緑衣の女

制作 : 柳沢 由実子 
  • 東京創元社
3.87
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本棚登録 : 418
レビュー : 75
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010010

作品紹介・あらすじ

数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が捜査官エーレンデュルの手で明らかに。CWAゴールドダガー賞・ガラスの鍵賞受賞作。世界が戦慄し涙した。究極の北欧ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 評価の高いアイスランドのミステリ。
    ある女性の過去の人生がさしはさまれ、捜査官エーレンデュルの人生にもある転機が訪れる。
    印象深い作品です。

    首都レイキャビクの郊外にある住宅建設地で、古い骨が発見された。
    現場近くにはかって古いサマーハウスがあり、第二次世界大戦の終わる頃には、イギリスやアメリカの軍人が住むバラックもあったという。
    捜査に当たるエーレンデュルらは、緑色の服を着た女性がたびたびその地に現れたという話を聞く。
    一体何者なのか‥?

    若い女性と幼い子供が夫に虐待される悲痛な現実が、挿入されていきます。
    それがどこでどう事件と関わっていくのか‥?
    あまり酷いので目を覆うばかりですが、作者が家庭内暴力を甘く見られがちなことに義憤を感じ、問題を明らかにしたかったようです。
    暴力で命の危険にも晒されて、被害者は判断力を失ってしまう。拒否すればいいとか、家を出ればいいということで済むような問題ではないのだと。

    エーレンデュル自身の幼い頃の悲劇と苦悩も明らかに。
    若くして離婚、妻にはいまだに恨まれています。
    そのいきさつと、音信普通だった間に壊れてしまった子供達の問題も。
    娘エヴァ=リンドは妊娠していて、薬を減らそうと努力していましたが、家を飛び出します。必死に探す父親。エヴァ=リンドは危機に陥りますが‥
    絶望的に見えた状況に奇跡が‥!
    一筋の希望がともります。

    この作品で、北欧ミステリの賞「ガラスの鍵」賞を連続受賞したばかりか、CWA賞ゴールドダガー賞も受賞しています。
    邦訳2冊目ですが、シリーズとしてはもっと前から書き継がれているので、ずっと読んできた読者の感動はさぞかしと思わせます。

  • 北欧・アイスランドを舞台とする社会派ミステリである。
    アイスランドは火山と氷の小さな島国、人口は30万人ほどである。ミステリ小説王国であるイギリスの後塵を拝し、この著者以前にはほとんど国産ミステリはなかったという。
    著者によるアイスランドの風土を盛り込んだミステリ・シリーズは爆発的な人気を得て、すでに12作が発表されているという。うち、邦訳は、シリーズ3作目の『湿地』に続き、シリーズ4作目の本書が2冊目である。2003年ガラスの鍵賞(北欧推理小説対象の文学賞)、2005年CWAゴールドダガー賞(英国推理作家協会が主宰する最優秀長編作品に与えられる賞)をダブル受賞している。

    シリーズの主人公となるのは、やもめの捜査官エーレンデュルである。結婚して2児の父となったが、妻との間がしっくりいかずに離婚。元妻には激しく恨まれ、息子・娘とは疎遠なままとなった。
    エーレンデュルとは「異邦人」の意だという。事情があって小さい頃に田舎からレイキャビクに出てきた彼は、いまだにここを自分の居場所だと思えずにいる。決して優等生ではなく、スーパーマンでもない。自らも問題を抱えるいささかくたびれた捜査官が事件に向き合うところが本シリーズの魅力の1つだろう。

    アイスランドの地理や歴史が織り込まれている点も、物語を読み応えのあるものにしている。
    さしたる産業を持たない国が、戦時に英軍・米軍の駐留で賑わい、やがて近代化の波に揉まれていく。厳しい自然の中で遭難する失踪者も珍しくない気候を背景に、そうした変遷が綴られていく。

