王を殺した豚王が愛した象: 歴史に名高い動物たち

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480857743

作品紹介・あらすじ

エデンの園の蛇から、トロイアの木馬、ハンニバルの象、デューラーの犀、ミッキーとドナルド、クローン羊ドリーまで-フランスの紋章学の鬼才が描き出す、人間の歴史と文化を彩った有名な動物たちのドラマ。尽きせぬ味わいを秘めた歴史絵巻。

感想・レビュー・書評

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  • 西欧を中心に、歴史に登場した様々な動物たち(ミッキーやドナルドなどフィクションのキャラクターもあり)を取り上げたエピソード集。古い時代から人々が動物に投影してきたイメージの変遷がわかり、動物を巡るあれこれの中に権力者たちのご苦労も垣間見えて興味深い内容だった。「王を殺した豚」「イングランドの豹」「ラ・フォンテーヌの『寓話』の動物たち」など著者の専門である中世・近世の話が一番おもしろかった。

  • 今読んでいます。非常の面白いです。

  • 世の中にはずいぶん暇な人がいるものだと見えて、関心のない者から見れば、どうでもいいようなことに夢中になる人がいるものだ。世に動物好きという人がいる。時には趣味が高じて、珍奇な動物を蒐集しては、手許に集めて可愛がる人もいる。ところが、中には、実際に生きている動物ではなく、神話や伝説、書物や口碑にのみ名を残すそんな動物を愛する人がいる。文献を渉猟し、異説を博捜し、名のみ伝えられる動物の姿をなんとか後世に伝えようとする。たとえば、あの有名なプリニウスがそうだ。『博物誌』がなければ、この世界はなんと味気ないところになってしまっていただろうか。

    ミシェル・パストゥローもそうした奇特な人物の一人である。『王を殺した豚 王が愛した象』も、古今東西(と言いたいが、学者らしい生真面目さから孫引きを拒否し、実際に資料にあたれる物に限ったので、主に西洋に限られる)の聖書、ギリシア・ローマ神話、ヨーロッパ中世・近世史に登場する動物40種について、事実、信仰、伝承を提示し、その文脈、係争点、問題点に対する歴史的注釈を施す。こう書くと、なんだか鹿爪らしく聞こえるが、『タンタン』シリーズに登場するスノーウィ(フランスではミルー)やネス湖の怪獣にまで、言及しているところから見ても、一般読者を想定して書かれていることは理解してもらえるだろう。

    西洋に紋章学という学問があることを知ったのは小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』だったが、著者は、その紋章学の泰斗である。前半に事実や伝承を、後半に注釈を述べるという二部構成の書き方がいかにも紋章学研究者めいているではないか。さて、著者は熊と豚を偏愛し、いささか他の動物とのバランスを欠いてまでスペースを割いているのだが、ここでは、「デューラーの犀」という一章に注目してみたい。というのも、この犀の図は、かなり不思議な図で、これまでも他の書物で取り上げられてきているからである。

    澁澤龍彦が、大のプリニウス好きであったことは、本人が何度も自著に記しているので、今さら披瀝するまでもないが、その澁澤にも、西洋の伝承に取り上げられる奇妙な動物について触れたエッセイが数多く遺されている。それらの動物たちに関するエッセイを集めて編まれた『幻想博物誌』は、ボルヘスの『幻獣辞典』と共に我が陋屋の書棚の片隅で埃を被っているのだが、一丁事ある時には、深い眠りから覚め、啓蒙の光を投げかけてくれるのである。

    デューラーの犀の図で奇妙なのは、主に二点。一つは一角犀であるはずのインド犀であるのに、背中のあたりに二本目の角が描かれていること、もう一つは、その皮膚のほとんどを覆う奇妙な斑点模様である。パストゥローは、模様については触れていないが、二本目の角については次のように書いている。「デューラーが描いた背中の角はどこから来たのだろうか。解釈の間違いからか。アフリカの犀を描く、我々の知らないそれ以前の図像から来ているのか。肩にとがった隆起があるいくつかの鎧の影響だろうか。謎のままである。」と。

    ところが、澁澤によれば16世紀のフランスの外科医アンブロワズ・パレが、その著『ミイラおよび一角獣の説』の中で次のように述べているそうだ。「パウサニアスの語るところによると、犀には角が二本あるのであって、決して一本ではない。すなわち、その一本は鼻の上にあり、かなり大きく(略)堅くて重い。もう一本は肩の上に生える角で、小さいけれども非常に鋭い。これによっても明らかな通り、犀と一角獣は別物である。」画家が、おのれのリアリズムよりも古来の伝説に色目を使ったのだろうというのが澁澤の解釈である。

    それでは、模様の方はといえば、インドからヨーロッパまでの長い航海の最中、狭い船倉に閉じこめられていたためにできた角状の腫れ物が原因らしい。はじめて犀という動物を見たリスボンの無名画家は犀には必ずこのような物ができているのだと考えてこの度は忠実に写したのだろう。デューラーの名誉のために申し添えておけば、彼は実物の犀を見ていない。この無名画家のスケッチを版画に起こしたのが有名なアルブレヒト・デューラーであったためにこのような間違いが次から次へと伝播してしまったのだ。因みに澁澤が見た別の一枚は、江戸の絵師谷文晁の描いたものであった。

    『幻獣辞典』に「イングランドのレパード、つまり獅子と、スコットランドの一角獣がグレイト・ブリテンの紋章となった」とあるのだが、レパードは豹だろう。それが、なぜ獅子なのかという疑問がずっと解決されぬままだった。その積年の謎を解いてくれた「イングランドの豹」の一章は痛快で、まさに紋章学研究者の面目躍如たるものがある。訳を知りたい向きは是非本書を繙かれたい。

  • 歴史(西洋史)に表れるさまざまな動物のエピソード集。古代~中世にかけては、動物が何を象徴しているか、それがどのように変遷したか。中世~近世では王権と動物のかかわりや有名事件。現代ではキャラクターとニュースに代表される動物。

  • 興味本位で手に取った本。こんな世界観があるなんて知らなかったので、衝撃がおおきかった。

  • 百獣の王の座はかつてライオンと熊とで争われていたとか、
    幼児を殺害した豚に人間の恰好をさせて裁判を行ったとか、
    動物たちに持たれていた一般的なイメージとかが記述されていてなかなか面白かった。
    動物に関する記述で、私がいつもどーにもひかれる
    スプートニクに実験体として乗せられたライカについても取り上げてた。

  • この本のサブタイトルは「歴史に名高い動物たち」というもので、歴史上登場する動物たち40種が登場する。

    著者のミシェル・パストゥローは紋章学者である。紋章に使われる色彩や動植物にも着目してきた著者が、聖書の創世記の蛇から現代のクローン羊まで実在動物、伝説、寓話、信仰、伝承、文学など多岐にわたる分野のものをとりあげて本書を構成している。

  • やはりこのような「断片」を眺めてゆくのは楽しいです。ジグソーパズルのように文化の仕組みが判ってくる。歴史モノの醍醐味。

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著者プロフィール

1947年生まれ。フランス高等実習研究院第4部門名誉教授。色彩をはじめ、縞模様、動物や植物をめぐる歴史人類学の第一人者。著書多数。以下が邦訳されている。『縞模様の歴史』(白水社)『ヨーロッパの色彩』(パピルス)『紋章の歴史』(創元社)『青の歴史』(筑摩書房)『王を殺した豚、王が愛した象』(筑摩書房)『ヨーロッパ中世象徴史』(白水社)『色をめぐる対話』(柊風舎)『熊の歴史』(筑摩書房)

「2018年 『ピエールくんは黒がすき!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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