ビザンツ皇妃列伝: 憧れの都に咲いた花

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480857316

作品紹介・あらすじ

王室に嫁いだ女性たちの様々な運命。1,000年の歴史をもつビザンツ帝国の都、コンスタンティノープル。オリエントの香りただよい、黄金きらめく文化の中、宮殿の奥では何が起きていたのか。皇妃たちの生涯が、帝国史の大きな流れのなかにくっきりと浮かび上がる。

感想・レビュー・書評

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  • テオドラのみ読了するつもりが、つい興味を惹かれて、アテナイス、マルティナ、エイレーネー、エイレーネ?ドゥーカイナ、テオファノ、アニェス、ヘレナ?パライオゴロナとすべて読了してしまう。アテナイスは、シンデレラ伝説、林檎事件で語られるが、実際は、皇姉マリアに対抗する伝統派に担ぎ上げられ皇妃とされ、林檎事件も皇妃の信任した親衛隊長追い落としのために巻かれた宦官の策謀だったのでは、と。またギリシャ哲学者の一家として異教の教養を身につけ、さらにキリスト教国の皇妃としてキリスト教の教養も身につけた皇妃は、異教からキリスト教へという時代の流れも体現したものであった、と。テオドラについては、プロコピオスの戦史、秘史を読み込み、生まれ育ちについては、熊使いの娘、売春婦まがいの生い立ちはあったと思われるが、一介の農民から皇帝になった夫ユスティニアヌス同様、当時の人々には出生など問題にはされず、皇妃となってからは、恵まれぬ女性への慈善活動、皇帝の片腕としての政治への介入が語られる。プロコピオスによる彼女への罵倒は、女性の進出、元首性制から皇帝専制という時代の流れへの嫌悪、その代表としてのテオドラ批判があったのだろう、と。マルティナについては、伯父と結婚したという近親相姦への非難から何もかも悪いと決めつけがちな史料をかき分け、浮かび上がってきたのは、ヘラクレイオス帝在位時は、戦地で苦労を分かち合い、その死後は、兄弟で、親子で、一族で分け合って統治しようと奮闘しつつ、貴族たちの思惑に翻弄され敗れ去った姿だった。それにしてもいまの感覚からすると非難が妻ばかりに向けられるというのもフェアじゃなく感じる。初の女帝エイレーネーは、摂政時から聖像崇拝復活に手腕を発揮するが、息子たる皇帝の目をくり抜いて自ら帝位についた後は精彩を欠く。ひとえに女性が帝位にあることのハンデを克服できなかったため、と。しかし後世の聖像崇拝派の史家によって聖者に祭り上げられる。

  • まさに栄枯盛衰のビザンツ帝国の歴史を、皇妃という題材を軸に描いている。歴史に現れることの少ない皇妃の人物が、乏しい資料の比較検討、資料の時代背景などから浮かび上がってくる過程は実に面白い。

  • 8人の東ローマ皇帝の妃の列伝。

    1 アテナイス=エウドキア 401-460 テオドシウス2世妃
    2 テオドラ 497ca-548 ユスティニアヌス1世妃
    3 マルティナ 605?-641以降 ヘラクレイオス妃
    4 エイレーネー 752ca-803 レオーン4世妃、女帝
    5 テオファノ 941ca-976以降 ロマノス2世妃
    6 エイレーネー・ドゥーカイナ 1067-1133? アレクシオス1世妃
    7 アニェス=アンナ 1171/2-1204以降 アレクシオス2世妃
    8 ヘレネ・パライオロギナ ?-1450 マヌエル2世妃

    東ローマ帝国の皇妃なんて、テオドラしか知らなかった(それも主にラヴェンナのモザイクとダンナのおかげで)が、考えてみれば、皇帝だって、ほとんど知らないも同然なのだった。
    残された記録は断片的で、しかも5世紀から15世紀の長きに渡るその社会の仕組みや情勢についての知識が乏しいため、この8人について紹介されても、あまり全容はわからないのであった。それなりに事績が辿れて、シロートにも面白いエピソードを持っている人を選択したのだろうから、どれもドラマチックで、ええっそんなことが! それからどーなったの!? と思わせるんだけど、この先(ウィキの先w)この好奇心をどうやって満たせばよいんだろ、という感じ。

