ベルリンは晴れているか (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
3.73
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本棚登録 : 1584
レビュー : 215
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804822

作品紹介・あらすじ

1945年7月、4カ国統治下のベルリン。恩人の不審死を知ったアウグステは彼の甥に訃報を届けるため陽気な泥棒と旅立つ。期待の新鋭、待望の書き下ろし長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 終戦直後のドイツ・ベルリンを舞台にしたミステリー。
    主人公は、両親を失い、ソビエト赤軍兵士から市街戦のさなかに陵辱を受け、その兵士のライフルを奪って殺した経験のある17歳のドイツ人少女・アウグステ。
    終戦後、英語ができたアウグステは占領軍である米軍の食堂施設でウエイトレスとして働いていたが、戦時中、自分を匿ってくれた恩人が殺されたことを知る。アウグステは、ひょんなことから知り合いとなった元俳優のカフカと共にその恩人の死の真相を追っていく。

    戦中と戦後の状況が交互に語られ、ヒトラーが台頭するドイツがいかにして戦争を繰り広げ、それが一国民の生活をどのように変えていったかも詳細に描かれる。
    まさに、ミステリーの真骨頂。
    特筆すべきは、日本人が書いたとは思えない筆者の圧倒的リアリティーのある戦時中、戦後のベルリンの描写。
    筆者の『戦場のコックたち』もそうだが、小説の主人公の目を通して、読者はその時代のその日、その日を追体験させられる。まさに映画を見ているかのように脳裏に鮮明にその光景が映し出される。
     
    終戦直後の東京ならば、空襲により焼け野原になった状況など、日本人ならいろいろなメディア(教科書や当時のニュースや今まで作成されたドラマや映画)によって知識を持っているが、同じような状況であったはずのドイツ・ベルリンのことはよく知らない。
    ベルリンはソビエト軍、アメリカ軍、イギリス軍等によりそれぞれ部分的に占領された。
    特に対ドイツ戦で最大の戦死者を出したソビエト軍人の「ドイツ人憎し」の感情は想像に余りある。

    ヒトラーが台頭し、今までの日常が日常では無くなっていく、そのような異常な状況のなか、ユダヤ人へ迫害や障害者やポーランド等の被占領外国人への差別など、戦中のさまざまな狂気が淡々と描き出され、そして壊滅的な終戦を迎える。

    娯楽エンターテイメント・歴史ミステリー!・・・としては読めないが、読者がこの小説を体験することは、いろいろな意味で価値あることだと思う。

  • 祖国が戦争に負けた。
    それにより人々の運命は180度変わってしまった。
    こんなにもあっさりと。
    戦争というものは、領土や権力を争うことは、こんなにも人々の生き方を変えるのものなのか。
    信じていた国や指導者に棄てられた上、他国に乗っ取られた人々の失望と怒り。
    降伏の証として白い布を体に巻きつけなければならない屈辱。
    それでも生きていく、底知れぬパワー。

    「確かに色々ありました。でも今は、灰色の曇天がやっと晴れた心地でいます」
    吹っ切れたように笑顔で語る主人公・アウグステ。
    彼女の目に映るベルリンの空は、その後も爽やかな青空であることを祈る。

    戦後を描いた『本編』と戦前戦中を描いた『幕間』のあまりの温度差に、遣りきれなくなる。
    そしてこれら二つの物語が重なった時、ミステリの真実が明らかになりとても読みやすかった。
    また、戦争に翻弄されるドイツについて具体的に知ることができた。
    この時代を経験したかのようなリアルな文章にすっかり夢中になる。
    直木賞候補作は3作品(本作と『熱帯』『宝島』)しか読んでいないけれど本作品が一番好き。

  • ドイツ人少女アウグステ。戦争中大変世話になった男性が歯磨き粉に含まれる毒で死んでしまう。そのことでアウグステは犯人と疑われる中、元俳優の男性とともに、死んでしまった男性の甥に死を知らせようと旅立つ。

    もうそこは戦後のベルリンでした。
    ページをめくるとベルリンの世界が広がって、その街を歩いているような感じになるくらい、しっかりとした空気で書かれていました。
    誰が死に至らしめたかのか、なぜかだけではなく、その時代、戦後の米ソ英仏の占領下に置かれているベルリンの様子、いや、その前のナチスが筆頭になるまでの様子も人々の心理も詳細に書き上げられ、圧巻です。読んでて悲しくなる部分はたくさんです。「”戦争だったから”と自分に言い聞かせてきた」とかユダヤ人や障碍者への行為。私たちは歴史を振り返らねばなりませんね。「自由だ。もうどこにでもいける。なんでも読める。どんな言語でも」その言葉がとても重いです。

