テロ

  • 東京創元社
3.82
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本棚登録 : 352
感想 : 60
  • Amazon.co.jp ・本 (158ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010560

作品紹介・あらすじ

2013年7月26日、ドイツ上空で旅客機がハイジャックされた。テロリストがサッカースタジアムに旅客機を墜落させ、7万人の観客を殺害しようと目論んだのだ。しかし緊急発進した空軍少佐が独断で旅客機を撃墜する。乗客164人を殺して7万人を救った彼は英雄か? 犯罪者か? 結論は一般人が審議に参加する参審裁判所に委ねられた。検察官の論告、弁護人の最終弁論ののちに、有罪と無罪、ふたとおりの判決が用意された衝撃の法廷劇。どちらの判決を下すかは、読んだあなたの決断次第。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』のシーラッハが放つ最新作! 原書より、テロリストの襲撃を受け12人の犠牲者をだした「シャルリー・エブド」誌がMサンスーシ・メディア賞を授与された際の著者による記念スピーチ、「是非ともつづけよう」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • シーラッハの長編と短編を1冊ずつ読んで、今度は戯曲。
    戯曲は好きだけど、会話劇だとさすがにあの独特な乾いた文体は味わえないのでそこは残念だった。
    紹介文を読んだときは、この判断は本当に難しいな…と思ったが、途中でスタジアムの観衆を避難させる時間は十分あったとわかった時点で、一体何を裁く必要があるのか?と思ってしまった。
    被告人のパイロットは確かに命令を無視して独断で行動したけれど、そもそもそんな決断をせざるをえない状況にしたのは誰なのか。
    諸悪の根源テロリストは別として、次に責められるべきは避難という手段を取らなかった軍の対応ではないのか。
    軍は命令が絶対、ということは、責任は当然トップにあるはず。それなのに被告人だけが責められている状況には違和感しかなかった。軍の責任者も別途起訴されているのならまだわかるのだが…。
    その点で私は「無罪」を選択した。もし避難の時間がない前提としたら、、その場合はかなり悩むが、やはり無罪に傾いた気がする。

    実際に舞台で上演されているのを観たかった。再演があれば行こうと思う。

  • <帯 見出し文より>
    2013年、7月26日、ドイツ上空で旅客機がハイジャックされた。テロリストがサッカースタジアムに旅客機を墜落させ、7万人の観客を殺害しようと目論んだのだ。
    しかし緊急発進した空軍少佐が独断で旅客機を追撃する。
    乗客164人を殺して7万人を救った彼は英雄か?
    犯罪者か?結論は一般人が審議に参加する参審裁判所に委ねられた。・・・

    という話通り、舞台は法廷、登場人物も限られた数人、構成も脚本仕立てになっています。
    なので、話が掘り下がられて別の次元に飛んだり、焦点を当てた人物を詳しく語ることもなく、ただ淡々と裁判が進んでいくだけなので、話自体もとても短いです。
    起こった事実と、被告はそれを最初から認めているのですから、後は裁く人に全て委ねられるという、とても簡単なそしてとても深い、裁判です。
    人の命を天秤にかけるという事柄の是非。
    果たしてその判決はいかに?

  • 台本形式(戯曲)の書き方なので、芝居(舞台)をあまり見慣れていない人にはとっつきにくいかもしれませんが、法廷劇や戯曲が好きな人なら絶対に楽しめる作品だと思います。

    ドイツでハイジャック事件が発生し、乗客164名を乗せた飛行機が満員のサッカースタジアムへ向かう。7万人の観衆を救うため、空軍少佐は命令に(あるいは憲法に)背いて旅客機を撃墜、164人を殺害した罪で起訴された。彼は大量殺人者か、それとも7万人を救った英雄か。

    検察側、弁護側双方の主張はどちらも説得力がありましたし、(おそらく)観衆の評決によって被告人が無罪/有罪となる2パターンのエンディングが用意されているのも魅力的でした。
    自分でも評決を入れる気持ちになって考えながら読むことができ、頭を使いましたが楽しい時間を過ごすことができました。

