鐘は歌う

  • 東京創元社
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本棚登録 : 136
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010843

作品紹介・あらすじ

ロンドン塔から大鴉が消え、ロンドンは瓦礫の町と化した。人々は言葉も記憶も失い、新たな支配者〈オーダー〉は鐘の音で人々を支配している。そんななか、物に触れて持ち主の記憶を読み取りる能力を持つ孤児の少年サイモンは、親友のリューシャンと、鐘の支配から人々解放しようと、〈オーダー〉の本拠地オクスフォードを目指す。世界幻想文学賞賞を受賞、ブッカー賞候補にも挙がった幻想文学の名作登場!

感想・レビュー・書評

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  • 世界幻想文学受賞作。

    アンナ・スメイル氏がどういった方なのか、調べてもよく分からなかったが、ニュージーランドの作家さんと聞いて、ちょっと親近感。

    しかし、序盤は、割と頭の中がゴチャゴチャした状況で読んでいたからか、ぜんっぜん、入って来なくて三回くらい読み直した。
    鐘の音が一体何なのか、サイモンは一体何を知りたいと考えているのか、人々はどのように生活しているのか……。
    世界観がピタリと収まるのが、割と中盤に近いくらいなので、そこまでは辛抱でした。
    我慢です。我慢。

    で、世界観が唐突にハマるものだから、そこからの展開が早い早い。面白い。駆け抜けて、クライマックス、からの、えええぇー!?な最後(笑)

    雑な説明すぎる。。。
    ネタバレし過ぎると良くないので。

    音楽という「調和」を重んじるということは、それが秩序であり、理性であることを指す。
    この作品で、音で織りなす旋律は、記憶よりも確かな唯一無二のアイデンティティであり、繋がりであり、自身の生さえ左右する。
    誰もが、出自を歌い、行き交う道を歌い、誰かの歌に、鐘の歌に耳を澄ませる。

    けれど、本来人間は「不調和」なもので、めいめいに好きな音を生み出す存在だ。
    結局、秩序を前提に統率された世界は、ディストピアにしかならなくて、でもそのディストピアには一定数の信者と恩恵が確かに存在する。

    世界を変革するという選択には、いつだって、背負わなければならない「その後」が待っている。
    物語がその部分をどう描くかが、いつも気になるのだけど、そこにアンナ・スメイル氏のメッセージがあるように思う。

  • 旅の土産にその街のランドマークになる建築をかたどった小さなモニュメントを買って帰ることにしている。ロンドンで買ったそれはロンドン塔をかたどったもので、ビーフイーターや砲門に混じって、ちゃんと大鴉(レイヴン)もいた。言い伝えには「レイヴンがいなくなるとロンドン塔が崩れ、ロンドン塔を失った英国が滅びる」とある。それで、今でも塔内には一定数のレイヴンが飼育されている。飛んでいかないように羽先が切られているという。

    この物語は、その言い伝えをもとに書かれている。舞台は言うまでもなくロンドンとその近郊。時代は定かではないが、荷馬車が交通手段になってはいても地下には鉄道の跡もあるし、電話線も敷かれているところから見て、そう昔のことではない。しかるに主人公のサイモンを馬車に乗せてくれた御者台の男は「徒弟奉公をするのかい」と尋ねている。まあ、ファンタジーで時代をどうこう言うのも間が抜けている。何かがあって、時代が逆行してしまっているらしい。

    後で分かることだが、ここで描かれているロンドンは、大崩壊後のロンドンであって、それ以前のロンドンではない。大洪水に遭って、ロンドンの街は崩壊した。塔から最後に逃げ出した二羽のレイヴンは記憶と言葉を司っていたため、人々は記憶を保持し続けることができず、その日その日を唯いたずらに生きていた。人々は話すことはできても文字というものを覚えていないので書き留めることはできない。文字は昔の記号としか理解できていない。

    しかし、人々には慰めがあった、朝課や晩課として鳴らされる教会の鐘の音(カリヨン)には「一体化のストーリー」が巧妙に織り込まれていて、人々はそれを毎日定時に聴くことで、大きなストーリーに身をゆだね、自分個人に関わる記憶や、それにまつわる心配事とは無縁の、安逸な日々を貪ることができるのだった。