    カフカが魅力的に書かれていました。手紙も良かったです。

  • 終戦直後、連合国4カ国の統治下にあったベルリンで、アメリカ軍の兵員食堂で働くドイツ人の娘アウグステ。
    彼女の元に、軍憲兵隊がソ連の警察へ連れていくと迎えに来た。

    メインの章で戦後を、幕間の章で戦中を語る構成。
    この時系列に悩まされ、始めは戸惑いましたが、最後まで読み終わり、最初に戻ると話がスムーズに入ってきたため、丁寧にもう一度読み返しました。

    戦後の謎解き部分はロードムービーのよう。
    巻頭に地図があったので、それを捲りながら読みましたが、苦戦。
    一方、幕間のアウグステの幼少期から戦中の様子は、教科書の歴史の範囲でしか知らなかったヨーロッパの戦争の事実を知る機会となり、興味深かったです。

    同じ敗戦国として、終戦間際と戦後のドイツは、日本と似ているようにも感じましたが、4カ国に統治されていたという状態は、島国と大陸の大きな違いなのかもしれません。

    同じ住宅に障害者がいて、親しくしていた隣人がユダヤ人で、それらの人々が迫害されるという事実ほは、アウグステの心に大きな傷として残ります。
    ドイツの独裁政治の悲劇は、悲しいことですが、とても興味のあるところではありました。

    ずっと昔に読んだアンネの日記を、また機会があったら手にしてみたいと思います。

  • 力作ですね、読み応えがありました。
    ミステリーは読まないようにしているのですが、友人達のサイトで多くの高評価を目にし、あらすじを読むとちょっとデイヴィッド・ベニオフの『卵をめぐる祖父の戦争』(名作です)を思わせるところがあったので手にしてみました。ちなみに深緑さん自身も『卵をめぐる祖父の戦争』は意識されてたみたいです。
    読了後の感想は、むしろ帚木蓬生さんの『三たびの海峡』(これも名作)に近い気がします。

    『卵をめぐる祖父の戦争』のように少しコミカルなコンビを組ませた主人公の少女を、ミステリー仕立てでベルリンの街を歩き回らせ、戦時下(少女の回想)~戦後(現在)のベルリンを描いて行きます。
    一言でいえば「戦争の狂気」です。政府によって、あるいは個人が自発的に統一思想に染まり、排他的になって行く怖さです。や沢山参考文献や後書きを見ても深緑さんが描きたかったのはそこなのだと思います。ナチスやアーリア人至上主義などのドイツ独自の要素もありますが、これまで読み、見聞きしてきた戦時下の日本の状況を思い起こさせるものが多々あります。圧倒はされるのですが、何故か余り目新たらしい視点は感じません。その分『三たびの海峡』ほど強い印象は残りませんでした。

    実は最初は苦戦しました。私にとって読みやすい文章ではない。引っかかり引っかかりしながら読んでいました。
    中盤以降、ちょっと些細な所は飛ばすような読み方に変えて、逆に上手く頭に入ってくるようになりました。
    ちなみにミステリーを主体で読むと破綻していると思います。あくまで主人公にベルリンの街を歩き回らせる手段として「ミステリ仕立て」にしたのだと思います。

  • コメントしにくい本であります。
    こういう社会的に意義のあるテーマで書かれている、一般的に評価されている本をうんぬんするのって結構勇気いるなあ・・・。
    率直に言うと個人的に全然物語に入って行けなくて、修行をしているような、漢方薬を飲んでいるような気持でした。ぶっちゃければ、ただただ詰まらなかったという感じです。
    当然個人個人の趣向が有るし、これは読んでいてもしっかり背骨の入った力作だという事はしっかり伝わってきました。
    果たしてミステリー要素を盛り込む必要が有ったのか・・・。主人公の心情に突飛な所が有って、結果的にそれはミステリーとしての面白さの為に書かずに隠していたと見えてしまった。リアルな情景描写よりもそちらを読みたかったという感じでしょうか。
    これは受け取り手の問題だと思います。作品としては沢山の人が絶賛しているので僕ぐらいがご意見しても揺るがぬ牙城であろうと思う次第であります。

