話虫干

著者 :
  • 筑摩書房
3.20
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本棚登録 : 672
感想 : 148
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  • Amazon.co.jp ・本 (245ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804396

作品紹介・あらすじ

刻々と書き換えられていく文豪・夏目漱石の『こゝろ』。バーチャルとレトロが錯綜する物語内世界に入り込め。

感想・レビュー・書評

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  • 「もう、この子ったらほんとに本の虫なんだから!」
    なんてお母さんにため息をつかれた子ども時代を過ごした方なら
    共感せずにはいられない物語です!
    まさに、やってくれたな、小路さん♪ という感じ。

    古今東西の名作の中に侵入して、物語を勝手に改変してしまう「話虫」。
    何を隠そう、私も生粋の(?)話虫です。
    ひ弱で、入院したり、退院しても学校を休んだりという毎日だったので
    とにかく悲しい結末の物語に弱くて。
    『人魚姫』を始めとして、これまでいったい幾つの物語を頭の中で改変したことか。
    ディズニーが映画『リトル・マーメイド』で人魚姫を幸せにしてくれた時には
    「ナイス、ディズニー♪ でも、私なんかもっと昔に幸せにしてあげたんだから」
    と、密かに誇らしく思ったりしたものです。

    この作品に出没する話虫は、あの名著『こころ』に
    自分の身内を勝手にキャスティングするばかりか
    作者である夏目漱石まで物語の中に引きずりこむ始末。
    誰が話虫なのか突き止め、筋を修復すべく物語世界に派遣される
    馬場横町市立図書館司書の糸井くんも、苦労が絶えません。
    イマドキの青年らしく、彼が『こころ』に召喚する意外な人物には
    話虫を自認するブクログ仲間さんたちなら、きっと大笑いすること間違いなし。

    文学史に残る名作だけれど、うじうじネガネガ過去に拘っていないで
    もっと未来を見ればいいのに。。。と今ひとつ好きになれなかった『こころ』。
    話虫が明るい方向へと改変したくなる気持ちもわからなくはないなぁ
    と思ってしまう私には、名作を名作として保存したい気持ちと
    心を通わせた登場人物たちを自死という結末から逃れさせたい気持ちの
    板挟みになる糸井くんの気持ちもまた、よくわかるのです。

    ですから、甘いと言われようと、こんなことが許されるのかと言われようと
    糸井くんの決断には盛大な拍手を送ります。
    物語の中の物語、を面白おかしく描いているようで
    親や学校や環境によって作り上げられたかのように感じがちだけれど
    それまでの地平から、何を目指してどう飛び立つのか
    そこからがあなたの物語なんだよ、と
    力強く明るく、背中を押してくれる素敵な本です。

  • ハナシムシ【話虫】
     図書館所蔵の稀覯本などの物語をいつの間にか作り替えてしまう
     力をもつもの。未練を残す作家の魂の仕業などと言われている。
    ハナシムシボシ【話虫干】
     その本の物語内世界に入り込み、話虫によって作り替えられた物
     語を元に戻すこと。馬場横町市立図書館員の仕事とされている。

    という帯の言葉と、丹地陽子さんのイラストにがっつり心を掴まれた。
    裏表紙の漱石さんもステキ。

    話虫が改変しようとしているのは、夏目漱石の「こヽろ」。
    その改変されたお話を元に戻す=話虫干するために「こヽろ」の
    中に図書館員が入り込む。

    序章 → 一 → 1 → 二 → 2 ・・・という具合に、
    登場人物の一人である圖中が語る漢数字の章と、
    物語に入り込んだ司書が語るアラビア数字の章が交互になっていて
    それぞれ語り口調も変わるのがおもしろい。

    物語内に入った司書が誰かはさっそく「1」で
    明かされる(ここでは伏せておく)が、さて、話虫はいったい誰なのか。

    お話を改変するために話虫は、続々といろんなキャラクターを
    「こヽろ」に送り込んでくる。
    そんな話虫を
    「同じように文学を愛する人間であるなら話せばわかるような気がする」
    という司書がとても優しいなと思った。

