湿地 (Reykjavik Thriller)

制作 : 柳沢 由実子 
  • 東京創元社
3.60
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本棚登録 : 639
レビュー : 135
  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488013431

作品紹介・あらすじ

北の湿地にある建物の半地下の部屋で、老人の死体が発見された。金品が盗まれた形跡はなく、突発的な犯行であるかに見えた。だが、現場に残された三つの言葉のメッセージが事件の様相を変えた。次第に明らかになる被害者の隠された過去。衝撃の犯人、そして肺腑をえぐる真相。

シリーズは世界四十カ国で紹介され七百万部突破。グラスキー賞を2年連続受賞、CWAゴールドダガー受賞。いま最も注目される北欧の巨人、ついに日本上陸。

感想・レビュー・書評

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  • アイスランドの巨匠、初登場。
    北欧五カ国のミステリの中で最優秀と認められる「銀の鍵賞」を受賞した作品。

    アイスランド共和国の首都レイキャビク。
    北の湿地(ノルデュミリ)にあるアパートで、ホルベルクという老人が発見された。
    ずさんで不器用な突発的な強盗殺人のようで、最初は典型的な「アイスランドの殺人」(自嘲的にこう呼ぶらしい)かと思われた。
    だが現場に残されたカードには、三つの単語からなるメッセージが。
    計画的な犯行か?
    レイキャビク警察の犯罪捜査官エーレンデュルの捜査が始まる。

    エーレンデュルは、昇進を断ってまで現場にこだわり続けるベテランの警官。
    上司も同僚もエーレンデュルの言うことはそのまま通すようになっている。
    若いシグルデュル=オーリは、新しい捜査法に通じている違うタイプだし、女性警官のエーリンボルクも不満を感じることがあるようだが。

    ホルベルクを調べていくと、過去にレイプで訴えられていた。
    応対した警官がひどい態度をとったらしく、女性は訴えを取り下げていたが‥
    ホルベルクの複雑な過去がしだいに明らかに。

    こういう題材にしては書き込みは少なめですが、文体にある種心地よい緊張がみなぎり、できるだけ簡潔にしようとしている意図が伝わってきます。
    読みなれている人なら途中から展開も読めると思いますが。
    アイスランドならではのある事情を背景に、何の罪もない人に起きた思いがけない出来事の痛みがなんとも‥言葉を失う思いにさせられます。
    しみじみと哀切な印象が長く残る、やはりこれは傑作でした。

    エーレンデュルは、もじゃもじゃの髪の大男で、50歳になる。
    別れた妻とは20年も会っていない。
    子供二人と会うこともできなかったが、子供のほうが大きくなってから父親を探し当てた。
    エーレンデュルは両手を広げて迎えたが、子供達は悲惨な状態にあった。
    娘のエヴァ=リンドの抱える闇は深く、薬を買うための金をせびりにくる。息子は少しだけましだが。
    間に合ううちに子供達を捜さなかったことを深く後悔し、できるだけのことをしようとしているのだが。
    エヴァ=リンドとのやりとりが短いがたびたび出てきて、印象としてはかなりの比重を占めています。
    緊迫して救いがない苦痛に満ちた関係のようでいて、立ち直りたいという気持ちがないでもないエヴァ=リンドの様子に、目を開かされます。
    妊娠したエヴァ=リンドが、エーレンデュルの苦しみに寄り添おうとするシーンも。

    アイスランドは、北海道と四国を合わせたほどの国土に、人口は32万人。
    そのうち20万人が都市に住む。
    火山が多く、家の暖房は地熱でまかなわれているとか。
    人の正式名は名前のみで、電話帳も名前のみ。
    家の名というものはなく、姓にあたるものは、親の名前にその息子、その娘という意味がつくものしかない。
    インドリダソンというのはインドリディの息子という意味。

    著者は1961年レイキャビク生まれ。
    父親は高名な作家。
    新聞社に就職、後に映画評論家となる。1997年にエーレンデュルのシリーズ第1作で作家デビュー。
    小さな国なので連続殺人やカーチェイスなどは似合わず、ミステリは彼が登場するまで軽んじられていたらしい。
    3作目の本書と、次の作品で、ガラスの鍵賞を連続受賞。
    次の作品ではCWA賞も受賞している。
    シリーズは世界40ヵ国で出版され、700万部を超えるヒット作に。

  • 今年、年末、ミステリのベストテンの中に入ってくるかもしれない作品に巡り合えた。ここではそうでもないが、各種新聞、雑誌等にも多く取り上げられ、その書評もおおむね好意的な物が多い作品です。
    ジャンルでいうと警察小説かも知れないが、どちらかというと主人公の事件捜査が中心だからあえていうのなら刑事小説です。
    まず言っておきたいのは、本書がアイスランドの作家によるアイスランドを舞台にしたミステリーであるということです。
    自分はアイスランドという国が存在していることは知ってても全くアイスランドという国に対しての知識はなかったです。
    たぶん翻訳は正確だから人の名前が本当に読みにくいですし、覚えにくいです。それから地名(同様カタカナ)も全く最初はわかりにくいです。
    でも、読み進めていくとそんなことは関係ない位、ディープで語弊があるかしれないが、非常に面白いストーリーが展開されていきます。
    本書の題名そのもの、読者は湿地にどんどんはいりこんでいきます。

    18章の雨の墓場(墓堀)のシーンの濃密な描写力はどうだ!読んで鳥肌が立ったの久しぶりでした。

    最初はひとりの老人の死体。残されたメモ。典型的な殺人事件ですぐに解決できる事件と思われた。しかし過去の事件や男の疾走等が結びついた時、物語は大きくうねり始める。そしてどんどん話は暗く陰鬱になってくる。
    外は絶えず雨が降っている。そして捜査によっておぞましい現実が付きつけられる。たどり着いた真相は、アイスランドの風土と歴史が大きく関わっていた。

