孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)

  • 東海大学出版会
4.45
  • (40)
  • (26)
  • (7)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 303
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784486018483

作品紹介・あらすじ

その者、群れると黒い悪魔と化し、破滅をもたらす。愛する者の暴走を止めるため、一人の男がアフリカに旅立った。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 『バッタを倒しにアフリカへ』で作者のキャラをつかんだので、力みかえった(ところどころ「校正しろ!」とつっこみたくなる)日本語遣いに気をそがれることもなく、バッタ研究の面白さを堪能できた。最初のうちは、うん、なるほどなるほど、と読んでいたのだけれど、半分も読んだあたりから、この人は何をしているんだ?この研究は何を目指しているのか?とわからなくなって、理解できない昆虫愛と探求心に研究者の凄み・マッドネスを感じられてそれもまたよかった。

    それにしても何かが大好きでそのために頑張っている人はなんと輝いていることか。休みの日に寝転がって本を読みながら寝落ちするのが何よりもしあわせな者には、遠くから拝むしかない煌き。拝めてありがたい。

  • 昆虫学の本だけど万人に勧められる抱腹絶倒科学本。とにかく 1 ページめくるごとに、予想外のエピソードに腹を抱えて笑わせられる。生まれながらの作家のごとく文章がうまいのだが、あとがきを読むまでは「なにしろ博士号までとっている学者なのだから、Publish or Perish で数々の論文執筆で鍛えた文章力が生きているのだろう」と思っていた。

    ところが実情はぜんぜん違ったようだ。この本は偶然知り合った某社社長と意気投合し、その社長の発案で日記も書いたことがない著者が、ネタ帳としてモーリタニアからこつこつとブログを書き続け、読者からの叱咤激励をもとにみっちり 1 年かけて文章力を鍛えた賜物であるらしい。とはいえ、著者以外も 1 年でここまで文章が上達できるとは思えない。常に周囲の人々と、逆境を含む置かれた環境に感謝して生きるという、「多い日でも安心の超吸収体♥」とでも呼ぶべき著者の素直すぎる性格のなせる技だ。

    本書が出色の出来であるのは、ある分野で一流になった科学者が、その学問の現在を面白く紹介するという同様の書籍でのメインストリームにとどまることなく、「なんでもすぐに諦めてしまう一介の昆虫好き肥満児」が、「粘り強く努力を続け、夢を叶え、一流の科学者に成長していくまで」の過程をさりげなくサブストリームとして紹介しているからだろう (その意味で昆虫文学とでも定義したい特殊な本でもある)。かけっこが早いわけでも、とくべつハンサムなわけでも、勉強がものすごくできるわけでもない昆虫オタクの小学生が読んだとしたら、これほど心に刺さる応援メッセージもあるまい。

    専門性が高い内容なのでそのまま小学生が読むのはいささか難しいかもしれない。だが、中学生、高校生であればすんなり読めるだろう。とくに 10 代の子供たちにこれを読んでもらえば、自尊心を高めるきっかけになるだろうし、著者という第二のファーブルから第三、第四のファーブルが生まれるにちがいない。

  • バッタを倒しにアフリカへ、から遡って読みました。本当にこの人の文章が大好きです。一番のツボはポスドクになり少し余裕をかましてクラブにハマり、夜のアゲハを追い求め研究が疎かになりそうになったくだり。しかもこの後オールでクラブで踊り狂った経験を活かし、砂漠でのフィールドワークで朝までバッタを追いかける体力を培ったあたりも転んでもタダでは起きない研究者魂を感じられ好感度大。好きな事に向かって全力投球の熱を注げるパッションがある人生は見てる(読んでる)だけで元気が出るのだ。

  •  モーリタニア国立研究所でバッタ研究に勤しむ前野ウルド浩太郎さんの、研究の記録。フィールドの生物学シリーズの一冊。

     前野さんのブログでも書かれていたが、少年の頃に、バッタ大発生の記事で、女性が緑色の服を着ていたばかりに、バッタの群れに服を食べられてしまったという話を知り、いつか自分もバッタに服を食べられたいと願い、そのまま大きくなってバッタ研究員になった。初志貫徹というか、すごい人である。

