まともな家の子供はいない

著者 :
  • 筑摩書房
3.33
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804327

作品紹介・あらすじ

「一週間以上ある長い盆休みはどう過ごせばいいのだろう…気分屋で無気力な父親、そして、おそらくほとんど何も考えずに、その父親のご機嫌取りに興じる母親と、周りに合わせることだけはうまい妹、その三者と一日じゅう一緒にいなければならない。…」14歳の目から見た不穏な日常、そこから浮かび上がる、大人たちと子供たちそれぞれの事情と心情が、おかしくも切ない。

感想・レビュー・書評

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  • ズバッとした物言いのタイトルに惹かれて読んだ。
    まともな家の子供はいない。
    大人視点で現代の家庭の問題を取り上げる形の本なのだろうかと思って読み始めてみたら、主人公は受験を控える女子中学生・セキコ。彼女は家に居場所がない。
    なるほど子ども目線か。と冷静に読む。
    仕事を私情で簡単に何度もやめてしまいつつ家に居座って携帯ゲームばっかりやってる父親と、それを受容して甘やかしている母親と妹という家族の中で、それらのことすべてに苛立っているのはセキコだけ。
    家に常に苛々の根源の父親が居座っているから、セキコは家に居場所がない。

    主人公が思春期真っ只中であるのと、家庭環境のせいか少し荒んだ雰囲気が漂っているため、苦手な人は苦手かもしれない。
    しかし、その思春期の子ども特有の荒み具合や大人のダメなところの描写、それに対する子どもの眼差しの描写はとても良い、というかわかる、とても良く描けている。と私は思った。

    常々お金のない小中学生って、家に居場所がなかったらほんとにどこにも居場所がないんだよねと思っていた。
    お金もないし、昼夜問わず外を一人でうろついていたら奇異の眼差しを向けられ、家の中にも外にも居場所がない。
    この物語では、居場所を探すのに苦労しつつもセキコには逃げ込める友だちの家などがあり、また本人が真面目なのもあり、なんとかなっているのでそんな描写はないが、なんとかならない子どもたちは夜コンビニなんかにたむろして非行グループに声をかけられたり、自らそこに飛び込んだりして抜けられなくなるなんてよくあることだ。
    実際私が中学生の頃にもそういう子たちはよく見かけた。

    まあそれは置いといて、セキコはよく家に居させてくれる友だちのナガヨシの家庭や、同じ塾に通う同級生と交流を持つ中で、さまざまな家庭の形を知り、まともな家の子供はいないのだな、と悟る。
    私も読みながら、ああ、そうだよな。となんだか溜飲が下がるというか、少し心が楽になる心地になる。
    この本に描かれているような家庭は実際ザラにあって、だから誰とも分かり合えないだろうなと思っていたのが意外とそうでもないのだなと読みながら思えるところが。
    私も本書の登場人物たちと立場は違えど、セキコのように自分だけ家族と感覚が違う、家族と共感できない異物だと感じて追い詰められたことがあるので、セキコに共感してしまう。それゆえに共感できる安堵と、苦しさも同時に感じた。
    大人ですら家族関係で追い詰められるときもあるのだから、多感な中学生にはたまったもんじゃないだろう。そりゃあ受験生でも勉強に身が入らないよな、ストレスを何とかするのに必死でそれどころじゃないもん。

    そう、大事なのはこの物語はフィクションだけど、まともな家の子供はいないのは事実であるというところだ。
    まあ、まともな家、まともな親、まともな子どもってなんだろな。と思うところはある。
    それでも、こんなにまともじゃないのはうちだけかも…と思い悩んでいる子どもたち…主に中高生に本書を読んでほしいなと思う。
    読んだうえで、いやうちはもっとまともじゃないよ。と感想を持つ子どももいるかもしれないが。

    まともじゃないわたしたちは、どうやってこの気持ちを咀嚼して、生きていけばいいのだろうね。

  • 冒頭───
     図書館で宿題をするのは集中できないが、父親がいるから家にはいたくない。セキコは本当に、図書館の机を占領して勉強している連中が嫌いでもあった。大学受験や資格試験を控えていると思しきあいつらは、絶体絶命に家で勉強する場所がなくて図書館に来ているのかというとそうではなくて、ただ、対外的に勉強しているというポーズをしているとその気になって勉強するというフィードバック現象ゆえに勉強している意志薄弱な連中だとセキコは見做していた。奴らが参考書とノートを開いて難しぶっているのを見かけると、その程度のもんならやめちまえ、落ちろ落ちろ、と椅子の背もたれを掴んでがたがたさせながらわめき散らしたくなるのだが、実際にやってしまうと殺されそうなのでやっていない。まだ命は惜しい。さすがに。十四歳だから。
    ──────

