これを知らずに働けますか?: 学生と考える、労働問題ソボクな疑問30 (ちくまプリマー新書 281)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689856

感想・レビュー・書評

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  • 元新聞記者で大学教授の著者が、労働関連に対する学生からの質問をもとにした30の疑問に答える本。ちくまプリマー新書ですから中高生や大学生らバイトをしていたりこれから社会に出ていくことになる人たちが主だって想定されている読者ですが、若い働き手や非正規就業の中高年の人たちまで、労働問題に詳しい知り合いを得たかのように知見を得られる内容になっています。

    根拠のない希望的観測のようなものはまったくありません。労働法などの理想通りにはコトが運んでいない労働の現実の姿から現況をあぶりだし、それにどう対処するかの方法を提示してくれています。
    _________

    「労働法などを知ってしまうと、現実との落差に暗い気持ちになる」「知るのがコワイ」という言葉を、若い人から聞くことがありますが、知っていることは力です。(p218)
    _________

    それだけ現実の社会は、法律違反や法律の目をかいくぐるような論理の使い方が少なくなく、そして法律が整備される前の資本家が支配する搾取するやり方の名残の残る世界なのだといえるでしょう。

    労働組合さえ、テレビの影響などで「悪者」なのだと理解する若い人たちがいるといいます。テレビはスポンサーが会社ですから、スポンサーの意向だったり、忖度したりなどして、会社が舞台のテレビドラマなどで労働組合をよくない組織として描いてきたことがあるそうです。会社と労働者の立場は不均衡で、労働組合がなければ、もともと強い会社の立場に異を唱えられる者がいなくなる、……いやそうではないですね、いなくなりはしないでしょうけれども、会社に立ち向かえるほどの力を労働者が発揮する機会を奪われるわけです。そうすると、法律が形だけの様相を呈しがちな現況において、ますます会社側が力を強め、自らに有利な規則や空気で労働者をしばり、搾取を厳しくしていくことになっていきます。そればかりか、パワハラやセクハラなどのいじめへの対処もままならずもみ消されてしまう傾向も強くなるでしょう。

    また、以下のような言葉もありました。

    __________

    「味方」がいると思えないと、人間はなかなか権利を使えません。人間は社会的な存在なので、独りぼっちだと思うと権利を使う気力が湧いてこないのです。(p127)
    __________

    ですよねえ? 労働組合もそうですがそれ以前に、人と人とのつながり、紐帯といったものが大切なのはこういうところからもわかりますよね。

    ちょっと話は脱線するのですが、アーティストの話を。パトロンが付くと、パトロンの心情を汲んでおもねるアーティストなんかも珍しくないのだろうと思います。パトロンなんていうのはたとえば会社を持っていて、要するに会社側の人間なのだから労働者を搾取する立場。アーティストが一般の労働者に不利益な言説を述べるようになったら、そういうことなんだと思うのです。パトロンがつくことで認知が歪む。パトロンに離れられたら困るという不安によっても認知が歪むのかもしれません。

    閑話休題。
    本書を読むと、ほんとうに現況として、会社ってブラックのほうがメジャーなのではないか、と思えてきます、自分の経験もまじえると。先に話した労働組合にしても、たとえばアメリカのように各セクションの労働組合が団結することで、たとえば同じ職種の会社であれば、A社もB社もC社も同一労働同一賃金が成立していて、転職した際に同じ職種でぐっと賃金が減ることはないといいます。これが日本だと、同一労働同一賃金は同じ会社内だけの話のようになっていたりしないでしょうか。このあたりの話、ぜんぜん詳しくないのではっきりとは言えませんが、雇用の流動化をすすめるならば、そういったところの仕組みをちゃんとすることが必要です。さまざまな労働組合が横に繋がって力を発揮できるといいのかもしれません。

    あと、会社は賃金をくれるのだから会社を優先して自分を犠牲にしないといけないというマインドがあります。ですが、会社との雇用契約において、会社が個人の労働力を購入しているということなのであり、つまりは奉仕に対してのお返しの賃金というよりも、これだけの賃金をくれるという約束で労働力をこちらから提供している、というふうにとらえたほうがまだほんとうです。会社のほうが力がずっと強いのは変わりませんが、契約上は対等に契約していることは忘れないほうがよいと思います。これを、文言をこねくりまわすことで巧妙に「雇われているあなたは立場が弱い」と暗に、そして余計に刷り込まされるようなところはあるのではないでしょうか。