     サバクトビバッタは、主にアフリカで、しばしば大発生し、バッタの群れがやってくると、草という草が食べ尽くされる被害が起こる。
     サバクトビバッタは孤独であるときは緑色、群生しているときは黒い姿をし、知らない人は種が違うのではないかと思うくらいの差がある。

     孤独な環境で生育したものを孤独相、密集した環境で生育したものを群生相という。
     その孤独相、群生相が、どのような条件で移り変わるのかを、メスのバッタが産んだ個体を調査している。
     その調査したバッタの数が半端ない。ひとつの論文を書くのに、相当数のバッタを調査しているのである。
     また、すぐに使う当てがなくても、孤独相、群生相のバッタを多めに飼育して、研究のアイデアが出たときに即座に研究に取り組めるようにしている。凡人にはできないと感じた。

     研究内容もすごいが、バッタ博士の文体も面白く分かりやすかった。
     サバクトビバッタ研究に人生を捧げた前野さんの生き様が、絶対に真似できないが、すごい。
     ミドルネームのウルドは、モーリタニア国立研究所所長さんにいただいたものである。それを論文のオーサーネーム(著者名)にも入れて使うようになったのだから、その心意気が素晴らしいと感じる。

     クマムシ博士の堀川さんの著書やブログでバッタ博士の前野さんのことを知ったのだが、博士になる人はやっぱりすごい。

  • サバクトビバッタの研究について。そして著者の学者としての成長物語にもなっている。
    言動にちょっと驚きながらも感動した。
    何をやるにしても、「本人の熱意」と「自然から学ぶこと」「人とのつながり」の大切さを再確認。
    著者は大発生するバッタを絶滅させるのが目的ではないという。
    確かに。地球上のどんなものにも役割はあるはず。
    ところで大発生したバッタを捕獲して食用には出来ないのだろうか?

  • 20130615読了
    バッタ愛が炸裂している。理系で生き物を相手にする研究がどんなものか、その一端に触れられる本。幼い頃はバッタを捕まえて遊んでいたけれど、今となってはもう無理かもしれない・・・リアルなバッタの写真が突然出てくると本を取り落とす危険もあったが、おそるおそるでもページをめくるのを止められなかった。おもしろいから。●専門的な論文を読みなれていないせいか、私が文系だからなのか、分かりやすく書いてくれているであろう研究内容に関する記述をちょっと難しく感じることもあった。でも、小さな疑問をとらえてそれを解明できるような研究計画を練りバッタを育ててデータを取り解析しまとめる、そのおもしろさにはまっている著者のわくわく感にのせられて読み通せた。●聞きかじったことのあるカマキリの積雪量予想(カマキリは雪が積もらない高さに卵を産む)。これは夢物語である(卵はほとんどが雪に埋もれている、4か月雪に埋まっても羽化する)ことが、昆虫学者によって論理的に証明されていると知れてよかった。●著者のブログによれば2013年4月現在は帰国して無収入だそう。バッタの研究が継続できるよう、そしてまたモーリタニアへ行ってサバクトビバッタを愛でることができるよう、ひそかに応援しています。

  • 節足動物や甲殻類など手足系の生き物が苦手で、中でも1,2を争う苦手度の生物、バッタ。
    なのに本書を手にしてしまったのは、新聞の書評で川端裕人氏がおススメ本として挙げていたこと、また著者が新聞欄で紹介されていたこと、そして生き物の生態のなぞ解きに滅法弱い(いい意味で)私が、ついタイトルにひきつけられてしまったからである。

    冒頭の口絵写真や、途中に挟まれるその他もろもろの研究写真に、手にしたことを後悔したのは言うまでもない。
    データの解析など、著者が丁寧に説明してくれているものの、それなりに専門的な箇所はちょっとナナメ読みだったことも白状しよう。
    それでも、著者のテンポの良い、研究者然としていないフランクな語り口に乗せられて、いつしかバッタが苦手だったことも忘れ(本当は忘れてないが)時にぷっと吹き出しながら、楽しく読了。

