- Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480831767
作品紹介・あらすじ
短篇の名手として名高い米女性作家が描く、暴力と殺人とユーモアと恩寵と。深い衝撃とふしぎな開放感。
感想・レビュー・書評
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「善人はなかなかいない」「強制追放者」「森の景色」「家庭のやすらぎ」「よみがえりの日」の5つの短編が収録されていた。中でも「強制追放者」がとくに気に入った。理想的な短編に求めたい全ての要素が詰まっている気がした。『フラナリー・オコナー全短篇』という本のなかにもこの5つの同名作品が収録されているので買うならこちらを買うべきだろう。
オコナーの小説を読むのは初めてだったが、あまりの面白さに、半ばくらい読んだところですぐにアマゾンで『全短篇』のほうを注文した。
いずれの作品も生活の中で起きる予期せぬ不条理を描いていた。無駄をそぎ落とした簡潔な三人称の文体からは、事件の報告書のような印象も受けた。
行間に今にもなにかが起きかねない不穏さが漂い、人間のいびつな部分を浮かび上がらせる。キリスト教信仰、黒人差別、ナチの迫害をのがれた人、田舎での農耕、三世代同居など、遠いアメリカの昔の姿は、日本の現代を生きる者にとっては新しく映った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
書店主フィクリーのものがたりで紹介されていたので、図書館で借りて読んでみたが、私には合わない短編であった。
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短編集。どれも暴力や殺人などで終わる。異質なものを排除しようとする人間が描かれている。生きれば生きるほど善人でなくなっていくという感覚はちょっと好き。わりと人間は簡単に悪人になってしまう。
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図書館で。
フィクリーにこの本が一番好き、という話が出てきたので借りてみましたが… うん、私は好きじゃないな、と思いました。というわけで表題作でリタイア…
人物描写やコミカルなようでいて結構笑えないギリギリな会話とかはアクシデンタル・ツーリストの人を思いだしました。多分、こちらの人の方が作品的には古いのだろうと思うけれども。その後、唐突に起こる展開にちょっとポカーンとする感じ。いや、まあ確かに事故とか犯罪なんてこれから起こるぞ、と身構えてから体験するものでもないけど…
後、祖母は良いんだけど妻であり、子供の母である女性の描写がほぼないに等しいのもちょっと不気味でした。総じてなんだろう、多分合わなかったんだろうなぁ~という感想です。 -
五編からなる短編集。
どの短編にも「善」があり、その「善」に対抗する、あるいはその「善」が招いてしまった「悪」があり、その結果、「殺人」が起こる。
いうまでもないが、「善」も「悪」も相対的なものだから、視点を変えればそれらは逆転する……「善」は「悪」となり、「被害者」は「加害者」となる。
どの短編も滑稽であり、不穏であり、けっして爽やかな読後感に導いてはくれない。
登場人物に寄り添うことなく、ドライな視線で書かれており、そのためだろうか、読者はまるでその現場の共犯者になったような気分になることもある。
予定調和な物語は一遍もなく、運命の悪戯、あるいは自ら招いた災いによって、情け容赦なく人が殺されていく。
かなり読む人を選ぶ作品だと思う。
前出のように爽やかな読後感を求めている人は近づかない方が無難だろう。
感受性が強い人が読んだら、あるいはトラウマになることもあるかもしれない。
僕はというと、読後感に「爽やかさ」だけを求めている訳でもないし、感受性も歳とともに劣ってきている(それが良いことなのか悪いことなのか……)。
だから僕にとっては、とてつもなく面白い短編集なのだ(内容からして、「面白い」という表現が適切かどうかは判らないけど)。 -
50年も前に書かれたとは思えないほど現代情勢に通ずる内容。
強制追放者などは今の日本人の方が当時より理解しやすいと思う。 -
面白かったと言えば不謹慎だが、読みがいがあった。他の作品も読みたくなった。
暴力や殺人が出てくる残酷な短編集。だけど、なぜかラストに至るまでの人の心理が少し滑稽にも思える短編もある。
ポツンと小さな黒いシミが滲んで広がっていくみたいな心理描写。
そうかもね、そういう人がいたら、自分が幸せになるためには邪魔なの!って思うかもね。なんだかうまいこといかないね?って。
なんでこんなことになっちゃったんだろうね?こんな事態を避ける方法は他にあったと思うよ?