    物語の軸は主に3つである。
    住宅建設地で発見された古い人骨を巡る捜査。
    妊娠中であるのに麻薬中毒である娘とエーレンデュルの間のわだかまり。
    そして、時代は不明だが、激しい家庭内暴力に耐える女性とその子どもたち。
    3つのストーリーが巧みに織り上げられ、終末へと向かっていく。

    ミステリ部分のプロット自体はあっさりした感じである。派手などんでん返しはなく、犯人との息詰まる対決があるというタイプでもない。
    著者は、スリルやサスペンスやトリックよりも、「なぜ」「誰の」骨が「どのような顛末で」埋められたのかを丁寧に追っていく。骨を取り出す担当となった考古学者が急がずに発掘を進めていくのに合わせるように、著者の分身のようにも思えるエーレンデュルも時間を掛けて真相に迫っていく。
    犯罪を糾弾するのではなく、弱者を深く見つめようとするまなざしが印象的である。
    人生どうにもならないこともあることを知る世代、特に男性読者には響くものが多いように思われる。

    主要人物の出産直後の行動にいささか無理が感じられたり、各登場人物の視点転換がときにぎくしゃくした感じを受ける点は、瑕疵とまでは言えないが、個人的には引っかかりを感じた。
    しかし、暴力や貧困、家庭の不和といった問題にじっくり取り組み、腰を据えて描いていく本シリーズは、機会があれば別の作品もまた読んでみたいと思わせる魅力を持っている。


    *登場人物の1人、ソルヴェイグという名を聞いて、「ペール・ギュント」を思い出した。旅に疲れたペール・ギュントに優しく子守歌を歌う女性。北欧ではよくある名前なのだろうか。

  •  前作『湿地』に続き、ガラスの鍵賞を連続受賞、英国CWAゴールドダガー賞を受賞した、北欧のサーガ・ミステリ。
     エーレンデュル捜査官シリーズ続編。
     アイスランドの首都レイキャヴィグ郊外の住宅建設地で、土中から人骨の一部が発見され、発掘と調査が進められる。
     人骨事件の捜査と、主人公の回想と家族問題、数十年前に起きた或る一家の家庭内暴力。
     三つのラインが平行して描かれる三重構造となっている。
     捜査が進むにつれて、封印されていた過去が徐々に明かされるが、その緻密な構成と筆写力の巧みさに戦慄しつつも、唸らされる。
     調査結果や証言により、骨の正体を読者に予想させては覆し、最悪の結末を予感させつつ、ラストまで引き込む強烈な吸引力は相変わらずだ。
     しかしながら、今作においては謎解き自体にあまり意外性はない、というより推理そのものがさほど重要視されていない。
     主眼はあくまでドメスティック・バイオレンスの考察にあり、容赦のない描写と凄絶さ、人間性の圧殺と、そこからの回復を追究しようとしている。
     鬼畜の所業に明け暮れる男の姿は、人間という種の暗部、『人間が壊れる』とは如何なることなのかを、徹底して暴こうとする著者の覚悟の表れと見受けた。
     最後に『女の名前』が明かされた時、著者の意図と、僅かながらの救いを実感する。
     これは、ミステリの枠に収まらない、人間の業に向き合った文芸作品と言えるだろう。

  •  北欧ミステリを読むにつれ、どんどんその魅力にはまりつつあるのが最近の私的読書傾向。独自の気候風土が持つ異郷としての魅力に加え、警察小説として修逸である作品がこれほど多いのには驚かされる。世界的に翻訳され、海外小説にはいつも分の悪い日本であれ、最近はどんどん翻訳が進められ(数少ない北欧言語の翻訳家は大変だろうと思う)、我々の手に触れるようになったことは喜ばしい限りである。

