さいごの色街 飛田

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480818317

感想・レビュー・書評

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  • 正直、著者の生の感情は鼻につく。
    けれど、調べられた歴史や語られる取材内容の面白さに、ぐいぐいと読み進めることになった。

  • あとがきに思っていたことがほぼ全て書かれていた。

    純粋な疑問として、なぜ消費センターや警察に相談しないのかと思うことがあったが、私の無知が原因だった。

    この世の仕組みから零れ落ちてしまう人たちがいる。
    零れ落ちるという言葉が適正ではないかもしれないが。
    飛田が舞台なので女性がメインだが、男女問わず両親などの幼い頃から青年期まで社会とはどんなところかを教えてくれる存在の不足がずっと続いてしまう。
    連鎖は一度走り出したら止まらないのかもしれない。

    遊郭の成り立ちを知りたいと思い関連する本を読んでいるが、そういう意味では遊郭そのものの成り立ちとは違うが飛田遊郭の成り立ちが参考資料を元にとても丁寧に記されていた。

    女性の権利のために戦ってくれた人たちがいる。
    その人たちがいてくれたおかげで今日の女性の権利が向上したのも事実。
    だが、遊郭でしか働けない、働いたことがない人たちにいきなり「売春をするのは悪いことです、これから遊郭は閉じます」と宣言しても行き場がないのではないかと思っていたので、ページは忘れたが保護施設で娼妓の方がこれからどうするんだと怒鳴り込んだという記述は腑に落ちた。
    やはり、行き場のない人たちがおり保護しますと言われても短時間では言い方が悪いが教養は身につかず、結局今まで就ていた仕事に戻ってしまう。
    それは仕方のないことだと思う。きっと世間の目も厳しく働き続けるには難しかったのではないかと思った。

    売買春が悪、根絶したいとするならばその後の行き場を作ってから取り締まらないといつまで経っても同じことの繰り返しだろうなと。

    篠原無然さんのことを知ることができ、いつか記念館を訪れたいと思う。

    本当のところはその時代を生きたものですらよくわかっていないのかもしれないなと思った。
    結局人が人に話すことには色々なフィルターを通す。
    都合の悪いことは記憶の中で薄れていくだろうし、そうでないときっと苦しんでしまう。
    歴史は今この瞬間だけが真実で時が経ったものに関しては真実だろうけど、全くの真実とは少し異なるのかもしれない。

    p166の喫茶店の方の言葉に不覚ながら涙が溢れた。
    「ダメ。もうこんなところへ来たら絶対にダメよ。こんなとこを知ってると言うてもダメ。どこから知られるかわからへんから、もし今後どこかで飛田の話がでたら、『知りませんっていわなダメ。』言うて送り出したげた…」
    その地で働いている人がそう言わねばならない世間の目、その目の中に私も含まれている。

    お好み焼きのおばちゃんの話で、私自身曳き子のおばちゃんのことを十把一絡げで見ているなと実感してしまった。
    おばちゃんもそれぞれ違うのに…

    少し下に見てしまう根本的な原因はなんなのか新しく疑問に思った。

    著者の胆力、凄いなと途中ハラハラする箇所がありつつとても勉強になった。(ヤクザの事務所のチャイムを押したところは肝が冷えた。)
    難しいテーマの取材をし、本を出版していただいたことに感謝しかない。

  • 大阪に勤めていた時、女の先輩に「飛田ってとこだけは行ったらアカン。今の時代に『売られたん!?』っていう女の子がお客を待って道に向かって座ってるんやで」と言われたことがある。
    それ以来、ずっと飛田、いわゆる「ちょんの間」に興味があった。
    このルポは売買春に対してフラットな立場でいようとするあまり、やや物足りない内容であったが、それでも経営者や「おんなのこ」の生の声もちょっとだけ覗けて、少しだけ知りたい欲が満たされた。
    そう、欲。ここでたつきを得るしかない、ギリギリの生活をしている人々を興味本意に垣間見る。
    なんて醜い欲望だろう。
    だが、この街は欲望にまみれている。
    だから、このくらいの下衆な視点がお似合いなのかもしれない。

