題」
    ・哲学対話をはじめよう 価値観・感受性の交換/共通了解志向型対話(超ディベート)

    近頃、みんなネットで意見は言い放題だけど、意見や立場の違う人ときちんと対話をする場面もないし、スキルもない。この本を読んでいただいて、教育の場でも超ディベートをやってもらえたら……というのが著者の意図のひとつかな と思いました。

  • 【これで哲学できる】
    びっくりするほどわかりやすい、
    哲学的思考法の入門書です。
    宗教と哲学と科学の関係。
    問いの立て方と考え方のコツ。
    一般化のワナに引っかからないこと。
    「欲望」の次元から考える。
    読みおえた日から、考え方が変わります。
    出会えて嬉しい本でした♪

  • 『要するに、犬やネコやカラスは、僕たちにとっての「事実の世界」と、いくらか異なった世界を生きているのだ。それはつまり、僕たちもまた、「僕たちにとっての事実の世界」をしか生きられないということだ。哲学者のニーチェ (1844-1900)は、次のような有名な言葉を残している。「まさしく事実なるものはなく、あるのはただ解釈のみと。」』―『第3講 科学とは何がちがうの?』

    哲学の奥義を伝授すると著者は言う。「webちくま」のサイトで現在も読むことができる第1部「哲学ってなんだ?」の四講と第2部「哲学的思考の奥義」の初めの二講を読んで興味が湧いたので読んでみたのだが、当然のことながら深淵なる哲学の奥義を新書一冊で完璧に解説・理解することなど出来る筈はない。けれど考え方の指南という点で見れば、本書は巷に溢れる自己啓発の本よりも良書であるとも思う。それは本書がいたずらに、あなた自身の思考を大切にしなさい、と説くのではなく、他人の思考はあなたとは異なっている、と教えるからだ。

    哲学は、互いに異なる考えを持つ者同士がどのように共存するのが最善かという問題を古代ギリシア以降連綿と考え続けてきた学問だと著者は言う。なるほどね、確かに小賢しい形而上学的な研究ではなくて、多様な価値観を認め合う為の実践だと考えると、急に腑に落ちたような気にもなる。奴隷に生活上必要なことは全て預けて、持て余した暇に任せて机上の空論を議論していたギリシアの哲学者、というイメージは払拭される。岩井克人の著書で、何故古代ギリシアで貨幣という概念が生まれたのかを説明された時にも思ったけれど、古代ギリシアというのは王や帝を頂点とする社会とは違って最先端のコスモポリタンな社会だったのだなあ。なんでそういうことをもう少し判り易く学校では教えないのかね。

    とても為になる本ではあるし複雑なことの芯を簡潔に説明し読者を次の次元の理解へ導く手腕は、流石、教育者、という感じがする。しかし余りにも要領よくまとめられた言葉を眺めていると、そこからこぼれ落ちたものの行方が気になって仕方がない。だって人というのは一直線に思考するものではなくて、あちらこちら寄り道しながら考えるものじゃない? その寄り道が、たとえ引いた構図の中では無駄に見えても、多様性に対する理解や寛容を生む元になるのじゃないかな、と思うのだ。もちろん、著者は他者の価値観をきちんと認めているし、「問い方のマジック」で示すように白か黒かを問う問題の立て方に対してもきちんと難点を指摘するし(サンデルの白熱教室に対するやや否定的な見方には大いに共感するところあり: https://booklog.jp/users/petrohiro/archives/1/4152091312)、著者の言う「奥義」は確かに役に立ちそうなのだけれど、そこには何か短絡しているものがあるようにも感じてならないのだ。

    例えば、2+□=5、の□に何が入るのかを解くのに、左辺の2を右辺に移項して、□=5-2、とすればいいんですよ、と言われているのと同じで、移項の意味を問うことや、あるいは□に1から順番に自然数を入れていくやり方の意義なんかが飛んでしまっているなあ、と感じるのと似たような読後感を抱いてもいる、と言ったらいいのかも知れない。それを無駄と思うかどうか、その問いこそ、シラバスには書き記せない本当の意味での教育なんじゃないかな、と思ったりする。

