- 本 ・本 (236ページ)
- / ISBN・EAN: 9784484202051
作品紹介・あらすじ
美しい国? 日本が? ―― この話、すべて真実。
石巻で、南相馬で福島で。
土木作業員の、除染作業員の、無数の「A」の、憎悪が渦巻く。
2020年度大藪春彦賞受賞作家、初の随筆。
バブル期は125名の社員を抱え、2400万円の年収があった「私」は、会社を破綻させたのち、兵庫県でコンサルティング業を営んでいた。 仕事は先細り、不安を覚えていた矢先、小さな土木会社を営む社長から、東北に仕事を探しにいってくれないかと持ち掛けられる。 東日本大震災が起きてから約半年。男性週刊誌に「狂乱の復興バブル」などという見出しが踊る時期だった。 月給40万、仕事が軌道に乗り儲けが出れば、それはきれいに折半しよう。 悪くない条件に乗って、私は仙台に入る。 しかし、女川町で最初の仕事を得たあたりから、雲行きが怪しくなる。 あくまで営業部長として東北に入った「私」まで、作業員の頭数として現場に出ることになったのだ。 そこには想像を絶する醜悪な現実があった。 住所不定、無職。 大藪春彦新人賞でデビューし、2020年に大藪春彦賞を受賞した注目の鬼才が書く初の随筆。
感想・レビュー・書評
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「初の随筆。」(帯の惹句の一節)なのだが、正直、エッセイ集という感じはしなかった。
随筆/エッセイという言葉から思い浮かぶ、〝日々のよしなしごとや季節のうつろいなどを、ゆったりとした筆で綴る文芸〟というイメージから遠く隔たっているからだ。
むしろ、「私小説」もしくは「震災ノンフィクション」だと言われたほうが、まだ得心がいくかもしれない。
赤松作品『ボダ子』『女童(めのわらわ)』に小説仕立てで描かれたことの多くが、本書には事実として登場する。
さらにいえば、やはり東北の被災地を舞台にしたデビュー作『藻屑蟹』のベースとなった実体験が綴られている。
『ボダ子』『女童』『藻屑蟹』を読まずにいきなり本書を読む人は少ないような気がするが、かりにそういう読者がいたとしたら、本書の内容がよく理解できないかもしれない。
そう思うほど、上記3作品――とくに『ボダ子』と密接につながっている一冊だ。
石巻・南相馬・福島と、3・11後の被災地で土木作業員・除染作業員として暮らした経験が、切々と綴られていく。文章は一見静謐なようでいて、その底に情念のたぎりを感じさせる。
インテリの著者が土木作業員たちのDQNな世界に放り込まれ、異質な彼らから陰湿ないじめを受けつづけるあたりの描写は、読んでいて胸苦しくなるほど苛烈だ。
「おバカさんの内面を嘘くさくなく描くのは、知的な人を描くよりずっと難しい」と言ったのは斎藤美奈子だが、本書のDQN描写も強烈なリアリティがすごい。
また、被災地で一攫千金を狙うあやしげな男たちの群像が、大変面白い。
東日本大震災関連本は私もかなりの数を読んだが、こんな角度から被災地の現実を暴き出したエッセイ集やノンフィクションはなかった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東日本震災後の復興特需に群がる人間が描かれた「藻屑蟹」「ボダ子」は、あくまで小説だった。
本書は、復興特需に乗っかろうとして、乗り損ねて住所不定無職となった筆者の随筆である。
かつてバブル時代にはゴルフコースのコンサルタントとして120人の従業員を率いていたが、バブルとともに会社は弾けた。
再起をかけて乗り込んだ東日本震災後の東北だったが、そこでは日雇いの土木作業員に揉まれる日々だった。
復興ビジネスの裏表を知り尽くし、そして最後には限界に気づく。
気が付いた時には下流国民へ。
まもなく震災から9年、日本という国自体の下への流れが止まらない。 -
震災後の除染作業等を行った方の赤裸々な話。
現実を知り、参考にはなったが文章として心に響くものは無かった。
苦役列車の方が文章として迫ってくるものがあった。 -
変わった雰囲気の文章です。
除染作業まですることになった現場の雰囲気、仲間となる人たちの育ちを感じさせる描写など、なかなか壮絶なことが淡々と書かれています。 -
大竹まことゴールデンラジオ
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ショッキングな現実。作者の経験は特殊ではなく、時代を先行しただけ。これから日本はこんないきあたりばったりな現場だらけの国になるんだろうな。
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著者の経歴が書いてあった
ゴルフ場の管理、アメリカやイギリスではそんなに優遇されるのかとびっくりした。
寄せ集めの作業員、底辺の人はそのレベルなのかと思った。まぁ私も底辺で下級国民だけれども
六文銭の男が気になった -
「実録!震災復興ビジネスの闇」な本。知る事のできない世界が小説仕立てで生々しく描かれ、結末も物語の様で良かった。土木系は結構わかる方だが人種描写も超リアル。
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著者の体験に基づいて書かれているだけにすごくリアル。貧困ビジネス関連の本を読むと、必ずそこで働く人々の独特さが描かれているんだけど、こちらも例にもれず特殊な方々がいっぱい。この奇異な環境の中、著者はよく耐えたと思う。向き不向きとか、著者が彼らを見下しているとか、もうそういう問題じゃなくて、住む世界が違うとはこのことだと思う。(むしろ異星人といってもいいと思う)
失礼を承知でいうけれど、一般常識があり、ある程度の文化的な生活を送ってきた人は、足を踏み入れないほうがいい世界だと痛感。
著者プロフィール
赤松利市の作品