    テオドラが皇妃になった後貞淑だった件について、「皇妃の地位を失いたくないという保身術なのか、もう男には飽き飽きしていたのか、それとも立派な皇妃を演じ切っていたのだろうか。」とか書かれているが、そんなの、趣味で売春してたわけじゃなく、生活のため必要に迫られてやってたんだから、そんなの必要なくなったらやるわけないじゃん、という、一番妥当な推論が挙がっていないのが驚き。男学者の限界か? 「一晩に最高三十人も客を取った」(30人は物理的にムリだと思うのでウソだろうが。1人10分で処理してっても、休憩なしで5時間かかるんだよw)というような商売をさせられてて、サービスする側にとって快楽であるはずないだろが。ってことですね。
    おじ皇帝と結婚したマルティナについて、神聖ローマ皇帝一族では、おじ/姪婚が頻発しているので(時代はずれているが、近親婚禁忌のルールは原則同じ)、嫌悪感への差異が興味深い。しかし責められるのは皇帝のほうで(既に皇帝で、40~50歳のおっさんで、再婚で、一方姪は15歳くらいで親もいないんだか後ろ盾にならない状況だから、おじさんに主導権があって、姪には拒否権がないのが明らか。大人同士のクラウディウスとアグリッピナのケースとはまったく違う。)皇妃が責められちゃうなんてひどいよね。皇帝も自分が年寄りなんだから、自分が死んだ後どうなるかとか考えて行動しろよ。
    それにしても、一夫一婦制の東ローマ皇帝の宮廷に、なんで宦官が必要なんだろ?? 一夫多妻制で大勢の妻妾及びその候補が後宮に囲われている場合に後宮を運営する男性スタッフに宦官を配するのはわかるけど、そもそもそういう後宮はないわけだよね? イスラム国の影響なんだろか。

  • あんまり資料がないんですね、実際

  • 約1千年続いたビザンツ帝国。古代ローマ帝国の伝統に厳格なキリスト教が加わり、独特の文化が花開いたコンスタンティノープル。その宮廷を生きた女性達の記録は残念ながら男性優位の社会では少ないが、その数少ない史料から読み解いた8人の皇妃達の物語が記されている。踊り子で娼婦上がりの皇后テオドラ、孤児から皇妃となったエイレーネー、酒場の娘テオファノなどまるでシンデレラストーリーを体現したような女性が多いのもビザンツ帝国の特徴だろうか。美人コンテストならぬ皇妃コンテスト上がりの皇妃もいてそれもまた身分に囚われず実力で皇帝に成り上がるビザンツ帝国の慣習や価値観を見るようで面白い。面倒な外戚勢力を排除するため、わざと皇妃は身分の低い者や係累がいない者を選んだという国策は納得。しかし時代が下るにつれて外敵に悩まされ続けると国策として縁戚関係を結ぶため外国人の皇妃が多くなる。時代に翻弄された皇妃、たくましく権謀を巡らせた皇妃を比較的中立な視点から知ることができる興味深い本だった。

  • おもしろかった。(12/25)

  •  ビザンツ帝国千年の歴史を皇帝ではなく、皇妃を中心に据えたところが凄い。はっきり言って、この本以外でエピソードが語られることはないだろうというマイナーな皇妃も多く、非常に知的好奇心を刺激される。
     各時代無数にいる皇妃たちの中から、時代的に偏らないように、そして各時代を代表するような8人を選び出した著者の学識には驚かされる。無数の外国語史料を紐解かねば書けまい。それでいて文章は平易で読みやすい。日本で最も面白いビザンツ帝国入門書だと思う。ビザンツに興味がある人は必読。

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著者プロフィール

大阪市立大学名誉教授、元佛教大学歴史学部教授。専門はビザンツ帝国史。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。

「2023年 『さまざまな国家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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