嘘の木

  • 東京創元社
3.81
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本棚登録 : 566
レビュー : 83
  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010737

作品紹介・あらすじ

高名な博物学者で牧師のサンダース師による世紀の大発見。だがそれが捏造だという噂が流れ、一家は世間の目を逃れるようにヴェイン島へ移住する。だが噂は島にも追いかけてきた。そんななかサンダース師が謎の死を遂げる。自殺ならば大罪だ。密かに博物学者を志す娘のフェイスは、父の死因に疑問を抱く。奇妙な父の手記。嘘を養分に育ち、真実を見せる実をつける不思議な木。フェイスは真相を暴くことができるのか? コスタ賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 19世紀後半、ダーウィンの進化論に揺れる英国。牧師であり博物学者である父の世紀の発見「翼ある人類」の化石が捏造だったというスキャンダルから逃れるために、14歳のフェイスは、両親に連れられ、弟とともにヴェイン島に移住する。好奇心の強い彼女は、その捏造が厳格で正直な父の所業とは納得できず、スキャンダルの内容をもっと知りたいと思っていたが、島での父は、人を近づけたがらなかった。父からの依頼で「秘密」を手伝って「植物」を海の洞窟に運び入れた夜、再び出ていった父は、翌朝木に引っかかった形で死亡しているのが確認される。自殺が疑われるため通常の埋葬ができない。検死と審判まで埋葬は待たれることになった。父の手記から、隠した植物が「偽りの木」で、嘘を養分として育ち、つけた実を食すと真の知識を得られると知った彼女は、父の死因を突き止めるためにその木を利用しようと考える。

    自分たちの生活を守るためと真実を突き止めたい好奇心から「嘘の木」を利用する少女が、真実と嘘、女性の立場と戦略などに気づいていくミステリー。





    *******ここからはネタバレ*******

    これは文句なしにおもしろかった。秀作です。
    「進化論」に揺れる学会と教会で、その両方に所属する厳格で正直な父親が、嘘をつくことによって真実を得ようとする矛盾。
    女性は無知だと言いながら「お前がどれだけ賢いか、証明してみせてくれ」と娘に秘密の協力をさせる父親。
    そして、無知で非力な女性が、その存在感のなさを利用して周りの男達をあやつる。

    フェイスの貶められぶりが実にすごい。
    雨の中馬車の荷重が大きすぎて何かを降ろさなければならなくなったとき、弟よりも荷物よりも娘であるフェイスを降ろすことにするとか、弟の子守役を押し付けられるとか、母が、自分の年齢を高く見積もられたくないために娘にわざと子どもの格好をさせ続けるとか、頭蓋骨が小さいから知恵を入れないほうがいいとか、稼げないし名声も上げられないし、持参金は家から出るし、嫁に行かなければ弟の面倒になると言われるし……。ああ、この時代の女性は本当に大変だったんだなぁと思います。こういう人たちの人生の積み重ねのおかげで、フェイスの受ける辛い仕打ちも、過去のものとして受け止められるのでしょうね。

    この物語の中で突出しているのは、「嘘の木」の存在感よりも、主人公フェイスの頭の良さです。
    この木を利用するに当たり、父のサンダリー師は、自分の名誉を引き換えにしましたが、賢い彼女は、出どころを突き止められず、かつ、人々が勝手に翻弄されるような嘘をつくっています。この賢さが父親にあれば今回の悲劇はなかったでしょうに。

    彼女の嘘のおかげで放火や略奪、傷害を負ったミス・ハンターが、最後に彼女たちを助けてくれるところと、彼女が都合よく持っていた手鏡のおかげで嘘の木を焼けたというところだけは、ちょっと出来すぎ感はありますが、読みながら、どんな結末になっても満足できるだろうという安心感がありました。
    なんとも完成度の高い作品です。


    子どもたちだけでなく、大人の読書にも十分耐えます。

    • 図書館あきよしうたさん
      うわぁ、嬉しいです。
      これは、私も近年最高に楽しめた本の一つです。
      しずくさんにも楽しんでいただけたら、嬉しいです。
      うわぁ、嬉しいです。
      これは、私も近年最高に楽しめた本の一つです。
      しずくさんにも楽しんでいただけたら、嬉しいです。
      2020/09/05
    • しずくさん
      暴風雨が吹き荒れている台風の最中に明け方近くまで読んで読了しました。おかげで台風の怖さが半減するほど! 良い本を紹介して下さってありがとうご...
      暴風雨が吹き荒れている台風の最中に明け方近くまで読んで読了しました。おかげで台風の怖さが半減するほど! 良い本を紹介して下さってありがとうございました。
      2020/09/08
    • 図書館あきよしうたさん
      台風けっこう大変でしたよね。私の住んでいるところは、被害はありませんでしたが、交通機関やお店・学校があちこちお休みしてしまいました。
      しず...
      台風けっこう大変でしたよね。私の住んでいるところは、被害はありませんでしたが、交通機関やお店・学校があちこちお休みしてしまいました。
      しずくさんのところは大丈夫でしたか?