    ところが、そんな人々の中にあって記憶を保持し続ける人々がいた。「記憶物品」という記憶を呼び戻す縁となる物を手にとると、その人の記憶を読むことができるのだ。そういう人々を「記録保持者」という。サイモンの母はそのメモリー・キーパーだった。日々記憶を失う人々は「記録保持者」に「記憶物品」を預けることで、欲しいときに記憶を読んでもらえる。母の手には多くの人から預かった「記憶物品」が集まってきていた。死の近づいた時、母は同じ力を持つサイモンに後を託す。しかし、サイモンはその使命について何も知らされていない。

    読みはじめると最初から戸惑う。ソルフェージュのハンドサインだの、カリヨンだの、やたらと音や音楽に関する記述ばかりが続くからだ。しかも、主人公はどうやら徒弟奉公に出られそうになったばかりの田舎育ちの若者に設定されている。視点は一人称限定視点で貫かれているから、サイモンは一日だけの記憶と文字代わりに使う旋律だけを頼りに、母から聞いたネッティという人を探してロンドンを彷徨う。

    何も知らない主人公が、故郷を後にして、新しい土地に向かい、そこで仲間を見つけ、敵対者に追われながら、次第に自分の秘めた力に気づいてゆく。そして、隠された使命を理解し、葛藤の果てに協力者と力を合わせて、使命を果たし、やがて帰還する、というファンタジー御用達の、ウラジーミル・プロップのいう昔話の基本的な構成要素がここでも踏襲されている。

    気になるのは、オーウェルの『1984』に代表されるディストピア小説をなぞっている点だ。主人公とその協力者であるリューシャンは、カリヨンを用いた「一体化ストーリー」による人民支配を続ける「オーダー」という組織に敵対する。その「オーダー」に敵対する組織が「レイヴンズギルド」と呼ばれる対向組織。彼らの目指すのは、個々の記憶の回復と同時にもっと大きな、例えば都市や国家というものの歴史の記録を残すことである。

    「オーダー」は、人々から文字を奪うため「焚書」を行うし、人々の統治を完遂するため「一体化ストーリー」の定着に余念がない。こうまであからさまだと、近年かまびすしい、フェイク・ニュースという言葉の蔓延や権力によるマス・メディアの支配に、誰であれ思いが及ぶ。寓意の底が見えすぎるのだ。

    主人公のサイモンは抵抗組織に属する母を持つ特殊能力保持者で、その協力者であるリューシャンはもとは「オーダー」側の人間で、ゆくゆくは修楽師から、カリヨンの旋律を作曲する大楽師を目指していた、いわばエリート中のエリートだ。ストーリーが単線的で紆余曲折に乏しく、人物の出入りも少ない。必然的に、真実に目を向けることなく惰眠を貪り、安逸な日々にのうのうとするもの言わぬ人々に対する覚醒者の焦慮がそこここに透けて見える。

    いずれにせよ、ただの人々に活躍の余地はなく、世界は一部の人々の手に握られているのではないか、という疑念が胸から離れない。それともう一つ、音楽に堪能な読者には頻繁に記される音楽用語は自明であるのかもしれないが、一般の読者にとっては、近づき難い壁となってそこにある。作品世界に入りきれないもどかしさが残る。さらには、文字を知らないサイモンの独り語りにしては、描写も説明も流暢すぎる。世界が回復してから後に記された文章であることをどこかで書いておかないと不親切ではないか。そんな疑問が残った。

  • これで完結したように思えない。これから先が本番のような気がする。天与の才に恵まれたリューシャンと努力家のソーニャ。ソーニャの哀れさが際立つ。文字を奪われた人達。彼らに恋はできるのだろうか。サイモンとリューシャンはパクトのメンバーと再会できるのだろうか。それにしても、最近の東京創元社はファンタジーに力を入れてるな。オーストラリアやニュージーランド出身の作家の活躍も目立つ。

  • 武蔵野大学図書館OPACへ⇒ https://opac.musashino-u.ac.jp/detail?bbid=1000153156

  • 記憶を無くした世界に響く鐘の音。
    それは世界の秘密を閉ざす魔の旋律...

