- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480832085
感想・レビュー・書評
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スーツケースの中に過去を詰めてわびしい海辺に一人でやってきた〈わたし〉。
逃げきる勇気も真っ直ぐに生きる勇気も持ち合わせていない。これからの人生とどう対峙すればいいのかもわからない。けれども、わたしを大切に思ってくれる人がここにいるのなら、泣くのにちょうどいい場所を探す必要はもうないのかもしれない。
ストーブで暖められた部屋。ささやかな至福の時間が始まる合図のようにふるまわれる一杯の熱いコーヒー。朝には朝の匂いが、夜には夜の匂いが漂う湯気に溶け込んで。わたしの名を呼ぶ人たちの優しさが心に深く温かく沁みてゆく。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ある日突然夫のところから去った書けなくなった小説家のはなし。
書けなくなったのはずっと前からだけれどきっかけは、医者の夫が本を出版することになったからだとワタシは読んだ。気にすることはないささやかな本だから。そんな風に言われたら余計に傷つくんだと思う。
主人公はさらにどこかへ逃げるのかな。何にももうしばられたくないはずだから。 -
文学
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どうやら家出してきた41歳の女性。バス停でたたずんでいると、近所の人に声をかけられる。「もうバスはないよ」「知ってる」「雨が降るからこんな所にいちゃ駄目だ」文字通り彼女は引っ張られ、若い二人のカップルの家へ。嵐、停電、雪。表面上は身動きとれない状態だが、そもそも行くところなんてないのだ。
必要以上に互いに干渉し合わない。
なぜ?答えは最後にしんみり外側の他人から、彼らに起こった事故が明かされる。知ってしまったことを彼女は当人に話さない。以前と変わらず接するのが彼女にとって礼儀であり思いやりなのだな。 -
これも良著。
「泣くのにちょうどいい場所を探している」と、印象的な文章で始まる。不思議な話だ。その誰かよく分からない女性が、偶然出会ったカップルの家に居着き、名前まで与えられる(つまり名前がない)。何が起きるわけでもない、それこそ主人公が言う「普通の人たちがどうのこうのという、コーヒーを飲んで話をして、といったようなこと」という内容なのだが、主人公がボロボロの過去を振り捨てた末に流れ着いたのがこの寒々しい海辺であり、親切なカップル家族も脆い関係の中にあることが、徐々に明かされる。
グレーの海や空、薪ストーブの火、温かいコーヒー。デンマークの片田舎を背景として、あくまで「普通の人々」が陥ったモラトリアム。最後に見えるとても危うい絆のようなものが、彼らの、私たちの、希望になりますように。 -
暗っ。寒っ。しかしながら居心地の良い暗さ。ほんとに特に何も起こらない。表紙の絵のグレーな風景そのままな雰囲気。その雰囲気をしんみり味わう読書やね。冬に読むとなお良し。
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デンマークの作家が書いたもの。夫との日常生活から逃げ出した42歳の鬱病の女性が海辺の町に辿り着き、いろんな人と出会いながらも何も起きないという静かな物語。
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デンマークの小説は初めてかもしれない。ディテールが端正な静かな話し。北欧のお話しだからか、登場人物たちをムーミンにでてくる事情を抱えた寂しい面々と形容したくなる。北欧にはほんとうにそういう人たちが生きている、と思ってしまう。
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事件らしい事件がおきず、雰囲気を味わうことが楽しみ方の大きなウェイトを占めるタイプの小説の中では、読んで損のない良書。
なじみの薄い文化圏の小説のせいか、登場人物の名前から性別が判断できず少し混乱したが、それはそれで面白い体験だった。