北京から来た男 上

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010300

作品紹介・あらすじ

スウェーデンの小さな村でその惨劇は起きた。村のほぼ全ての家の住民が惨殺されたのだ。老人ばかりの過疎の村が、なぜ? 北欧ミステリの帝王ヘニング・マンケル渾身の大作。

感想・レビュー・書評

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  • 2006年1月、スウェーデンの寒村で村民が全員虐殺された。一体何のために? 140年あまりの時と空間を超え、アメリカ、中国、スウェーデンとつながる壮大な物語。19世紀の先祖の転変の物語、手に汗握る大河小説の趣もありとてもおもしろかった。

    スウェーデンの裁判官ビルギッタ。貧苦から今や企業を興し富豪となった広東のヤ・ルー。この二人の先祖の物語が、19世紀後半のアメリカ移民史ともなっている。アメリカ横断鉄道の工事現場に、スウェーデンからの移民、騙されて工夫にされた中国人としてクロスしているのだ。その工事現場には、アイルランド人、スウェーデン人、中国人、黒人などの工夫たちがいた。イギリスを頂点とするアメリカの人種間ピラミッドの悲惨な現実をマンケルは描き出している。

    また中国にキリスト教を布教する宣教師もクロスするのだが、中国の邪宗を正しいキリスト教徒に改宗させるのだ、という言葉を吐かせ、白人(この時はスウェーデン人)の対アジア人感、埋めようのない蔑視意識も描いている。

    ビルギッタは50代の女性裁判官で、新聞報道された寒村の家を、母の形見の写真の中に見つける。上巻の途中で虐殺の意図はこれか? と想像はつくのだが、ここまでやるか? とも思うのだが・・

    ビルギッタは虐殺の村とのつながりから、一人行動を起こすのだが、後半ではあまりの無防備さに、読んでいいらいらしてしまった。でも読み手は俯瞰して読んでるから危ないのが分かるんだろうな。でも最後には、ぼんやりわかっていてもつながりを認めたくなかった、という言葉も言わせている。



    2008発表
    2014.7.25初版

  • 地域的にも時間的にも壮大な物語、この内容をバラバラにならず、中だるみもせずに一気に読ませるのはさすがです。事件は非常に陰惨で、その背景となった出来事が語られるくだりでもこれでもかというほど死人が出て、読むのが少ししんどかったです。てっきり警察小説と思い込んで読み出したので女性刑事が主人公と思って読んでいたら違っていて、被害者の遺族と関係のある女性裁判官が主人公でした。職業柄、法律や証拠や証言の扱い、それに事件関係者の振る舞いなどに詳しいことが利点となって難事件がぐいぐい動いていくのですが、反面そういう知識が豊富なのにそんな無鉄砲で衝動的な行動を取るだろうか?!というような場面もちらほら、最初に主人公を取り違えてつまづいたせいもあり、そんな風に違和感を覚えながらでしたが面白かったです。題名の通り中国が大きい鍵なのですが、その部分は自分の中に判断材料が足りず、いかにもありそうではあるものの、正直なところはどうなんだろう、と良くわかりませんでした。読み終わってみると、ミステリー作品という形式ではありますが、この作品は拉致され連れ去られて、アメリカ先住民や黒人やアイルランド人に混ざり強制労働をさせられた中国の人々のことを書きたかったのかな、と思ったりしました。

  • なんとも派手なスタートに、おお!と思うも、その後思いもかけない展開に…。

  • 雪深く凍てついたスウェーデンの小さな村・ヘッシューヴァレンで起きた村人の大半が虐殺された。あまりにも凄惨な現場と不似合いなほど綿密に練られたと思しき計画性の高さ。誰が何のために?