      楽しんでいただけたようで、私の著作ではないんですが、でも、同じ本を気に入ってくれる人がいるのって嬉しいです。

      最近怠けがちなんですが、またいい本と出会ったら力強くレビューしますねぇ。
      2020/09/10

  • 不思議な木の力を借りて、敬愛する父の死の真相を、真実をつきとめようとする少女の物語。

    ファンタジーよりもミステリ強め、そして男尊女卑が当たり前の時代と抑圧を絡ませ、そうそうさらっとは読めない、一筋縄ではいかない物語だった。
    父に必要とされ認められようとする姿は涙を誘うし、女性の生きづらさもひしひしと伝わる。
    嘘の木と人間心理の絡ませ方は上手い。人しだいでどうにでも変わる教訓めいたことも感じられる。

    読み手誰の心にも必ず何かしら響き、特にオトナの心を一番刺激してきそうな良書だった。

  • 『種の起源』の発表から数年後のヴィクトリア朝英国が舞台。人のつく嘘を養分にして育つ「嘘の木」という植物が実際に登場するので、やはりファンタジーということになるのだろうが、なぜかミステリ業界で評判になっている。今年の第一位という評さえあるくらいだ。そうまで言われると読んでみたくなる。お約束のどんでん返しもあるし、謎解きの妙味もある。主人公の娘フェイスが持ち前の好奇心を武器に、父の死の真相を探るという立派なミステリになっている。

    フェイスの父エラスムスは、牧師というよりも高名な博物学者として知られていた。ところが、あろうことか、エラスムスが発見した化石が実はねつ造されたものだという事実が新聞報道され、一家はケントの牧師館を追われるようにして去り、ヴェイン島に向かう。島の洞穴の発掘作業に招待を受けたのだ。スキャンダルから一時身を隠すには絶好の機会だと義弟が勧めるので、とるものもとりあえず船に乗ったのだった。

    はじめは歓待されたサンダリー家だったが、ねつ造の件を伝える新聞は島にも届き、島民は手のひらを返したような態度をとりはじめる。そんなとき、父が不審な死を遂げる。父が大切に世話をしていた鉢植えの木を隠すため、フェイスが偶然見つけた洞窟に父を案内した後のことだ。父の死体は崖に生えた木にひっかかっていた。後頭部には傷があり、近くには死体を運ぶのに使われた手押し車が放置されていた。

    問題は一家に対する島民の反感の強さだった。死因が自殺ではないかと疑われ、審問が終わるまでは遺体を墓地に埋葬する許可が出ない。フェイスは父の死は自殺ではなく、誰かに殺されたものと考え、捜査を開始する。手がかりは父の残した手記の中にあった。それには「偽りの木」を手に入れた顛末が書かれていた。それを育てるには嘘を聞かせねばならず、大きな実を成らせるためには大きな嘘が必要になる。そして、その実を食べることで真実を告げるヴィジョンを見ることができる。

    ダーウィンによる『種の起源』の発表は、神は自分に似せて人類を創造したという説を真っ向から否定するものだった。肩に翼をもつ人間の化石のねつ造は、エラスムスが、人間誕生の真実を幻視するための大きな嘘だったのだ。秘密を知ったフェイスは、自分も嘘の木の実を食べてみる。それによって父の死の真相を幻視しようというのだ。ヴィジョンによる探偵というのは本格探偵小説の世界ではタブーである。しかし、ヴィジョンは暗示するだけで、いわば夢のお告げのようなものだ。事実を暴くには探偵が体を張るしかない。

    嵐の晩には洞窟を通る風が吠えるような声を響かせる絶海の孤島。ランタンの灯りだけを頼りに小舟で渡るしかない岬の洞窟。自殺者は杭を打って分かれ道の辻に埋めるという因習に凝り固まった島民の敵意。そこへもってきて、ヴィクトリア朝の女性蔑視や子どもと大人の女性との間の年頃でどっちつかずのフェイスの年齢が持つ曖昧さが厄介になる。博物学者になりたいというフェイスだが、弟は寄宿学校に入れてもらえるのに、フェイスにはその選択肢がない。

