カールの降誕祭

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (93ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010508

作品紹介・あらすじ

ドイツでは、クリスマスに最も殺人が多い。十世紀から続く貴族トーアベルク家のクリスマスの惨劇を描いた表題作と、日本人の女子留学生に恋をしたパン職人の物語「パン屋の主人」、公明正大だった裁判官の退職後の数奇な運命を描く「ザイボルト」を収録。本屋大賞翻訳小説部門第1位『犯罪』のシーラッハによる珠玉の短編を、気鋭の版画家タダジュンの謎めいたイラストが彩る。ふたりの天才が贈るブラックなクリスマス・プレゼント。

感想・レビュー・書評

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  • 罪とは何か。これがシーラッハ文学の中心テーマだ。
    …「罪」という漢字を分解すると「目に非ず」と読める。「現実」を把握するのに「百聞は一見にしかず」というが、こと「罪」に関してはこれが通用しない。なぜなら「罪」に見入る者は心の闇を覗くことになるからだ。
    ー訳者あとがきより

    ブラック・クリスマス、タダジュンさんのおどろおどろしいながらも目が離せない絵に惹かれて読んだ。
    たった三遍が載った100ページにも満たないお話。
    けれど読みやすい比較的短い文章で綴られた罪に満ちた三つの物語は、その主人公たちの末路はどれもじわじわと衝撃的で、けれど、ああ、これは私たちの物語だ。と思わされた。
    主人公たちはカオスに魅入られて、罪を犯してしまう。淡々と描かれる文章に、タダジュンさんの大胆でこちらが飲み込まれそうな黒の挿絵が、不思議なカオスと禍々しさを生み出していた。
    そのカオスは、いつ我が身に降り注いでもおかしくない。そのことに戦慄し、その事実を淡々と印象的に描くこの物語たちにゾクゾクした。
    どの話を特にピックアップするのは無理というか、三遍とも全て同じくらいゾクゾクするので、甲乙つけ難いのです。

    シーラッハの書く物語を、網羅したい気持ちに駆られた作品。
    そう思わせてくれるのに、作品そのものはもちろん、充実した訳者あとがきが何役もかってくれたので、ぜひこの本の全部を読んで欲しい。


    目次
    パン屋の主人
    ザイボルド
    カールの降誕祭
    訳者あとがき

  • 実直な人間と思われていた人が、突如にして殺人犯となり、人生の終焉をむかえる悲劇が語られています。ベーカリ-ショップを経営する男が日本人女性に恋憧れる『パン屋の主人』、ベルリン裁判所の裁判官を務める生真面目な男『ザイボルト』、伯爵家御曹司の狂気を描いた表題作『カールの降臨祭』、いずれの三篇も底知れぬ恐怖感に縛られます。

  • 初めてこの作者の作品を読んだけれど、どうも前に出てる作品とリンクしているらしい。それらを読んでいなくても全然問題なく読めた。ただ気になるので読んでみたい……のだけど、解説読むと話の内容がつらそうな印象受けるので躊躇う。
    この本に限らずいずれも実際にあった犯罪を、同定されないように変更して書いているというだけあって突飛な犯罪はない。
    たぶん誰もがほんの少し道が違ったらたどるものだと思った。
    これを読むと今まで読んできた犯罪を取り扱った小説を思い出し、秩序と混乱って本当に表裏一体で、他者から見たら混乱でもなにかしらの秩序・筋道があるんだなと。
    気になるのは一作目の豹のペンダントの男と、日本人女性。被害は男だけだったのかな。

  • 不必要な文飾を極端なまでに削ぎ落とした簡潔な文体で描ききだされるのは、人間の内面に抑圧されてきた狂気とも、悪とも、暴力とでもひとまずは言える。これが、ゲルマン気質なのだろうか。秩序を愛し、中庸を尊び、ひたすら恭順に世間を生きている人びとが、ひとたび、世間の秩序だった世界の中に自分が容れられないと気づくや否や狂気に囚われた戦士のように衝動的な暴力沙汰を起こす。まるで、それまでの自己が偽りで、今剥き出しにされたのが、本来のあるべき自己なのだとでもいうように。淡々と事態を叙する記述がかえって、その世界の酷薄さを物語るようで、居ても立ってもいられないような強烈な読後感をもたらす。主人公の内にあって常に抑圧を義務づけられた欲望のようなものはもしかしたら誰の裡にもあって、抑圧の激しさゆえに奇妙に捻じ曲げられ歪みきった怪物の姿をしているのではないか。読後、そんな恐怖感に襲われること必至。とんだクリスマス・プレゼントである。

  • フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), タダ ジュン (イラスト), 酒寄 進一 (翻訳)

  • シーラッハ作品は、「犯罪」しか読んでいなかったので、本作が2作目になります。

    が。

    大分前に読んだから、詳細覚えてません←

    この本を読んでる時に浦沢直樹のMONSTERに出てきた絵本を思い出した、ってことを思い出しました←←

    クリスマスには殺人事件が増えるっていうフレーズ、クリスティ作品に無かったっけか。


  • 対岸の火事だと思いながら読了したが、あとがきを読んでぎくりとした。
    「人は薄氷の上で踊っている」
    著者が、私たちの現実の危うさを語った言葉だ。
    パン屋の主人のような加害者に、私は絶対にならないと言い切れないのかも。
     
    タダジュンさんの挿画が怖い(好き)
    モノクロなのに血の赤を感じさせるとは。

  • 「コリーニ事件」のパン屋さんのスピンオフが収録されています!

  • ちょっとミステリアスな短編が三つ。イラストの雰囲気が合っている。

  • 小粋な短編集、どれも悲劇。
    コリーニ事件とのつながりが見えるのがテンション上がる。

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