ねにもつタイプ

著者 :
  • 筑摩書房
3.85
  • (129)
  • (164)
  • (138)
  • (13)
  • (11)
本棚登録 : 903
感想 : 180
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480814845

作品紹介・あらすじ

観察と妄想と思索が渾然一体となったエッセイ・ワールド。ショートショートのような、とびっきり不思議な文章を読み進むうちに、ふつふつと笑いがこみあげてくる。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  そうだ、翻訳家なのにと考えるからいけないんだな。本書は岸本佐知子という、たった一つの個性のあり方を実感させられることによって、世の中にはいろんな人がいるね~と見なかった振りをするのではなく、このような人でも逞しく生きているのだなと感じられた点に、大きな希望と少しの共感を得た気持ちとなり、ある意味人間って深いなと、そういうことなんじゃないのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?


     雑誌「ちくま」に連載されていたものを一つにまとめた本書では、とにかく暇さえあれば、というか、仕事が差し迫っていようが、何かを考えずにはいられない性分の方で、しかもその内容は、コアラの鼻であったり、ちょんまげであったりと、他の人から見たら、どうでもいいように思えそうな事でも、彼女は真剣に考え続ける、その根拠は、世界には実にたくさんのワンダーランドが眠っているのだというよりは、おそらく彼女の過去から窺えた、真に受けやすい性質も、もしかしたらあるのかもしれない。

     それは少女時代に、童謡「さっちゃん」を自分の歌だと冗談で言われたことや、遠くから見ると白と青とで分かれて見える、富士山に行ける事に眠れないくらいワクワクし過ぎて(その青い土をたくさん持って帰ろうとか)、実際に行ってみたら、茶色と灰色ばかりで裏切られた気分になったとか、今となれば知識として知らなかった部分もあるから仕方のないことだと思いつつも、岸本さんの中では、こうした経験を経ては負けん気魂に火が付いて、もう自分が納得するまでは徹底的に追求するぞと決意を新たにした、その成果が、『小さい小さい富士』という素敵な妄想に繋がったのかもしれない。

     それから、幼い頃から溢れんばかりに持っていた好奇心旺盛な点も、彼女を成り立たせる一つの要因だと感じられながら、そこは『考え方も生き方もどこかうつむき加減』の彼女ならではの視点だからこそ、却って、心惹かれるものもあり、例えば、ニュース等で事件を起こして捕まった犯人の供述の中に、たまにあるものとして、「犯人は訳のわからないことを話しており」の『訳のわからないこと』が無性に知りたくなる、そんな彼女の思いは、実はそうした点にこそ自分だけは理解しているつもりなのに他人には分かってもらえない、そんな切実としたものが実は詰まっている、人間の奥深さを垣間見る瞬間、あるいは、その結晶なのかもしれない。

     そんな『気がつかない星人』であると共に、『気がきかない星人』でもある彼女は、頭の中の妄想で嫌な奴への復讐を平和的に果たし、蚊に刺された時の応急処置として爪で十字の印をつけて(私もよくやる)、翻訳家になる前に働いていた普通の会社で起こった、普通で無いことを体験してきた、それらには、彼女がそうした面白さと出会う、何かを持っているといった捉え方もできそうだけれど、彼女自身の頭の中に無限に広がる、想像力や妄想力、そして知識に裏打ちされた、ものへの多様な見方から感じられた、世界はこんな姿にもなる可能性だってあるのかもしれない、という面白さを自分自身の頭の中で作ることができる、そんな生きていく上での、ちょっとした楽しさを教えてくれたのかもしれない。


     ちなみに、穂村弘さんの第一歌集「シンジケート」の中の「ごーふる」にあった、カルピス(原液に水を足して作るタイプ)を飲むと、『おろおろした変なもの』が出てくる記載が、本書の岸本さんの場合『変なモロモロ』であることを知った時、やっぱり皆、そこは気になったよねと共感し、少し得した気分になりました。

  • 岸本さんのエッセイ最新作の『ひみつのしつもん』(筑摩書房)を読むのがとても楽しみで、そのわくわく感を高めるために前2作のエッセイ集を再読することに。
    以前は文庫で読みましたが、今回はハードカバー。

    幼少期の思い出を綴ったエッセイは、子供ならではの感覚と岸本さんならではの妄想力ににやり。
    ときどき、心のノスタルジックな部分をくすぐられて、ちょっとだけ切なくなったりもするのです。
    大人になってからの出来事を綴ったエッセイも、頭の中で繰り広げられるシュールな展開に笑わされます。
    トイレットペーパーを補充するときに、戸棚に残った最後の1つを奥に置いたままにするか、手前に出して新しいものを奥からつめるか…という日常の一コマがなんでこんなにおもしろくなっちゃうのか!
    しかもそのエッセイに「生きる」というタイトルをつけるセンスに、またまたにやり。