    しかし話虫に対抗するため、司書側が放りこんできたキャラクターも
    たいがいスゴイ・・・
    鷲鼻・細面・きちりと固めた髪・長身痩躯でパイプを燻らせる「彼」。
    いやー、まさかこんな人まで出してくるとは。

    最後は少々都合よすぎな展開ではあるけれど、
    登場人物がみんないいコたちで、やりきれない「こヽろ」の
    本筋には戻したくないなーと思っていたので、むしろよかった。

    設定がとてもおもしろく、シリーズ化されたらうれしい。
    なにより、お話の中に入ってその世界で過ごせるなんて、
    本好きとしてはうらやましくて仕方がない。

    • kumi110さん
      九月猫様。
      はじめまして。kumi110と申します。
      九月猫様の、種々のレビューに惹かれてフォローさせていただきました。
      この度は、フォロー...
      九月猫様。
      はじめまして。kumi110と申します。
      九月猫様の、種々のレビューに惹かれてフォローさせていただきました。
      この度は、フォローを返していただきありがとうございます。

      小路幸也さんのこちらの作品も、九月猫様のレビューで読みたくなってしまいました。
      また積読が増えてしまいます(笑)

      その他のレビューも、楽しませていただきますので、これからもどうか宜しくお願い致します。
      2013/06/01
    • 九月猫さん
      kumi110さん、こんばんは!

      わざわざのお越しと、コメントをありがとうございます。

      小路幸也さん、気になる本だらけでわたしも...
      kumi110さん、こんばんは!

      わざわざのお越しと、コメントをありがとうございます。

      小路幸也さん、気になる本だらけでわたしもたくさん
      積んでしまいそうです(笑)
      いや積まずに読まなきゃー、ですが(;^_^A

      この本、最後の辺りが少々ご都合・・・なのですが、
      とても楽しかったので、もしよければ読んでみてくださいね。
      その折には、kumi110さんのレビュー、楽しみにしています♪
      2013/06/02
    • 九月猫さん
      iii76385さん、こんばんは♪

      花丸とコメントをありがとうございます(´∀`*)
      絶賛夏バテ中のノロノロ運行なので、お返事が遅く...
      iii76385さん、こんばんは♪

      花丸とコメントをありがとうございます(´∀`*)
      絶賛夏バテ中のノロノロ運行なので、お返事が遅くなってごめんなさい。

      うわあ、かわいい本がたくさんなんて言っていただいたの、初めてです!
      女子なので「かわいい」と言われると、それが本棚でもうれしいものですね(笑)
      かなりの雑食なので、まとまりのない本棚だなぁと自分では思っていたので
      なおさらうれしいです♪

      >ブクログ本棚に登録してしまうと使命感に急かされる
      あはは、わかりますわかります!
      レビュー率が下がっちゃうのって、地味~にイヤンですよね(笑)

      >またお邪魔させていただきます
      ぜひぜひ♪♪
      花丸は励みになるのでもちろんですが、
      コメントいただくのもとてもうれしいので、どんどん遊びに来てくださいね♪
      雑談魔でもあるので、本のお話だけでなく、
      いろいろお気軽におしゃべりしていただけるとうれしいです(*´∇`*)
      2013/08/29
  • 本の中に入り込み物語を改変してしまう「話虫」。その話虫を干し(退治する)、物語を元のレールに戻す「話虫干」。
    図書館にある夏目漱石の『こゝろ』初版本に話虫が入り込んでしまい、話虫干をする為に図書館員が本の中に…というある意味ファンタジー?『こゝろ』の中に意外な登場人物が出てきたりして笑ってしまった。結末はとても良かった。
    その物語を愛するあまり、自分の好きなように変えてしまう程の想いって本好きなら誰しも持っているかも。もしかしたら、知らないうちに話虫になって本の内容を変えてしまっているかもしれませんよ~。

