千駄木の漱石

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480815149

作品紹介・あらすじ

いたちが跋扈し、木々の葉がそよぎ、泥棒が忍び足で入り、先生は石油ランプの下で執筆した。-イギリス留学より帰国後、一高・帝大への徒歩通勤、『吾輩は猫である』の予想外の反響、次々に押し寄せる災難など、明治の千駄木と漱石の暮らしを描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 漱石の欠点もふくめ、その人間臭さがたまらない。子規が漱石にだした最後の手紙、どうしても涙がこぼれる。

  • さすが、森まゆみ。やっぱり、この人ならでは、この人でなくてはね。読みながら、感激の連続。千駄木の牧場、千駄木の豚…で、日本の「運動会」の起源の話を思い出した。お雇い外国人発案の豚追い競走の話。あ、でも、一高や東大じゃなくて海軍だったかな。それにしても…一葉、鴎外…坂…崖の下と高台の差。自転車で走ると実感する文京区の起伏の大きさ。立身出世の世間。家族と弟子との対応の温度差。かんしゃくもち(笑)。いやぁ、漱石読みなおさなくちゃ。

  • なかなか読みすすまず

  • 明治の文人夏目金之助のとびっきり魅力的な人柄

    漱石が49歳の若さで亡くなって1世紀近くの歳月が流れたが、しかし今でも嘗て彼が住んでいた千駄ヶ谷や早稲田の旧居跡を訪ねると、なにがなしに文豪在りし日の面影の断片がどこかに漂っているように感じられるのは奇特(どく)というか不思議なことだ。

     本書は「明治36年3月3日の雛の日から日露戦争を挟んで、明治39年暮れの12月27日まで千駄木に暮らした知識人」夏目漱石の日々を辿った回想録で、現場の近くで生まれ育った著者ならではの土地勘と地元密着情報と鋭い洞察を交えた20年がかりのエッセイで、漱石と明治の文芸と「谷根千」近辺の風土と文化に関心を懐く人にとって出色の読み物となっている。

    些事ながら私は漱石の文業で一番好きなのはまずは膨大な書簡、次いで彼の絵画、詩歌、随筆、講演集(文学関係では名著「文学論」と「文藝評論」で読んで胃が痛むような重苦しい小説なぞなくても一向に構わない。強いて挙げると「猫」「坊ちゃん」「三四郎」「彼岸過迄」といった軽めのもの)だが、珍しく著者も彼の書簡を高く評価していたのは我が意を得たりの思いであった。

    実際文豪漱石ではなく明治の文人夏目金之助のとびっきり魅力的な人となりに接するためには彼が日夜書きまくった書簡に接するに如くはないのである。

    わたくしは、明治39年1月に亡くなった成り上がりの元幕臣の福地源一郎に対して「死んでも惜しくない人ですね」と弟子加計正文にさらりと書く漱石。その翌月問題児のアホ馬鹿弟子森田草平(彼は当時故樋口一葉の最後の下宿に住んでいた)に「天下に己以外のものを信頼するより果敢なきはあらず。しかも己ほど頼みにならぬものはない。どうするのがよいか。森田君、君この問題を考えたことがありますか」と迫る漱石。さうして漱石の親友正岡子規が在ロンドンの漱石に出した有名な最後の手紙「僕ハモーダメニナッテシマッタ、毎日訳モナク号泣シテ居ルヨウナ次第ダ。(中略)倫敦ノ焼芋ノ味ハドンナカ聞キタイ」を読むたびに「胸の奥底から涙が湧き上がってくる」と記す著者が好きなのである。

  • 周期的に漱石に関するものが読みたくなるのです。作者が幼い頃に育った地である千駄木での漱石にまつわるエピソードが語られています。内容的には目新しいことはさほど無かったのですが、作者の漱石への想いがふんわりと伝わってきました。

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著者プロフィール

1954年生まれ。中学生の時に大杉栄や伊藤野枝、林芙美子を知り、アナキズムに関心を持つ。大学卒業後、PR会社、出版社を経て、84年、地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。聞き書きから、記憶を記録に替えてきた。
その中から『谷中スケッチブック』『不思議の町 根津』(ちくま文庫)が生まれ、その後『鷗外の坂』(芸術選奨文部大臣新人賞)、『彰義隊遺聞』(集英社文庫)、『「青鞜」の冒険』(集英社文庫、紫式部文学賞受賞)、『暗い時代の人々』『谷根千のイロハ』『聖子』(亜紀書房)、『子規の音』(新潮文庫)などを送り出している。
近著に『路上のポルトレ』(羽鳥書店)、『しごと放浪記』(集英社インターナショナル)、『京都府案内』(世界思想社)がある。数々の震災復興建築の保存にもかかわってきた。

「2023年 『聞き書き・関東大震災』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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