おまじない (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.39
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本棚登録 : 2730
感想 : 275
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804778

作品紹介・あらすじ

「人はいなくなっても、言葉は残る。
誰かの言葉に縛られる絶望は、誰かの言葉に守られている希望に替えていけばいい。
本書の物語は、そう力強く告げている。」
――文月悠光(詩人)

「「燃やす」を読んで、自分の中にいた小さい頃の自分を思い出して泣きました。」 (読者)
「誰にも知られない苦しみによりそってくれる、おまもりみたいな本」 (読者)

大人になって、大丈夫なふりをしていても、
ちゃんと人生のページをめくったら、傷ついてきたことはたくさんある――。
それでも、誰かの何気ないひとことで、世界は救われる。
悩んだり傷ついたり、生きづらさを抱えながらも生きていく
すべての人の背中をそっと押す「魔法のひとこと」を描いたキラメキの8編。

「あなたを救ってくれる言葉が、この世界にありますように」――西加奈子

感想・レビュー・書評

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  • あなたは『おまじない』をしたことがありますか?

    “昔から、災いを起こしたり逃れようとする時に使われた呪文のようなもの”とされる『おまじない』。それを信じるか信じないかは人それぞれだと思います。そもそもそんな『おまじない』という”言葉”から連想されるものも人によって異なると思います。『おまじない』とは、漢字では”御呪い”と書くようです。”まじない”とは、なんと”呪い(のろい)”という”言葉”でもあると知るとちょっとその見方も変わってきてしまいます。ただ、そんな漢字も含めて人が何か思いを込める時の”言葉”であるとは言えるのかもしれません。

    私たちは日々生きる中で、さまざまな”言葉”を耳にします。偉人による”名言”、古から伝わる”格言”のようなものもこの世にはたくさんあります。そんな”言葉”に触れることをきっかけとして、人が行動を変える、生き方を変える、そんなことだってあると思います。それは、その”言葉”が『おまじない』として、そして”魔法のことば”としてあなたに機能した、そんな風に考えることもできるかもしれません。

    しかし、どんな”名言”、”格言”であってもあなたの心に響くものでなければそれはあなたにとって何の意味もないただの”言葉”にすぎません。また、同じ”言葉”であっても、タイミングによってあなたの心に響く場合と響かない場合もあるように思います。

    さて、ここにそんな”言葉”によって、ハッとする八人の女性が主人公となる物語があります。そんな”言葉”は決して特別な”名言”や”格言”ではありません。『あなたは悪くないんです』、『戻って来るのはあんただよ』、そして『おめでとう』といった一見なんの変哲もないその”言葉”。この作品は、そんななんの変哲もない”言葉”に人がハッとする瞬間を見る物語。そんな”言葉”に人が救われる物語。そして、それは、そんな”言葉”が『おまじない』に変わる瞬間を見る物語です。
    
    『ずっと、ずほんを穿いていた』、『裾にフリルがついたものやリボン模様のもの、いかにも女の子用の可愛らしいずぼんは嫌だった』というのは主人公の『私』。そんな『私』は、『年の離れたふたりのお兄ちゃんのお下がり』を気に入って穿いています。そんな『私』を見て笑う母親の一方で『嫌な顔』をするおばあちゃん。そんなおばあちゃんは『けいちゃんは女の子なんだから、もっと女の子らしくしなさいな』と、『私とふたりきりのときだけ』言います。『いつも、うんとお洒落していた』おばあちゃんに対し、『覚えている限り口紅も塗らなかった』と対照的な母親は、『あまりに正反対』でした。食事の時間も『目を合わせて話すことはほとんどなかった』というふたり。『私がまだハイハイをしていた頃に、家を出て行った』父親の顔を知らない『私』。そんな『私』が『一緒に遊ぶのは、いつも男の子』でした。さらにその中でも『ガキ大将だった』という『私』。そんな『私』が『小学五年生になったとき、おばあちゃんが入院し』ます。入院した『病室でも口紅を塗っていた』というおばあちゃんは、一方で『みるみる細くなっ』ていきました。そんな時期から『胸が急にふくらみ始めた』という『私』は、『体全体も丸くな』り、『可愛い』と言われることが多くなります。『クラスメイトの私への態度が、少しずつ変わり始め』たのにも気づく『私』。そんな『私』が『スカート穿こうかな』と言うと、『あの「嫌な顔」を』せず、『おばあちゃんに見せてあげたいんだね?』と言う母親。『病院で対面したおばあちゃんは、ものすごく喜』び、『どこからどう見ても「女の子」になった』という『私を見るおばあちゃんの嬉しそうな顔は、私を誇らしくさせ』ました。そんなある日、『可愛いね。』と『学校から帰る途中』に男の人に話しかけられた『私』。『背が高くて、髭がぼうぼう生えていた』という男の人を『うんと大人だった』と思う『私』。そして、家に帰った『私のスカートを見たお母さんは、すぐに警察に連絡』をします。『裸にされ、全身をくまなく調べられ、ごぼうみたいにゴシゴシ洗われた』というその時の『私』が着ていた『スカートには、男のアレ(お母さんはそういう言い方をした)が、何かの徴(しるし)みたいにべっとりとついていたの』でした。そして、母親はそんなスカートを燃やします。『あらゆるものを燃やし始めた』母親は、『「燃やす」という行為に夢中になっ』ていきます…という最初の短編〈燃やす〉。『あなたは悪くないんです』という言葉と共にとても印象深い展開を辿る好編でした。
    