  • 大好きな物語の世界で生きてみたいとか、この人達に会ってみたいとか、考えてしまうことがある。
    結末に納得いかないなと思うこともある。
    だから愛する物語の中に入って好き放題してしまう「話虫」の気持ちも分かる気がする。

    でも、もし何もかもが大好きな物語の結末を勝手に変えられてしまったら?
    想像しただけで怒りがこみ上げてくる。
    そんな虫は潰してしまうことでしょう。

    夏目漱石の『こころ』の結末を元に戻すために奮闘するのは馬場横町市立図書館の司書。
    こんな仕事までこなすなんて、司書ってなんてすごい仕事なのか!
    どうか何処かの図書館では実際に「話虫干」をしていますように。

    なんでもアリになってしまっている『こころ』の世界。
    あんな人やそんな人が登場してとっても賑やか。
    これはもう絶対元通りにはならないと思ったのだけど…。
    いろいろ登場させた人達の存在意義が少し希薄?とか、物語の戻し方についてはすっきりしないところもある。
    だけど友情物語としてはとっても素敵だと思う。
    それと物語の中の人達の行間のあれこれに思いを馳せるのは自由なんだと自信を持てたことも収穫。
    いや、もうとっくに妄想してましたけどね…。
    本の中に入り込まなくても、私の中にその物語は生きていてずっと続いています!と言えるくらい愛したいな。
    そんな風に思った。

  • すっごい豪華キャスト。
    夏目漱石の「こころ」が
    虫のいたずらでストーリー変わっちゃう???

    図書館司書がそれを修正に。。
    夢があるなぁ。

    楽しかった、面白かった。

    次回オフ会の課題本「こころ」再読せねば。

  • 明治時代の書生さんたちを思わせる(実際にそうでした)表紙に、小路さん、新境地かと手に取りました。タイトルは「話虫」を虫干しする、という意味だったんですね。私、話虫が千匹、だと思いましたよ。(汗)



    ベースになっているのは、夏目漱石の『こゝろ』。
    なんと、現代(近未来かも?)の図書館員が、本に巣食い、話を勝手に書き換える虫を退治するために本の世界に入りこむ、という、う~~ん、これって、タイムトラベルものとも違うし、なんて言ったらいいんだろ。

