「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480860910

作品紹介・あらすじ

「正常/異常」に線引きする色覚検査が復活したのはなぜ? この問いを出発点に眼科医、研究者などを取材。先端科学の色覚観に迫った比類なきノンフィクション!

感想・レビュー・書評

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  • 色覚の検査、小学校の頃にやった記憶がある。
    結果、「異常」の可能性ありと判定されたクラスメイトがいたことを覚えている。
    たぶん、僕は、色がわからないことがどういうことか理解ができず、興味本位で彼に質問しただろう。どんな風に色が見えるのかを。
    彼はニコニコしてあまり気にしていない風だった記憶がある。でも、心ではどう思っていたのだろう。

    今から考えると、みんなの前で色覚について正常か異常かを診断する差別的な検査だった。
    しかも「色覚異常」に治療法はないときている。
    「色覚異常」が遺伝性のため結婚について注意を促したり、就ける職業を制限したりするための検査。
    なんのために、そんな重荷を小学生に負わせなければならなかったのか?

    この本は、「色覚異常」がはたして「異常」なのことなのか?を問う書だ。

    人が色をどう認知するのか、わかりやすく掘り下げていく。そうした中で、色覚に関しては決して「異常」があるわけではなく、連続しており、多様であり、広い分布があるもの、と認識に至れる。

    そして、たとえ色覚の認識が弱かったとしても、みんな自分の持っている感覚を総動員して生きているわけで、1つの感覚の性能のみで全体を語るのには慎重でなくてはならない。

    ただし、カラーユニバーサルデザインについてはしっかり環境を整備する必要がある。未だに黒板に赤いチョークを使う教師がいるらしい(ほんとか?)。誰もが認識しやすい色を用いることを心がけることは重要なことだ。

    光そのものに色はついていない。絶対的な色なんてない。光をどう捉えるか、ただそれだけだ。
    つまり、人によって無数の色認識がある。
    たぶん、僕とあなたの色認識は違う。
    僕が見える色は僕オリジナルのもの。
    そう考えると、日常の何でもない風景の色が、とんでもなく愛おしくかけがえのないものに見えてくる。

    発見がとても多い本なので、ぜひ皆さんに読んでほしい。

  • 色盲、色弱、色覚異常、そんな呼ばれ方をする人たちがいる。
    特に男性では決して少なくない「異常」。
    その特性から、本人はもちろん、家系事態が忌避されていた。
    日本人男性では20人に一人、女性では500人に一人の割合でいるにもかかわらず、だ。
    (公社)日本眼科医会 https://www.gankaikai.or.jp/health/50/06.html

    私は「保因者」である(女性は10人に1人)。
    これまで私が知る限りの近い親族に色覚異常を持った者はいない。
    色覚異常ではつけない(とされていた、いる)職業についていることが多かったため、ほぼ間違いない。
    誰も知らなかったが、ずっと、保因者の家系であったのだ。
    それを知った時はショックを受けなかった、と言えば嘘になる。
    だがよく考えてみるとかなり人数の多い「障害」、色覚異常は、本当に障害なのか、という疑問が出てきた。
    そして、この生涯を理解したい、と思った。

    過去を見れば、就けない職業があまりに多く、また、学生生活や結婚にまで、つまり人生におけるほとんどの期間、色覚異常の人々は差別されてきた。
    確かに、職業選択をする年齢で初めて絶対に無理だ、と言われたら本人の心のうちは如何程だろう。
    本書でも登場した中村医師を受診した際、やはり、早いうちに就けない職業があることを自覚する様に、と話されていた。
    中村医師を非難するつもりは毛頭ない。
    単純に、果たして過度に職業を制限する意味はあるのか、それが疑問だった。

    本書は色覚異常の過去から現在、そして、そもそも色覚がなぜ発達してきたのか、そのメカニズムだけではなく最新の研究や、これからの社会のあり方も述べている。
    ノンフィクションとしての質の高さもあるが、本人や、その親、親族の心の持ち方にも寄り添った書き方がされていて、本書はそんな当事者たちの助けにもなろうと思う。