    八つの短編から構成されたこの作品。そんな八つの短編の主人公はいずれも女性です。そして、そんな彼女たちは、何かしら思い悩むシチュエーションに陥った時に、意外な人から放たれた”魔法のことば”によって勇気を与えられます。その言葉が”自分にとってのヒントやおまもりになる”というその言葉。八つの短編の主人公たちは年齢も境遇もバラバラです。そして、そんな”魔法のことば”も当然に異なります。では、そんな短編の中から、私が特に印象に残った三編を見てみたいと思います。(“☆”が”魔法のことば”です)

    〈孫係〉: 両親と三人で東京に暮らす小学六年生の『私』が主人公。『長野県で大学の教授をしている』という祖父が学会のために一カ月間『私の家に住むことにな』ります。『うちに泊まることを散々渋った』という祖父を説き伏せ話を進める母親のことを『ママはファザコンだからな。』とこっそり『私』に言う父親。そしてスタートした祖父との暮らしを憂鬱に思う『私』。そんな時、祖父と偶然に二人で話す機会を得た『私』。祖父から与えられた”魔法のことば”が『私』の人生を変えていきます。
    ☆ 私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ

    〈あねご〉: 『お酒ばかり飲んできた』と、十七歳の時から酒を飲み始めた主人公の『私』は、『あねご』と呼ばれるようになります。社会に出てからも酒の場を盛り上げるものの『契約は更新』されずに仕事を続けられない日々を過ごす『私』。そんな『私』は、学生時代の後輩に『あねごは夜の店が合いますよ!』と言われたことを思い出して、夜の店で働き始めます。『お笑い担当のおばさんキャラ』で存在感を示す『私』。そんなある日、店に現れたある男から”魔法のことば”をもらいます。
    ☆ あなたがいてくれて良かった

    〈マタニティ〉: 『子どもが出来た』と、妊娠検査薬に現れた青い線を見て思う『私』が主人公。『いつか欲しいと思っていた』子供を三十八歳になって授かることになった『私』は、関係を持った六つ年下の田端という男のことを思います。『私』が飼い出した猫がきっかけとなり、始まった二人の関係。そして『母親になるのだ』とそのことに感じ入る『私』は、色んな不安感に苛まれます。そんな中でTV番組の中から”魔法のことば”を得ます。
    ☆ 弱いことってそんなにいけないんですか?

    八つの短編に登場した八人の主人公たちは、それぞれの人生において、それぞれが対峙しなければならない状況と向かい合って生きていました。決して生活が行き詰まる、そのような状況にまで陥っていたわけではありません。しかし、何かしら一つの転機が必要な状況ではありました。私たちが生きていく中では、これら主人公のように人生における何らかの停滞期に陥ることは誰にだってあります。そんな時に必要なのは何かしらの”きっかけ”・”起点”です。そんな時に”言葉”というものが持つ力は時として非常に大きな力を発揮することがあります。世の中には”名言”や”格言”など、人の心を動かす”言葉”が山のように存在します。しかし、そんな停滞期にある私たちが、単に名言集を読み漁っても、そこに何らかの”きっかけ”・”起点”を見つけることはなかなかに難しいものです。なぜなら、そんな”言葉”は、あなたに必要な”言葉”を、必要なタイミングで得られた時に初めて意味を持つからです。同じ言葉でもタイミングが違えば、右から左に流れてしまうだけでしょうし、タイミングが合っていても、微妙な”言葉”のニュアンスの違いだけでも、そんな、”きっかけ”・”起点”とはなり得なくなります。わたしは、この分野、つまり、”きっかけ”・”起点”に焦点を当てた小説が大好きです。最近読んだ作品では、青山美智子さん「猫のお告げは樹の下で」が相当します。カタカナ四文字で暗示される”きっかけ”・”起点”によって主人公たちが再び顔を上げ前に進んでいく物語。もちろん作家さんにはそれぞれの色があり、西加奈子さんのこの作品は青山美智子さんのような提示の仕方、展開の仕方はされません。しかし、この作品は紛れもなく”きっかけ”・”起点”に光を当てた物語です。西加奈子さんらしく、その”言葉”が静かに人の日常の中に沁み入るように伝わって効果を発揮していく、主人公たちの次の人生に彩りを与えていく、それが西加奈子さんがこの作品で描かれた『おまじない』の物語なのだと思いました。