    装丁に惹かれコレクションとして購入。
    これが幻想文学。
    ファンタジー とでは表しきれない、
    淡い言葉のベールで包み込まれるような
    どこか不思議なジャンル。
    小川洋子さんの 猫を抱いて像と歩く と似た雰囲気。

    終始ふわふわふわ...
    きちんと理解出来ていなくても読み進めてしまうのは、
    道筋の分からない地下トンネルを、
    僅かな音を頼りに突き進んでいくのと似た感覚だろうか。
    読みかけの本だからという使命感ではなく、
    本の中になにか大切な忘れ物があるような...
    上手に言い表せられないが、そんな気持ちにさせられる。

    ストーリーの着眼点も鋭く、
    冒険、ミステリー、恋、友情と内容もぎっしり面白いので、
    大衆向けにデフォルメし、
    映画やアニメに落とし込めば、きっとうけるだろう。

    記憶を無くして作った平和な世界にも、
    やはり搾取する者とされる者が存在する。
    時代や手法が変わっても、変わらないこの縮図を通して、
    あなたならどんな平和を作るかと問われている気がした。

    400というページの中で、
    記憶の微睡みに浸る、そんな不思議な体験をした一冊。
    時間に余裕があるときに、ぜひ。

  • 音楽理論を学んだことがほんの少し役に立つくらい、超難解。
    音や符が頭蓋骨で反響してどうも落ち着かない。
    いつのまにか知らない間に実効支配され記憶すら留めて置けない。
    ディストピアというよりも現実味のある怖さがある。

  • 主人公は母を亡くしたサイモン。彼が住む世界では、人々は記憶を持つことができず文字も失っている。そして日々鐘の音に癒されている。何故そのような世界なのか。サイモンは、友人リューシャンからその答えを徐々に明らかにされるのだが、サイモンの一人称の語りがどうもふわふわしててよく分からない。彼の様々な事を語る詩的な文章のせいなのだろうし、ここは好みが分かれそう。私はちょっと合わなかったかな。

  • ミステリのようなファンタジーのような感じがした。文字を持たなくなった遠い未来。それはまだ文字を持っていなかった遠い過去を思わせる。音楽と記憶の結びつきの強さを思う。

  • これはすごく評価が分かれそうな大人のファンタジーですね。
    著者さんが元々詩人だけあって、文章がとても詩的です。

    言葉をもたないことが、思考をやめたらどうなるのか、警鐘ともとれる物語。

    この先のサイモンとリューシャンを想うと、労いたくもありほんとうにこれでよかった?と問いたくもなり。

    でもきっと二人はこれからも共に生きていくのだろうな。失った多くのものの記憶を携えてちゃんと生きていってほしいね。

    しかし、この音で地図を描くとか、会話をするとか、すごい発想だなぁ。

    万人に受け入れられることをたぶん求めていないようなそんな潔さを感じます。
    君にこれを理解できるか?と問われているような。

    一度読んで終わりではなく、きっと何年か経ってまた読むとまた違う理解が生まれるのかもしれない。
    わかりやすい物語ばかりが持て囃される昨今で、こういう毛色の物語があるってことに救われた気もする。

    果たして、自分は、この物語に受け入れられたのかしら。

  • 190117*読了
    文字がなくなった世界。人々はカリヨンの音色に支配され、メロディで会話する時代。
    文字がなくなると記録ができなくなり、人々は記憶が長く持たなくなってしまう。そして気づけば記憶不能者、痙攣病に…。恐ろしすぎるだろ!!
    なぜそんな世界になったのか、という部分が伝えられずに物語が終わってしまうので、そこはもうファンタジーととらえて納得するしかない。
    よくも悪くもふわっとしているところが、この小説の特徴です。細部が見えづらいというか。
    主人公のサイモンの一人称だからこそ、サイモンが見ている世界しかわからないというのもありますね。

    普段、幻想的な小説はあまり読まないので(ハリーポッター以来かな)、こういう本もたまに読むと楽しいなと思います。

    この本は、たまたま図書館の新刊コーナーで気になって手に取りました。こういう本との偶然の出合いが好き。

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