    凄過ぎる物語とラスト。賞を受賞した作品だという事も納得できた。


    海外翻訳小説初心者には、お勧めできないが、ミステリ愛好家は必読の一冊だと思います。特にこの作家の小説が初めて紹介された記念碑的な作品なので、それから次作、CWAゴールドダガー賞を受賞した、邦題『緑衣の女』も近日刊行されるので、みんな★3つ、4つが多いから、自分も★4かなと思うけど、5つけます。今年発行されているミステリの中ではやはり質が高いです。

    余談ですが非常に体、特に足が悪く、毎日も凄い暑さで、本当に読書はあまりできず、本書も少しずつしか読めなかったです。しかし逆に中盤からラストまで読み終えるのが段々勿体なくなってきたのも事実です。

    2012年夏を思い出すとき、きっとこの本『湿地』も思い出すだろう。
    その位の読書体験でした。

  • アイスランド発の警察ミステリ。社会問題、人間ドラマ、仄暗さという、北欧ミステリの特徴に加え、アイスランド・ミステリの色彩が色濃く出ている。人口30万人足らずの小さな島国では、派手な事件や奇怪な難事件は発生しにくい。日常生活の延長線上にある小さな闇、そこにはまりこんでしまった犯罪者の心理に迫る力強い筆致から目が離せなかった。

    章割りが効果的で長さもちょうどいい。地味な展開ながらも無駄なく進んで行くので、退屈さを感じることはない。地の文のシンプルさは会話がちゃんと補っているので、全体的にコンパクトでも読み手に訴えるだけの濃さは十分。主人公も捜査チームも、パッと見はよくあるキャラだが、読めば読むほど個性が際立ってくる。ストーリーテリングの巧さに隠れてしまいがちだが、実は人物造形の巧みな作家ではないのかな。

    伏線を回収するタイプではないので、謎解きとしては物足りないだろう。パズルのピースは少ないが、ミスリード的な仕掛けもないので犯人に辿り着くのは容易。ここだけ見ると二時間サスペンスレベル。だがアイスランド・ミステリがじわじわと染み込んでくるのが本作品の特質で、終わってみれば、社会問題と人間ドラマが生み出す悲劇が根こそぎさらって行ったというインパクトが強い。伏線は確かにあった、この結末のための小さなドラマがあちこちに。ラスト一行がキレイにハマったなあ。

    このページ数を意識して維持してくれるというのは読者にとってありがたい。バランスのいい作家だと思う。そしていいシリーズ。次作だけじゃなく、最初から順に訳してほしいです。

  • アイルランド・レイキャビクのおもちゃの街のような雰囲気に殺人は似合わない。でもその街の下にある湿地のような人間の暗部がアイルランドの陰鬱な気候のように心に影を落として人を犯罪に向かわせる。
    アイルランドについて調べながら面白く読んだ。どんでん返しはないが、最後まで一気に読めた。主人公の刑事と娘の関係の変遷もよい。悲しい犯罪の話だが最後は少し救われる。

  • 北欧ミステリなんて、笑う警官以来じゃなかろーか。流行ってると聞いたけど、確かに面白かった。オシャレでスピーディで読み易くて…のイマドキ感皆無だけどねw

    年間行方不明者が17人とか、全国民の病歴が追えるとか人口32万の国ならではの描写が新鮮だったけど、固有名詞が馴染みの薄いものばかりで最初は取っ付き悪し。

  • 雷雨の音を聞きながら一気に読みました。

    ストーリーにおいても情景はいつも雨雨雨...
    じっとりと湿っています。

    にもかかわらず、
    短い章立てと魅力的な登場人物そして舞台設定。
    少しずつ明らかになっていく事実。
    それらが全て整然としているせいか、 なじみのない北欧の地名や人名がでてきても、頭が混乱することもなく、すっきりとストーリーに入っていくことができました。


    親と子のせつない関係を見事に描いていると思います。


    社会背景をテーマに取り入れることによって、
    何も知らないアイスランドという国について、少しばかり知ることもできました。

    大満足です。


    なぞ:マリオン・ブリームは男なの?女なの?
    気になるーー!!

  • 少々陰うつ過ぎるな~。

    マルティン・ベックシリーズ以来、北欧系ミステリーは結構好きで、
    最近でも「特捜部Q」シリースはお気にいりなのだが、アイスランドを舞台にした本作は、のべつまくなし雨だらけで、主人公の刑事にも共感・愛着が今一つもてず、ストーリーも暗くて、楽しんで読めるミステリーではない。
    それなりに読ませるんだけどね・・・

    • ヒョードルさん
      ここまで自国を魅力的に書かないことも、
      ある意味凄いと思いました。
      ここまで自国を魅力的に書かないことも、
      ある意味凄いと思いました。
      2013/05/09
  • 犯罪の動機は呪われた血筋にあったという古典的なアイデアを、新しい皮袋に入れた作品。読ませるんだけど、今ひとつしっくりこなかった。

  • 好感の持てるアイスランド発のミステリ。
    簡潔な文章でテンポよく物語が展開し、
    人物の描写もよい。
    北欧ミステリは今後も要チェックだ。

    2002 年 ガラスの鍵賞受賞作品。

  • じめじめとした、陰鬱な感じで話がすすむけれど
    ページをめくる手が止まらない。
    ぜひとも友人に薦めたいと思います。

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