    著者は小さいころから虫が大好きで、ファーブルにあこがれ、「虫に食べられたい!」という思いを胸に昆虫学者を目指したという。
    頓挫しそうになりながらも思いがけない出会いに救われ、この道に進むことができたそうだが、著者だけでなく、たとえばこの前読んだ星野道夫氏とか、小さいころからの夢をかなえて何かをやっている人は、ほとんど例外なく、どこかで自分の人生を転換してくれる人や物に出会っている気がする。
    でもそれは運が良かったと片づけるよりは、夢をあきらめずに常にその方向へ向かい続ける、自分自身でそのアンテナをいつも張り続けている、発信し続けている、その結果に他ならないのではないか。
    自分にそんな情熱を傾け続けられる何かがあるだろうか。

    情熱に突き動かされ、研究生活に没頭する著者を応援したくなる一冊。

    余談ですが。
    ・研究室で雇われているパートのおばさん、彼女の仕事として飼育しているバッタ群のエサ換えというのがあるそうで写真が載っていた。
    うーむ、恐ろしい。想像だにしたくない、そんな仕事を与えられる自分。研究室のパートって怖いとこなのね…。

    ・以前読んだ『邪悪な虫』で取り上げられていた3.5兆匹発生したというロッキートビバッタではなく、サバクトビバッタという種類だった。
    トビバッタの仲間はみな似たような生態なのかな…?

    ・初めて知るバッタとイナゴの違い。相変異するのがバッタ(Locust)、しないのがイナゴ(Grasshopper)。ショウリョウバッタやオンブバッタも本当はイナゴの仲間なのだそう。へ~、グラスホッパーは日本語ではバッタだけど、分類上はイナゴなんだね。

    ・著者は研究成果をサバクトビバッタの撲滅には使いたくない、数をコントロールする方策に利用したいと言っている。バッタの大量発生に悩まされる農家の方々はそれこそ死活問題なのかもしれないが、彼らも自然の生態系をつくりあげている生き物の一つ。うまく折り合いをつけながらバランスを取りながら、守っていけるのが一番なのだろう。
    昆虫学者の桐谷圭司氏の言葉として著者が挙げている。
    「害虫も数を減らせば、ただの虫」
    そうなんだろうな~。うう、でも苦手だよ~。

  • 虫系の本と読むと、それまでに自分が抱いていたイメージが音を立てて崩れていくことも多いのだが、本書はその中でも群を抜いている。

    サバクトビバッタ。その名の通り、サハラ砂漠などの砂漠や半砂漠地帯に生息しているバッタで、西アフリカから中東、東南アジアにかけて広く分布している。見た目は馴染みのあるトノサマバッタに似ているのだが、しばしば大発生して次々と農作物に破壊的な被害を及ぼす恐ろしい害虫なのだ。

    そもそもバッタとは、ラテン語の「焼野原」を意味する言葉に語源を持つそうだ。バッタの卵は「時限爆弾」、農薬は「ケミカルウェポン」と呼ばれるくらい物々しい世界なのである。

    人類とは長い付き合いがあり、聖書にも記述が残されているこの「黒い悪魔」。その最大の謎は、大発生の時に遅いかかってくる黒いバッタが、普段どこにいるのかということである。平和な時には忽然と姿を消しており、いっこうに見つからないのだ。

    だがある日、ロシアの昆虫学者が衝撃の発見をする。複数のトノサマバッタの幼虫を一つの容器に押し込めて飼育すると、あの黒い悪魔に豹変するというのだ。そして、その変身は「混み合い」すなわちバッタ同士が互い一緒にいることが引き金になっていることまで明らかになる。

    姿形のみならず動きまでも違う2種のバッタを、一体誰が同種だと想像できただろうか。これが相変異と呼ばれる現象であり、低密度で育った個体は孤独相、高密度化で育った個体は群生相と名付けられているそうだ。

    ここまでで充分に面白いのだが、本書はここからが出発点である。著者は、このメカニズムを解明しようとする若き研究者、前野ウルド浩太郎氏。

    「混みあい」とは大きく3つの刺激情報に分けられる。1つ目は視覚的な情報、2つ目は匂いの情報、3つ目は接触による情報、つまりぶつかり合いだ。この3つのうち、バッタはどれを混み合いの情報として認識しているのか?

