希望格差社会: 「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480863607

作品紹介・あらすじ

職業・家庭・教育、そのすべてが不安定化しているリスク社会日本。「勝ち組」と「負け組」の格差が、いやおうなく拡大するなかで、「努力は報われない」と感じた人々から「希望」が消滅していく。将来に希望がもてる人と、将来に絶望している人の分裂、これが「希望格差社会」である。

感想・レビュー・書評

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  • 将来の夢を持つことが、非常に尊く大切なことのように声高に叫ばれている学校現場、キャリア教育。それが、実現可能性が非常に少ないとしても…。リスクを認識したり、希望がかなわない場合にどうするか、といったことは、親も子も当然に考えておくべきこと。希望格差は、昔から存在するものだと思うが、それがさらに進行しているということか。

  • 「日本社会は、将来に希望がもてる人と将来に絶望している人に分裂していくプロセスに入っているのではないか」
     これを著者は「希望格差社会」と名付け、その原因と将来を考察していきます。

     結論はうなずけるものがあります。でも、そこへ至る筋道が……どうにも納得できないものばかり。

     ひとつ例を挙げましょう。
     著者は、若者の絶望の原因のひとつとして、教育システムの崩壊を上げています。学校を出たからと行って、その学校の格に見合う就職が得られなくなった(パイプラインの漏れ)のが勉強のやる気を失わせているのだということです。さらに著者は「勉強を努力しても報われないというリスクに直面すると青少年は急にやる気を失う」のだと説明します。
     で、東京都生活文化局によるデータを提示するのですが、それが……
    ======================
     「今がんばって勉強すれば、将来役に立つと思うか?」
     という質問に対して、
     勉強が「できる」生徒は「そう思う」と答えた
     勉強ができない生徒は「思わない」と答えた
    ======================
     というデータです。

     勉強ができる生徒が「将来役に立つから」と思っているのは当たり前のことだと思いませんか? そう思っているから勉強するワケで。10年前と比べてさらにその傾向が強まった、というのなら著者の主張の補強になるでしょう。しかし、提出されているのは1回限りの調査データです。
     これでは、近年の傾向を説明するためのデータにはなりません。「努力が報われないとやる気が失われる」というデータでさえありません。「勉強が苦手なヤツは、勉強が大切だとは思ってない」というあたりまえの心理を説明しているだけです。こういうのを「すりかえ」というんでは?(まぁ、社会学の世界ではよくあることかもしれませんが……『反社会学講座』をひくまでもなく)

     この他にも「近年、こうなっている」と主張しているのに、昔と比較するデータがなかったり、「昔」が何年前かわからなかったりするものが見受けられます。また、データもないのに「決めつけている」例は枚挙のいとまがありません。

     また、たとえばあっさりと「児童虐待やドメスティック・バイオレンスも、一九九八年前後から急増している」と書いていたりするのも問題。「児童虐待防止法」の成立が平成12年、「DV防止法」の成立が平成13年です。要するに、統計上「見える」ようになっただけであって、それまでも存在はしていたのです。

     結局、著者は何を言いたいのでしょうか。現在の若者は、「努力しても空しい」状況下にあって「リスクフルな現実社会から逃走」している。甘やかされて育てられたあげく、パラサイトとなって社会の不良債権となり、依存症やひきこもりに逃避し、幼児誘拐などの自暴自棄型の犯罪を起こす、という結論です。刺激的で、キャッチーで、世の中年以上の層にひろくアピールできると思います。しかし、その結論へいたるための「論証」について、私はとうてい納得することができませんでした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/36467

  • 希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

  • 希望無き人の社会に対する不良債権化。1990年台から社会の形態が変わりだした。リスク化、二極化してきている。そして「希望」の格差が開きだした。いつか自分に相応しい仕事につけると思ってフリーターを続ける。いつか自分の相応な結婚相手が見つかると思ってフリーターを続ける。しかし見つからないことが分かったときにはもう方向転換はできない年になっている。まじめに努力しても将来(希望)が見込めない社会になりつつある。一部の能力のあり魅力のある人は自分のしたい仕事について、結婚もできるが、一般の人たちはそれが難しくなっている。

  • 最近流行りの上流・下流と言った格差社会に関する書籍は乱立気味であるが、本書は詳細で正確な記述で、「当たり」だった。
    特に、教育のパイプラインシステム(これは著者のオリジナルではなく、ハーバードの研究員が日本の教育システムを名付けたものの様だが)と、そのパイプからの漏れというものに非常に興味を持った。
    この分野の研究にはお薦めの一冊である。

    2回目:パイプラインについてはここで取り上げられていたのか。発見できて良かった。

  • 2年くらい前に読んだが、格差論のなかでも結構かゆいところに手の届く内容だった気がする。修論にも役立った。

  • 非常に納得できる現状分析。パイプラインの説明は分かりやすい。最後に解決のための方法論も載っているのだが、それは「まぁ、そうなんだけど、それでどこまで変わるのだろう?」という気もしてしまう内容(改革の必要性を意識する、行き過ぎた個人の責任論をやめる、個人的対応には限界があり従来の公共政策では解決しきれないので、公的機関が個人の対処を支援するべしetc.)。

    これだけ大きな問題に1人の人間が解決策を見いだせるわけもないので、当然といえば当然。意識して考え、行動する人が増えることで、小さな変化を積み重ねていけば、目に見える効果が出ることもあるだろう。そうなったら、その方法が通用する別の箇所に拡大するなどすれば、大きな変化にもなっていく。簡単な答えはない。

  • 日本は格差社会といわれるが、その格差とは経済的な格差だけではない。これからの将来に「希望」を持てる人と持てない人の格差が最も大きな問題だと筆者は言う。将来に希望を持てない者が将来のために我慢をして何かを行ったり、年金を払ったりはしないということである。将来に「希望」を持てる社会にすることこそ、最大の課題といえる。

  • 格差社会について書かれた本の中では1番良いものだと思う。

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著者プロフィール

大阪府出身。京都大学法学部卒。華々しい英雄伝が好きですが、裏話的なテーマも、人物の個性をあぶり出してくれるので、割と嗜みます。著書に『世界ナンバー2列伝』(社会評論社)など。

「2016年 『童貞の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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