    1人の女性弁護士が亡き母と村のつながりに気付いたことから事件は遠い過去と人物たちの結び付きを明らかにしていく。

    タイトル『北京からきた男』の意味するものが深く深く納得出来るまでの、蜘蛛の糸のように細く繊細で、かつ絡みついたが最後身動きが取れなくなるような物語。

    長い! ややこしい! 生活環境や文化思考を理解するのにちょいと手間がかかるけど、サイッコウのミステリです。マンケル、流石‼︎

  • スウェーデンの作家「ヘニング・マンケル」の長篇ミステリ作品『北京から来た男(原題:Kinesen)』を読みました。

    『目くらましの道』、『背後の足音』、『タンゴステップ』に続き「ヘニング・マンケル」作品です… 読み始めると北欧ミステリは続いちゃいますね。

    -----story-------------
    〈上〉
    凍てつくような寒さの早朝、スウェーデンの中部の小さな谷間でその惨劇は起きた。
    村のほぼ全ての家の住民が惨殺されていたのだ。
    ほとんどが老人ばかりの過疎の村が、なぜ? 
    女性裁判官「ビルギッタ」は、亡くなった母親がその村の出身であったことを知り、現場に向かう。
    現場に落ちていた赤いリボン、ホテルの防犯ビデオに映っていた謎の人影。
    事件は「ビルギッタ」を世界の反対側へと導く。
    北欧ミステリの帝王「ヘニング・マンケル」渾身の大作。

    〈下〉
    殺人現場の家を訪れた「ビルギッタ」は、刑事の目を盗み数冊のノートを持ち出した。
    ノートに記されたネヴァダの文字。
    それはスウェーデンの寒村で起きたのと似た血塗られた事件が起きた土地だった。
    手記は一八六〇年代、アメリカ大陸横断鉄道の建設の現場主任のものだった。
    十九世紀の中国の寒村、鉄道建設に沸く開拓時代のアメリカ、そして発展著しい現代の中国、アフリカ。
    現代の予言者「ヘニング・マンケル」による、ミステリを超えた金字塔的大作。
    訳者あとがき=「柳沢由実子」

    *第10位『このミステリーがすごい!2015年版』海外編
    -----------------------

    「ヘニング・マンケル」作品ですが、代表作の警察小説「クルト・ヴァランダー」シリーズではなく、『タンゴステップ』に続きノンシリーズモノです… 時代が2006年(平成18年)から、1863年(江戸時代末期の文久3年)まで飛び、舞台はスウェーデンの片田舎から、デンマーク、イギリス、中国、アメリカ、ジンバブエ、モザンビークと世界各国に亘っており、とてもスケールの大きな作品に仕上がっていましたね。

     ■第一部 静寂(二〇〇六年)
      ・墓に刻まれた言葉
      ・裁判官
     ■第二部 "ニガー&チンク"
      ・広東への道
      ・羽根と石
     ■第三部 赤いリボン(二〇〇六年)
      ・反逆者たち
      ・中国将棋(ザ・チャイニーズ・ゲーム)
     ■第四部 入植者たち(二〇〇六年)
      ・象に剥かれた樹皮
      ・ロンドンのチャイナタウン
     ■エピローグ
     ■著者あとがき
     ■訳者あとがき 柳沢由実子

    2006年スウェーデンの中部ヘルシングランド地方の小さな谷間の村に足を踏み入れた写真家「カルステン・フグリーン」は、信じられない光景を目撃した… 凍てつくような寒さ早朝、村のほぼ全ての家の住民が惨殺されていたのだ、、、

    10軒の家に残された19の遺体… スウェーデン犯罪史上最悪の犯罪だったが、なぜ、ほとんどが老人ばかりの過疎の村で、このような惨たらしい事件が起きたのか?

    体調を崩し休暇中だったヘルシングボリの女性裁判官「ビルギッタ・ロスリン」は、亡くなった自分の母親が事件の村の出身で、母親の養父母が被害者であったことを知り、ひとり現場に向かう、、、

    亡くなった母が幼少時を過ごしていたという、殺人現場の家を訪れた「ビルギッタ」は、捜査を指揮する警察官「ヴィヴィ・スンドベリ」の目を盗みタンスの中から古い手記等を持ち出した… それには100年以上前に、「J・A(ヤン=アウグスト・アンドレン)」という男が、アメリカのネヴァダ州でアメリカ大陸横断鉄道の建設に現場監督として携わったこと等が記録されていた。

    ネヴァダで、スウェーデンの寒村で起きた血塗られた事件と類似した事件が起きていたことに気付いた「ビルギッタ」は、その手記等や現場に落ちていた赤いリボンをもとに独自の捜査を行い、犯人は中国人であると推理する。

