刑罰

制作 : 酒寄 進一 
  • 東京創元社
3.80
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本棚登録 : 173
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (213ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010904

作品紹介・あらすじ

ダイバースーツを着て浴室で死んでいた男。裁判で証人の抱える孤独に同情してしまった参審員。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護する新人弁護士。高級ホテルの部屋で麻薬常習者になったエリート男性。――実際の事件に材を得て、法律で裁けない罪をめぐる犯罪者や弁護士たちの素顔を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』、第二作『罪悪』を凌駕する珠玉の短篇集。短篇の名手が真骨頂を発揮した最高傑作!

感想・レビュー・書評

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  • いつの間にかシーラッハを読まずにはいられない人になってしまった……。

    オビの「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに。」という一文を、読み終えてそっとなぞる。

    裁くというのは、言わずもがな客観的な行為だ。
    状況があり、理由があり、そして人が当事者であることで、罪は決まり、裁きが下る。
    けれど、理由がなくても、状況は生じる場合がある。
    理由があって、自身が関わらない所で状況が生じる場合もある。
    さらには、人ではない場合も……。

    以下、ネタバレ含むので注意。



    「参審員」
    冒頭の話だが、最も印象に残った。
    国によって参審員に選ばれたカタリーナ。
    彼女自身の心身がようやく快復してきた時のことで、断ろうとするものの、特別な事情がなければ辞退は出来ないと言われる。
    そんな彼女の前に、酷いDVを受けた妻が現れる。
    夫の在り様を話し、それでも夫への想いを滲ませる妻に、カタリーナは共感し涙を流す。
    しかし、それは「参審員」としてはあるまじき主観的な行為で、カタリーナは始末書を書かされる。
    そして、妻は釈放された夫に殺されてしまう。

    ニュースを見ていると、特別肩入れをしてしまうような事件がある。
    私にとって、琴線に触れる何か。
    時には、その事件から目を背けたくなることもある。
    そうした心は、システムで縛ることは出来ない。
    なのに、人間はシステムを使って心さえ操ろうとする。無理なことに、無理と気付かない時がある。

    ひとつひとつの話を読んで、自分の中に生じる複雑な思いを味わうのが、この作品の醍醐味だと思う。
    本当に上手い。

  • 悪くはないのだが、それぞれの短編を読み終わったあとに、もう一段の余情というか「ため息」のひとつが欲しくなる。
    この中では「奉仕活動」という比較的長いものが満足感が高い。まだ西ベルリンと呼ばれていた頃に、車の中から初めて見たイスラムの家族連れを思い出した。

  • シーラッハの何冊目かの短編集。
    今回も犯罪や事件に関しての話がいくつか。
    本当なら、きちんと刑罰が与えられるはずなのに、法の目をかいくぐる、あるいは周りをうまくだます、言いくるめるなどして、正当な刑罰を逃れた人たちの話。
    相変わらず、余計な装飾を省いたすっきりとした書き方、ストレートすぎて余韻も何もないなぁ、などとは思わない。
    そういう文体に慣れてしまったというか、潔い。
    きちんと刑罰を受けていたらこんなことにならなかったのに、などという話が面白かった。

  • ハズレなし。深い余韻。

  •  750ページ越えの長編を読んだ後、15ページ平均の短編12作が入った本作品集に取り組む。優れた長編小説はいくら分厚くとも読み進めてしまえる。逆に優れた短編集は、短いからと言って中身がスカスカというものではなく、むしろ長編にはないずしりとした重心を感じさせるものだ。すらすらと読める文章でも立ち止まり文章を味わう瞬間も多々生じたりする。

     現在、短編小説における私的ベスト作家は、このシーラッハである。補足するなら作家の本業は弁護士である。さらに言えば、ナチ党指導者の一人ギョール・フォン・シーラッハの孫である。この出自が作品や仕事に影響を与えているかどうかは、全くわからない。読者としては無視してよいし、弁護士として、また作家としての彼の人生を想像してもよいだろう。