  • 哲学は日常で使われる。
    超ディベートで問題を深掘りし、欲望を見つけたり、話し合いをする際の間違ったテーマ決め。本質観取のやり方などが載っている。
    これを読むと誰かと哲学したくなる。

  • 非常にわかりやすい。が、すっきり納得とはいかない。
    これはあえて著者が開かれた対話のために曖昧に書いているだけなのかもしれないけど。

    たとえば死刑について。
    「国として許されていない人を殺す行為を国が行うのはいけない」
    みたいなことを書いてるけど、それは「拘束する」のも同じことであり、この論理で言うと懲役も許されないことにならないのかな。
    だから死刑に反対するには、懲役刑と死刑との違いを論じないといけない。

    あと思考実験はみんな疑似問題みたいな話もよくわからない。なんで仮定の条件を考えるのがダメなんだろう。

    とまあいろいろあるけど、でもいい本です。

  • 読み終わると本書に書いてある「哲学は役に立つ」という言葉がよく理解できた。
    哲学はなんのためにあるのか、どういうふうに自分の人生に取り入れればいいのかがわかりやすく書かれている。哲学に親しみが持てる一冊。

  • まずはじめに宗教があったが、宗教は宗派によって信じるものが違う
    ここに、タレスが「万物の始祖は水」といい、神ではなく認知可能な存在をあげ、「信じる」ことから「みんなで確かめ合う」ことを歩みだした
    →これが現在の科学の出発点

    もともと、古代において科学と哲学は同じものであったが、ソクラテスが、哲学が真に考えるべき問題は、自然哲学ではなく、私たち人間自身である(何時自らを知れ)と言い、哲学と科学が分離した。

    哲学という意味の世界は、科学という事実の世界に原理的に先立つ。(事実があろうとも、そこに意味づけがなされなければ事実として観測されない)

    哲学は、科学では定義しきれない問題(安楽死は正義か?クローン人間は悪か?など)に対して、共通了解が可能な答えを見出そうとする営みである。
    哲学的思考とは、こうした物事の本質を明らかにする思考の方法なのだ。

    【哲学的思考の方法】
    1、一般化に気を付ける
    「若者の学力を上げるにはどうすればよい?」という問があったとして、自分の経験から〇〇すべきだ!とするのは危険である。自分の考えが独りよがりかもしれないと自覚したうえで、自分の考えを投げ共通了解可能性を問う。

    2、ニセ問題に気をつけろ
    「私達人間は平等な存在か、不平等な存在か?」という問は意味がない。これは観点によってなんとでも言える問のない問題である。このような哲学的論旨を二項対立に追い込む問題に気をつけること。これは「僕たちは、お互いに何をどの程度平等な存在として認め合う社会を作るべきか?」など、建設的な意味のある問に置き換えてみる。

    帰謬法(必ずしも確かとは言えない)と言い、相手を否定し続ける方法。どんな議論も真か偽かの対立に持ち込み、そのうえで相手の主張は真と言えないことを論証するもの。
    しかし、この世のあらゆる命題はそもそも真か偽の二項対立では問えない。そのため、そもそも問として成り立たない方法で議論を行っている。

    この厄介な議論術にデカルトとフッサールが答えを見出した。
    「いくら目の前の現象を疑おうとも、その現象を認識してしまっている自分のことは疑えないでしょ?」

    だから僕たちは、本当は次のように問い合うべきなのだ。
    「これがわたしの確信。ではあなたはどうですか?」
    →この世に絶対の真理はなく、いっさいは僕たち自身の確信や信憑を投げ合うしかない。

    僕たちが様々な確信や信憑を抱く理由は、
    「世界を、自分たちの欲望や関心に応じて認識している」から。
    世界は僕たちの欲望に相関してその姿を現す→欲望相関性の原理

    建設的な議論をしていくには…
    1、対立する意見の底にある、欲望・関心を自覚的にさかのぼり明らかにする
    2.お互いに納得できる「共通関心」を見出す
    3.この「共通関心」を満たしうる、建設的な第三のアイデアを考え合う。

    その他の議論のアイデア
    ・事実から、「〜すべし」は導けない。(論理的なつながりがない)→それぞれの欲望を互いに投げかけ合い、そのうえでみんなが納得できる「べし」を見出し合う