    検察官の主張にある、「みなさんを縛るのは、法律となったものだけです。現実に存在する法律は、憲法に合致し、込み入った民主的な手続きを経て、わたしたちの議会によって公布されます。ですからモラルに反して間違っているように思えても、法律は有効なのです。……「モラルとしては正しい」ことでも、その意見が憲法を超えることは決して許されないことです。」という論旨には法治国家としてのあるべき姿を感じましたし、弁護人の主張する「生命を他の生命と天秤にかけることはできないというこの基本的な考え方は、わたしには疑わしいものであり、健全な人間の考えと矛盾するように思います。それに、より小さな悪を優先させることは正しいとする判決が過去に何度も出されています」という英米法の判例も、実生活に即した判断であるように思います。
    それぞれのケースに応じて判断する(だからこそ判決に「揺れ」が生じて議論の的になるわけですが)こと、またその判断が適切であったかどうか検証して次に活かすことこそが重要なのだということを改めて考えさせられました。

  • 初読

    この「テロ」の橋爪功の1人芝居、朗読劇を観ている。
    それはもう、集中して観た。
    幕間で観客が投票し、無罪か有罪かでどちらかのエンディングが演じられる、というもの。
    私は無罪に入れた。結果は有罪。
    かなり多数が有罪票だったようで、この朗読劇は確か全ての回で有罪の結末だったように記憶している。
    そして去年、橋爪功がビーグラー弁護士役で主演、
    1人芝居ではない公演は私は観ていないのだが
    その日の投票結果がTwitterで発表されていて
    日を追うごとに無罪の回が多くなっていった筈。
    この結果は名優橋爪功が弁護人役である、という性質上のものであろうと思うけど
    こちらは観ていないので何とも…というか
    今これを書いていて、何でこちらも観なかったのか…
    「1人芝居観たしいいかな〜」とか思っちゃったんだろう…
    観たからこそ観よう、って話じゃん!ウアァ〜〜〜!
    と後悔。

    さて、舞台を通して聴いた方が初見だった、という事を
    割引いても、戯曲としては成功しているのかも。
    答えが出ない、という答えはともすれば安易に感じられてしまう
    各国で違いがありそうだけど
    日本においてはトロッコ問題も「何もしなければ罰せられない」
    が強い気がする。

  • テーマは面白い。

    テロに遭った飛行機の乗客の命と引き換えに、満員のスタジアムの客を守ることを、法律は認めることが出来るのか。

    命の多さで判断してはいけないという倫理。
    また、より甚大な被害を出さないために小さな悪は許されるとする措置。
    もしも、乗客が自力でコクピットのテロリストを制圧していたとしたら、は「仮定」の話。

    それよりも、スタジアムから誰も避難させなかったという「必然」の方が、罪が大きいと感じた。
    結局、これはコッホというパイロット一人を裁く話ではなく、テロリストという「あり得る」犯罪の中で、遂に働くことのなかったシステムの話なのだろうと読む。

    しかし、国家の罪は問われない。

    人は見えない枠組みは作れても、見えない枠組みを裁くことは出来ない、ということか。

  • 憲法裁判所が違憲の判断をしているのに、それでもその法を執行する可能性を示唆していた元大臣。公然とそれを是認する議論をしていた軍部エリートの勉強会。表面上、旅客機を撃墜してはならないと命じながら、撃墜を前提とするかのように、スタジアムの避難を指示をしていなかった上層部(その判断をしたのは誰なのかは極めて曖昧。)
    一見、被告人個人の有罪無罪が焦点のようだが、実はさらっと描かれている背景の「国家」が、とても怖い。
    テロによる間接的影響として国家自身による民主主義や自由の理念の侵害が、実は一番怖いし、それこそがテロリストの狙いだと、訴える巻末のスピーチがついているのは、偶然じゃないぞ。
    そういえば、「テロとの戦い」って、最近どっかの国の首相が声高に…。

  • 9.11なども経て創作された架空裁判劇。二幕終わりに観客に投票を促し、その結果で結末も変わる。二幕の検察、弁護士それぞれの主張がおそらく重要だが、劇として上演するには少し固いかもしれない。それまでの被告、証人の証言の方が自分の身に迫ってくるところはある。被告の行いを受け手にゆだねるやり口は、森鴎外の『高瀬舟』に近しいものもあるなあと。