    これを数々の実験を通して明らかにしていくのだが、実験手法や向き合う姿勢に、研究者の人となりがオーバーラップして、ぐいぐい引きこまれていく。若さゆえの勢い、不安やとまどい、「誰にでもできることを、誰にもできないくらいやろう。」という強い熱意。とにかく読み出したら止まらない一冊。

  • サイエンス

  • 生物図鑑を読んでいると、生態が明らかでない種の数に驚かされる。
    メジャーな生物ですら専門書が出版されていないことも多く、
    カニとワタリガニの生態の違い、タコとイカの進化系統、カバの亜種など、
    さほど専門的でないことですら詳しく調べようとすると苦労する。

    では、そもそも生物を理解するためには何が必要とされるのか。
    遺伝子やゲノム、分子生物学的な装置や手法に頼らずとも、出来ることは山とある。

    例えばバッタ。
    脱皮回数を記録し、体長を計測し、触覚の節を数え、数ミリの卵のサイズをノギスで測る。
    もちろん闇雲に繰り返すのではなく、飼育密度、エサ、部屋の明るさを変え。
    さらには卵黄を減らしたり、蛍光塗料を塗る場所を変えたり、触覚を色んなものでこすり続けたり。

    そういう数十万もの試行があってこそ、従来考えられていた『泡栓に含まれる物質の蓄積で群生相、孤独相は変化する』、
    『混み合いは後ろ足の接触頻度で判別される』といった定説は覆され、
    『親の成虫期の密度、孵化したときの大きさ、幼虫時の飼育密度の組み合わせにより成虫形態が決まる』、
    『混み合いは異性の触覚が触れあうことにより判定される』、『住環境の明るさが卵の大きさに影響する』といった新事実が明らかになる。

    たった一つの種を理解するのに、一体どれだけの人間と資金と時間が必要とされるというのか。
    しかも、それが理解されたとして人類に直接的なメリットがあるとは限らない。

    だが、そんな研究に人生をついやせる人間がいて、さらにその生活を支えることができる社会のなんと素晴らしいことか。
    本書では研究の苦労が余す所なく素直に述べられているというのに、
    学問の原点である「知らないことを明らかにすること」の楽しさを改めて思い出させてくれる。
    たくさんの人が役に立たない研究を成し遂げ、また、それを多くの人が楽しめる社会であることを願わずにはいられない。

全36件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

前野ウルド浩太郎(まえの うるど こうたろう)
1980年秋田県生まれ。弘前大学卒、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了、京都大学白眉センター特定助教を経て、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター研究員。モーリタニアでの研究活動と意欲が認められ、現地では最高の敬意が込められているミドルネーム「ウルド」(~の子孫の意)を授かり、通名・研究者名にする。「研究のことを世に知ってもらう宣伝活動と研究活動の2軸を柱にバランスを考え」活動中。主な著書に『孤独なバッタが群れるとき――サバクトビバッタの相変異と大発生』、第6回ブクログ大賞、第71回毎日出版文化賞受賞作『バッタを倒しにアフリカへ』。

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)のその他の作品

前野ウルド浩太郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
クリス・アンダー...
ジャレド・ダイア...
エリック・ブリニ...
國分 功一郎
三浦 しをん
ジェイムズ・P・...
有効な右矢印 無効な右矢印

孤独なバッタが群れるとき―サバクトビバッタの相変異と大発生 (フィールドの生物学)を本棚に登録しているひと

ツイートする