    『一度もらった言葉は完全には消えないけど、自分が幸せになるために、別の言葉で上書きしていくことができるし、それをやっていきたい』と語る西加奈子さん。”言葉”というものは、それを受け取る人によって、さらにはそのタイミングによって同じ言葉でも大きく変化していきます。この作品の主人公たちがそれぞれ得た”言葉”も、必要な”言葉”を、必要なタイミングで得られたことで、それぞれの人物がその”言葉”を人生の糧としていく”きっかけ”・”起点”とすることができました。しかし、そんな主人公たちが、少し変わったその先の日常の中で必要とする”言葉”は決して以前得た”言葉”と同じものではないでしょう。西加奈子さんがおっしゃる通り、そんな未来には、次の未来を獲得するために、”言葉”を上書きしていくことだって必要になってくるかもしれません。大切なのは、”言葉”そのものではなくて、動けなくなっている自分自身が、如何に顔を上げて前を向いて歩いて行くかということです。そんな西加奈子さんの思いがこもったこの作品。そんな作品からはとても優しい人の眼差しを感じることができたように思います。

    西加奈子さんらしい人間ドラマな物語の中に、”きっかけ”・”起点”ものの要素が極めて自然に織り込まれたこの作品。大切なのは決して凝りに凝った”名言”や”格言”などではなく、タイミング、そして、その人にマッチする”言葉”、それが、その人の人生を祝福するものになっていく、『おまじない』になっていく。なるほどな、と、納得感がとても感じられた作品でした。

  • 何気ない言葉で、心のつかえがとれていくそんな短編が8篇収録された本。西加奈子さんの作品は、読みたいと思いつつ、なかなか手が出なかったのですが、短めな短編集ということもあり、読んでみました。

    生きにくさや、不安を感じる中、出会った人や昔から知っていた人からもらった一言で、楽になっていく。自分の本当の気持ちとは、違った行動をしているのではないか、周りが自分をどう思っているのか、様々な気持ちが描かれるが、一度は感じるのではないかと思う。

    それぞれ思うところにある話だが、特に「孫係」が好きな話だ。おじいちゃんが1ヶ月一緒に住むことになり、窮屈さを感じている孫娘。日ごろの思いも相まって、ため息の出る生活。そんな気持ちのひとりごとをおじいちゃんに聞かれてたら、実は。。。という話。おじいちゃんの語る人の生き方やそれによって楽になってくる孫娘がよい。そんなことがないと思う人もいると思うが、自分は、そんな風に感じることもあるので、身に染みる感じだった。

    「あねご」や「ドブロニク」のいつの間にか、こう生きているけどという感じもわかる。どちらもその生き方にちょっと疲れた感じの時に出会う人がよい。いい人とかではなく、シンプルに自分の気持ちで生きていて、そこから自然と出る言葉で、ホッとさせられる感じで、変にいい人感だったり、説教感だったりないところがよい。
    全体的に影響与える人たちが、影響を与えようではなく、自分の気持ちにシンプルに向きあっているだけで、それを見て何を思うかという感じであり、その点が良かった。

    また「マタニティー」では、自分の気持ちを検索ワードにして、検索したらというところが、ドキッとさせられた。知恵袋の回答やコメントなど、正論で断罪してくるものをみて、悩みこむのだが、実際にそうなるだろうなというのと、主人公のように感じたりしても、または全くそういったことに縁がなくても、潰してくるコメントを吐きだすだろうと思ってしまった。
    そして、それもまた自分を守るための術ではないかと思わせてくれるのが、この本であると思う。