    1つ1つのエッセイに添えられた、美麗かつシュールなクラフト・エヴィング商會の挿画もすばらしいです。
    余白までも魅せる感じがたまりません。

  • またしてもくせになりそうな作家さんに出会えました。
    最初の数節は、なんてことのない日常をおもしろく切り取るエッセイストってやっぱりすごいな、程度のありきたりな感想だった。
    次第にそのひねくれた発想、とめどない妄想、良い意味でくだらないことば遊びの虜に。
    また、奇遇なことに挿絵がクラフトエヴィング商會さん。

    読み終わって思い返すとほとんど何も思い出せない(それぐらいどうでもよくて中身のない話)のだが、読んでいるその一時は含み笑いを堪えられないくらいの心の潤いを与えてくれる。
    まるで一人漫才。

    こういう誰も傷つけない(けど自虐で自分は傷ついているのかな?だとしたらごめんなさい)笑いのテイストはものすごく好き。

  • ショート・ショートと呼べるくらいの3ページの短いエッセイが約50編。クラフト・エヴィング商會が挿絵を書いている。エッセイの内容は、妄想である。他の人にとってはどうでも良い、時に意味不明の内容。しかし、なぜか、後をひくような面白さで、つい読み進めてしまう。感想はほとんど書きようがない。

    「かげもかたちも」という題のエッセイに出てくる、Oという私鉄は小田急のことだ。小田急とはどこにも書いていないけれども、新宿から遠く箱根の方まで延びているO線、という表現がある。筆者は幼稚園に上がった年からこのエッセイを書いた時まで、数年間を除いて、ずっと小田急沿線に住んでいたと、このエッセイに書いている。このこと自体が妄想という可能性はあるが、Wikiによれば、岸本佐知子さんは、世田谷区の社宅で育ったと書いたあったので、この部分は事実なのだろう(もちろん、京王線や田園都市線や、あるいは、私鉄沿線に住んでいたこと自体が妄想という可能性は残るが)。
    S駅近くの線路際にボクシング・ジムがあり、電車に乗るたびに、それがとても気になったと書かれている。
    私も通勤に小田急線を利用している。今はコロナ禍で在宅勤務も多くなったが、その前は基本的に毎日小田急線を利用しており、都合15年くらいは使っていたはずである。しかし、そのボクシング・ジムがどこか思い浮かばない。あったような気もする。「S駅」の近くであると書いている。新宿から言えば、参宮橋・下北沢・祖師ヶ谷大蔵がS駅、それを過ぎたS駅(例えば相模大野駅)は既に世田谷区ではない。とても気になる。何だか、次に通勤で小田急線に乗った際には、3つの駅それぞれでボクシング・ジムを認める、という妄想を見る気がする。

  • 『ねにもつタイプ』読了。
    翻訳家、岸本佐知子氏の初のエッセイ集。やっと1巻目に辿り着いた(誤って3巻目から読んでしまったので過去に戻る形で読み続けていた)面白かった。あらゆるものを擬人化し綴られる妄想のようなエッセイ。そして1巻目からオリンピック嫌いが綴られていてめちゃくちゃ笑った。

    2022.9.10(1回目)

  • 以前から気になっていた岸本佐知子さん。
    やっと手にとりました。いやぁこの感性!たまりませんね。

    何か目の前にやらなければならないことがある時、我知らずして勝手にアタマが何度も何度も逃避してしまうことはみんな多々ありますでしょうが、その現象をこんなにもいっぺんのドラマのようにこと細かく記述し広がりを見せてくれる人はそういないでしょうね。他のエッセイも読んでみたくなりました。

    文章の味わいがちょっと北大路公子さんを彷彿とさせます。
    こちらは酔いどれていらっしゃいませんが、変人振りでは相当いい勝負になると思います。

    挿絵も装丁もとっても素敵。文章の雰囲気にとても合っていて内容を盛り上げてくれます。

    • 九月猫さん
      ruko-uさん、こんばんは♪

      私も気になっているんです、岸本佐知子さんのエッセイ。
      読みたいと思いながら、なかなか(^^;)
      ア...
      ruko-uさん、こんばんは♪

      私も気になっているんです、岸本佐知子さんのエッセイ。
      読みたいと思いながら、なかなか(^^;)
      アンソロジーで読んだときに北大路公子さんみたい?と思ったのですが、
      ruko-uさんのレビューで、印象に間違いなしと安心しました(笑)
      ありがとうございます♪
      あっ、でも酔いどれてはいらっしゃらないのですね(≧▽≦)
      2014/03/27
    • ruko-uさん
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。

      nyancomaruさんはきっと岸本さんの訳書や他のエッセイも読まれたことが...
      nyancomaruさん、コメントありがとうございます。

      nyancomaruさんはきっと岸本さんの訳書や他のエッセイも読まれたことがあるのですね。
      機会があったら他のエッセイも読んでみたいと思う楽しみな作家さんを見つけられて嬉しいです。
      2014/03/27
    • ruko-uさん
      九月猫さん、コメントありがとうございます。

      九月猫さんも北大路公子さんみたい、と思いましたか!仲間がいて嬉しいです♪
      ちょっともしか...
      九月猫さん、コメントありがとうございます。

      九月猫さんも北大路公子さんみたい、と思いましたか!仲間がいて嬉しいです♪
      ちょっともしかすると私と九月猫さんは感じ方も似ているのでしょうか?

