北京から来た男 下

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010317

作品紹介・あらすじ

殺人現場で見つけた手記。それは1860年代のアメリカで書かれたものだった。中国、アメリカ、スウェーデン、現代の予言者マンケルによるミステリを超えた金字塔的大作。

感想・レビュー・書評

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  • 解説ではマンケルの描きたかったのは中国人なのだ、とあるが、2006年の中国の現状を、これは当時マンケルが感じていた中国、ということなのだろうが、ここまで書ききっていいの? とも思った。しかし執筆が2008年、2023年の今、アフリカへの中国の経済進出は知らないうちにどんどん進んでいたようだ。

     原題の「KINESEN」は「中国人」で、日本訳はスウェーデン語から訳しているが、題名は英語版の「THE MAN FROM BEIJING」からとったとあった。

    単行本表紙も、読み終えて見直すと、寒村の当夜の状況かな、と思いぞくっとする。主人公の一人、裁判官ビルギッタはスウェーデン南部のデンマーク寄りの平地、ヘルシングボリに住んでいる。虐殺の村は設定がストックホルムの少し北部の寒村となっていて、ビルギッタに、北部は森が多い、と言わせている。スウェーデンというとあまり具体的な景色は浮かばないのだが、地図でみると幅が日本の2倍くらいある。面積は日本の総面積プラス北海道くらいとあるがそれがみんなつながっているのだ。ますます北欧へいってみたくなる。

    訳者の解説では、マンケルは16歳で高校をやめて船乗りになり、その後パリに1年住んでスウェーデンに戻るが、違和感を覚えてアフリカに移り、2,3の国を経てモザンビークに定住する。これが20代前半。20年近くいくつかのアフリカの国に住んだ後、モザンビークの首都マプートで劇団を立ち上げ、自ら脚本を書き、監督を務め、俳優を養成して、モザンビークに演劇の文化を根付かせた。その後1年の半分をスウェーデンで、半分をモザンビークで過ごすようになり、現在(2014)はスウェーデンの西海岸に住み執筆活動をしている。アフリカはマンケルのアイデンティティの重要な一部となっている。とあった。


    2008発表
    2014.7.25初版

  • 後半ははらはらドキドキしながらの展開。
    しかし、えっ!とあっけなくの結末に。

    そもそも大量殺人の小さな伏線が今一つ解明されないまま・・・。ミステリというよりは、壮大な歴史物語なのでしょう。
    中国の思想と歴史、深く知ることによりこの物語の深さを知るのかもしれない。

  • 大量殺人を犯した理由が、イマイチ納得できなかった。
    先祖の恨みってことなんだけど、
    合理的な判断を持つ犯人が、非合理な事件を犯すだろうか。
    スウェーデンの地名や人名はとっつきづらいけど、
    中国人の名前の付け方は、もっとイマイチかな。
    ワンさん、ウーさんみたいに、
    北欧からすると中国人名はわかりづらいのかも。
    読後感の暗さは、北欧ミステリーならではか。

  • 現在の世界状況を照らし合わせて読むことのできる小説だった。優れた作家には、予言者的能力があるのかも。でも事件が法的に裁けずに終わるってすっきりしないね。ブリギッタが助かったのって本当に僥倖。

  • スウェーデンの小さな村で住人のほとんどが惨殺されるという事件が起こる。
    それは遺族の一人である裁判官のビルギッタを世界の反対側へと導く。

    このご時世に読んでしまってうーん。
    作者の人種差別への怒りは分かるんだけど、それにしても大陸とアフリカへの思い入れが強いなぁと。
    今ひとつ過去の出来事と現代が繋がっていないように感じたのは、作者の怒りに任せた筆のせいかと。
    そして上巻の人物紹介を見た時のがっかりは結局がっかりのままだった。

  • 事件発見は凍てつくような寒さの朝。村ほほぼ全滅させた猟奇殺人のオープニングはインパクト大。主人公は遺族という扱いなので、直接事件を捜査する立場にない。ヴァランダー・シリーズと違って事件との距離感があるので、ミステリとしての切れ味にはやや欠けるかも。

