- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488013363
感想・レビュー・書評
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文字通り「犯罪」の短編集。
薄い本で11も短編があるので、1篇あたりのページ数は少ない。あいかわらず感情が書かれず淡々と描かれているのは読みやすい。しかし、気をつけないとただの調書というか、判例集みたいな感じになって「だから」とか「あっ、そう」みたいな感想になってしまいそう。
3冊目にしてやっと著者のデビュー作。
この人、刑事事件の弁護士さんだけにいろいろなネタを持ってますね。
1番好きなのは「棘」かな。
精神が壊れていく過程がおもしろい。
それから「緑」という作品で、自分もまちがって思い込んでいた知識が改善された。
「18という数字が怖いんだ。18は悪魔だ。6が三回で18。わかる?」
私はきょとんとした。
「黙示録。反キリスト。獣と悪魔の数字なんだ」
(中略)
「――ヨハネのいう666は悪魔じゃない。ローマの皇帝ネロを暗示していたんだ」
「えっ?」
「皇帝ネロをヘブライ語読みにして、それぞれの子音の持つ数値を合計すると666になる。それだけのことだ。ヨハネは名指しすることができなかったので、文字を数字に置き換えたのさ。反キリストとはなんの関係もない」
まさに「えっ?」ですよね。
これ、知らなかったー。
オーメンに騙されてた(笑)
今度から仲間内で飯食いにいったときなんかでお釣りが666円になったときに使えるな。よし。φ(`д´)メモメモ...
そういや、作中にいちいちリンゴが出て来るし、最後のページにはドイツ語で「これはリンゴではない」と意味ありげに書かれていた。
オッシャレ―なんかね? なんかの隠喩かね? キリスト教の原罪的な。裏表紙もリンゴだったし。
残念ながらこちとらバリバリのアジア人で日本人だから知ったこっちゃねーわ。
味噌汁で顔を洗って出直してきやがれー(笑) -
これは聖書か。
アダムが智恵の実を盗り、エデンを逐われた。
カインが弟のアベルを殺した。
まるでそのようなことが語られているかのような十一の犯罪。
血腥い事件なのに荘厳さすら感じさせる抑制された文章。
そこに描かれているのはまぎれもなく「人間」
オーケストラの指揮棒が振られる前の無音を感じさせる
『フェーナー氏』
かと思えば、一気に指揮棒が振り下ろされシンバルの音からテンションが加速していく
『タナタ氏の茶椀』
タイトルからは想像もつかないが、タランティーノかガイ・リッチーの映画の様なノワール。
床屋のポコルを始めとする悪党たちが恐ろし過ぎる。でも抜群に面白かった。
ドイツ版、歪んだ「ゴッドファーザー」
『チェロ』
馬鹿なふりして兄を救う、犯罪者一家の末弟の計略。
『ハリネズミ』
「スラムドッグ・ミリオネア」の様な映像で観てみたい。
血みどろの「小さな恋のメロディ」
『幸運』
中盤の『サマータイム』からサスペンス色がアップしていき、
「ユージュアル・サスペクツ」の様な取調室から法廷劇へと畳み込む
『正当防衛』
薄暗い深淵を覗き込むかの様な
『緑』『棘』『愛情』
そして最後の『エチオピアの男』で泣いた。
指揮棒をキュッと止め静かにお辞儀をする名コンダクター、フェルディナント・フォン・シーラッハ氏。
見事な構成、全十一編ハズレなし。
コンサートマスターの訳者、酒寄進一氏と固く握手をする姿に万雷の拍手が鳴り響く。
僕も心でスタンディングオベーション。
この本は買って良かった。
読んでいる最中は常に頭のなかで景色が見え、街のざわめきや波の音を聞き、土埃や太陽の照り返し、駅のホームの冷たさや風の匂いを感じた。
芸術的な装幀と紙の手触りも相まって、いつまでも手元で愛でたくなる不思議な魅力。
最後のページにフランス語の一文。
「ceci n'est pas une pomme.(これはリンゴではない)」 -
評判に違わず、読む者を虜にしてしまう重厚な犯罪小説です。犯行に至るまでの犯罪者心理が巧みに描かれており、あたかも犯行現場に臨場しているような興奮を覚え、被疑者と裁判の行方に興味が尽きない11篇の物語です。どの作品も味わい深く甲乙つけがたいのですが、殊に『エチオピアの男』には強烈な印象をもちました。著者は、ドイツ・ナチ党全国青少年最高指導者だったB.V.シーラッハの孫に当たり、刑事事件弁護士でもあるドイツ文壇注目の作家ということです。
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面白すぎる…!