    ・条件を考える
    困ってる人に手を差し伸べよという命令思想ではなく、「どのような条件を整えたなら、人は困っている人に手を差し伸べようと思うのだろう」と、条件を考えてみる
    いじめは絶対にだめ、と教えるのではなく、「人はどのような条件が整ったときにいじめをしてしまうんだろう?」

    【哲学対話の方法】
    好きな漫画や映画の、どの部分が好きかを語る→自分自身の価値観を知ることにつながる。また、人と語り合うことで、その作品の良さの「共通理解」を得られる。

    本質観取
    ①体験(わたしの確信)に即して考える
    ②問題意識を出し合う
    ③事例を出し合う
    ④事例を分類し名前をつける
    ⑤すべての事例の共通性を考える

  • 哲学といえば答えのないものの印象があるけど、そうではなく共通解を見つけることが大事なのはなるほどと思った。二項対立といったそもそも答えがないものに、無理やり答えがあるようにみせる間違った問いを見抜くことが大事なのは割と目からウロコだった。
    また、人々の信念の対立はそもそも欲望であることを理解し、そこから話し合うことが大事だと知れた。

  • 哲学というより、考え方について教えてくれる本(哲学はそもそも考え方についての学問であるが)
    わかりやすく、論理的で有意義なことしか書かれてないと思う。とても良かった。

    書いてあったことは大体こんな感じだった。
    ・私達の生きる世界に絶対的真理はなく解釈があるだけ。(あったとしてわからない)
    ・自身の体験を一般化して語ることの危険性。
    ・二元論は非常に誤解を招きやすく、本質的な問題解決には繋がらない事が多い。
    ・所謂思考実験は問いに作者の欲望(価値観)が隠されていることが多く、二元論で答えることができない問題も多い。その為、問い方を変えた方が良い事がある。
    ・あらゆる原説は帰謬法によって否定可能である。例えばカラスは黒いという言説も、人間が思う黒が必ずしも絶対的な黒ではないなどと反論できる。そもそも私という存在すら疑うことができる。→だからデカルトは我思う故に我ありをすべての基本として考え出した。
    ・事実と主張は別である。その2つは切り分けて考えなければならない

    SNS上で揚げ足取りとしか言いようのない、論争以下の言い合いを毎日のようにしている現代人の私達が、改めて学ばなければいけないことが書いてあると思った。

    後半に叙述される恋の本質についての章も非常に良かった。

    恋とは自己のロマンの投影と、それへの陶酔である。自分が無意識的に(あるいは意識的に)積み上げてきたロマン(理想)を相手に投影して、それに陶酔するのだ。と作者は言う。恋をした時に自分はこの人がタイプだったんだ。この人に恋するために今まで好きなタイプがあったんだと思うような瞬間はこのせい。それはその人自身ではなく、理想が好きなだけとも解釈できるから、ある意味残酷だけど、確かにそのとおりだと思う。自分も、今まで、これみよがしに自分の異性のタイプを公表する人に対して同じ事を、つまり相手にではなく、その人に投影して映し出された自分の理想に恋しているだけではないか?という疑いを持っていたから、これは自分だけではなかったのだと安心できた。
    もう一つは可能性について。ハリウッドスターやアニメキャラに憧れることはあっても恋することはないだろう。それは可能性が限りなく0に近いから。恋はそんな憧れを現実世界に見いだせた時に発生する。これもたしかに納得できる。
    この章で、作者の情熱的な語りもあって、恋への憧れが加速した。

    物事を考える時の方法を実践的な方法で学べた。いい本。

  • 哲学について初心者でもその意義や思考法を説明してくれていてとてもわかりやすい、面白かった。

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著者プロフィール

哲学者・教育学者。1980年生まれ。熊本大学大学院教育学研究科准教授。博士(教育学)。早稲田大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。専攻は哲学・教育学。経済産業省「産業構造審議会」委員、熊本市教育委員のほか、全国の多くの自治体・学校等のアドバイザーを歴任。著書に『学問としての教育学』(日本評論社)、『「自由」はいかに可能か』(NHK出版)、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマ―新書)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)、『教育の力』(講談社現代新書)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)など多数。

「2022年 『子どもたちに民主主義を教えよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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