    フェイスの母マートルや郵便局長のミス・ハンター、その他の女性を描くことを通して、ヴィクトリア朝という時代設定を単なる飾りではなく、女が自立して生きるにはいかに困難な時代であったかをしっかり描いているところが特徴である。夫を立てるふりをしながら、実際は男がうまく動けるようにその環境を整え、手配するのが妻の仕事。そのためには、媚を売るくらいのことは、平気でやるのがマートルだ。はじめは母のことが嫌でたまらなかったフェイスが次第に母を見直すように変わっていく。

    真犯人を探すための手がかりは、はっきり書かれている。視点人物はフェイスに限られ、彼女の知り得た事実は読者も共有できる。ファンタジー風味は極力抑えられ、伏線の張り方やフェアな叙述はミステリのそれである。周りを海に囲まれた島で、エラスムスを犯行現場に呼び出す手紙を書けたのは発掘作業に関わっていた者でしかありえない。フェイスは幽霊騒ぎや、偽のノートといった奇手を使って、犯人に揺さぶりをかけるのだが、やっと分かった真犯人は意外な人物だった。このどんでん返しがよく効いている。

    犯人を見えなくさせているのが、物理的なトリックでなく、心理的なトリックであることがミステリ評論家に受けをよくしているのかもしれない。19世紀という時代そのものがトリックになっていると言っていい。「嘘の木」という仕掛けが、さして嘘くさく見えてこないのも、まだまだ人類が他の動植物と同じく、神の創造物であるという、いまとなっては戯言とも思われる考えが大手を振って歩いていた時代の話になっているからだ。あれこれと悩みながら、自分のアイデンティティを確立してゆく主人公に共感できる世代に勧めたい。

  • 図書館あきよしうたさんの感想から読みたくて。あからさまな女性軽視など取り巻く環境は違ってもマウンティングや親子・夫婦の愛情のすれ違い等は今も変わらない。ほろ苦い真実にたどり着くまでのどんでん返しミステリーと14 歳の少女の成長物語があいまって面白く一気に読んだ。

    • 図書館あきよしうたさん
      レビューから読んでいただけたなんて嬉しいです。
      そして、楽しんでいただけたようで、さらにさらに嬉しいです。

      ありがとうございました(...
      レビューから読んでいただけたなんて嬉しいです。
      そして、楽しんでいただけたようで、さらにさらに嬉しいです。

      ありがとうございました(^o^)。
      2020/09/15
    • 111108さん
      人物関係とかちょっと混乱しそうな時もありましたが、レビューで予習させてもらったおかげで本当に楽しく読めました。
      ありがとうございました!
      人物関係とかちょっと混乱しそうな時もありましたが、レビューで予習させてもらったおかげで本当に楽しく読めました。
      ありがとうございました!
      2020/09/15
  • 成長する話らしい、、、

    東京創元社のPR
    翼ある人類の化石、謎めいた手記、嘘を養分に育つ奇怪な木、高名な博物学者の不可解な死。時代の枷に反発し真実を求める少女は真相を暴けるのか? コスタ賞受賞の超大作!
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010737

  • 人間の嘘を養分にして生育する嘘の木の存在感がすごく、細かなストーリーは忘れても、これは忘れないだろうなと思う。後半にかけて雪崩のように展開する物語はなかなか読み応えがあって、これが児童文学なの?と思わせる。個人的に母親のキャラクターは好きである。

  • ものすごくスケールの大きな作品。

    メインのプロットはビクトリア時代を生きる主人公フェイスの父が自殺と疑われるような不審死を遂げて、その疑いを晴らすためにフェイスが立ち上がるというもの。そのためにフェイスはが父が秘密裏に育てていた「嘘の木」を利用しようと考える。この木は養分として「嘘」を与えると実をつけ、それを食べると催眠状態に陥って真実が見えるという。次々と嘘の情報を流して、木を育むフェイス。物語半ばでフェイスは「わたしはうそがうまい」とほくそえむ。ーーYAにこんなヒロイン、かつていたかな?