    と思ったら、場面はいきなり150年前にとび、とある兄弟の物語に取って代わる。過酷な労働生活を、帰郷したい一心で耐えて生きようとする壮絶なストーリー。ここまで読んで、ミステリというよりは大河ドラマなんだろな、という気になる。それはそれでまたよろし。下巻はノワール色が強い。やや都合のいい偶然から、緊迫感を伴った展開にシフトする。そこからラストまでは一気に進む。

    最初の大量殺人のイメージが薄れるくらい、中盤からの展開はなかなかの濃さ。全体的に見ると決してバランスは良くないのだけど、マンケルの筆力がすごくてすっかり圧倒されてしまった。人種差別に対する遺恨や、理想と思想の狭間で犠牲になる人々の皮肉な運命など、今作は社会問題への絡みが壮大なスケールで展開していく。ミステリ目線を途中で断ち切ったのが功を奏したかな? 最後までそっちにこだわると、ただのちぐはぐなお話で終わっていたかも。

    主人公もそうだが、女性キャラが多く登場していたのも印象に残った。ラストの辻褄合わせが気になったので評価は星みっつにしようと思ったが、エピローグが気に入ったのでこの評価になりました。早く病気がよくなりますように。

  • スウェーデンの作家「ヘニング・マンケル」の長篇ミステリ作品『北京から来た男(原題:Kinesen)』を読みました。

    『目くらましの道』、『背後の足音』、『タンゴステップ』に続き「ヘニング・マンケル」作品です… 読み始めると北欧ミステリは続いちゃいますね。

    -----story-------------
    〈上〉
    凍てつくような寒さの早朝、スウェーデンの中部の小さな谷間でその惨劇は起きた。
    村のほぼ全ての家の住民が惨殺されていたのだ。
    ほとんどが老人ばかりの過疎の村が、なぜ? 
    女性裁判官「ビルギッタ」は、亡くなった母親がその村の出身であったことを知り、現場に向かう。
    現場に落ちていた赤いリボン、ホテルの防犯ビデオに映っていた謎の人影。
    事件は「ビルギッタ」を世界の反対側へと導く。
    北欧ミステリの帝王「ヘニング・マンケル」渾身の大作。

    〈下〉
    殺人現場の家を訪れた「ビルギッタ」は、刑事の目を盗み数冊のノートを持ち出した。
    ノートに記されたネヴァダの文字。
    それはスウェーデンの寒村で起きたのと似た血塗られた事件が起きた土地だった。
    手記は一八六〇年代、アメリカ大陸横断鉄道の建設の現場主任のものだった。
    十九世紀の中国の寒村、鉄道建設に沸く開拓時代のアメリカ、そして発展著しい現代の中国、アフリカ。
    現代の予言者「ヘニング・マンケル」による、ミステリを超えた金字塔的大作。
    訳者あとがき=「柳沢由実子」

    *第10位『このミステリーがすごい!2015年版』海外編
    -----------------------

    「ヘニング・マンケル」作品ですが、代表作の警察小説「クルト・ヴァランダー」シリーズではなく、『タンゴステップ』に続きノンシリーズモノです… 時代が2006年(平成18年)から、1863年(江戸時代末期の文久3年)まで飛び、舞台はスウェーデンの片田舎から、デンマーク、イギリス、中国、アメリカ、ジンバブエ、モザンビークと世界各国に亘っており、とてもスケールの大きな作品に仕上がっていましたね。

     ■第一部 静寂(二〇〇六年)
      ・墓に刻まれた言葉
      ・裁判官
     ■第二部 "ニガー&チンク"
      ・広東への道
      ・羽根と石
     ■第三部 赤いリボン(二〇〇六年)
      ・反逆者たち
      ・中国将棋(ザ・チャイニーズ・ゲーム)
     ■第四部 入植者たち(二〇〇六年)
      ・象に剥かれた樹皮
      ・ロンドンのチャイナタウン
     ■エピローグ
     ■著者あとがき
     ■訳者あとがき 柳沢由実子

    2006年スウェーデンの中部ヘルシングランド地方の小さな谷間の村に足を踏み入れた写真家「カルステン・フグリーン」は、信じられない光景を目撃した… 凍てつくような寒さ早朝、村のほぼ全ての家の住民が惨殺されていたのだ、、、

    10軒の家に残された19の遺体… スウェーデン犯罪史上最悪の犯罪だったが、なぜ、ほとんどが老人ばかりの過疎の村で、このような惨たらしい事件が起きたのか?