     ともかくぼくは、彼の新刊が出る度、作品世界に導かれるのが待ち遠しく、一作一作を、ページ毎、否、一行毎に、味わってゆく。短く端的に出現してゆく文章。そこに描かれた個性的な人間模様。それらを読んでゆく時間は、いつもとても貴重で、代え難い体験となってゆく。そう。読書の充実を、短い短編の中で感じ取ることができる、その希少な手腕こそが、この作家の魅力である。

     作家が、ドイツの裁判を通して関わってきた実際の事件に材を取り、普通の人間が人生を思いのままにならず、巻き込まれたり、逆に誰かを巻き込んでゆく様子を、小説として綴る。俗にいう法廷ミステリではなく、犯罪を犯したり巻き込まれたりする人間の悲喜劇を、ある距離を置いた特別な視点で描いてゆくものである。

     本書は『刑罰』というタイトルなので、それを念頭に各短編を楽しんだのだが、後で本についている帯を見ると、「罰を与えられれば、赦されたかもしれないのに」「刑罰を課されなかった罪の真相」とあり、ああ、すべての主人公は法律上の刑罰を与えられていなかったのだ、と後から気づかされた次第。

     どこかアイロニーに満ちた人間ドラマに満ちた作品集、と思いつつ読み終えたものの、そういうテーマで統一されていたとは気づかなかった。振り返れば、なるほどと思うことばかりである。法廷で本来与えられる刑罰を様々な理由から受けることなく、よって収監されることもなく、日常が続く。しかしその日常は、それまでと同じものではない。衝撃と驚きに満ちた結末が待つ、完全性の高い作品ばかりである。

     一ダースの物語。それでいて凡百の長編作品を軽く凌駕してしまう一冊。濃密な圧力を秘めた10ページ余のそれぞれの小説。この一冊の本による不思議体験を味わいたい方は、是非、手に取って頂きたいと思う。シーラッハ未読の方は、本書に限らず是非彼の本を体験して頂きたいと思う。小説とは量ではなく質である。そんんなことが、今までよりずっと明確になることだろう。

  • シーラッハの最新作。
    読んでいるとしみじみとする短編集だった(ある意味、いつものシーラッハである……ということも出来る)。ところで、シーラッハの短編でどうも惹かれるのは、悪人が報いを受けない、つまりハッピーエンドであるとは言い難い結末を迎えるものだったりする。本書で言うと『隣人』辺りが該当するだろうか。

  • 内容紹介

    ダイバースーツを着て浴室で死んでいた男。裁判で証人の抱える孤独に同情してしまった参審員。人身売買で起訴された犯罪組織のボスを弁護する新人弁護士。高級ホテルの部屋で麻薬常習者になったエリート男性。――実際の事件に材を得て、法律で裁けない罪をめぐる犯罪者や弁護士たちの素顔を、切なくも鮮やかに描きだす。本屋大賞「翻訳小説部門」第1位『犯罪』、第二作『罪悪』を凌駕する珠玉の短篇集。短篇の名手が真骨頂を発揮した最高傑作!

  • 実際に起きた事件をモチーフに書かれた12編の短編集。
    著者の作品は何冊目だろう?感情描写を極端に削った乾いて冷たい印象の筆致は相変わらず。
    意図せずして犯罪者となった人たち、罪を犯しつつも犯罪者として裁かれなかった人たちなど、彼らの罪を描き出すことに主眼がおかれていて、うまい言葉が見つからないが、人生の不条理のようなものが全編を通して漂っている。

  • どの話も悲しい。読んだあとは暗くなる。そんな短編。その文体に最初戸惑ったが、テンポよく読める。淡々とした箇条書きのような文体が、余計に物悲しく思えるようだ。

  • 書かれていることと書かれていないことの間にあるものがとてつもなく重いです。
    こういう小説を読むと「何を表現しないで想像させるか」ということと「そこで伝えたいものが確実に伝わるのか」がいかに大切かということを考えさせられます。
    長さじゃないなとも思います。
    実際にあったことを元にした小説集だけに一段と内容の重みややるせなさが沁みます。

    著作は半分くらいしか読んでいませんが、とても気になる、今後も注目したい作家です。

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