    江戸時代の遊郭と、本質的にはなにも変わらない袋小路が、まだ現実にあるなんて。
    驚きと恐怖と、そしてーー認めたくないが、確かにワクワクして、この本を一気に読んでしまった。
    罪滅ぼしとばかりに、負の連鎖、大富豪のゲームのように貧民に一度落ちたら抜け出せない社会構造に思いを馳せ、このサイクルからなんとかして抜け出せないかと考えた。
    もちろん答えは出ず、暗い心持ちになるばかりだった。すえた臭い、薄暗い小部屋、行ったこともないのにそんな風景が浮かんでしまって、暗鬱たる読後感だった。

  • 読了。西成は父の出身地である。親戚もいるので、良く遊びに行ったことがある。飛田という地名は聞いたことがあったが、西成にあることは、この本を読むまで知らなかった。私には、売買春について、意見を言える資格はない。それは、わかった。

  • 「夜のとばりが降りた時刻、客引きのおばさんが手招きし、紫や赤の
    けばけばしい色の蛍光灯が、上がり框にちょこんと座った女性を照ら
    す店に、一人、また一人と吸い込まれて行く。私は、その光景を見な
    がら歩くうちに、頭がクラクラしてきた。さっき、近くの商店街の食堂で
    食べたきつねうどんの、やたら甘ったるかった出汁が、食道を伝って
    口の中に逆流してきそうな気分に襲われた。」

    引用が長くなった。本書の書き出し5行目からの文章なのだが、既に
    この作品に対して印象が悪かった。先入観と言われればそれまでなの
    だが、読み進むにつれ「これは飛んでもない作品に手をつけてしまった
    か」との思いが深くなった。

    今も昔も女性が春をひさぐ町。そういった町を女性が取材する難しさ
    は分かる。男性の書き手と違って、実際に商売の行われている場に
    潜入は出来ないのだから。

    それを差し引いたとしても本書の著者の取材姿勢には嫌悪感を覚える。
    著者が本書の冒頭で書いたような、吐き気を伴うような強烈な嫌悪感だ。

    書かなきゃよかったのにと思う。吐き気を催すほどの光景のある町を、
    何故、取材対象にしようとしたのかも分からない。こだわりもなく、愛情
    もなく、事前勉強(売春防止法やら、風営法やら)もせず、女性が座る
    店先を冷やかして歩き煙たがれる。

    私は差別主義者ではないのだけれど、素人の女性が足を踏み入れは
    いけない場所はあると思うんだ。それが本書で取り上げれている飛田
    を始めとした色町なのだと思う。

    東京の吉原や玉井を描いた男性の書き手による作品は何作か読んだ。
    そこにはノスタルジーがあり、体を売ることで生活の糧を得る女性に対し
    ての愛情が溢れていた。

    そういった一連の作品と比較して本書に著しく欠落しているのが、取材
    対象に向けられる愛情だと感じた。

    飛田に関係があると噂されるヤクザの事務所にはアポイントメントなし
    で突撃しているのに(一旦、取材拒否)、管轄する警察署にはライターで
    あることを隠して「飛田では売春が行われているのに、何故、取り締まら
    ないのか」と意見するってなんだろう。

    対応した警察官に問われて「一市民として知りたい」と言いつつ、後に
    は身分や目的を明かして取材しているのだが、飛田の「なか」では著
    者の取材に協力してくれた人もいるのに「売春している。取り締まれ」
    なんてよく言えたものだわ。裏切り行為じゃないんだろうか。

    結局は詳細な話は聞けてないんだよな。色町という場所だけあって、
    みな揃って口が堅い。話を聞けている部分もあるのだけれど、相手が
    話したいと思うことを話させているだけ。相手の起源を損ねるのを恐れ
    て「はい、はい。そうですね。飛田は情緒があっていいところですね」の
    ような太鼓持ちになっている。

    挙句、「あとがき」で「なお、本書を読んで、飛田に行ってみたいと思う
    読者がいたとしたら、「おやめください」と申し上げたい。客として、お金
    を落としに行くのならいい。そうでなく、物見にならば、行ってほしくない」
    なんて書く始末。

    だったら、作品として発表するなと申し上げたい。むしろ足掛け12年の
    著者の取材期間こそ物見遊山だったのではないのか。

    言葉遣いはおかしいわ、文章は拙いわで久し振りに酷いノンフィクション
    を読んでしまったと後悔している。

  • 世間をお騒がせの橋下大阪市長が過去に顧問弁護士をしてた、とかからの興味で読みました。
    壮絶な人生が、お姉さんの数だけではなく経営者や曳手と呼ばれる客引きの人にもあることを知らされる内容でした。
    だから、締めにある「客として行ってお金を落とすのは構わないが、物見遊山では行くな」には同意。

