HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)

制作 : 高橋 啓 
  • 東京創元社
4.11
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  • (12)
  • (5)
本棚登録 : 1289
レビュー : 167
  • Amazon.co.jp ・本 (393ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488016555

作品紹介・あらすじ

ノーベル賞受賞作家マリオ・バルガス・リョサを驚嘆せしめたゴンクール賞最優秀新人賞受賞の傑作。金髪の野獣と呼ばれたナチのユダヤ人大量虐殺の責任者ハイドリヒと彼の暗殺者である二人の青年をノンフィクション的手法で描き読者を慄然させる傑作。

感想・レビュー・書評

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  • チェコ・プラハで1942年におきたラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件を主題にした1冊である。
    ハイドリヒはナチスの将校であり、その冷酷さから「金髪の野獣」と呼ばれ、またホロコーストの推進者としても知られる。

    タイトルの「HHhH」とは、「Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳、すなわちハイドリヒ)」を表す。ヒムラーの意向に添ってハイドリヒが実に有能に働いていることを、ゲーリングが揶揄したひと言だという。ハイドリヒは上司ヒムラーに忠実であったが、心服していたわけではないようだ。
    (著者は、本書のタイトルとしては、ハイドリヒ暗殺作戦の暗号名であった「類人猿(エンスラポイド)作戦」をあてたかったと述べている。なぜ「HHhH」になったのかはわからない。)

    ハイドリヒ暗殺を主題に据え、主人公は暗殺に携わったチェコ人クビシュとスロヴァキア人ガブチークと言ってよいのだろうが、本書の主眼はむしろ、この暗殺事件をどのように描くかの葛藤である。史実を元に実在の人物を誠実に描くにはどうすればよいのか、著者の内面における戦いの記録と言ってもよい。

    著者は事実に反したこと、史実で語られている以上のことを想像で書くことを拒んでいる。
    ハイドリヒ周辺、暗殺者周辺、そして執筆にあたっている著者自身の描写が短い章立てで場面転換される。
    著者は史料を丹念にあたりながら、この場面は確かにあったと思われる、いや、これは書きすぎだろう、と呻吟しつつ、重い筆を進めていく。小説のスタイルを取りながら小説ではない、さりとてノンフィクションとも言いにくい。基礎小説と著者は呼んでいる。

    初めはいささか偏執的とも思える著者の「誠実さ」に辟易すらしながら、物語が進行するにつれ、いつしかプラハに、1942年に連れて行かれるのである。それはさながら潜水艇に乗り、徐々に歴史のその場に潜行していくようだ。操縦するのは著者、読者は乗員。どこへ連れて行くかは著者次第だが、操縦士である著者もまた、その現場に実際に触れることも、そこに参加することもできない。できるだけ近くに行こうとはするが、入り込むことのできない、そして結末を変えることができないもどかしさが最後まで残る。歴史上の人物たちに好意や怒りを抱けば抱くほど、そのもどかしさは募っていく。

    圧巻はやはり、暗殺者たちが立てこもった教会の襲撃場面だろう。負けることがわかっていながら絶望的な闘争を続ける実行グループの描写は忘れえないシーンである。
    その他にも、暗殺事件の報復行為で全滅させられた村、実行グループを匿ったために拷問を受けたり、自決したりした人々、暗殺事件以前にドイツチームと闘って大勝してしまったが故に命を落とすことになったサッカー選手たちなど、短く触れられる中にも心に残る描写が多い。

    ナチスを扱った著作は数多い。邦訳のないものも含めれば途轍もない数になりそうだ。
    ホロコーストを扱ったものに関しては、折りに触れて読んできたつもりだったが、本書を読んでいて、(副次的ではあるが)自分の読みの浅さや本の探し方の半端さに思い至ることになった。膨大な悲劇をどこまで咀嚼しきれるのか相変わらず心許ないのだが、この本で得たものも道しるべの1つにしながら、また折に触れ、読んでいきたいと思う。

    そう、著者も最後に語っているとおり、この種の話に終わりはないのだ。


    *プラハのオペラ座からメンデルスゾーンの銅像が取り外される(ユダヤ人であるため)話を題材にして、チェコ作家、イージー・ヴァイルが小説を書いているという。この人の本はいずれ読んでみたいと思う。

    *簡単に触れられているフランスでの一斉検挙(ヴェルディヴ)は、『サラの鍵』の主題だった。

    *ジョナサン・リテルの『慈しみの女神たち』は、本書の少し前に出ている。こちらについての論評も興味深く読んだ。

    • ぽんきちさん
      薔薇★魑魅魍魎さん

      わ、ありがとうございます。
      見つけていただいて感激です。

      図書新聞さんに目を留めていただき、選んでいただいたこと、励...
      薔薇★魑魅魍魎さん

      わ、ありがとうございます。
      見つけていただいて感激です。

      図書新聞さんに目を留めていただき、選んでいただいたこと、励みになります。
      前回がラマチャンドランの『脳のなかの天使』でした。
      前回も今回も読み応えのある本だったなぁと思います。よい本に巡り会えるのは幸せなことですね。