    いやあ、津村記久子の作品は本当に面白い。

    受験を間近に控えたどこか一風変わった家庭の中学三年生の子供たち。
    嫌な事とか、気になることとかが毎日のようにあるのだけれど、まだ子供なので、上手な解決方法を見出せない。

    仕事もせずに家でぶらぶらしている父親に我慢が出来ず、なおかつそれを咎めない母親も許せない、主人公のセキコ。
    特に理由もないのに同じ塾に通う男子の尾行をし始める友人のナガヨシ。
    学校を不登校になり塾にも来なくなった、英語が抜群にできるクレ。
    店で働いていた仲の良かった年上の女性を母親が突然解雇したことに納得できない大和田。
    一見恵まれた家庭のように見えるが母親が不倫をしていたという室田。

    親の身勝手さ故に、自分の居場所を上手く見つけられず、苛立ちもがく子供たち。
    そこには、家族や友人、ひいては人と人の結びつきとは何なのだろう、という問題が孕んでいるようだ。

    夏休み中に終えなければならない塾の宿題。
    途方に暮れていた主人公は、周りの子供たちと些細な繋がりを持つことで、全ての教科の答えを得られるようになっていく。
    ほんの偶然から生まれた淡い関係でも、他人と良い関りが築ければ、世の中は何とか上手く乗り越えていけるのかも……。

    津村さん独特の世界観が垣間見える作品。

    もう一篇収録された「サバイブ」は、親の不倫や離婚の積み重ねで家庭が崩壊していく過程を描いたストーリーで、読んでいると居心地が悪く胃がもたれるような気分になります。
    出てくる子供たちには何の罪もないのに。
    すべて親たちの我儘です。
    こちらは、ちょっと重すぎたな。

    それでも、人それぞれ辛いことはある。
    “ 長くは続かない。
     沙和子は、顔を空に向けて、陽の眩しさを厭うように目をぎゅっとつむった。
     いつかもう少しましになる日が来る”(220P)
    と、未来に希望を抱かせる終わり方は変わりない。

    この作品の舞台は「まともな家の子供はいない」にも出てくる室田家がメインになっています。
    初出を見ると、こちらが2006年で、「まともな家の子供はいない」が2009年なので、この「サバイブ」のほうがだいぶ先になります。
    なので、これをベースに、子供と家庭の関わり方というテーマをより深く掘り下げて「まともな家の子供はいない」を書いたのかもしれません。

  • 「まとも」とはなんでしょうか?
    この物語に出てくる家庭は「まとも」ではないのでしょうか?
    思い返せば私の家も「まとも」ではなかった(今もない)かもしれず、この本のタイトルは正しいのかもしれない。
    まぁ、「まとも」だから何なんだとも思うわけで、「まとも」かどうかを判定したがる感性に対して反感もなくはない。
    でも、「まともな家の子供はいない」は好きだと思う。
    どこが良かったのかはっきりとは分からないのだけど。
    塾の宿題の答えを集めて行くところとか。尾行とか。シューアイスとか。図書館の席取りとか。
    そういう諸々が心地良かった。

    「サバイブ」は、本当に嫌んなるよねって感じのお話で、世の中の家庭の何割でこういうことが起きているのかと知りたくなる。
    小説ではやたらと読むから、50%くらいはこんなんなのか?と考えてしまう。
    まぁ、これも実際に頻発していたからどうだということもないのですが…。
    ただ、くだらないなぁと思うだけで。

  • 22.#まともな家の子供はいない
    中3の夏休み
    父親との距離感に悩み家に居たくない主人公
    同級生達も家族との関係にモヤモヤする日々

    彼らの親達は虐待ではないが
    自分の親だったら?
    自分はこんな親ではないか?と我が身を振り返る

    パンチのあるタイトルだが、
    「親も人間」というところかな

  • 中学生くらいの時に感じていた、親への苛立ちとか自分への苛立ちとか、不満に溢れんばかりだった頃の自分を思い出した。

    自分で自分の置かれる環境をコントロールできないということは、
    本当にストレスだったなーと思う。
    大人になった今は、友だちも選べるし、合わないと思えば疎遠にもなれるし、仕事も選べるし、とにかく自由だ。
    学生の頃とはそこが違う。