      こうなったら酔いどれた?岸本さんの文章も読んでみたいものですね(笑)
      2014/03/27
  • んもー、すっごくよかった。これがエッセイなら、今まで読んだ「エッセイ」の中でベストかもしらん。
    日常を描いている普通のエッセイではなく、ほぼ妄想。
    第一話(ってあえていいたい)は、幼いころ手放せなかった毛布のことを書いた「ニグのこと」。
    これでもういきなりやられました。
    ライナスの毛布的な話ってよく見かけるけど、「ニグ」との交流のなまなましさは、もう読んでて自分が子どもの頃に戻ってしまったような気になる。
    ほかも、ほとんどが子どものまんまのような、鋭くて些末でバカバカしくて美しい感性全開。
    しかもどこかドライでユーモアがあって。
    クラフト・エヴィング商會の挿絵もとてもぴったり。
    読んでるとなんだか知らないけど妙に落ち着いて、ちょっとだけ楽しい気持ちになる。
    手元に置いておいて、時々ぱらぱらめくりたい、と思うふしぎな本でした。

    不勉強なもんで、なんとなく名前に見覚えがある、というくらいの認識でしたが、ショーン・タンとかの翻訳家の方なんですね。
    エッセイの棚にあると岸本葉子さんとうっすら混同してたりしてオレのバカ。
    いやー、久々にすっごい好きな感性の人を見つけてしまいました。うれしい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ほぼ妄想。」
      人って多かれ少なかれ、何かチョッと外れてしまってる部分が有るとは思うけど、、、この方は←これに続けく褒め言葉が思いつかない、...
      「ほぼ妄想。」
      人って多かれ少なかれ、何かチョッと外れてしまってる部分が有るとは思うけど、、、この方は←これに続けく褒め言葉が思いつかない、、、サイコーです。そんな訳で岸本佐知子が訳す本にも目がありません。。。
      2013/08/17
  • 翻訳家の岸本佐知子さんのエッセイ。

    岸本さんの訳す海外小説が風変わりで面白いものばかりなので、そんな彼女の書くエッセイは面白いに違いないと、読んでみました。

    予想どおり、抱腹絶倒の面白さ。
    創作小説のような脳内妄想に爆笑し、鋭い洞察力に脱帽する。
    さすが翻訳家だけあって言葉の扱いが巧みで、するするとあっという間に読了。

    読後感は、夢の残滓が脳みそにまとわりつく感じ。
    今見たばかりなのに内容を忘れてしまった夢に似て、もやもや感が残るような心地がたまりません。

    脱力系のへんてこな味わいがお好きな方に、お薦めです。

  • 岸本さん二冊目。気になる部分を読んだときも衝撃を受けたけど、相変わらず面白い。しかし彼女のエッセイを読んでいると、まともな社会生活が送れているのかしらとはらはらする。あまりにもシュールなので(彼女ほど「シュール」の言葉が正しく当てはまる話は書けまい。ノンフィクションなのに)後にひかず、漠然と面白かった、の印象しか残らないのもすごい。というか怖い。本当に別世界で生きているのかもしれないね。そこにないものについて語りまくり、何のフォローもなく話が終わるのでぞっとする。といいつつもはや怖いもの見たさで読んでしまう魅力(?)が。某月某日で始まる日記のエピソードでなにかじわじわくるものがあったんだけどなんだったかなあ……

  • 最高。最高のエッセイ。笑えてちょっと不気味。たまらん。買います。
    「ゴンズイ玉」「夏の逆襲」「フェアリーランドの陰謀」「毎日がエブリデイ」あたり、たまらんです。
    「夏の逆襲」冒頭、「夏が好きだ。夏でなければ嫌だ。」でノックアウトされました。最高。

全180件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

岸本 佐知子(きしもと・さちこ):上智大学文学部英文学科卒業。翻訳家。主な訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ショーン・タン『セミ』、アリ・スミス『五月 その他の短篇』。編訳書に『変愛小説集』、『楽しい夜』、『コドモノセカイ』など。著書に『気になる部分』、『ねにもつタイプ』(講談社エッセイ賞)、『なんらかの事情』、『死ぬまでに行きたい海』など。

「2023年 『ひみつのしつもん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岸本佐知子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×