  • 日本人作家が書いてるんだっけ!?
    と、思わず著者を見直してしまうほど綺麗に翻訳された外文の様な文章。
    第二次世界大戦のドイツに自分も今そこにいる様な生々しい雰囲気に飲まれ、本を閉じた後もしばらくその生々しさが抜けない濃密さ。
    恩人が毒殺された知らせを受け、敗戦者が課せられる軍隊からの理不尽な暴力と圧力の下、恩人の養子に訃報を知らせるために向かう。
    過去と現在が混ざり合い、最終的な真相が明かされた後胸に広がるなんとも言えない複雑な気持ち。
    戦争は何も生まない。
    ベルリンは晴れているか。
    今は曇っていてもらこれから胸に広がる黒雲も取っ払うほど晴れ渡ってほしい…そう願わずにはいられない。

  • 面白かった。決してスラスラ進む内容ではないが、飽きずにコツコツよめた

    終戦直後のドイツが舞台。
    混沌というより右も左も安全な場所なんてないという緊張感、埃っぽさ、ドライな感じが凄く伝わってきた。

    日本の戦争物って結構ウェットで読むのしんどいんだけど、ドライななかに人間ぽさが捨てきれずに残ってる感じがいい。

    書くの大変だっただろうなぁ、と思って作者調べてみたら同い年でびっくりした。

    2019.10.3
    145

  • ナチス・ドイツが戦争に敗れて米ソ英仏に統治されているベルリンが舞台。
    ドイツ人少女アウグステの恩人が不審な死を遂げ、関与を疑われた彼女はソ連NKVDの大尉に被害者の甥を探すよう命じられて、目的地の地理に詳しい泥棒とともに旅立つことになる…
    戦争は終わっても焦土となったベルリンはひどい有様で食べ物もなく、西側諸国とソ連の対立の狭間で一般人のドイツ国民は小さくなってなんとか生き延びるしかない。そんな戦争の悲惨がページから立ち上ってくるようである。ところどころに、アウグストが子供のころナチスが台頭してドイツを支配してゆく過去パートが挿入されていて、これがまた辛い。
    ミステリというよりは歴史小説として胸に重くのしかかる小説。

  • 戦後のベルリン。食堂で働く少女アウグスタは、青酸カリの入った歯磨き粉で死んだ事件の関与を疑われ、犯人を捜す旅に出る事となる。



    戦争のリアルは途轍もなく重くのしかかる。命は軽く扱われ、今日を生きる保証もない。

    胸が締め付けられるようなエピソードばかりで胸が締め付けられる。

    両親の愛。正義とは何か?狭間で揺れる父親。そんな父を支えつつ、アウグスタに生きる未来を託したと母親。目の見えない少女イーダ。彼女は何も悪いことをしていない。なぜこんな仕打ちを受けなければならないのか。戦争は国民のせいにされ迫害される。ユダヤ人、障碍者となるともっと残酷だ。



    アウグスタの悲惨な幼少のエピソードと共にロードノベルは進む。これは成長の物語の類ではない。目的を持って真実へ突き進んでいく。それぞれが信じた生き方を読者が知るに過ぎない。私は号泣してしまった。



    作者は相当な覚悟を持って書かれているのではないだろうか。目に浮かぶような情景描写に緻密な歴史的背景、読者は確実にこの時代のベルリンに降り立つことになる。



    作者が伝えたい言葉が随所に溢れている。読者は漏らさないよう拾い上げてほしい。

    心に響くポイントは人それぞれかもしれません。私は本に関するくだりで泣きまして…泣いてばかりですね。



    濃厚な歴史ミステリであるのにも関わらず、エンタメ性もあり、リーダビリティもあり、非のうちどころがない。ミステリファンだけでなく広く読まるべき作品である。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり のわき)
1983年、神奈川県生まれ。神奈川県立海老名高等学校卒業。パート書店員を経て、専業作家に。2010年、短編「オーブランの少女」で第7回ミステリーズ!新人賞の佳作に入選、作家デビュー。同作は2013年に単行本で刊行。2016年、『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、第18回大藪春彦賞候補、第13回本屋大賞候補に。2017年、第66回神奈川文化賞未来賞(奨励賞)を受賞した。2018年、『ベルリンは晴れているか』で第160回直木賞ノミネート。

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