      薔薇★魑魅魍魎さんの渾身のレビューもまた拝読するのを楽しみにしています。
      2013/09/22
    • sifareさん
      初めまして。読ませて頂いたどのレビューもしっかりと向き合って深く書かれているのですごいなぁとフォローさせて頂いたらこちらにも登録して頂き恐れ...
      初めまして。読ませて頂いたどのレビューもしっかりと向き合って深く書かれているのですごいなぁとフォローさせて頂いたらこちらにも登録して頂き恐れ入ります。始めたばかりなのでまだ整理さえできていないので恐縮です(・_・;)

      私もホロコーストに関した著作は読んできていますが、この本もまた新たな側面に光を当ててくれているようで読むのがとても楽しみです。
      どうぞ宜しくお願いします。
      2014/06/14
    • ぽんきちさん
      sifareさん
      フォロー&コメントありがとうございます。

      レビューに目を留めていただきましてこちらもありがとうございます。各作品に...
      sifareさん
      フォロー&コメントありがとうございます。

      レビューに目を留めていただきましてこちらもありがとうございます。各作品にどのくらい迫れているのかわかりませんが、自分なりにまとめていきたいと思っています。

      safareさんの本棚、自分と重なっているもの・違うもの、興味深く拝見しました。
      今後もよろしくお願いいたします(^^)。
      2014/06/14
  • 符牒のようなタイトルと、その文字だけを使った装丁が鮮やかで、ずっと気になっていた本。奥付けを見ると、今年の1月ですでに9刷がかかっている。その数字は本当なのか、ガイブンなのに!とちょっと目を疑ってしまいながら、ぱらっとめくってみた。

    副題にあるとおり、1942年のプラハで起こった、ゲシュタポ長官にして当時のチェコ総督、ラインハルト・ハイドリヒの暗殺事件を核に据え、そこに至るまでと、その先を追った小説。当時の資料や関連書籍を丹念に追い、それをまとめる上での著者・ビネさんの逡巡が随所に顔を出しつつ、時系列的にハイドリヒの足跡と当時の欧州外交、彼をどうにか排除できないかと考える亡命チェコ政府の動きが語られる。

    フランス人作家にわりと見られる、ある種の冷やかさと軽やかさをもってハイドリヒの足跡が語られるさまは、事実を借りた著者の巧みな思考ダダ漏れ小説のようですごく面白かったけど、「私はこれと似た作風を知っているな」という既視感が常にあり、帯で各国の著名作家が絶賛しているのにならうような、手放しの絶賛には至らなかった。それはたぶん、私が沢木耕太郎作品を結構頻繁に読むからなのだろう。沢木さんの作品には、「私ノンフィクション」と評されることもあるように、取材・執筆過程での沢木さんが登場するものがそこそこある。沢木さんの作品は別に自分を題材に取っているわけではないが、主題を追っていくうちに起こる、自分の思考の波も記録されているので、「著者≒登場人物の沢木耕太郎」的な要素として、読み手にはとらえられる。もちろん、沢木作品はノンフィクションに軸を置き、この作品は(事実と事実をつなぐ)フィクションに軸を置いているので、似ているとはいえ、まったく別の成果品だし、どちらがよくてどちらが悪いというものではない。まあ、ビネさんが、ハイドリヒと彼を討とうとするチェコ側の動きを自分の作品として生成するときの逡巡がそう思わせたところもあるし、以前読んだ、ベルリン・オリンピックのプロパガンダ映画を作った映画監督のレニ・リーフェンシュタールを追った沢木さんの作品、『オリンピア ナチスの森で』の素材と構成が、この作品の流れに当たらずとも遠からずだった、という気がしただけだと思うけど。

    とはいってもただの思考ダダ漏れ小説ではなくて、事実を踏まえて再構成する、当時のひとつひとつの場面の描写は劇的で冴えている。ビネさんの露出を抑えれば、恐ろしく劇的な国際歴史陰謀小説としても高い評価を受けるだろうし、露出があってもその場面をコントロールすれば、ハイドリヒ暗殺事件の取材記としても高い評価を受けるだろう。ナチス・ドイツがヨーロッパ戦線でやらかしたことはあまりにえげつなすぎて、ノンフィクションや記録文書で目にすると、現代日本に暮らす人間の標準メンタルレベルでは耐えきれないと思うので、このあたりのノンフィクションを読む勇気や機会を持ちたいと思っていらっしゃるかたには、人間のやらかす単純で残酷で愚かな所業の行きつく先(ハイドリヒが死ぬとかナチが敗れるとか、そういう因果応報的なことではなくて)に目を向けるきっかけにはなると思う。