    ここで、物語は1863年の中国・グァンシー自治区に飛ぶ… 「ワン・サン」は、広東で拉致された後、アメリカに送られてネヴァダ州でアメリカ大陸横断鉄道の仕事に従事させられた、、、

    現場監督の「J・A」はスウェーデンから来た白人で、中国人や黒人たちを見下し、「チンク」や「ニガー」と呼んで奴隷のようにこき使った… 虐待と過酷な労働と劣悪な生活環境に耐え兼ねて、多くの作業者が命を落としていっが「ワン」は生き残って、中国に舞い戻り、ネヴァダ州でのアメリカ大陸横断鉄道建設現場の過酷な日々を日記として書き遺していた。

    そして、物語は、2006年の北京に戻る… 「ワン」の子孫で企業経営者の「ヤ・ルー」は、日記に綴られた「ワン」の怨念を晴らすため「J・A」の子孫等への復讐を誓っていた、、、

    中国は貧富の格差が急速に広がりつつあり、かつての「毛沢東」革命のような革命がいつ起きても不思議ではない状況に置かれていた… 「ルー」は中国政府の政策に影響を及ぼすほどの影の実力者となっており、膨大な人口を減らし頻発する人民暴動を鎮静させる奇策としてアフリカへの移民を政府に提案していた。

    そして、ルーが同行する調査団は、アフリカのジンバブエ、モザンビークへ向かう… その頃、「ビルギッタ」は学生時代からの友人で中国研究科の「カーリン・ヴィーマン」に誘われ北京に向かっていた、、、

    二人は、大学生の頃、革命を信じ「毛沢東」に心酔していたのだ… こうして、「ビルギッタ」は事件の渦中に自ら飛び込んで行くことになる。

    「ルー」は、意見が合わない姉の「ホンクィ」が、計画の実行の障害になると考え、モザンビークで交通事故に見せかけて殺害… さらに「ルー」は、北京で「ホンクィ」との交流があった「ビルギッタ」が事件の真相に気付き始めたことを知り、「ビルギッタ」を抹殺するためにスウェーデンに向かう、、、

    「ビルギッタ」は、「ルー」が自分の命を狙っていることを知り、ロンドンへ逃亡… 「ホンクィ」の死を伝えてくれた、「ホンクィ」のいとこ「ホー」に助けを求める。

    しかし、「ルー」は「ビルギッタ」の動きを察知し、ロンドンに移動してチャンスを待っていた… いやぁ、終盤はドキドキハラハラの展開で、「ビルギッタ」は助からないと思っちゃいましたね、、、

    「ホー」や、b>「ホンクィ」の息子「サン」の存在がなければ助からなかったでしょうねぇ… 面白かったのですが、事件の遠因となる100年以上前のエピソードや、現代中国の発展における歴史や思想が語られる部分のボリュームが大きくて、ちょっと、もたつきながら読んだ感じでした。

    もう少し、シンプルでも良かったかなぁ… という印象が残りました、、、

    あと、アメリカにおける過去のエピソードが事件の遠因となっている展開は、「コナン・ドイル」の「シャーロック・ホームズ」シリーズの処女作『緋色の研究(原題:A Study in Scarlet)』を思い起こさせる作品でしたね。

    そして、主人公の「ビルギッタ」って、、、

    体調を崩して休暇を取得した際に事件に巻き込まれたり、そのきっかけは自分の知人が被害者となった僻地での事件だったり、夫婦(恋人)の仲に何か問題を抱えていたり… と、性別は違うものの『タンゴステップ』の主人公「ヘルベルト・モリーン」と似たような印象を受けました。



    以下、主な登場人物です。

    「ビルギッタ・ロスリン」
     ヘルシングボリの裁判官

    「スタファン」
     ビルギッタの夫

    「ハンス・マッツソン」
     ビルギッタの上司

    「カーリン・ヴィーマン」
     ビルギッタの友人

    「ビューゴ・マルムベリ」
     ヘルシングボリ警察の警視

    「カルステン・フグリーン」
     写真家

    「ヴィヴィ・スンドベリ」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「エリック・ヒュッデン」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「レイフ・イッテルストルム」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「トビアス・ルドヴィグ」
     ビューディクスヴァル警察署の署長

