嘘の木

  • 東京創元社
3.80
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感想 : 117
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010737

感想・レビュー・書評

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  • あちこちで絶賛ばかりが聞こえてくる『嘘の木』である。
    もともとYAとして出版され、日本の出版社もそのつもりで出したのだろうが質の高いミステリだ、という評と口コミで広がっていったもよう。
    ファンタジーがそれほど得意でないのであまり食指が動かされなかったのだが、こうも評価が高いのであれば読まずにはいられない。
    …結果、もういまは胸がいっぱいである。
    最初は主人公になかなか共感できず、物語の世界に入り込むのにやや苦労をしたのは事実。当時の女性たちがいかに窮屈な思いをしていたか…の表現がややしつこく、ちょっとうんざりもしかけていた。
    だが、たいていの長編は後半が勝負だ。
    そのとおり、半分を少しすぎたあたりから、止まらない止まらない。
    前半で感じていた「抑圧された女性たち」が後半のわずか数10ページでいきなり仮面を捨てるようにして本来の姿を見せはじめる数々のシーンは忘れがたい。
    さらに、自分自身の偏見にも気づかされた(馬車のシーン、犯人像)。
    この母にしてこの娘あり、としっかり思わせ、希望を抱かせるラストシーンもとてもよい。
    ストーリー性も高く、よくできたミステリである以上に、すばらしいフェミニズムの物語でもあった。

  • 外国文学は読みにくい印象がありますが、これは翻訳がわかりやすくてとても読みやすかったです。ビジュアルが目に浮かんで来ました。当時の状況も生き生きと描かれていてイメージしやすく、作品をさらに深めてくれています。ストーリーもとても面白かったです。最後のどんでん返しも印象的でした。映画化に向いてると思います。

  •  牧師で博物学者の父が捏造スキャンダルを起こし、家族でロンドンを追われることになった。フェイスは厳格な父が捏造するなんて信じられず、何か父の力になれないかと考えていた。
     海を渡った小さな島に化石研究者として招かれた父だったが、すぐに島中にスキャンダルが知れ渡り、家族全員が冷たい視線をあびることになってしまう。
     フェイスが父の秘密に気付き始め、力になれるのではと思った矢先、父は亡くなってしまった。

     自殺を疑われた父が正式な埋葬もしてもらえずにいることにいたたまれないフェイスは、父の秘密を解明しようと動き始めた。そして父は殺されたのだと確信する。

  • ファンタジーなんだろうけど、ミステリでサスペンス。
    女は何も望むことが出来ず、選ぶことができなかった時代。
    フェイスの鬱積した気持ちと、人々の生き方や抱える苦悩がわかりやすい細やかな背景描写は印象的。
    反発する心と反面、諦めるざるを得ない惨めさ、だけど折れない必死な気持ちが儚くも力強くて、ページを追う目と感情がもたついて、頭が追いつかない。
    面白かった。

  • ダーウィンの進化論が世に出て間もないころ、女性は家でつつましくしているものだとされていたころが舞台。
    著名な博物学者の父は、化石をねつ造したという疑惑を持たれ、追われるようにしてある島へ家族ともども引っ越してきた。その島での発掘作業に招かれていたのだ。だが、父は島で事故で亡くなってしまう。事故なのか、自殺なのか。原因がはっきりするまで埋葬もしてもらえない。父を尊敬し、父のように学問をしたいと思っている娘のフェイスは、父の死に疑問をいだく。そして、父がこっそり島に持ち込んだ植物「嘘の木」の秘密を知り、父の死の真相を突き止めようと島の人々を巻き込む嘘を広げていく。

    カーネギー賞など多数の児童文学賞の候補作になったというファンタジー大作。と、あとがきには書いてあるが、これは児童文学なのか。舞台は過去だがSFチックな少女の大冒険という感じ。
    尊敬する父親のねつ造問題や、真相究明のためとはいえ嘘で住民をだまし続けるフェイスとか、児童文学としてどうなんだろうか。これは、大人向きの物語として提供したい。