高名な刑事弁護士が、自らの体験を元に描いた小説。
短編連作のような形です。
犯罪なのだから、明るい話ではありませんが。
犯罪をするに至った育ち方や運命の連鎖を、淡々と冷静に。
適確な話の運びで、すいすい読めてしまいます。
「フェーナー氏」は開業医。
美人のイングリットと結婚し、新婚旅行先で、決して棄てないと誓う。
だが、この妻はきつい性格だった…
「ハリネズミ」はレバノンから移住した一家の話。
カリムには8人の兄がいたが、皆犯罪者だった。
学校は多民族モデル学校で、80%が外国人だったので、いじめられることはなかった。
だが一人だけ頭の良いカリムはそのことを隠さなければならず、二重生活を送るようになる。
そして、兄の一人が犯罪を犯したとき、カリムは一計を案じ…?
「幸運」は戦争ですべてを失い、祖国を逃れてベルリンへやって来た若い娘イリーナ。
身体を売るしかなく、次第に生きている実感もなくなっていった。
だが通りで暮らしていた若者カレと出会い、心を通わせる。
ある日、イリーナの客が急死し、大変なことになるのだったが。
「棘」は博物館の警備員の話。
本来は6週間ごとに配置転換になるのだが、書類のファイルミスで、23年間も同じ展示室に居続けだった。
一番奥にあって訪問者も少ない、だだっ広い部屋に一人で。
そのために、だんだんおかしくなってしまい、ある時…
人への暖かい思いが、真実を追究し、犯罪の性質を見極めようとするまなざしの奥底にこめられています。
さりげなく書かれていますが、名弁護により無罪を勝ち取ってあげたケースに、しみじみと満足感がわき起こります。
ドイツの法律は日本とはやや違っていて、検察官は弁護士と正反対の立場ではなく、中立の立場なんだそうです。
参審制という裁判員制度のような物もあり、事件ごとに選出されるのではなく任期制。
これらは読む上ではそんなに問題にはなりませんが、知らなかったことなので興味を惹かれました。
悲惨というよりも数奇な運命に驚嘆。
あっという間に虐げられてしまう人の心の弱さと、時には回復も出来うる弾力の強さ。
短編小説の名手を何人も思い浮かべました。
モームやチェホフまで。
著者は1964年、ドイツのミュンヘン生まれ。
1994年からベルリンで刑事事件弁護士に。
2009年の本作でデビュー、ベストセラーに。多数の文学賞を受賞した。
日本でも「ミステリが読みたい!2012年」海外部門第2位。
週刊文春の「2011ミステリーベスト10」海外部門で第2位。
「このミステリーがすごい!2012年版」海外編2位。
2位が多いのはある意味、実録物と思われたからでは。
2012年4月、本屋大賞の翻訳小説部門、第1位。 -
事実を元にした小説・・・らしいけど、作り込んだ感じは余りしない。起こった事をありのままに淡々と記述している感じ。トリックもロジックも推論もなく、あるがままの事は私の想像を越えて気持ち悪い。普通の物語のほうが楽なのは、リアルじゃないからいいのかもね。
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なんとも怖い話でした。何が怖いって、誰でもちょっとしたズレで犯罪者になりうるのだなということ。それも、自分は絶対ないとは言い切れないということ。
この小説にでてくる登場人物たちも、必ずしも犯罪者になりうる者たちばかりではなかった。本当にちょっとしたズレで犯罪を犯すことになったりする人がほとんど。
著者は弁護士であり、彼が担当したであろう事件を小説にしているようだ。物語はあくまでも淡々と語られ、それでも人間の心理が痛いほど伝わってくる。
テレビ等で事件を見るたび、その悪質な犯罪者を憎むことはあれ、なかなかその背景や事情を理解しようとは思わないが、そうしたことにもきちんと向き合わなければならない弁護士等の仕事は大変だと思うし、また、大切なことだと思った。 -
11の短編集。
「フェーナー氏」
開業医のフェーナー氏。妻と知り合った24才の頃。ふたりとも若く、空気はみずみずしかった。しかしカイロでの新婚旅行の夜から、フェーナー氏の闇は始まったのか? 妻の策略にはまったのか。72才になったある日・・ その描写がすごい。ここまでの感情の蓄積・・
「タナタ氏の茶盌」
タナタ氏は日本人の設定。タナカではなくタナタなのか?などと思いながら読む。その茶盌は抹茶茶盌。
この2作を読んだ。解説によれば作者は弁護士で現実の事件を材にして描いているとあった。短編で、登場人物がいて、その者はやがで事件を起こす、その経過が淡々と筋道だけ描かれている。でもあらすじでは無い。とても密度が濃い空間で硬質。なので、窒息気味になり、2作でちょっと休止した。
表紙の絵が作品の空気と合っている。装画:タダジュン
2009発表
2011.6.15初版 2012.4.10第8版 図書館 -
鋭利な文章。文字に切られる感覚。体温が下がる文章。
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短編集。淡々と書かれていて読みやすい。
最終話のエチオピアの男がほっこりするお話ですごく良かった。
ハリネズミ、幸運、少し後味悪いけど愛情も面白くて好き。
ま、読んでないから知らんけど
人は生まれながらにして罪人です。的なあれじゃないかな。
キリスト教徒じゃないから知らんけど。
人は生まれながらにして罪人です。的なあれじゃないかな。
キリスト教徒じゃないから知らんけど。