    フェイスだけでなく誰一人として純粋無垢な人は出てこないんだけど、だからこそこのダークな物語にぐんぐん引きずり込まれる。ビクトリア朝の典型的な婦人として描かれている母マートルでさえもしだいにそのしたたかさがあらわになって、かえって魅力を増す。そして彼女らがとにかくもう終盤たたみかけてくることといったら! ビクトリア時代に自分の人生を生きられなかった女性たちの、あるいは秘めた、あるいはあらわな強さ、ずるさ、サバイバルテク。むしろ、秘密が明るみに出てからの展開が面白かったくらい。最後、進化論に対するフェイスの思いを読んで、ポロポロと涙がこぼれた。かっこいいよ! フェイス。

  • この作品の主人公である知識に飢えたフェイスに深く共感した。

    フェイスは牧師で博物学者である父に認められたくて、七歳の時、初めて散歩に誘われ、小石を拾う父に「こういう石を自分で見つけられるかな?」と言われ、フェイスはらせん状に刻み目が入った平たい石を希望と不安で父に見せると、「よくやったぞ。フェイス」と父はしゃがみこみ、「これは化石だ。かなりきれいなものだぞ。この瞬間を覚えておきなさい。自分で化石を見つけたのだからな」と言われた。

    父は“世紀の発見”と讃えられる化石の発見をした。しかし、新聞では捏造と書かれてしまい、そのため、ヴェイン島に逃げるように引っ越すことになった一家だった。

    引っ越しの際中、フェイスは父の貴重品箱からこっそり「化石がまったくの偽物」と言うことが書かれた手紙を読み、手紙に指の跡をつけてしまう。

    そのことを隠しながら、新しい家での生活が始まる。

    弟であるハワードはしつこく左手を使いたがるのを母のマートルは“一時の気まぐれ”だといい、使わせないようにしておけば心配はいらないといいはっている。

    ハワードは八歳になると寄宿学校に送られる予定になっている。ハワードはそれを嫌だと思っているが、フェイスは苦々しさとねたましさの魂をのみこみながら「ハウは恵まれているのよ。いい学校に行く機会もらえたら、どんなに幸せだろうと思っている人だっているんだから」と自分がそのひとりということはいわず、「上着を着て書きかたの練習をしたら、そのあとはお庭を探検しよう。ピストルをもっていっていいわよ」と言う。フェイスは両親よりもハワードの事を理解していた。おもちゃのピストルはハワードに必要なのだ。

    しかし、ある日、フェイスが父の手紙にしみをつけたのが自分であると告白すると、父は「娘が男のように、勇敢であったり賢かったり技術を持っていたりすることはない。善良でない娘など価値などないのだ」と言う。

    フェイスは「わたしは賢いです」と言うが、父は「子供はみな、家や服や食事を親から借りて人生をはじめるのだ。息子は、いずれ富を築き、その借りを返してくれるかもしれない。だが、娘であるおまえには、絶対にそんな時は訪れない。軍務につく名誉もなければ、科学の分野でひとかどの人物になることも、教会や議会で名をあげることもなく、なんらかの職業で身を立てる事もないのだ。いつまでもお荷物、親のすねかじりをつづけるだけだ。結婚するにしても、持参金はうちの金庫に大きな穴をあけるんだぞ。ハワードをばかにしているが、もし結婚しなかったら、いずれはあれの情けにすがるしかない。でなければ、路頭に迷うのだからな」と言われる。

    そして、父は謎の死を遂げ、不審に思ったフェイスは父が秘密にしていた嘘の木の真実の秘密を解き明かす不思議な実を口にし、巧妙な嘘を重ね、真実にたどり着く。


    フェイスの女性として求められているものにうんざりし、頭でっかちであることを悪いと思いながらも、もっと知識欲を満たしたい気持ちが凄くよくわかり、いつの間にかフェイスという大人になりきれない娘になりきり、物語の中で勇敢に冒険をした。

  • 植物が重要なモチーフになっているダーク・ファンタジー。
    主人公の少女が、一見するとか弱そうな立場でありながら、『嘘』を上手く使って『加害者』の立場でもあるというのが面白い。また、『嘘を養分とする木』というモチーフも良かった。実を食べた時の幻覚の描写はもう少しねちっこい方が好みだったか。
    著者の作品が邦訳されるのはこれが最初ということだが、本国では有名な児童文学作家のようだ。他の作品も邦訳して欲しい。

  • 嘘の木は人間のウソを取り込んで大きくなり、実をつけて、それを食べた人間に真実のビジョンを見せてくれるというものだが、それが本当なのか登場人物たちの思い込みなのかは結局怪しい。光に当たると発火するあたりも、マジカルで不思議な生態。

    前半は時代背景と相まって、女子が学問できなかったり、軽んじられたりするシーンにムカつくことも多かったけれど、後半に行くにつれ、どんな状況であってもしたたかに計算する知恵を女性はもっているということに気づかされる。

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