火打箱

  • 東京創元社
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本棚登録 : 74
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (265ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010522

作品紹介・あらすじ

「きさまは恋に落ち、自分の王国を手に入れる」皇帝軍の兵士だったとき、おれは死神を見た。死神の手を逃れ、森の中で出会ったのはサファイアーという名の少女。おれたちは恋に落ち、そして……。元兵士の若者オットーが深い森で出会う男装の美少女、狼の怪物、城に住む恐ろしい魔女。文豪アンデルセン最初期の作品に、カーネギー賞受賞作家サリー・ガードナーが新たな息吹を吹き込む。不思議と怪奇が詰まった美しくも不気味な物語。

感想・レビュー・書評

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  • アンデルセンの童話が、読者を美しくも禍々しい場所に引きずり込むダークファンタジーに生まれ変わった。「若い人も読みやすいように」と添えられたデイヴィッド・ロバーツの挿絵も素晴らしい。一気に読めるがその結末に唖然、お腹にずしりと重いものが残る。
    アンデルセンの「火打石」は読んだことありましたが、ずいぶんアナーキーな話だなと思いました。アンデルセンが「即興詩人」で一発当てた後に書いた子供向けの童話だったのですが、子供向けというだけで世間の評価は芳しくなかったようです。
    〈原作〉では主人公の兵士は戦地から故郷に戻る途中ですが本作では脱走兵。オットーという彼は、逃げる途中で死神に出会い、うまくやり過ごすことができます。そこから彼の運命は思わぬ方向に転がり始めるのですが、彼には常に戦争の悪夢が付きまといます。家族を殺され、兵士にならざるを得なかった少年が幸せを手にすることができるのか。戦争が齎す悲劇という重いテーマが読後にのしかかります。
    著者は物語の舞台を欧州の三十年戦争に置いていますが、戦争の暴虐は今も続くロシアによるウクライナ侵攻にも通ずるところがあり、決して過去のものではないことを痛感します。夢でも魔法でもない現実に向き合う糧がこのファンタジーにはあるように思います。

  • アンデルセンの「火打箱」を基に、ドイツ30年戦争の時代に舞台設定したホラー風味の幻想的な話。最後の展開なんかは、ビアスの「アウル・クリーク橋の出来事」なんかも彷彿とさせる。挿絵も物語の本質をよく表していて不気味でよかった。
    サリー・ガードナーさんは公園の人形(またしても人形)のお話を書いた人だね。

  • うーん、何かの本でオススメだったんだけど・・・
    イマイチでした★

  • 思った以上にダークな物語でした。横書きであること、沢山の挿絵が不思議な世界とよく合っていて、魅き込まれます。画家の他の作品や、アンデルセンの火打ち箱も読みたくなりました。

  • ダークな世界観。
    大人向け童話という感じでした。
    子供の絵本のようにイラスト満載なのですが、どれもちょっとゾッとする絵(笑)
    ラストも・・・・。

    アンデルセンの「火打箱」を読んだことがないので、そちらも読んでみたい。

  • ガードナーが、アンデルセンの「火打箱」に触発されて書いたファンタジー。挿絵のない本を読むようになってしまった大人たちに思いを寄せて、ミステリアスなディヴィッド・ロバーツの挿絵を添えて。
    怖かった…。

  • 挿絵、モンタギューおじさんの怖い話の人だったんですね。絶妙です。最高にあってる。
    内容はすごく面白かったけど、何この最後のどんでん返しはという感じ。

  • アンデルセンの童話をモチーフにして、戦争について描いた物語。
    イラク戦争などに参戦した兵士たちの悪夢を元にしたそうだが、主人公の負傷した兵士を、文字通りの悪夢が次々と襲ってくる。物語の現実である世界での出来事と、兵士の見る夢が交錯するが、どちらが、より悪夢なのか。兵士の生い立ち(家族)に起こった悲劇を考えると、現実に起こることだけに、より生々しい悪夢に思える。
    物語の終盤、追い詰められた果てに、火打箱の魔法で処刑を免れて、愛しいサファイヤーと婚姻を果たし、幸せを手に入れたかに見えるが・・・、最後の最後で、すべてが火打箱の火花のように、一瞬で消え失せる。
    現代の戦争寓話。逃れられない戦争の悪夢。

    イラストが秀逸。黒の濃淡で描かれる中、時折、ポイントとして赤が散らされ、不気味さとともに滑稽さを加え、物語の陰湿さを緩和してくれる、このイラストがなければ、もっと凄惨な幻想に捉われたかもしれない。

  •  海外ファンタジー。同名のアンデルセン童話がベースになっているそうだがそちらも読んでみたらこの話、大まかな設定以外は8割方作者の創作だった。
     舞台は三十年戦争(1618~48)頃、欧州北部のどこか。主人公の若い兵士が戦場から始まり、運命に導かれるまま、いくつもの不思議な出会いと冒険を重ねてゆく様を彼の一人称で描いているが、(そういえばこの話絵がすごく多い。ほぼ全ページイラスト入りで文字も横書き、デザインにとてもこだわっている)全編を通して強い印象を残すのは冒険の行方よりも繰り返される喪失の哀しみ、そして苦痛。

     主人公はまだ兵士でなかった頃、彼がただの、どこにでもいる幸せな少年だった頃がどうしても忘れられない。どれだけ奇妙なものを見聞きしても、命の危険に晒されても、危機を乗り越え功成り名遂げ、互いに心惹かれる美しい女性に巡り会ってすら、彼の目の前で突然襲われ、辱められ、虐殺されていった彼の家族が忘れられない。夜ごと訪れる過去の夢。懐かしい父母の姿、兄姉の声。…その死に様。
    尽きることのない愛しさと幸せの記憶は、そのままただ一人生き残ってしまった元少年である兵士の、声にならない嘆きに繋がる。

     夢と現。繰り返し繰り返し、決して消えない哀しみと苦痛。
    そして全ては振り出しに戻る。


     読みながら、この話にはPhamie Gow (ファミー・ゴウ)の「Carousel」が合うのでは…と思って、動画サイトで検索してみたら、本当にピッタリだった。
    イメージソングとかイメージ何とかは物凄く好き嫌いがハッキリするし、実際普段こんな事はしないけど、まあ自分への備忘録も兼ねて、末尾にアドレスを記しておく。

    https://www.youtube.com/watch?v=x--SEvwLEN0
    (公式が投稿したらしいので、多分大丈夫でしょう)

  • とにかくおもしろくて、先が気になって、どんどん読めた。
    人間の嫌なところが、これでもかというくらい描かれている。
    なんとなく、ロールプレイングゲームのように進んでいくところもおもしろかった。
    最後の結末には驚いたが、これが現実というものなのかも。

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