    二次元世界での妙にリアルな登場人物たちの葛藤は楽しんで読めましたが、途中から、ホームズまで出てくるのは反則じゃない??なんて。

    設定は面白かったと思うのだけど、なんか、物足りない。

    『こゝろ』は幸い、何度も読んで熟知している物語だったから、その中の登場人物たちを別角度から見れたのは興深かったけど。

  • 【感想】
    ・なんやこれ? と思った。おもろいのかおもろないのかようわからん。ま、とにかく「ヘンな話」。

    【一行目】
     何かに囚われた。

    【内容】
    ・夏目漱石の「こゝろ」が改編されている。それを補修しようとする図書館員たち。一方、登場人物たちは・・・

    ▼簡単なメモ

    【淡い日々】《ひょっとしたら私は人生で一番の淡い日々を過ごしているのではないかと。/ 過ぎてしまえば何も残らないような浅い思いが続く日々ではあるものの、後から思えばその浅さが、淡さが鮮明に残るような、言葉として摑み切れない色合いで描かれた一枚の西洋画のような日々。》p.55
    【糸井馨/いとい・かおる・A】友人。神戸の呉服屋の息子で裕福。背が高く彫りの深い顔で時おり髪の毛全体が茶色くなりまた黒に戻っていく。頭の回転が速く、優しく、目端も利いている。涙もろく感情が昂ると泣く。不意に現れるときいつも風が吹く。叔母の家に下宿しているがその叔母さんが静さんのお花の先生。
    【糸井馨・B】馬場横町市立図書館の新入り。
    【エリーズ】ヘルンと知己のようだ。森鷗外のエリス? 超絶美少女。順応性が高くすぐに日本の生活に溶け込んだ。
    【京子】桑島の腹違いの妹。十七になったばかり。京都にいたが明治女学校に入るため東京に来て旧知の夏目先生のお世話になった。そのせいで桑島と京子二人ともども妹尾家に下宿することになった。
    【桑島芳蔵】圖中の幼馴染み。円らな瞳。優れた独裁者による統治が理想だと考えている。
    【思考】「考えても詮無い事だろうが、思考を止めてしまっては拙い」p.209
    【妹尾節子】圖中を下宿させてくれている戦争未亡人。年齢は三十代後半から四十あたり。シャープなイメージで鋭さと厳しさを持つ。
    【静さん】妹尾静。節子さんの娘。母とは反対で丸っこい性格。
    【圖中和生/となか】語り手の「私」。糸井や夏目になぜか現実感を感じられないことがある。
    【夏目金之助】夏目漱石。英国留学から帰国したばかりで圖中の下宿の近くに居をかまえた。桑島の父と縁があり桑島も知人だった。落ち着いた紳士に見えるが実は《些細なことで気が動転してしまう類いの人間なのではないか》と圖中は思った。
    【日本の良さ】「日本は益々西欧化への道を辿っていくだろう。そうなれば、日本の良さなどというものに日本人は気づかないまま、それを捨て去っていくからさ」p.89
    【榛美智子/はしばみ・A】静さんのお花の先生。糸井の叔母。
    【榛・B】馬場横町市立図書館の副館長。才女のほまれも高い。ギャグは面白くない。
    【話虫】物語の中に入り込んで物語を勝手に変えてしまう何か。
    【馬場横町市立図書館】和書の所持数が多い図書館。
    【火鉢くん】エリーズを圖中、桑島、糸井に引き合わせ、守るよう依頼した、?
    【ヘルン】ラフカディオ・ハーンのことだろう。夏目漱石がハーンの後がまになったという話は聞いたことがあるので。
    【ホームズ】シャーロック・ホームズ。いわずとしれた名探偵。ロンドン時代の夏目の知己らしい。たしかに時代は重なっているようだし、二人が共演するミステリも読んだことはあるが。
    【松長直次郎・A】圖中と桑島が神戸で出会った仙人のような老人。
    【松長直次郎・B】馬場横町市立図書館の館長。見た目は仙人。
    【虫干し】東京バンドワゴンシリーズでは年中行事のようになっている古書の虫干しだがこちらでは少し違う。
    【夜】《夜より朝の方が賢い》p.202

  • こんな風に小説の世界の中に入ってみたいなと思った。

  • 物語の内容を書き換えてしまう虫を退治するため、物語の中に入るお話。
    ラストはそう持ってくるかー!!
    まさかの人たちまで巻き込んで、なんでもありって感じで楽しかった。

  • 糸井君がいるとき・いないときの圖中君と桑島君の距離感の変化が絶妙で好きです。
    個人的に二人のHさんの登場が嬉しかった……なんて夢の共演!?

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著者プロフィール

1961年、北海道生まれ。広告制作会社勤務などを経て、2002年に『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』で、第29回メフィスト賞を受賞して翌年デビュー。温かい筆致と優しい目線で描かれた作品は、ミステリから青春小説、家族小説など多岐にわたる。2013年、代表作である「東京バンドワゴン」シリーズがテレビドラマ化される。おもな著書に、「マイ・ディア・ポリスマン」「花咲小路」「駐在日記」「御挨拶」「国道食堂」「蘆野原偲郷」「すべての神様の十月」シリーズ、『明日は結婚式』(祥伝社)、『素晴らしき国 Great Place』(角川春樹事務所)、『東京カウガール』『ロング・ロング・ホリディ』(以上、PHP文芸文庫)などがある。

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