    全て女性が主人公の話であるが、社会を生きていく上で、少なからず感じることが題材なので、考えさせてくれることが多かった。西加奈子さんの他の本も読んでみたいと思う。

  • どの短編も不安がよぎりながらも読み進めると最後は少しの救いがあり、素敵な作品。ちょっと元気のないときにうるっときて少し勇気がもらえる作品でした。
    言いたいことは心の中にしまって、周りに合わせすぎてしまって空回り自己嫌悪しちゃう女性は感情移入しちゃいます。呪縛のようになっていることからおまじないのように救われる言葉で生まれ変わるよう。
    特に印象的だった作品をネタバレしない程度にご紹介。
    燃やす行為が攻撃的にも癒されることにもつながる『もやす』
    いちごは大好きなのですが、浮ちゃんのつくるいちごはきっとおいしいだろうなと思った『いちご』
    期待されている自分の演じる役割をこなすことへの罪悪感が軽くなるような『孫係』
    フィンランドを旅している主人公におめでとうを言ってあげたい 自主企画の映画の中身が少し興味ある『ドブロブニク』

  • 秀逸な短編集。圧倒的な母性でもって、全力で肯定してくれる。
    昔文庫の帯に又吉が「安心しろ、僕達には西加奈子がいる」って(正確にはおぼえてないけど、そんなような感じだった)書いていたのを思い出した。
    西さんの書く女性は、強いよね。

    燃やす、いちご、孫係、あねご、オーロラ、ドブロブニク、マタニティ、ドラゴン・スープレックスの8篇。

    いちご、孫、ドラゴンがお気に入り。

  • 何気無い一言を言われただけで、世界がひっくり返るほど救われることがある。
    他の人には全く効かない、自分だけの魔法の言葉だ。
    気持ちが不安定で落ち着かない時、自分を卑下してつい気持ちと裏腹なことをしてしまっても、自分を認めてくれる言葉を貰うと涙が出るほど嬉しくなる。
    「あなたは悪くないんです」
    「あなたがいてくれて本当に楽しい」

    短編の主人公達と一緒に、読んでいる私も優しい魔法の言葉に何度も救われた。
    「おまじないなんやから。自分が幸せになる解釈をしたらええのや」
    西さんの関西弁は私にいつも元気をくれる。
    そしていつも思うけれど、西さんの描く独特の色彩の絵も本当に素敵だ。


  • 燃やす
    いちご
    孫係
    あねご
    オーロラ
    マタニティ
    ドブロブニク
    ドラゴン・スープレックス
    全8話の短編集

    この中では、孫係が1番好きです。

    自分の醜く歪んでる嫌いなところを、
    思いやりの心が前提にあるならば、
    それでも良い。

    ちゃんと頑張っていると励まされた
    気がしました。

  • 西さんの作品は読んだことはなかったけど、西さん本人のことはテレビでよく拝見していた。美人でおもしろくて、何よりすごくいい人感が強かった。「圧倒的光」ってイメージがついてた。
    私はそういう「いい人」を見ると自分の汚ならしさと比較して落ち込むところがあるので、西さんのことはなんとなくずっと苦手だった。この人を見ると自分が惨めに思えるな、と感じていた。作品を読んだこともないのに勝手に「めちゃくちゃ爽やかな小説ばっかり書いてんだろうな」と決めつけ、勝手に距離を取っていた。
    クラスの陰キャが陽キャを見て「自分とは違う世界の住人ですわ、人生楽しそう~」と鼻で笑ってるクソだせぇ姿を想像してほしい。その陰キャが私で、陽キャが西さんだ。
    でも私はなんだかんだと西さんのことが気になっていた。いつも明るくて楽しそうで美しくて、私の憧れの又吉くんや文則くんとも仲が良い、羨ましいな、と思っていた。
    そんなときに私は見つけてしまった。暗そうな表紙の「おまじない」という小説を。
    よく知りもしないで勝手に「悩みとかなさそう~人からめちゃくちゃ愛されてそ~」と思っていた陽キャ西さんの意外な一面を見てしまった感覚に近い。
    そこに惹かれてこの本を読んだ。こういうのって陰キャにありがちな展開すぎて相変わらずクソだせぇ、が、結果的に。

    なぜ私は今まで西加奈子を読まないで生きてこれたのか?

    というくらい、めちゃくちゃ良かった。
    短編集だったのだけど、全部が全部めちゃくちゃ良かった。読みやすいし分かりやすいしめちゃくちゃおもしろい。
    「孫係」では「その人の望む自分でいる努力をする」ことを肯定してくれたことが嬉しかった。
    「あなたがいい子でいようとすることは、とてもえらいことなんです。それは涙ぐましい努力だし、いい子のふりではなく、本当にいい子だから出来ることなんです」という言葉に救われた。
    「あねご」と「ドブロブニク」では号泣してしまった。
    選ばれないとか、馬鹿にされるとか、気を遣われるとか。そういうことは日々たくさんあって、でも私は日々生きていかなくてはならなくて、誰かに優しくされると泣きたくなったりする。苦しい。

