血染めの部屋: 大人のための幻想童話

  • 筑摩書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480831231

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  • 童話のパスティーシュ短編集。ニール・ジョーダン監督によるトンチキカルトホラーの傑作『狼の血族(1984)』(https://booklog.jp/users/yamaitsu/archives/1/B000H9HQWE)の原作だというので読んでみました。

    まず表題作はいちばん長くて、モチーフになっているのは青髭。おおむね元の話のままで、最後に救いにくるのが馬に乗って駆け付けたお母さんというのがフェミ的アレンジだろうか。

    「野獣の求愛」「虎の花嫁」はいずれも「美女と野獣」モチーフだけど、現代的にアレンジしただけでハッピーエンドの前者よりも、虎に愛された女性のほうが虎化しちゃう後者のほうがエロティックで好み。いずれも女性が野獣に嫁ぐ理由が父親の借金のカタというのが…。モノ化された女性の反逆テーマなのかな。

    「長靴をはいた猫」も概ね元ネタ通り、ラブコメっぽくて収録作では一番明るい。「雪の子」は数ページの掌編だけど、少し前に読んだ「ペンタメローネ」で学習した、赤と白と黒のモチーフが使われていました。白い雪と赤い血と黒い鴉。

    「愛の館の貴婦人」は吸血鬼ものなのだけど、吸血鬼の末裔の女性の永遠に生きる孤独を、眠り姫に重ねてある感じ。やってくる王子(の役割の男性)を彼女は次々餌食にしていくわけだけど、ついに彼女を死なせてくれる(キスで目覚めさせてくれる)男性が現れる。

    面白かったのは狼もの三作。掌編「狼人間」では、赤ずきんが、鬼の腕を斬りおとした渡辺綱もかくやという活躍(笑)おばあさん自身が人狼だったというオチ。「狼アリス」は、狼に育てられた娘と、実は人狼の公爵の話。

    「狼たちの仲間」が件の映画の原作に当たる短編。映画の中でも使われていた伝承が少し語られている(結婚初夜に失踪した夫が人狼になって戻ってくる話や、魔女が裏切った男の婚礼の客を全員狼に変えてしまう話)ほか、漁師にばけた人狼が赤ずきんの前に現れ、どちらが先におばあさんの家に到着するか競争するエピソードがメイン。先に到着した人狼はおばあさんを食べてしまうが、後から到着した赤ずきんも実は…。眉毛のつながった男は人狼、というのは映画オリジナルだったのか、どこにもなかった(笑)

    全体的にはそれなりに楽しく読んだけれど、現代日本ではすでにこの手の童話パスティーシュは量産されており、この本が特別独創的であるという印象は受けなかった。倉橋由美子の残酷童話のほうが正直好み。

    ただ翻訳者の解説を読むと、著者アンジェラ・カーターの経歴が面白かった。サマセット・モーム賞を受賞したのだけど、その賞金は海外に滞在することで使わなくてはならないという規定があるそうで、彼女が滞在先に選んだのはなんと日本。新宿のアパートで数年暮らし、賞金が尽きたらホステスして稼いでたというのが凄い。その頃のエッセイなどもあるそうなので読んでみたい。

    ※収録
    血染めの部屋/野獣の求愛/虎の花嫁/長靴をはいた猫/妖精の王/雪の子/愛の館の貴婦人/狼人間/狼たちの仲間/狼アリス

  • いつもは作者の内面、なんなら内臓をえぐりとるさまを見せつけられる読書なんだが、これは童話モチーフなので気軽に読めた。けどもやっぱり容赦ない。男子はわからんが、女子が中学生位になると、身内をウザく感じ、なんとなくわからないながらも背徳とか美とか、現実社会から逃避して、誰も知らない世界で過ごしたいとか思うのよ。そもそも都合よい世界なんてないし、いいもんでもないし、あんたら火傷しないうちに帰りー、というアンジェラ(天使)母さんのふとましい叱咤と愛情を感じて、帰路に着くのだった。本当こういう本を推薦本にするべき。

  • 2008/7/18購入

  • 綺麗だなあ。狼アリスと愛の館の貴婦人が特に好きだー。

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著者プロフィール

1940年、イギリスのサセックスに生まれる。大学で英文学を学び、卒業後しばらくは新聞記者として働く。1966年に小説『シャドウ・ダンス』でデビュー。以後、『魔法の玩具店』(1967)、『ラブ』(1971)、『ホフマン博士の地獄の欲望装置』(1972)、『新しきイヴの受難』(1977)といった作品を次々に発表し、昔話、SF、ポルノグラフィ、ミステリなど、さまざまな要素を盛り込んだ、新しいゴシック小説の書き手として注目を集める。1984年に『夜ごとのサーカス』を、1991年に『ワイズ・チルドレン』を発表し、1980年代以降を代表するイギリスの女性作家として高い評価を得るが、1992年に死去。ほかに短篇集として『花火』(1974)、『血染めの部屋』(1979)などがある。

「2018年 『新しきイヴの受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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