    体調を崩し休暇中だったヘルシングボリの女性裁判官「ビルギッタ・ロスリン」は、亡くなった自分の母親が事件の村の出身で、母親の養父母が被害者であったことを知り、ひとり現場に向かう、、、

    亡くなった母が幼少時を過ごしていたという、殺人現場の家を訪れた「ビルギッタ」は、捜査を指揮する警察官「ヴィヴィ・スンドベリ」の目を盗みタンスの中から古い手記等を持ち出した… それには100年以上前に、「J・A(ヤン=アウグスト・アンドレン)」という男が、アメリカのネヴァダ州でアメリカ大陸横断鉄道の建設に現場監督として携わったこと等が記録されていた。

    ネヴァダで、スウェーデンの寒村で起きた血塗られた事件と類似した事件が起きていたことに気付いた「ビルギッタ」は、その手記等や現場に落ちていた赤いリボンをもとに独自の捜査を行い、犯人は中国人であると推理する。

    ここで、物語は1863年の中国・グァンシー自治区に飛ぶ… 「ワン・サン」は、広東で拉致された後、アメリカに送られてネヴァダ州でアメリカ大陸横断鉄道の仕事に従事させられた、、、

    現場監督の「J・A」はスウェーデンから来た白人で、中国人や黒人たちを見下し、「チンク」や「ニガー」と呼んで奴隷のようにこき使った… 虐待と過酷な労働と劣悪な生活環境に耐え兼ねて、多くの作業者が命を落としていっが「ワン」は生き残って、中国に舞い戻り、ネヴァダ州でのアメリカ大陸横断鉄道建設現場の過酷な日々を日記として書き遺していた。

    そして、物語は、2006年の北京に戻る… 「ワン」の子孫で企業経営者の「ヤ・ルー」は、日記に綴られた「ワン」の怨念を晴らすため「J・A」の子孫等への復讐を誓っていた、、、

    中国は貧富の格差が急速に広がりつつあり、かつての「毛沢東」革命のような革命がいつ起きても不思議ではない状況に置かれていた… 「ルー」は中国政府の政策に影響を及ぼすほどの影の実力者となっており、膨大な人口を減らし頻発する人民暴動を鎮静させる奇策としてアフリカへの移民を政府に提案していた。

    そして、ルーが同行する調査団は、アフリカのジンバブエ、モザンビークへ向かう… その頃、「ビルギッタ」は学生時代からの友人で中国研究科の「カーリン・ヴィーマン」に誘われ北京に向かっていた、、、

    二人は、大学生の頃、革命を信じ「毛沢東」に心酔していたのだ… こうして、「ビルギッタ」は事件の渦中に自ら飛び込んで行くことになる。

    「ルー」は、意見が合わない姉の「ホンクィ」が、計画の実行の障害になると考え、モザンビークで交通事故に見せかけて殺害… さらに「ルー」は、北京で「ホンクィ」との交流があった「ビルギッタ」が事件の真相に気付き始めたことを知り、「ビルギッタ」を抹殺するためにスウェーデンに向かう、、、

    「ビルギッタ」は、「ルー」が自分の命を狙っていることを知り、ロンドンへ逃亡… 「ホンクィ」の死を伝えてくれた、「ホンクィ」のいとこ「ホー」に助けを求める。

    しかし、「ルー」は「ビルギッタ」の動きを察知し、ロンドンに移動してチャンスを待っていた… いやぁ、終盤はドキドキハラハラの展開で、「ビルギッタ」は助からないと思っちゃいましたね、、、

