官僚制としての日本陸軍

著者 :
  • 筑摩書房
3.33
  • (4)
  • (3)
  • (12)
  • (0)
  • (2)
本棚登録 : 111
感想 : 9
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480864062

作品紹介・あらすじ

近代軍事史を背景に、皇道派や統制派など派閥対立の実態や支那課官僚の動向、宇垣一成の同時代観などの検証を通して、昭和陸軍の興隆と没落を描く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 満州事変以降の日本陸軍の組織内の勢力争いに関して詳細で、一般に言われる皇道派、統制派の対立という単純なものではない、詳細な派閥の動きについて書かれている。
    統制派に実体がないということは言われていたが、これは、反皇道派=統制派という間違いであって、永田鉄山を中心とする一団を統制派とすることで説明している。
    宇垣一成の再評価は面白かった。

  • 著者の博士論文をもとにした『日本陸軍と大陸政策 1906〜1918年』(東京大学出版会)の問題意識を引き継ぐ著作とのこと。論文集であるため、読み進めるにあたって若干引っかかりを感じたが、大きな問題ではない。そうは言ってもやはり書き下ろしの最新2論文が全体を俯瞰する形で最初の章と最後の章に配置されており、その部分が一番読みやすかった。

    政軍関係の分析も大事だが、軍内部の派閥対立の実態を分析することで、昭和の陸軍はなぜ崩壊したのか、に迫っている。答えは、巨大な官僚制である近代の軍にを有効に動かすには、トップにきわめて強い政治力が必要だということ。「昭和の陸軍は、統一的な意思を持って国政を引きずりまわしたというよりは、統一的な意思形成能力を失って国政を崩壊に導いていった」(あとがき)。

    とくに面白かったのは、第4章の「宇垣一成の一五年戦争批判」というかなり長い書き下ろし論文である。この章だけでも読むに価するかと思う。

  • さすがといったところ。宇垣の後継者としての南次郎に焦点を当てた章がとても勉強になった。皇道派と統制派という区分は自明のものとしないほうがよい。

  •  独立した四本+αの専門論文からなり、読み応えがあるがなかなか難しい。その中で、陸軍では官僚化が進み、日中戦争のころには総合的な政策立案や判断を行うべき存在が欠けていた、という筆者の論は随所で感じられる。筆者はあとがきで「昭和の陸軍は、統一的な意志をもって国政をひきずりまわしたというよりは、統一的な意思形成能力を失って国政を崩壊に導いていった」と端的に述べている。
     加えて、明治憲法下では天皇の権力が強いというのが当然の前提で、だからこそ天皇の戦争責任も議論されたと思っていたが、天皇は議会、内閣、外務省、陸軍等の各組織の助言をそのまま受け入れることになっており、天皇の意志は周辺の助言者集団の中から作り出されるものとなったと指摘している。
     ほか、特記すべき点を備忘録的にまとめておく。
    ・元老、藩閥、親政党的な指導者が次第に消えていき。二・二六事件後に残ったのは軍官僚だけ。
    ・支那通は陸軍内では傍流であり、欧米経験も欠いていた。各地の軍閥と結んで互いに競争していたため、陸軍中央の政策はしばしば一貫性を欠いていた。陸軍の「暴走」や政治「介入」は、軍の文・民との対立というよりしばしば陸軍内部の分裂から起きた。
    ・荒木貞夫、真崎甚三郎、南次郎らは陸軍内外で勢力を持ち、国家統合を志向しうる存在であったが、二・二六事件以降の「粛軍」によりこれら政治的軍人は排除された。東條英機も単なる軍官僚。

  • ふむ

  • (執念に準備をして)日露戦争に勝った日本軍がどうして(アメリカに戦争を挑み)敗戦に至ったのか。一つの答えが、伊東博文など藩閥政治家のステートマンシップから陸軍など官僚機構による部分最適解の追求への変貌ということが挙げられる。では、陸軍はなぜ(軍として、あるいは各部門として)部分最適解を追求する官僚機構になってしまったのか。本書の関心はそこにある。
    陸軍を分析する視角は色々考えられる。著者の分析の視角は、派閥の合従連衡の変遷や中国情勢を分析する官僚の処遇など、人間的で非常に興味深い。しかも、それぞれについて数多くの例を分析しているのだから恐れ入る。
    明治藩閥政治家の時代は、目指す方向が明瞭で政策もそこからおおよそ説明できる時代であった。しかし、昭和になると、目指す方向がよくわからなくなり、政策もよくわからないものになる。本書は「ああ、だから訳が分からないのか」と納得させてくれる一冊である。

  • 北岡氏はどうも政権側に立つために(御用学者にならなければいいが…)、懐疑的な視点で本書も読んでしまった。

    氏が認めていたように湾岸戦争をきっかけに書いた第1章は正直、氏の政治的主張と日本軍を事例分析によって得られた見地との関連性がないため理解に苦しんだ。

    ただ
    ・明治期…維新志士の多くが軍事指導者であり、こうした志士の緩やかなネットワーク(軍閥・元老)によって脆弱な軍事制度が有効に機能し得た→日露戦争
    ・逆に純粋かした陸軍制度が、純粋な官僚機構へと変化し硬直した結果、国際情勢に有用に対応しきれず日本国を破壊していった

    という2点については納得できた。
    もっとも、個人プレイヤーの能力がなければ全く機能し無いどころか、守るべき国を壊滅にまで追いやるというこの日本の官僚機構とは一体何なのか…。

    そしてそれに対してまっとうな批判すら出来ない議会もね…。

    こうならないでほしいけど、どうもこの国でも「政権批判」がタブーになりそうで怖い。

  • 地元の図書館で読む。殆どの人が、予想外の本だと思います。専門用語が羅列された読みにくい本を想像されると思います。予想と異なり、非常に読みやすい本です。意外でした。

全9件中 1 - 9件を表示

著者プロフィール

国際協力機構(JICA)特別顧問、東京大学名誉教授、立教大学名誉教授

「2023年 『日本陸軍と大陸政策 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北岡伸一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×