    「負のラベリング」という言葉が何度も登場する。
    このことは多くを考えさせられる。
    誰しもが遺伝子上の「欠陥」を持っている。
    誰もが少数者、差別される側に回りうる。
    ずっとこうだったから、ではなくて、これからどうあるべきか、多様性がなぜ保たれているか、そのことを考えなければならない。
    そして、わからなからしょうがない、ではなく、だったら誰でもわかりやすく、それがこれからの当たり前なのだ。

  • タイトルから想像した内容とは異なった。これは色覚異常のある人に対する社会の差別を認識し、多様性の中でどのように適応していくのが正しいかを考えるためのレポートのような内容。
    予想とは内容は異なったが、ところどころ新たな発見はあり、読んでよかった。

  • 私が小学生のころは、健康診断で石原式色覚検査表の検査があった。皆面白がってやっていたが、確かに読めない子がいて、どうして読めないのかと不思議だった。馬鹿にしたりはしなかったが、読めない当人はショックだったろう。「負のラベリング」という言葉が重い。

    「色というのは、個々人の脳内で形作られる内的な感覚」「つまり、主観」

    男と女では色の見え方が違うと男脳女脳の本で読んだ。性別に限らず、そもそも色がどうみえているのかは、自分以外はわからない。他人も同じ感覚なのかどうかはわからない。

    「人は加齢とともに水晶体が着色して、青みを感じにくくなる」

    年齢によっても色の見え方は違うのだ。

    爬虫類、鳥類は4色型だったが哺乳類は2色型で明暗を使ってものの輪郭を見分ける明度視に秀でている。霊長類は森の中で果物を見つけやすいように3色型に進化したのだという。2色型の人はコントラストに敏感だという。

    「みんな自分の持っている感覚を総動員して生きている」

    それぞれが自分の個性で生きている。それを異常というのはおかしい。負のラベルを正のラベルに貼り替えて、負けずにポジティブに生きて欲しい。

  • テクノロジーが世界を変えるのひとつだと思う。

  • ふむ

  • 医学的見地と遺伝学的見地、生物学的見地からは見方が異なるという事。いろいろな角度で色覚•色を語ると、いろいろな考え方ができる。
    私は聴覚障害を抱えているけど、医学的には治療を勧められ、嫌でも自分は異常である事を受け入れざる得なくなるが、生物学的からはどんなに条件が整っていても一定数の割合でハンディを持つ個体が産まれるという理論で励まされる。
    一昔前の色覚差別がいかに異常であったかを考えさせられる本でした。

  • 色覚異常についてのはなし。
    多様性を大事にしようということ。

  • あらゆる「障害」とされていることに共通することだが、障害と正常というのはゼロかイチかで区分できるものではなく連続的、多次元的は広がりを持っている。
    障害があるのは個体の方ではなく、それを受け止められずに排除して狭めている社会の方なのだろうと常々思う。
    私は色覚では社会的に不自由をしなかったが、弱視でモノを立体的に見えないようで子供の頃から苦労した。おそらくこの違いは他人とは永遠に理解しあえないものなのだろうと思う。色覚においても同じように思って生きている人たちはたくさんいるのだろう。

  • 何の根拠もなく、見え方って人によって違っていて、同じものが見えていないのではないかと考えていた。色覚が人によってかなりバラつきが大きいと良くわかったので、同じ物でも同じに見えてはいないことがハッキリした。
    やはり多様性を受け入れて、違うことを追求する事は止めるべきだ。

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著者プロフィール

1964年兵庫県明石市生まれ、千葉県千葉市育ち。文筆家。東京大学教養学部卒業。日本テレビ勤務中、1995年『クジラを捕って、考えた』でノンフィクション作家としてデビュー。退社後、1998年『夏のロケット』で小説家デビュー。小説に『せちやん 星を聴く人』『銀河のワールドカップ』『算数宇宙の冒険』『ギャングエイジ』『雲の王』『12月の夏休み』など。ノンフィクションに『PTA再活用論』『動物園にできること』『ペンギン、日本人と出会う』『イルカと泳ぎ、イルカを食べる』など、著書多数。現在、ナショナル ジオグラフィック日本版および日経ビジネスオンラインのウェブサイトで「・研究室・に行ってみた。」を連載中。

「2020年 『「色のふしぎ」と不思議な社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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