- Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
- / ISBN・EAN: 9784487752171
感想・レビュー・書評
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著者は作家にして古代医学研究家である。古代の医書『医心方』に魅せられ、その研究と現代語訳に没頭、2012年に『医心方 全訳精解』全30巻を完結させた。この『医心方』とは、984年に鍼灸博士丹波康頼が宋代以前の中国の文献から編んだ医学全書である。引用された文献の大半は現代中国にも残っておらず、まさにタイムカプセルのような世界的遺産だと言えよう。1955年以降中国の学者がその実証的研究に乗り出したが、その内容は中国人にさえ極めて難解なものだったらしい。まだ『医心方』の出版のめどが全くついていない時に、出版に向けて『医心方』の魅力を書いてくださいと言われて書かれたのが、本書『日本昔話と古代医術』である。本書を繙くと「桃太郎」「瓜子姫」「一寸法師」「舌切り雀」「カチカチ山」「猿蟹合戦」「花坂爺」「瘤取り爺」「浦島太郎」「かぐや姫」と馴染み深い昔話が並んでいるが、それらの異説や原型をたどりながら、それではなぜこの物語にこのアイテムが登場するのか、古代医学の観点から見事に解き明かしてくれる。例えば「桃太郎」では桃の薬効が詳細に紹介される。そうなると、纏向遺跡で発掘された2,800個に及ぶ桃の種(桃核)も単なるゴミではなく、薬材として保存されていたのではないかと思えてくる。著者の博識には驚かされるが、一方では作家的な空想や思い出話も交えて楽しませてくれる。
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医心方を訳した作者による、昔話にみえる医術の話。
鬼のビジュアルは鬼門(丑寅)が由来、にはじまり、凶事のときの炊き出しは「おにぎり」であり「おむすび」ではないとか、火を通した柿には解毒作用がある、カニの髄や脳が切れた筋骨をつなぐ、邪魅を防ぐにはその正体を知って名を呼ぶ、蜂は益虫、白犬はめでたいしるしであり「ぽち」は日本語で「点」、そして犬は怒ると毒を持つのでその霊を呪詛に使う、灰は白髪染めや色んなものに効く、穀霊は邪気を避けるがライスシャワーもその一種か、などなど楽しく読めた。