  • ☆4.2

    高名な博物学者の父を持つ14歳のフェイスは、尊敬する父の影響を受けて博物学を好んでいる。
    しかし、父が発見し世界を熱狂させた"翼を持つ人類の化石"が捏造であると新聞に記事が出てしまったことで、人の目を逃れ一家でヴェイン島に移住する。
    島の人々は一家を歓迎してくれたのだが、捏造の噂はすぐ島まで届き、その狭い人間関係はめちゃくちゃに。
    そんなある日、父親が死亡してしまう。
    周りはみな自殺と疑わないが、娘のフェイスは何かを隠していた父の様子から疑問を持ち、父の突然の死について調べ始める。
    暗闇の中で嘘を養分に育ち、実った実を食べた者に真実を見せるという"偽りの木"についての研究資料を見つけ、しかもその木は島に持ち込まれていると気付く。
    きっとこの木が父親の真実を教えてくれる。
    フェイスはこの木を使うことに決めた。

    フェイスの噴飯やる方ない思い、そして忸怩たる思いといったら。
    子どもであること、女であること、姉であること。
    自らを縛る鎖に苦しみ怒る。
    単なる"思春期"なんて言葉だけでは表せない、複雑でコントロールできない思いが、フェイスの胸にはつまっている。
    この思いは、読んでるこちらをも息苦しくさせる。

    まだ難しいことはわからない弟へ向ける気持ちも、かわいいと思うそばから憎らしくなる相反する現象にも共感しつつ胸が痛くなる。
    何よりも父親へのひたむきな心が傷だらけに見えて、その心に占める存在の重さがもどかしい。

    それでもフェイスは知りたい。
    愛する父親に何があったのか。
    偽りの木に実をつけさせるためにする行動には、結構したたかなところもあって、偶然に助けられながらもフェイスの手腕が光る。
    本当にすべてが体当たりで、そこにできる傷跡も愛おしい。

    読み終わった時には、フェイスはその広がった視野でこれからを生き抜いていくんだろうなと思えた。
    暗くじめじめしていた世界を切り裂いて、太陽の光さす世界が見えたラストだった。

  • 嘘を養分にして育ち、その実を口にした者に真実のヴィジョンを見せるという「嘘の木」。敬愛する父を不可解な形で失った主人公フェイスは、そんな木の力を借りて父の死の真相を突き止めようとする。科学と信仰がせめぎあい、女性たちが現代のような自由を持ちえなかった19世紀の英国を舞台にしたミステリであり、ダークなファンタジーであり、何よりも年若い女性という不自由な立場の主人公が事件を通じてより広い視野や考え方に目覚めていく成長の物語でもある。序盤はひたすら主人公の不幸な境遇が描かれ鬱々とするが、中盤以降、逆にその立場を活かして立ち回り、主人公の葛藤が彼女自身の成長という形で昇華されるのは見事。ラスト、主人公が軽蔑していた母という人物を理解するとともに、畏敬し、ひたすらに愛情を求める対象だった父という人物を捉え直すところがとても好きな場面だ。

  • 女性が評価されず、虐げられ、人権を無視されている時代の話だと思う人もいるだろう。でもこの話は、この令和の現代も社会で起こっている事実だ。もし女性の話を書くなら、生理や出産などの話も絡めてほしかったけど、それでもたくましくいきる女性はいつの時代もいることに少しだけ勇気付けられる。

    ミステリー要素もありつつ、時代背景と合間って数週間の話が壮大なストーリーとなることを体感した。何より著者の言い回しが美しく、目の前で観客として見守ることができる。しかも、映画よりもすごい。匂いや感触や音…轟くような耳鳴りまで…体験できるのだから!

    夏の避暑地の読書に一冊いかが。

  • めちゃくちゃ大きいスケールの話やのに、ほんまに横で見てるような感覚でお話が進んでいく。
    登場人物の心の内がわかってくるにつれてどんどん面白くなっていくし、どんどん広がるように展開していって止まらない。
    児玉さんの訳がまためちゃくちゃ好きやった。
    女性の生き方を決められ過ぎた世界にこんな人が居てくれたからちょっとずつ女性の世界が広がっていったんやろなぁ。
    ハーディングさんの本をもっと読みたくなった!!

  • ヤングアダルト
    少女の成長物語と19世紀のミステリー
    フェミニズムも?

    崇拝していた父が皆を騙していた
    嘘の木から真実を求める為に

    その父が何故皆を騙したのか、父を殺した人間は誰か、を1人で嘘の木を使って探していく主人公


    "お父さまはけっして、わたしを理解しても、許してもくれないだろう。でもわたしは、お父さまを理解できるし、いつかは許すことができる。"

    "でも、そうではない。ほかのご婦人がたもひとりひとりちがうのだ。"

    "「わたしは悪い例になりたいの」
    「そう」
    「そういうことなら、すばらしい一歩を踏みだせたんじゃないかしら」"


    とても清々しい少女の成長物語

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