殺人までしなくてもさ…という気持ちになる。
この短編はダメになることが前提で、その過程の心理描写を楽しむものだ。
善人はなかなかいない
強制追放者
森の景色
家庭のやすらぎ
よみがえりの日 -
「善人はなかなかいない」
極限の恐怖と暴力に満ちた状況に遭遇してしまう家族は死と愛、生に何を感じるのか。
物語は、ある家族がフロリダに向かうことから始まる。主な登場人物はアメリカ南部にいそうなあんたいい人と決め付けるお祖母さん、いつもピリピリしているお祖母さんの一人息子ベイリーや、名前すらない無気力な子供たちの母親、お行儀も性格も悪い子供たちです。いずれもぱっと頭の中で想像出来る人物達。そんな一同が「はみ出し者」を話題に出す。そして後にその「はみ出し者」に出会うことになる。
「はみ出し者」は「善人はなかなかいない」という題名に関係の深い人物であると思います。特に「あんなことをしちゃいけなかったんだ。あれで何もかも、釣り合いが狂っちまった。(中略)できることといったら、残された少しばかりの時間を、せいぜいがとこ、楽しむだけだ。誰かを殺したり、家を燃やしたり、何でもいい、汚ねえことをしてやるんだ。楽しみなんてそんな汚ねえことしかねえんだから」
が全てです。
私の思うこの作品の特徴は一般的な家族と「はみ出し者」の対峙で浮かび上がる死と愛です。例えば愛に関してはベイリーの思うように動かない体が証明しているかもしれません。あの暴力と恐怖が渦巻く中でどう愛を貫くのか。また、家族各々のあるものへの向かい方(ここはあえて言わないでおきます)においても大きな差が出ています。そこがこの作品の肝であるかもしれません。
最後はもう一度「はみ出し者」について。突き詰めればこの男の存在が全てな気がしています。
「人生、ほんとに楽しいことなんかあるもんか」
「死が誰も逃れることのできないものならどんな善いことをやっても意味がない。だからできるのは残された少しばかりの時間をせいぜい楽しむだけだ」
全てを支配するこの男の言動と行動(特にお祖母さんへの行動)がどういう意味を持っているのかを考える必要があると個人的に痛感しました。 -
再読、★3.5。
行ったことないけれども、映画等で見かけるアメリカ中南部が目に浮かぶよう。そしてそこで繰り広げられる独特の死の物語。
彼の地では正気を保つこと自体が至難なのだろうか。自分の世界が何処からともなく崩れていくことに抵抗する行為そのものが世界から抹殺されていく理由なのか。ひどく歪んでいて悲しい話ばかりで、読後感がずしりと重い。 -
うまく同期できなかった。
短編集。いろいろな死の変奏という感じがどうもする。
物語のはじめか、あるいは中盤で登場人物の死が示唆される。ああ、死ぬのかと思う。まあけど死ぬのも仕方ないなこりゃ、という登場人物である。ただ「死んだ」と書けばいいものを妙にまどろっこしいor詩的っぽい描写が1ページまるまるなされて、まあ死んだんでしょ?結局。となる。趣味の問題かもしれないけど、地獄とか神とか抹香臭いんだな。
結構ローカルな話なんじゃないかってのはある。地域や時代性にかなり限定されたお話というか。
「強制追放者」はそこそこ楽しめたけど、当時の移民への扱いとか、黒人・白人労働者のそれぞれの優位性がどこにあるのかとか、深くはわからない。
カトリックとプロテスタントの相違ってのもよくわからんしね。
「よみがえりの日」にみられる老人の黒人愛のようなものや、南部と北部で黒人の扱いがどう違うのかってのも他の本で補完しなきゃわかんねー。
そんなちぐはぐな読書であった。