  • 勉強になる本。ルポというには人に迫りきれてない感じ。

    10代最後の年を過ごしたのはほんとにこの付近。基本が天王寺みたいな。

    なのに飛田のことは名前すら知らなかった。

    韓国で出会った矯風会のひとたち。
    読み進めていくうちに橋下さんがここの組合の顧問弁護士だったのもなんだか納得してしまった。

    ここでしか生きられないひとがいる。それはそうなんだろうけど。
    居場所が一応あるあたしに何も言える事はないけど、想像することはできて、それは近い感情だと思うのだ。

    しかし欲ある側のひとがしか見えないから、何も肯定できないのだ。ここにしか居場所がないひとたちの居場所として存在しているわけではなく、あらゆる欲(金・権力・性欲)を持つひとたちのために存在している場所なのだ。

  • 不思議な街である、飛田。 ここにしかないにおいがる。 寂れた昭和初期の様な風景、更に、それ以前の遊郭の風景。 テレビのセットでしかみたこともない風情がそこにはある。

  • 本書に書かれていることは事実だが、フィクションだ。「常識」が通らない人間関係が矛盾に満ちた人々の語りに現れてくる。理屈ばかりがはびこる時代に飛田の矛盾は「情緒」として人を惹きつけるのだろうか。読んでいると著者とともに「さわったらあかん」街の全貌を明らかにしていく気分になる。

  • とても良い本だと思った。

    ごく素直に、わたしの平凡な毎日に絶対に関わることのなかった、この本が出るまで存在すら知らなかった飛田という街のことを、教えてくれてありがとうと思う。
    知らなかったことを知りたいから、ノンフィクションを読むのだから。

    表面だけを書いているだけではないかというレビューも目につくけれど、そうだろうか。きっと筆者は飛田に愛着があるのだろうし、情報提供者を尊重するのは当然のことだと思う。しゃべりたがらない人が多いのも当然だから、騙し打ちのように入り込むこともやむを得ないだろう。書きたくないことは書かなくていい。ごくあたりまえのことじゃないか。
    今まで目立って本に書いた人がいない、もしくは読まれていないだけで、そんなことをした人はきっと少なくないだろうと思う。
    この本が話題になり、たくさん読まれるようになった、だからこそ出てきた、これこそ表面的なレビューじゃないか。
    もっと深く知りたい方は自分がいってみたらいいし、その時はぜひ本にして発表していただきたいものだ。



    わたしは、女性が性を売るお仕事をすることにあまり嫌悪感を抱かない。
    単純にサービス業の一種であり、高等な技術職だと思っている。
    もっとずっと若いころは、キャバクラとかで働いてみたいと本気で思ったこともあって、それは「人の心をつかむ接客サービスを学びたい」という意図だった。
    わたしがそのお仕事を選ばないのは、他にたくさん選択肢があって、そっちを選んでいるというだけだと思っている。

    飛田で働く女の子、おばちゃん、共に確かに抗えない借金(本の中には「抗えない貧困の連鎖」とあるがわたしはお金がない=貧困と思わないのであえて借金と書く)があり、しかたなくここにいるのだろうから、わたしののんきな職業を選ぶ自由みたいなお話は関係ないのかもしれないけど。

    筆者が伝えたかったこととはまったく違うかと思うけれど、
    わたしはこの本を読んで、どうしてパチンコを規制しないといけないか少し理解した。

    取り締まられるべきは飛田の料亭ではなくて、借金を膨れ上がらせるシステム(そのうちのひとつの温床がパチンコだということ)だよね。
    飛田の料亭やそのほかの色街が無くなった時、そうしてお金を稼いでいた人たちは今度何をすることになるのだろうと考えると、それはそれで新たな闇が、いまよりもっと狡猾に法をすり抜ける闇ができあがるだけなのではという気もする。

    「男女が出会って、お茶を飲んでいるうちに自由恋愛に発展して、性行為が行われる。お茶がものすごく高額」そうだね、何もおかしくないよね、と思う。素晴らしい言い訳だ。

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著者プロフィール

井上 理津子(いのうえ・りつこ):ノンフィクションライター。1955年奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。主な著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『葬送のお仕事』『医療現場は地獄の戦場だった!』『師弟百景』など多数。人物ルポや食、性、死など人々の生活に密着したことをテーマにした作品が多い。

「2024年 『絶滅危惧個人商店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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