    「ホー」や、b>「ホンクィ」の息子「サン」の存在がなければ助からなかったでしょうねぇ… 面白かったのですが、事件の遠因となる100年以上前のエピソードや、現代中国の発展における歴史や思想が語られる部分のボリュームが大きくて、ちょっと、もたつきながら読んだ感じでした。

    もう少し、シンプルでも良かったかなぁ… という印象が残りました、、、

    あと、アメリカにおける過去のエピソードが事件の遠因となっている展開は、「コナン・ドイル」の「シャーロック・ホームズ」シリーズの処女作『緋色の研究(原題:A Study in Scarlet)』を思い起こさせる作品でしたね。

    そして、主人公の「ビルギッタ」って、、、

    体調を崩して休暇を取得した際に事件に巻き込まれたり、そのきっかけは自分の知人が被害者となった僻地での事件だったり、夫婦(恋人)の仲に何か問題を抱えていたり… と、性別は違うものの『タンゴステップ』の主人公「ヘルベルト・モリーン」と似たような印象を受けました。



    以下、主な登場人物です。

    「ビルギッタ・ロスリン」
     ヘルシングボリの裁判官

    「スタファン」
     ビルギッタの夫

    「ハンス・マッツソン」
     ビルギッタの上司

    「カーリン・ヴィーマン」
     ビルギッタの友人

    「ビューゴ・マルムベリ」
     ヘルシングボリ警察の警視

    「カルステン・フグリーン」
     写真家

    「ヴィヴィ・スンドベリ」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「エリック・ヒュッデン」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「レイフ・イッテルストルム」
     ビューディクスヴァル警察署の警察官

    「トビアス・ルドヴィグ」
     ビューディクスヴァル警察署の署長

    「ステン・ロベルトソン」
     検事

    「トム・ハンソン」
     ヘッシュヴァーレンの村人

    「ニンニ」
     トムの妻

    「ユリア・ホルムグレン」
     ヘッシュヴァーレンの村人

    「ラーシュ・エマニュエルソン」
     レポーター

    「スツーレ・ヘルマンソン」
     ホテル・エデンのオーナー

    「ラーシュ=エリック・バルフリンドソン」
     爆発掘削会社の従業員

    「ワン・サン」
     グァンシー自治区出身の男

    「グオシー」
     サンの兄

    「ウー」
     サンの弟

    「ワン」
     ネヴァダ州の鉄道敷設工事現場の監督

    「J・A(ヤン=アウグスト・アンドレン)」
     ネヴァダ州の鉄道敷設工事現場の監督

    「エリィストランド」
     キリスト教宣教師

    「ロディーン」
     キリスト教宣教師

    「ルオ・キー」
     キリスト教布教所の使用人

    「ヤ・ルー」
     企業経営者

    「ホンクィ」
     ヤ・ルーの姉

    「シェン夫人」
     ヤ・ルーの秘書

    「リュー・シン」
     ヤ・ルーのボディガード

    「シェン・ウェイシエン」
     請負業者

    「マ・リー」
     ホンクィの友人

    「ホー」
     ホンクィのいとこ

    「サン」
     ホンクィの息子

  • 小説としては中国の農民の苦難の歴史など深く説明があり、興味深いが、ミステリーとしては今ひとつ。動機も結末もぱっとしない。事件自体が派手なだけに残念。

  • スウェーデンの田舎で村のほとんどの住民が惨殺された。その村とつながりのある女性裁判官が主人公。その事件と意外なつながりがあるのが中国。一方で主人公の夫婦の危機が書かれ、他方で悲惨な運命をたどる19世紀の中国人について描写される。ひとつひとつは面白いのだが、あまりに話が壮大すぎてまとまりがなく感じる。人物の会話もどうも作り物めいていて不自然に感じてしまう。決してつまらないわけではないけど、マンケルは私には合わないのかも。

  • どちらかといえば重い、偏ったこの内容でぐいぐい読ます力量はさすがマンケル。
    一般受けはせんと思うけど。

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