    それと、職場が合わなかったり何かあったりしたら転職すればいいと簡単に言われることがありますが、なかなか転職だって難しいのですよ、という実際面についても解説があり、なるほどな、と納得しました。とくに非正規の人だとか、急に仕事を辞めたり解雇になったら、暮らすのが大変ですし、だからといってすぐには職が見つかるものでもないですから。

    というとこころで、各章のタイトルだけ記しておきます。興味を持たれた方はぜひ。

    第一章:仕事選びの常識が通じなくなった
    第二章:「働きやすい」ってどういうこと?
    第三章:働き手にとって賃金って何なの
    第四章:働き手にも見方は要るんですね
    第五章:心と体を壊さないために
    第六章:仕事がなくなったらどうすればいいの

    の全六章プラス「おわりに」の章で構成されています。こういった入門書的に読みやすいタイプの本で、誰もが避けられない「労働」への現状認識ができるのってすばらしいことです。みんなが読めばいいのになあ、と思える良書でした。こういう本は「義」です。

  • 読みものとして読みやすく、労働者としての権利や、どんなふうに考えたらよいかをつかみやすい本でした。

    大学生向けの講義をベースに書かれており、学んだ学生さんがアルバイトの場面で出会った困りや、講義を経て伝えるべきことを伝えた後の変化についても紹介されているので、それもよかったです。

  • 「「バイトは休暇が取れない?」「どこまで働くと過労死する?」そんな学生の率直な疑問に答えます。仕事選び、賃金、労働組合、ワークライフバランス、解雇など、働く人を守る基礎知識を大解説。これを知らずに社会に出て行ったら、あぶない!」

    目次
    第1章 仕事選びの常識が通じなくなった
    第2章 「働きやすい」ってどういうこと
    第3章 働き手にとって賃金って何なの
    第4章 働き手にも味方はいるんですね
    第5章 心と体を壊さないために
    第6章 仕事がなくなったらどうすればいいの

    著者等紹介
    竹信三恵子[タケノブミエコ]
    1953年生まれ。和光大学現代人間学部教授。元朝日新聞記者、ジャーナリスト。1976年東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社、経済部、シンガポール特派員、学芸部デスク、2007年労働担当編集委員。2009年、貧困ジャーナリズム大賞受賞。『ルポ雇用劣化不況』(岩波新書)で、日本労働ペンクラブ賞受賞。2011年より現職

  • とてもわかりやすく勉強になりました。
    これから社会に出ていく人に、子どもに読んでもらいたい本です。

  • 女性教育会館パッケージ貸出図書(テーマ:大学生活)
    2階 階段前に展示中(10-12月利用可能)

     通常の貸出枠とは別に
     一人 3冊・14日間まで貸出可 (学内者限定)
     通常開館時間中に、1階カウンターで貸出返却手続きしてください

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 読むべき本というと『カラマーゾフの兄弟』とか『七つの習慣』とかが挙がると思うのですが、資本主義社会で生きる我々日本人にとって本当に必要なのは本書のような本だと思います。本書を全世帯に配布しましょう(笑)。
    内容としては、それこそ小学生から知っておいて損はないと思いますが、難しいので高校生・大学生からが現実的ですかね。仕事に不安を抱いていたり、過度な期待をしている学生は絶対に読むべきです。基本的な知識の羅列ですが、全てを網羅している方はそうそういないと思います。逆に簡単な知識ばかりだと思って手に取るとなかなかのボリュームにたじろぐのではないでしょうか。細かい法律の数々までフォローできていますか?また、現社会人の方にとっても知らないことばかりだと思いますし、過労や鬱についても記載されていますので、やはり万人に必要な一冊だと思います。過労や鬱の項は自分だけでなく大切な人にとって必要になるかもしれませんから、ぜひ目を通しておきましょう。
    これを読まずに働けますか?

  • なんで労組が平和問題のビラ配りをしているか。
    ⇨平和がよりよい労働条件の基礎。

    人事評価制度 気づけば自分も低評価の対象かも

  • 今日は何の日?:12月22日 労働組合法制定記念日

    若い人に贈る読書のすすめ2018

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著者プロフィール

ジャーナリスト

「2021年 『POSSE vol.47』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹信三恵子の作品

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