    「ステン・ロベルトソン」
     検事

    「トム・ハンソン」
     ヘッシュヴァーレンの村人

    「ニンニ」
     トムの妻

    「ユリア・ホルムグレン」
     ヘッシュヴァーレンの村人

    「ラーシュ・エマニュエルソン」
     レポーター

    「スツーレ・ヘルマンソン」
     ホテル・エデンのオーナー

    「ラーシュ=エリック・バルフリンドソン」
     爆発掘削会社の従業員

    「ワン・サン」
     グァンシー自治区出身の男

    「グオシー」
     サンの兄

    「ウー」
     サンの弟

    「ワン」
     ネヴァダ州の鉄道敷設工事現場の監督

    「J・A(ヤン=アウグスト・アンドレン)」
     ネヴァダ州の鉄道敷設工事現場の監督

    「エリィストランド」
     キリスト教宣教師

    「ロディーン」
     キリスト教宣教師

    「ルオ・キー」
     キリスト教布教所の使用人

    「ヤ・ルー」
     企業経営者

    「ホンクィ」
     ヤ・ルーの姉

    「シェン夫人」
     ヤ・ルーの秘書

    「リュー・シン」
     ヤ・ルーのボディガード

    「シェン・ウェイシエン」
     請負業者

    「マ・リー」
     ホンクィの友人

    「ホー」
     ホンクィのいとこ

    「サン」
     ホンクィの息子

  • 息子の本棚に眠っていた本を拝借。
    たぶん自分だと絶対に選択しない本だと思いながらも、読んでみる。(コロナで図書館休館延期、ネットで購入した本は未だ届かず、読む本がなくなってしまった!)

    スウェーデンの作家、スウェーデンを舞台にしながらいろいろな国や歴史が交差するミステリー。
    奴隷時代の話が長くて挫折しそうになったけれど、どうしても謎解きをしたいので、この部分は耐えて読む。
    そして、2006年に戻って、下巻へ進む。

  • うーん…。
    なにこれミステリじゃないやんとか、村まるごと全滅がまったくの出落ちだとか、赤いリボンの謎がついに!!??→いきなり大昔の中国へ場面転換のくだりには殺意が湧いたとかいうのを除いても、「うーん」。私が何より萎えたのは、人種差別だの帝国主義だのに義憤を覚えるリベラル西欧人ならではの、「ファンタジー東洋」の諸描写だった。
    いやいや、言うても日本人なんでね、中国人じゃないんでね。かの国のこと、きちんと理解しているだなんて言いませんよ? しかしそんな不勉強な隣人が見てさえ、「ないわー」な描写が多すぎる。ノックス先生が「魔術妖術何でもアリになっちゃうから中国人は出しちゃダメ」とか言ってた頃から、ビタイチ進歩してないじゃんと思ってしまうのだ。ガラスの粉て…そんなもんを、飛ぶ鳥落とす現代きってのヤンエグが使いますかね。
    動機もたいがいだが、あの背景を使いたいなら、キャラ設定はアレじゃダメでしょう。むしろ真逆の、過去に囚われた後ろ向き200%みたいなのにしなきゃ。左翼な著者が書きたかった「強大な現代中国」を、無理やりくっつけたのが敗因か。
    また、軽率すぎる主人公のキャラもいただけない。終盤の急展開にも、「それ見たことか」の思いしか抱けなかった。
    筆力はさすが巨匠のそれで、強引な力技でもそれなりにまとまっちゃってて、読めるものにはなっている。星3つはそこんとこへのオマケで、2〜2.5くらいが妥当かな。

    2019/1/13〜1/14読了

  • ヴァランダー警部シリーズのヘニング・マンケルの作品。相変わらずもの悲しい、沈んだ雰囲気のなか物語が進行していく。下巻に期待。

  • 一頭のオオカミからその物語は始まった。

  • 北京からってのはどうかな? 祖先の悲惨な歴史というか事実で、その恨みを個人にもっていくか?

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