水辺にて

著者 :
  • 筑摩書房
3.63
  • (50)
  • (55)
  • (100)
  • (12)
  • (2)
本棚登録 : 472
感想 : 68
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480814821

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 著者の水辺に寄り添う時間を綴ったエッセイです。
    本書の中に描かれた水辺の風景は、美しいもの、切なさを喚起させるものなど、いろいろですが、どの風景にも少しのほの暗さと少しの緊張感が感じられました。

    水辺は境界の1つである、ということに、本書を読んで気付かされました。
    水面を隔てて広がる、水底の世界。
    そこでは生命が息づき、同時に死も隣にある。
    "境界"や"越境するもの"に惹かれるという著者だからこそ、水辺にも心惹かれているのでしょう。

    ダム湖の底に沈んだ村に思いを馳せる「常若の国」と、スコットランド民話に触れつつ綴られた「アザラシの娘」が、特に印象に残っています。

  •  煌めいているのは、いのち。人も魚も鳥も木々も、川も。1959年生まれ、梨木香歩さんはカヤックで海に、川に、湖に、ダムに・・・。「水辺にて」、2006.11発行。次の話は心が痛みました。Y村は、Y湖で1年中白鳥を見ることができるように(観光地化)、白鳥の風切羽を切って渡りができないように。雛が生まれ、次の春、北から来た白鳥と一緒に、親をおいて北へ。人間の暴挙ではないかと・・・。

  • 著者のカヌー体験を端緒に、日本のダム湖、旅先のアイルランドやスコットランドの水辺に寄せて、自然や生命の営みについての所感を綴ったエッセイ。『家守綺譚』や『沼地のある森を抜けて』と近い時期に書かれているので、創作の裏側を垣間見ることができる(著者のエッセイはいつもそうだけれど)。
    出版時に読んで以来、10数年ぶりに再読。大人になって読むと、あらためて、知識の幅広さ(文学だけでなく自然科学にも詳しい)、感受性の豊かさに圧倒される。子どもの頃には、ただ憧れていたけれど、今はとてもそんな大人になれなかったことが悲しい。梨木香歩の世界が、彼女の本の中にしかないことを残念に思うと同時に、せめて本という形で世に残してくれていることに感謝したい。

  • 【内容】
    趣味のカヤックを中心に,英国や日本の川,湖で感じたことなどが書かれています.

    【感想】
    臨場感あふれる描写があり,まるで,自分も一緒に旅をしてきたかのように,感じました.話が逸れますが,旅本ってジャンルも面白そうだなと思いました.
    また,「春になったら莓を摘みに」や「ぐるりのこと」と同じく,随所に出てくる梨木香歩さんの思想が面白かったです.

    お気に入りは,「殺気」について です.

    殺気:動の禅.猛々しさがない,諦観を含む.挑発された瞬間,怒ろうかどうしようか迷うようではダメ.その一瞬のゆとりがあなたを殺す.静かな迫力.

    書かれていたことを箇条書きにしてみると,何か,プロフェッショナルの共通点のように見えました.
    「この話は次の機会に…」とありましたが,ぜひ,この続きを展開してほしいです.

  • たゆたう。エッセイなんだけど現実なのか幻なのか境目がわからなくなってくる。今の私には消化しきれなかった…。梨木さんの文章に船酔いしてしまったようだ。

    「殺気について」の章が良かった。女性空手家の静かに研ぎ澄まされた殺気、無駄のない動きは能の舞のようだとか…そんな強さはいいな。
    「アザラシの娘」の章は小さい頃に読んだ民話をベースにしていて、違う世界のものと繋がりたいと願ってきた人間の切なさを感じた。

  • 主に、カヤックを通して巡りあった自然や、水辺にて体験、感じたことを梨木香歩独特のフィルターを通して、文学と絡めたり、時事ニュースと絡めたり、そうして最初に描かれた何でもない直感のようなものが話の最後にぴたりと収まったりする、その思考体系にただただ舌を巻く。
    彼女のようにつぶさに、繊細に、自分なりに、対象を捉える力というのは本当に憧れる。尊敬する。ものすごい洞察力。
    彼女のような表現力を持って発信は望まなくとも、もっと、外に興味を持って、敏感に受信だけでもできるようになりたいと切に思う。こんなふうに周りの身近の世界を見てみたい。景色変わるだろうなあ‥‥

    梨木香歩を読むと思考がすごく深くなる。どっぷり浸れる。大好きだ。

  • この人の作品はどれも静かで大きい事件は起きなくて、あっても変わらず淡々としていて、それでも背筋をすっと伸ばさなきゃいけないと気付く。
    人間とか自然とか好奇心とか冒険心とか。
    自分と違うものがあることをもっと知らなきゃならない。

  • カヌーだったり海外の水辺だったり、そこから思うこと、見える世界を綴る梨木さんのエッセイ。

    心に響く梨木さんのエッセイ、4冊め。
    今回は主にカヤックをこぎながら、見える世界のこと、そこから思いを馳せる世界のこと、について語ります。水面の上から見える自然の風景、生き物たち、そこに息づいていた歴史、そういったものが梨木さんの目を通して見えるようなエッセイでした。ところどころ、いつものように核心を突くような言葉がふわりふわりと浮いているのもいい。僕はできるだけ少ない装備で野外に居たい派なので、水辺でも身一つの方が好みではあるけど、この本を読んだらカヌーが欲しくなります。
    ところで北海道で余市川や空知川を案内していたMさんが出てきてしまって「うはー」と思ってしまった。Mさんは僕の心の師匠でもある。もちろん「Rise」は愛読書だったし、その後に今の仕事の最初の一歩の心構えを教えてくれたり、こっそり仕事の立ち上げのための支援をしてくれたりした恩人だけど、本に出てくるMさんはそのまんまMさんだったので梨木さんの筆の力は確かなのだなあ、と感心しました。知っている人といえば知床のFさんも別のエッセイに登場していたなあ。
    この本で印象的だったエピソードはダムに沈んだ在りし日の風景のこと。そんな跡形をたどる梨木さんの「冬虫夏草」と一緒にどうぞ。地図見ながら読むと面白いのです。

  • 初めて読んだエッセイ。梨木さんの小説はいくつか読んだことがありますが、ここまで個人の感想、心情を思いのまま書かれているのは新鮮でした。「エッセイとは」で調べてみると、相手に読ませる日記と書かれていてなるほどなと思いました。

  • やはりこの人の文章は好きだ。

全68件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

梨木香歩の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×