ベルリンは晴れているか (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804822

感想・レビュー・書評

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  • 1945年戦後間もないベルリン、家族も頼れる者もいない17歳のアウグステがUS軍の兵員食堂が働く場面からはじまる。戦中に家族を失い、潜伏中のアウグステを世話した恩人フレデリカの亭主クリストフが殺されたことを知らされ、その訃報を伝えるため行方不明中のフレデリカの甥を探しに戦後のベルリンを歩く。ロードムービーのような赴きのある作品だが、戦中時代のアウグステと家族の挿話の幕間もあり、内容は重く暗くつらい。

    アウグステの語りには風景描写が多い。7月の暑いベルリン、廃墟のベルリンを這い回る人間の影を際立たせる日差しを思わせる。何故こんなに目に映る風景を滔々と語るのか、と不思議に思っていたが、幕間Ⅳで合点した。おそらくアウグステの心はこの時点で死んでいる。カフカを不信の目で見ていたかと思えば窃盗団の少年に無頓着に頼り、考えも無しにDPキャンプに侵入する。アウグステはもう思考することも人間らしい感情で反応することもほとんどできない。USの軍人に罵倒されても怒る様子がない。幕間でブリギッテに飛びかかった少女はいない。

    アウグステを動かしていたのは人間性ではないだろうか。若く痛ましい、瀕死の人間性が私もあなたも人間なのだと叫んでいるようだ。過酷な現実を目の当たりにして大概の人間は仕方がないと折り合いをつける。そうしないと痛みで心が死ぬからだ。アウグステのお下げは若さと人間であることの象徴ではなかろうか。最後の最後まで人間であることを切り捨てなかった彼女は壊れる。彼女に届いた手紙の文字は風景と変わらなくなる。ラストの幕間はあまりに悲惨だ。彼女は自由に本が読めたはずなのに。

    面白かった。舞台と題材が題材だけにつらい話だったけど、堪能した。よかった。

  • 戦前〜戦中〜戦後のドイツが舞台で、途中読むのが辛くなるシーンも多々あった。
    ミステリー?らしいけどどちらかというと、ノンフィクション的な当時の情景の方が強かった。
    ラストがちょっとイマイチ。

  • まず本を開いて目に入った登場人物一覧に一瞬怯んだが、そんな心配は無用だった。圧倒的で一気に引き込まれた。
    これもほとんどの人と同じ意見だろうけど、現代の日本の作家が書いているとは到底思えないほどの臨場感や描写の細やかさが凄かった。それは巻末の膨大な参考資料が物語っている。
    私はどちらかというとミステリーというよりは、ホロコーストに関する歴史において、これまで知らなかった知識を埋めていくように読んだ。

    作者はもともと幼い頃からホロコーストへの強い関心というよりは執着のようなものがあったそう。やはりいきなり書こうと思い立って書けるテーマではないのだろうと感じた。これまでの個人的関心が蓄積されてそれがこの物語のもつリアリティに裏打ちされている気がした。



    アウグステが母親から渡された青酸カリのアンプルが私には希望に思えて、自分だったらすぐにでも飲んだかもしれない。でも彼女はそうしようとはしなかった。なんて強いんだろうと思った。

  • 読後、僕は、本当の歴史を知る心の準備が出来ていなかった事を知らされました。


    ヒトラー自殺後の、連合国に統治されたドイツ…戦後の日本にもよく似た舞台を背景に織りなすミステリーという筋書きに、どうしようもなく惹かれて手にしました。最も僕をこの物語に引き込んだものは、当時の様子がとてつもなく細かく描写されたライブ感。著者の深緑野分さんが実際にタイムスリップしてきたかのような臨場感でした。ユダヤ人の境遇、戦時中の空襲、瓦礫の山、配給、などなど…登場人物の食べているもの、感情、服に至るまで、教科書には載らない当時の政治的動乱の背景に生きた人々の苦しさが滲み出ています。

    この物語はミステリーですが、あまりに当時の事情がショッキングすぎて(無知なあまり)、歴史物としての色をより深く重く受けました。事実それだけでも大いに楽しめる一作だと思います!
    しかし、本編のミステリーの背景には、主人公の少女の、一人のドイツ人少女としての戦争が描かれており、ここもまた吟味すべきパートです。

  • 日本の戦争の話は学校でも習うし毎年8月になると各種メディアでさまざまな角度から特集が組まれることで多面的に知識を得ることができるが、同じく敗戦国であるドイツについてはナチス、ポーランド侵攻、ユダヤ人の迫害、ベルリンの壁、と言ったステレオタイプで表面的な知識しかなかったので、敗戦直後のドイツを舞台にした本書は大変新鮮だった。
    ユダヤ人や子供の虐殺、赤軍の非人間的な振る舞いなど生々しい描写に当てられながらも、生き生きと動く登場人物や先が気になる伏線でミステリーとして楽しめた。
    戦争はなんの罪もない市井の人々に地獄の苦しみを与えるというのは万国共通で、なんでもない日々の尊さを思う。

  • 荒れ狂うドイツを生き抜いた少女の物語。絶望の中、アウグステを突き動かしたのは家族を失う元凶となった復讐で、『 エーミールと探偵たち』が手元に届いたときにはもう手遅れだったということか。ヒトラー台頭のときのドイツ人視点の話ははじめて読みましたが、被害はユダヤ人だけではなかったのだと改めて思いました。もう狂気しかないです。怖かった。

  • 登場人物の過去が語られる度に人間の弱さ、醜さ、愚かさが淡々と描かれる。感情を揺さぶる筆致ではなく、淡々とした語り口は、夢の中で古い記憶を追体験するような重く哀しい心象風景を突きつけてくる。

    父親デートレフが娘アウグステに語る「立て札」の例え話は人としての道をこれ以上なく指し示す。しかし、本当に「立て札」を引き抜く勇気を持てる人間は少ない。カフカの告白は臆病で打算的で厚顔な「ごく普通の」人間らしさを余すところなく語っている。

    正義のように見えたものの正体は報復であり、被害者のはずのユダヤ人もまたパレスチナ人に対する加害者になる。ハンスの「だからあの人たちが、もうとっくに死んでて、復讐しなくて済めばいいなって思うよ。」という言葉が、もっとも優しい答えなのかもしれない。

  •  第二次大戦前後のドイツを舞台にしていて、さぞかし暗い物語かと思いきや、登場人物たちは非常に生き生きと描かれており、宮崎アニメを見ているような気持ちになった。

     深緑野分という名前は男性とも女性ともとれるが、読み始めてすぐに女性だとわかる。優しく、鋭い。巻末の参考文献の多さからこの一冊を仕上げるまでの忍耐強さにも感銘を受ける。

     ストーリーの展開も面白く、作風からうかがえる作者のお人柄にも好感を抱いた作品でした。

  • 第二次世界大戦のドイツが舞台。主人公は、17歳のドイツ人少女。17歳に見えないと言われている場面があるが、こんな複雑な経験をすれば、そう見えても仕方がない。
    ユダヤ人アメリカ人ロシア人と、多種民族が登場してくる。戦争のため、人種によって配給される食べ物さえ差別されている世界。みんなが、どうすれば生き残れるのか考えながら生きている。こんな中で、主人公の少女が自分の意志を貫いているところが、すごいと思った。

  • 光が白く何も見えないのは、
    自由が眩しく、時に進むべき道がわからないことと同義だと思った

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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