     日本の書店を賑わして最近とみに注目されるようになっているのが、北欧五ヶ国で最も優秀なミステリに贈られるという『ガラスの鍵』賞ではないだろうか。本書のアーナルデュルは、この賞を同じエーレンデュル捜査官シリーズで『湿地』に続き二作連続受賞。本書ではさらに権威のあるゴールドダガー(CWA=英国推理作家協会)賞も受賞している。受賞すれば書店の本棚に並ぶのは日本の書店の通例であるが、とりわけ『ガラスの鍵』賞が日本人に馴染みが出てくるとともに北欧ミステリが根強く人気を博してゆく状況は、この先も明るい材料であると思う。北欧ミステリの水準の高さを見るにつけ、それは妥当なことのようにしか思われないからだ。

     さて、本シリーズはアイスランド警察の捜査官エーレンデュルの物語。アイスランドでは数少ないといわれる女性捜査官エリンボルクとUS流の捜査の仕方を学んできた若き捜査官シグルデュル=オーリとの三人コンビである。それぞれに強烈で、互いに主張の強い個性が捜査の中でもぶつかり合う中で、エーレンデュルは感情を表に出さず、捜査方針を纏めては通常ならとても使いにくそうな二人の部下に捜査内容を淡々と配分する。捜査においてはエーレンデュルは一貫してプロの仕事に徹しているように見える。

     アイスランドでは犯罪発生件数が極端に少ないらしいが、本書でも何十年も前に葬られたであろう死体の発見から本書は始まる。現在の事件というとさほどないのだそうだ。そんな犯罪の少ない土地で、犯罪として取り上げられなかった過去の死体にこの国が他国家と同じように内包する現実を墓と一緒に掘り出して見せたのが本書『緑衣の女』である。

     ずばりテーマはDV=家庭内暴力である。凄まじいほどの夫の暴力に晒される女性の姿が捜査とは別の章で語られる。女性には連れ後の長女、暴力男との間に長男と次男がいる。時に長男の視点で悪魔の行動が描かれる。父親には見えず悪魔にしか見えない父親。恐怖にさらされる家庭の様子が淡々と描かれる。

     さらにエーレンデュルは失われた家庭を抱えている。前作『湿地』でも、離婚して二十年になる妻の一向に冷めやらぬ元夫への憎悪の様子や、音信不通の状態になった長男、薬漬けになって人生を破壊している長女の様子が描かれ、とりわけエーレンデュルに助けを求めるかのように現れたエヴァ=リンドとの歪みながらも必死の父娘のやりとりは見ものであった。

     本書ではそのエヴァ=リンドに試練が訪れる。父親のエーレンデュルにとっても自分の実人生以上の試練である。

     このように捜査の進行状況、捜査官の家庭問題、事件の渦中の人々……と、三つの視点で物語を描きながら、本書は緊張のままに全巻を終えてゆく。国の真実を描くにはミステリという形がよい、と判断してミステリ作家の道を選んだアーナルデュルは、父親がまた作家であるという。血統を継いで、父親とはまた別のミステリという分野に表現の道を見出したアーナルデュルは、これからも土と時とに埋もれた真実を暴き出す作業を決してやめはしないだろう。

  • ドイツに続いてアイスランドのミステリに挑戦。初アイスランドである。
    人口30万、国土は日本の3分の1という平和な島国だそうだ。そのせいか?語り口はあくまで穏やか、淡々と…ながらに描き出しているDVのシーンは生々しすぎて訳者が訳すことをためらった、とあとがきで書くほど。

    物語は、古い骨が建設現場で発見されたことから始まる。数十年も前のものらしい骨の主を警察官が捜して…。なにしろ事件は遠い昔の話なので、突然サイコパスが現れたり、あっと驚くどんでん返しが…ということもない。ドキドキハラハラがないのに、本当は何があったのか、どうしても知りたくなる。

    けれど、警察官本人が送る悲しい人生(現在)と、数十年前の現場に住んでいた人々の人生(過去)が、骨がそっと土中から時間をかけて掘り返されていくのと並行して少しずつ明らかになっていく。