    めちゃくちゃ良かった。
    いやぁほんと、なんで出会わずに生きてこれたんだろうなぁ。本屋さんではあんなに西さんの作品が並んでたのにな。
    でも今がその時だったんだろうなぁ。本と出会うタイミングは全部運命だもんなたぶんな。

    これをキッカケに、西さんの他の作品にも触れてみたいと思う。読むのが楽しみ。

  • 短編集。表題になっている作品は収録されていない。強いていうなら最後に収録されている書き下ろしの「ドラゴン・スープレックス」には、はっきりと「おまじない」という言葉が使われ、おまじないの効果について言及されている。それ以外の作品にあるのは、おまじないとして作用する、誰かの「言葉」だ。

    最初の「燃やす」が一番わかりやすい。主人公はボーイッシュな女の子だったが、思春期になり可愛いと言われるようになった頃、変質者の被害に合う。彼女に母親は言う「ほらね」。

    おまじない、は漢字で書くと「お呪い(おまじない)」で、当たり前だが「呪い(のろい)」とほぼ同義だ。呪文は、使い方次第で、のろいにもおまじないにもなる。この母親の吐いた言葉は、おまじないではなく「のろい」だ。

    痴漢に合うのは短いスカートを履いていたから、夜道で襲われたのは、そんな時間に一人で歩いていたから、女の子たちはあらゆる場面で「ほらね」という呪いをかけられる。「ほらね、言わんこっちゃない」「ほらね、だから言ったじゃないの」母親は自分の正しき助言を娘が聞き入れなかったから、この災いは当然の罰であるかのように無意識に娘を否定してしまっていることに気づかない。

    この娘にかけられた「のろい」を解く「おまじない」の言葉を言ってくれるのは、学校の裏でいろんなものを「燃やす」仕事をしているおじさんだ。とてもシンプルなカタルシスなのだけどちょっと泣いてしまった。

    「あねご」の主人公にも、飲んだくれる父親に対して母親が言った「本当に、見てられない。」という言葉の呪いがかけられている。長じて同じようにお酒を飲んでは陽気にふるまい、自分がブスであることを自虐ギャグにして、笑わせるのではなく笑われていることに気づかないふりをして、あねごは生きてきた。いつしか彼女自身が陰で「本当に、見てられない。」と言われるような人生を送ってしまっている。そんな彼女にも、ある人物が、自己肯定するためのある言葉をかけてくれる。

    その他好きだったのは「孫係」のおじいちゃんの言葉の数々。本当に含蓄が深い。「根はいい子なんていうのも納得出来ない。みんな根はいい子なんだ。それをどれだけ態度に表せられるかですよ。」「正直なことと優しいことは別なんだ。」「素敵ではないです。素敵ではない。でも私は大好きでした。」などなど。現実的なアドバイスとしてとても役立ちそうなことが沢山あった。

    「ドブロブニク」も良かった。子供の頃、脳内フレンドたちにいつも「おめでとう」と祝福されていた主人公は、映画、演劇に夢中になり気づくと四十半ば。もはや誰からも心からの「おめでとう」を貰えなくなった彼女は、フィンランドで自分を見つめ直す。タイトルはアキ・カウリスマキの映画「浮き雲」の主人公が働いていたレストランの名前。

    けして押しつけがましくなく、人間の駄目なところも狡いところも全部いったん受け入れた後で、さりげなく肯定してくれる西加奈子の真骨頂が詰まった1冊でした。

    ※収録
    燃やす/いちご/孫係/あねご/オーロラ/マタニティ/ドブロブニク/ドラゴン・スープレックス

  • 今のお前を変えろ、と言われたら悲しくなるけど、西加奈子はたぶん、私が私のままでいることを肯定してくれる。変わらないまま、幸せになることを許してくれる。
    この本に関して言えば、全ての女がどこかで抱えているであろう傷に触れてくるのだろうし、それに気づかされもする。けれど、決してそれを責めたりしない。
    どうぞ安心して読んでください。

  • 楽しめて且つ面白い西加奈子ワールドな8編の短編集です♪ いずれも個性的な人物が活躍していますけど、なかでも気に入った話は「いちご」と「ドラゴン スープレックス」の章でした。おまけに筆者自筆の8ケのイラストが目次と表紙と裏表紙を成していて巻末には白紙ページが8頁あるというサービス付き。ご自由に読者あなたがお描きなさい!ということ?(笑)
    図書館借り出しの本でしたので描くことなく返却したのが残念だけど、読んで面白く見て楽しい一冊でした。

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著者プロフィール

1977年テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年『サラバ!』で直木賞を受賞。近著に『夜が明ける』など。

「2022年 『あなたのことが知りたくて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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