    最後に出てきたフレーズ、
    『長くは続かない』はまさしく、
    苛立ちMAXだった当時の自分にかけてあげたい言葉の代表。

    【今は毎日つまんなくてイライラしてばかりでも、
    人生悪くないもんだって思えるようになるから大丈夫だよ!
    そして自分を好きになれるようがんばってごらん。】
    って、今では人生に満足できている私は声を大にして言いたい。

    2014/06/13

  • 津村記久子はいつも怒っている人を書く人だ。
    いつもなのでいい加減ワンパターンなんじゃないかと思うが、いつも同じ怒りではなく今回もまた違う側面を感じた。
    いつものとおり、主人公は物語の中で大きな成長やハッキリとした解決に至らない。でもいつか少しましな日が来ると、同じような思春期を過ごした読者たちは知っているのだ。いつの間にか、セキコやいつみの人生と自分を重ねてしまっていた。

    中学生のころの閉塞感を思い出す。私もクレのように
    「飯がうまくない、学校にいきたくない。まともな大人になりたい」と言えたら、今とは何かが違っていただろうか。

    津村記久子のいつもと違う側面とは、佐伯先生のいう
    他人や自分の不幸せに気がついてしまうと、不満足だと叫ぶ代わりに様々な満たし方を見つけてしまうという部分である。
    津村記久子は、いつも怒っていてかつ、黙って耐える人を書いていた。しかし今回は、ほめられない形ではあるが満たされないが為に行動を起こす人物を書いているのである。
    行動を起こす人を書いたことで、黙って耐える怒る人が際立ち、頑張れいつか抜け出せる、と応援したくなった。

  • 津村さんが描く中学生かぁ~、導入部は話の進みが遅く感じられてなかなかのりきれなかったけど、読み進むにつれ、中学生独特の閉塞感がピリピリチリチリと感じられて、ちょっと痛かった。
    とはいっても重苦しくなく、やっぱり津村さん独特のユーモラスな展開で、特に主人公セキコのとぼけた友人ナガヨシには救われる。
    セキコを取り巻く同性・異性の同級生との距離感の描き方がまた巧い。わかりやすい「友達」ではないし、決して気が合うというわけでもないのに、ユルめのシンパシィでつながる。とりわけ、不登校のクレとの絡みは好きだったな。深刻すぎないんだけど、それぞれ、それなりに重い家庭の、己の心の事情。ずしっとくるんだけど、クレがセキコに家の玄関でふるまう手作りドーナツ、そのおいしさにわずかながら暗さがかき消される感じがして。(家にあがらず玄関で食べる、ってのもいいなと。)
    そのクレを含めた他の同級生との交流で、ちゃくちゃくと夏休みの塾の宿題を集めていく過程も面白かった。それぞれの得意・不得意を、写し、写させ。こういうの懐かしいな。
    表題作と同時収録の「サバイヴ」は、セキコの同級生いつみの家庭の事情にスポットを当てているが、こちらの方がヘヴィーだったか。子供の視線はシビアだ。ということをものすごく感じたのだった。親の方が小狡く甘えやがって、うわ~って思ったが…どっちかっつーと私は親の方に年齢が近いんだよな。フラットな立場で読んでたつもりだったが、ヒイ~と感じる箇所も多々あり。
    子供をなめちゃいかんよね。勿論そのつもりはないけど、無意識で見下しがちになるときがあるのかも。いずれ娘も思春期に突入するだろう。自分もあの頃の、行き場のないもやもやした思いを抱えていたころを忘れないようにしようと思ったのだった。

  • ブクログのタイムラインから面白そうだったので拾ってみたけど、不機嫌な女子中学生の日常を延々と見せられる感じでした。娘がいれば違う見方も出来たかも知れないけど、ただただつまらなかったです。

  • 中学生の夏休みの日々。宿題をどう片付けるか、という大問題と、家族や友達やクラスメイトとのめんどくささ、苛立ち、進路の葛藤などなど、
    綺麗に描くことのできないような、もやもやとした身に覚えのある暗くていや〜な感情を、
    くらくていや〜な気持ちにさせないような丁寧だけど軽やかな文章で書かれていて、なんだか読後感は爽快。
    汗ばむ夏の物語、すきでした。

  • はじめての作家さん。キクコ、ながよし、宿題交換とかいいねぇ

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著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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