    警察小説ということでミステリの範疇には入るのだろう。けれども単なる小説としても読ませる力のある作品だった。前作も読もうと思う。

  • アイルランドを舞台にした警察官エーレンディル・シリーズ第2弾。

    レイキャヴィク郊外の住宅開発地で発見された古い人骨。埋葬されたものなのか、それとも事件の犠牲者なのか。捜査官エーレンディルの地道な捜査が、過去の陰惨な事件に光を当てる──。

    ストーリーは、人骨を捜査するエーレンディルと部下たち、エーレンディルと娘エヴァ=リンドの関係、ある家庭のドメスティック・バイオレンスの三つの柱で構成される。

    特にドメスティック・バイオレンスの描写は陰惨極まりなく、読んでいて本当に心が重かったのだが、同時にいかに邪悪なものであるかを強く胸に刻まれる。

    本来暖かいはずの家庭が牢獄と化した時、その中でなにが行なわれているのか、部外者から窺い知ることは難しい。本書の舞台はアイルランドであるが、日本でも同じような状況の家庭があることは、想像するだけでも嫌になるが現実だろう。社会全体で取り組みべき課題であることを強く認識させられた。

    オススメできる社会派ミステリの一冊である。

  • 三つのパートから構成されている。人骨捜査とエーレンデュルの娘の災難は現在のお話。その合間に挟まれる、十数年前のとある家族のストーリーが、本作品の屋台骨をがっちりと支えている。人骨捜査もエーレンデュル・ファミリーの話も気にはなるが、とにもかくにも、この家族の歴史が凄まじく陰惨で、序盤は怒りを通り越して吐き気を催すほどだった。

    “暴力”という表現は、それを経験したことのない人たちが使う言い回しだ──という台詞に思わず背筋が寒くなった。肉体的、精神的に破壊される様が淡々と繰り返し描かれている。目を背けたくなる心情に反比例するかの如く、なぜかページを繰る手は止まらず、気付けば一気に読み終えていた。強さと弱さ、惨さと慈悲、そして冷酷と優しさ、真逆の印象が秒刻みで、しかもそれぞれMAXで襲ってくるので、精神的にかなり翻弄されるが、読後感は悪くない。余韻は尾を引くが、一定のラインで折り合いをつけることで、沈静化するはず。

    ミステリ度は低めたが、鋭角に食い込んでくる辺りに、シリーズとしての確実な成熟を実感した。やっぱり柳沢さんの訳だと安心するのかしら。

  •  エーレンデュル刑事のアイスランド警察もの2冊目。偶然発見された白骨死体の捜査から過去の陰惨な事件が浮かび上がる。職人肌の発掘チームの作業が遅々として進まないので、被害者は誰だ状態で過去の周辺の住人や行方不明者を当たるという迂遠な捜査を強いられる。一方、それと交互に陰惨な家庭内暴力事件が語られてゆくので、これが事件の芽なのだなということがわかり、被害者も犯人も予測の範囲なのでミステリ的な意外性はあまりない。前作に続いてエーレンデュル自身の私生活や娘との葛藤が綯い交ぜにされていて、全体としては家庭問題が主題の社会派ミステリという範疇なのだろう。しかし相変わらず全体が暗く陰鬱で読んでいて気が滅入る。北欧だって晴れる日も明るい人もいるだろうにと思ってしまう。

  • 偶然見つかった古い人骨。
    被害者の手がかりはなく。
    捜査陣は当時を知るものを探し出し話を聞いていくが…。

    『湿地』同様人間の痛みを描いているのだけれど、主に暴力のターゲットになるキャラクタが子供を守るという点において筋が一本通っている分だけこちらの方が好み。
    どちらにしろ読んでいていい気持ちはしなかったけど。

  • 「湿地」に続いて高評価のアイスランド発ミステリ。中盤からの緊迫感みなぎる展開は圧巻だ。

    しかし…、あまりにも重苦しい。「フロスト」を読んだばかりだからよけいにそう思うのかもしれないけど。

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