  • ――

     少し趣を変えて、フェルナンド・フォン・シーラッハによる戯曲。
     よく見たら本屋大賞翻訳部門獲ってたから趣変わってないかも。

     2013年、ドイツ。テロリストによってハイジャックされた旅客機が、7万人の観客が集うサッカースタジアムに墜落させられようとしている。緊急発進した空軍少佐は独断でこれを撃墜、乗客164人を殺して7万人を救い、地上に戻ると即刻逮捕される。
     舞台はその彼の裁判。参審員制が取られているドイツの法廷を舞台に、被告人、弁護人、検察官、裁判長の4人をメインキャストとし、証人 (弁護人側と検察側とのふたり、かと思ったのだけど実際は両方検察側みたいになっている)が時折そこに加わる6人舞台。廷吏も入れたら7人のキャスティング。
     そう、つまり観客は、観客席から参審員として裁判に参加することになる。
     そして観客の「判決」に応じて、物語にはふたとおりの結末が用意されている……という仕掛け芝居もの。
     いわゆるトロッコ問題 (作中では転轍器係の問題、として言及されている)をテーマとして、観客に分岐を変えるか変えないかを選ばせるというのは面白い試み。

     参審員、というのは日本で云う陪審員のようなもので、一般市民による法廷参加なのだけれどドイツの場合は少し特殊で、先ずはその権限が殆ど裁判官と同等であるということ、量刑まで判断が及ぶと云う点、そしてそれだけの権限を持っているからこそ選出方法が日本のように無作為ではなくて、政党等からの推薦であり、任期も5年あるというところから純粋な「一般市民」とは云えないところもある。これは第三者機関みたいな、法律の専門家ではない目線で事件を見ようとする狙いなのかしらね? 直観的には無作為に選ばれた陪審員よりもアテになりそうだな、と思ったけれど「政党等からの推薦」ってところが少し臭い。

     
     さて全体的に、扱っているテーマとしては面白いものがあったのだけれどやはり戯曲として納めなければいけない部分もあろうて、事件の細かな部分が置き去りにされている風もあって、ミステリ読みとしてはそのへんが引っ掛かって少し消化不良なところ。


     ところでこのトロッコ問題、最近ツイッタで見かけたポイントの上を車体が通過する瞬間に分岐させて前輪を本線に入れて後輪を支線に逃し、股割きみたいな状態にしてトロッコを止めるという解決方法が目からウロコだったわけだけれど、何年か前にポイントを中立にして脱線させる、みたいな方法も出てたから最近例を引かれる場合はトロッコにひとが乗ってるのかもしれない。脱線させたり急停止させたらそのひとが犠牲になりますよ、って風に。重箱の隅をつつくひとに対応して形を変える、これも民俗学か(違います

     元々が「転轍器係」という、トロッコの行き先に責任を持つ職業を対象として提起されているものだから、正直一般的な人間に当て嵌めると本当に、正答なんてなくなってしまうのかもしれないなぁ、とも感じた。多分プロの転轍器係であれば、ひとりでも犠牲を少なくする、という思考に自然と傾くだろうし(それは、そうしなかった場合に非難が集まる、というのも勿論ある)、その立ち位置がこの作品では空軍少佐であり戦闘機パイロットである、という実力行使が可能な立ち位置なのだから、旅客機を撃墜して7万人を救ったという判断は当然じゃないか、と思ってしまった。
     撃墜された旅客機の乗員の家族も証人として出てきたけれど、なんだか悪し様にヒステリックだな、とか思ってしまう自分にもどうかと思ったけれど。
     それから検察官が被告人に対して、「旅客機に自分の妻と娘が乗っていたら撃墜したか?」という質問をして追い詰める場面も、なんだか設問的にそんなにフェイタルじゃない気もする。なんなら「スタジアムに自分の妻と娘が居たから撃墜したんじゃないか?」って方が設問としては恐ろしいよね。
     と、いうわけでこの問題に対して、「手を下す」訓練を受けている軍人という職業を転轍器係としてしまうと、あんまり感情移入は出来ないんだなと感じました。ふぅむ。

     ☆3.1

  • 読み進めていくうちにどんどん好きではない展開になった。

  • ハイジャックされ、大量殺人を目的にサッカースタジアムに墜落しようしている飛行機をその手前で撃ち落とすことは許されるのか?何万人の命を守るために、何百人を奪うことに正当性はあるのか?法哲学では鉄板のテーマ、功利主義を考える題材に適している。カントのトロッコ問題よりも、現実的で昨今の時世に鑑みても、本当に起こりうる話なので、真剣に考える余地を与えてくれる。

    本書はドイツが舞台となっており、「人間の尊厳」を最大限に尊重するドイツ基本法も背景にあることから、繰り広げられる命の価値に関する論争には重みがある。理解を深めていくにつれ、いろんな結論を導けるのがこの本の醍醐味。

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