- Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488013363
感想・レビュー・書評
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様々な短編集。バイオレンスあり、純愛あり、深く考えさせられる話があり。このミステリーの2位だったようだけど万人受けするのかなあ。私は好きです。
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先に『罪悪』の方を読んでいたんだけど、短くて読後感も冷え冷えするものが多かったあちらにくらべると、これはもうすこし温かみやユーモアの感じられる作品が多い感じ。どちらも文句のつけようのない見事な短編集であることには違いないけど。
なかでも強く印象に残るのは「タナタ氏の茶碗」。マヌケな3人組が大金持ちの家に泥棒に入ったものの、さっそく街の乱暴者に目をつけられ・・・・という序盤は、ガロテという拷問用具の説明から、突如として凄惨な暴力に変化し、さらに終盤では、そんな物理的暴力よりも、もっと恐ろしいものに背中をなでられたようにゾッとさせられる。と、そこに示される3人組のおかしな会話。この短さのなかで映画を一本見たかのような気にさせる、構成のみごとさよ。
父親の支配から逃れようとした美しい姉弟の悲劇に、最後にそっと添えられる『ギャッツビー』からの引用が余韻を深める「チェロ」、足から棘を抜こうとしている大理石像にオブセッションをつのらせる孤独な男の話なのに、どこかおかしみのある「棘」、そして、まるでおとぎばなしのような「エチオビアの男」まで、どの話も実に巧みだし、奥行きがある。長編も出たそうで、楽しみだ。 -
どの短編も面白く読みやすいですが、それがすべてという本は個人的にはあまり好まないので、途中で少し飽きました。
奥が深いテーマを扱いながら、「だから何」という肝心の点に触れさせてもらえません。考えを広げていくには材料が少なく、ストーリーをつむぐ事実が妙に断定的です。著者の考えは介在しないよう注意深く書かれているのに、結局、作品のあらゆる構成要素が一方向しか指しておらず、画一的にそこにたどり着くしかないのです。
なので、短編ごとにネタは変わりますが、着陸点はどれも何となく同じ。考えることは脇におき、エンタメ的に楽しみながら読むべきかもしれません。 -
徹底した客観性で書かれていて面白かったー!!余計なドラマ性を加味せずに被害者にも加害者にも同情せずに書く、って難しいと思うんだけども。どの話も人の営みの中で起こっていて、起承転結で決着の着くものではなく、前(過去)にも後(未来)にも続いて行くんだなぁ。
父親に抑圧された姉と弟の話がかなり痛かった…姉と弟なんだけど、何故かBL臭を感じたよ、シーラッハの『犯罪』の「チェロ」。父親の庇護かから抜け出したいと願いつつ、願った二人以外の世界を手に入れる事が出来なかった結末がBL臭いのかな。 -
ドイツの弁護士だけあって、描写にリアリティがあっていいと思いますが、日本と異なる法律と陪審員制度どうも釈然としない終わり方、コレが長編で人物に感情移入出来ればもっと面白いのかもしれない。
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嫌いではないが、物足りない。突き抜けたところがないのが残念。最初の1話が身に迫っていけない。何度かあったプロポーズを未だに一度も受けない理由がまさにコレ。軽々しく他人の神に誓えない(笑)消えてしまったが「阿南」「アブサン」のバタイユに似ていて今後を期待。
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淡々とした語り口の犯罪の記録。
短編集で弁護士側から見ている形式なので読みやすかった。
これは実際の事件に材をえているらしい。
ということは、犯罪の主なるものは心の病か・・・
金、愛情、憎しみ、嫉妬・・・一歩間違えれば、狂気ですね。 -
弁護士である筆者が実際の事件から構想を得た短編を11編収録。
無駄をそぎ落とした事実だけを伝える淡々とした語り口と訳の巧さがあって、思った以上に読みやすかったです。一編一編も20ページ以内で収められていて気軽な気持ちでも読むことができました。
どの短編でも罪を犯した人たちが出てくるわけですが、その多種多様具合も面白いです。さまざまな悪人たちが事件裏で攻防を繰り広げる『タナタ氏の茶碗』
皮肉な結末とラストの引用が突き刺さる『チェロ』
世にも奇妙な話で出てきそうな何とも不思議な犯罪者の話『棘』
そんな中でも最も印象的だったのは最終話の『エチオピアの男』
どん底の生活を続けていた男が銀行強盗を犯してからの半生が語られる話なのですが、収まるところに収まったいい話でした。
筆者の犯罪者に対する目線にどこか不思議な温かさが感じられたのもこの本がよかったと思える理由の一つかもしれません。
2012年版このミステリーがすごい!2位