禁忌

  • 東京創元社
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本棚登録 : 374
レビュー : 56
  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010409

作品紹介・あらすじ

共感覚を持つ写真家ゼバスティアンは、若い女性の誘拐・殺人容疑で逮捕される。法廷で暴き出される、美と人間の本質、そして司法の陥穽とは。本屋大賞受賞作家の衝撃作!

感想・レビュー・書評

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  •  かなりひねりの効いたミステリー。法廷劇の姿をとって謎が解き明かされるのだが、物語の前半は、少女を誘拐し殺害したとされる容疑者エッシュブルクの半生が描かれている。
     ゼバスティアン・フォン・エッシュブルクはドイツの名家の末裔。常人より多くの色彩を感じることができ、文字に色を感じる共感覚の持主である。エッシュブルクは、古い、不幸な家を出て、ベルリンで写真家になり、世に認められる。やがて、商業的な写真に飽き足らないようになり、インスタレーションを手がける。そしてある日、警察にかかってきた、助けを求める少女の電話によって逮捕されてしまう。刑事の強要によってエッシュブルクは少女の殺害を自供する。起訴されたエッシュブルクは、ベテランの刑事弁護人ビーグラーに弁護を依頼。ここから法廷が舞台となり、ビーグラーによる真実の解明が展開されるのである。
     前半、没落した名家が息を引き取る様子、崩れる不幸な家庭の冷たさ、それを見ているエッシュブルクの孤独な視線と世界に対する違和感が簡潔な文章で淡々と描かれ、引き込まれる。ミステリー臭さを感じさせないので、後半の急転に驚かされる。精神的なドラマか人間性の真相を照らす物語を読まされる気になってくる処へ、スキャンダラスな殺人事件を主題にしたミステリーが現れるのだ。
    もちろん前半はミスリードの為の仕掛けであり、エッシュブルクの動機に筋道を通すための伏線なのである。読後に点検してみれば、よく計算されていると感心する。計算されているだけではなく、「千円札裁判」などを念頭に置いてインスタレーションのことを考えてみると、作者の描いた射程が意外に遠くまで届いていることがわかる。
     全体を通して、エッシュブルクという非凡な人格の悲しみがじんわりと伝わるし、ビーグラーの偏屈さも面白い。作品を巡って考えに沈むこともできる、見事な一編だと思う。しかし、このひねり具合が万人に受け入れられるかは疑問だ。また、エッシュブルクの共感覚が後半にそれほど生かされない恨みもある。インスタレーションを素材としたからには、この作品自体がルールを越えて溢れ出てきても良かったのではないか、と思ったりもする。

  • 普通の推理小説と思って読むと肩すかしを食らうと思う。
    森博嗣の小説のように、文章が研ぎ澄まされてる感じ。
    読み方が浅いのか、タイトルの意味は分からなかったけど、一連のことがエッシュブルグが表現したいことだったという理解で良いのかな。
    「悪とはなにか」という問いは、刑事事件弁護士という著者の立場ならではの、骨身に応えるものだと思った。

  • 序盤は若干しんどく、中盤になって面白くなったと思ったら、ラストはわかったような、わからないような。

  • 一行目:「一八三八年のあるうららかな春の日、パリのタンブル大通りで新たな現実が作り出された。」
    やっぱり長編より短編がいいな。ただ、今回の長編は悪くない。
    主人公エッシュブルクの半生が淡々と綴られる。が、次の章で突然逮捕されている。目撃情報だけの、遺体もない殺人容疑。弁護士ピーグラーはどうするのか。
    焦点はなぜエッシュブルクが自供したのか、また否認するにも理由をいわないのか、だ。
    解説が単行本には珍しくついている(今回は正解だったと思う)。
    確かにムダが削ぎ落とされた文章となっている。さらに表紙を著者が指定したのだという。そう、表紙こそが本当のネタバレなのだ。
    これまでの短編が、「魔がさすー」、要はどれだけ平凡な人間でも犯罪と背中合わせである、というところに魅力があったのに対し、今回は非常に特殊な主人公とその物語になっている。
    また、以前のような短編も読んでみたい。

  • この作者の作品は好きなのだけれど今回は難しかった…。
    最初の生い立ち部分の章が冗長で退屈だったのでどうしたものかと思いましたがビーグラーが弁護を引き受ける章から俄然面白くなりました。
    文章に無駄が無い分、ピースとピースの繋がりが法廷の場面になるまで分かりませんでした。

    結局のところエッシュブルクの作品の一部に組み込まれてしまっただけなのでしょうか?
    若い女性からの助けを求める電話は作品の始まり、無罪放免が終わり、ということでよかったのか?
    最後まで理解できない部分はあったものの法廷の場面でのどんでん返しは面白かったし、神経質でお堅過ぎてコミカルに映ってしまう部分のあるビーグラーも良かったです。

  • 共感覚・チェスの自動人形・サディズム・写真・「罪」とは何か・家族や恋人との愛憎・存在の曖昧な女…ちりばめられたピースは、結局カチッとはまらない。全体に何が描かれているのかも見えない。なのに面白くて読んじゃうのはなぜ?

    普通ならこれは伏線だなと意識される描写が、ことごとくどこかに漂って行ってしまう。なんとも頼りない感覚が、どういうわけか刺激的だ。弁護士が登場する中盤、やけにわかりやすくなり、やはり最後はすべてが収束するのかと思えば、全然そうではないのだった。

    アーティストのインスタレーションが苦手、というより、よくわからない。それって何を表してるの?何のため?などと言うのは野暮なのだろう。芸術家がみな主人公のゼバスティアンのようだとは思わないが、造型に妙な説得力がある。

  • いるいる。こういうアーティスト。
    一見しただけでは本質が見えず、けど惹きつけられて止まない。
    テーマを二重三重に覆い隠し、なのにそれをとんでもない手段で世に送り出す。
    シーラッハもまた。
    こちらは好きか嫌いかだけでいいのだ。

  • すごく時間がかかった。
    でも頑張って読んだだけのことはあった。

    後半からその世界に引き込まれていった。

    「日本の読者のみなさんへ」が良かった。

    〝うらを見せおもてを見せてちるもみぢ〟

  • ドイツの新聞で「理解できなかった」とされる評もあったと知ってホッとした。ミステリとして読むと面食らうかも。前半は一人の芸術家伝としては面白かった。ただ共感覚を持つ芸術家としての描写は物足りなかったかも。遺体なき殺人というのは、ミステリの一つの定番だが、この結末は、うーむ、どこまで主人公の計算だったのか、説明の足りないところが、作者の計算だったのか。

  • 始まりがあっていきなり結果がある。その間にあるものは……?
    ミステリーとしても上質であり、法廷ものとしても読ませる。

    「悪」「罪」「裁き」という概念があまりにもあいまいで、それらすべてが人間の中にある一続きのものなのだと痛烈に思わせる。
    それがどこか救いに感じさせるところが、この著者のすごいところ。
    人間の極限の状態を見つめ、何らかの裁定を付けなければならない弁護士という職業ゆえなのだろうか。

    とはいえ、この著者の人間観がとてもいい。
    「日本読者へ」というエッセー、訳者によるあとがきも読みごたえがある。

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