    『HHhH』という作品ではあるけれど、なんだか、『HHhH』という作品がまた別に想定されていて、そのメイキングのようにも受け取れる側面も持っている、「こんな本ですよ」とひとことで答えられない面白さと厚みを持った本だった。いささか駆け足で読んでしまったので、再読の時間をぜひ持ちたい。

  • 記憶に残る本がまた一冊。
    作者の紡ぎ出す一節一節に、惹き込まれ、寄り添い、心を震わす。

    勇者だけでなく彼らに協力し同じ時間を共に生きる人々。作者の彼らへの眼差しが力強く表され、厳かに捧げるべき敬意と弔意を今の時代の我々へと繋げてくれる。

  • 2014.10記。
    (ネタバレには気を付けていますが、ストーリーに結構立ち入っています)

    第三帝国で最も危険と言われた男、ラインハルト・ハイドリヒ。
    英仏に見捨てられ、ナチス・ドイツに占領されたチェコ。

    二人のパラシュート部隊員が、祖国チェコ(スロヴァキア)のために首都プラハで決死のハイドリヒ暗殺作戦を実行する。
    緊迫感あふれるこの小説の中で、「史実とは何か、史実を忠実に小説にすることは可能か」、著者は徹底的に追求する。

    例えば、「X月X日、ハイドリヒは黒いメルセデスに乗っていた」といった何気ない描写。ここで著者のローラン・ビネは立ち止まる。「厳密にはこのとき乗っていたメルセデスが黒だったという証拠はないのだが、当時の文献によると・・・」といった調子の検討記録がその都度挿入される。この異様なまでのストイックさで、二人とその周辺の人々を徹底的に検証し尽くしていく。

    ストーリーの先を急ぎたい読者にとって、この検証部分は邪魔に感じるかもしれない。しかし、この検証の緻密さゆえに、その後の記述が一切の脚色のない「事実そのもの(にもっとも肉薄した推察)」であることがいやおうなく伝わってくる。「多少事実誤認はあっても、問題の本質は変わらない」、こんな考え方をビネは採らない。

    多くの困難、見込み違いを乗り越えて、ハイドリヒ暗殺作戦は遂行される。親衛隊の常軌を逸した犯人追及と必死の逃避行、ここからは、恐怖と切なさとで平静に読み進むのは難しい。

    蛇足だが、本書をバルガス・リョサが激賞したそうだ。実際、彼の「チボの狂宴」は実在の独裁者の暗殺劇を描いているという意味で一定の共通点がある。

    歴史とは、真実とは、小説とは、リアリティとは。重い・・・。

  • やっと読み終わった…
    1942年の5月、ドイツ帝国占領下のチェコ・プラハで起きたラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件ー「類人猿(エンスラポイド)作戦」と呼ばれた作戦を担った亡命チェコ政府の暗殺部隊の戦いに焦点を当てた作品。主人公はヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュの二人の兵士、そして敵役は「金髪の野獣」と恐れられるラインハルト・ハイドリヒ親衛隊大将。

    本人は本書の中で「小説」と表現しているけれど、どう分類するかすごく難しい。ルポルタージュの要素もあり、とはいえ資料のない部分は創作に頼らざるを得ないので小説の割合も大きい。更に、著者本人の思考が主張しまくってくる。イメージとしては、承認欲求の強い歴史小説家が案内人を務める類人猿作戦のドキュメンタリー番組かな…著者本人が案内人としてコメントしつつ、著者本人の過去にまつわる再現VTRもあり、類人猿作戦の再現VTRもあり。

    この本を楽しめるかどうかは、この様式を楽しめるかどうかにかかっていると思う。正直私には苦行だった…とにかく筆者が女々しくてウザい。これは書かなくてもいいことだけど〜と言いながら結局だらだら説明していたり、他者の小説作品をあげつらって史実と違うと批判したり、時折「メンヘラの散文か!?」と思うような瞬間もあったり…一事が万事そんな調子なのだ。小説パートについては面白く読めるんだけど。。。筆者のパートナーの姉の結婚式に呼ばれんかった、って何?日記間違って書いちゃった?とか。史実に対して誠実でありたいというような苦悩のコメントから見るに、誠実な人なんだろうけど、その誠実さの押し売りがまた面倒なのである。

    他の方のレビューで、HHhHという作品のメイキングというような表現があって、なるほどと思った。でもメイキングって、本編を一度通しで見たからこそ楽しめるものであって、いきなりメイキング見せられて副音声で監督の声とか流れてきたって散漫になって集中できないよね…

    私は最後まで作者の登場が煩わしいと感じていたけど、人によっては楽しめるのだろうし、テーマに沿った小説パートは確かに面白かった。

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    ノーベル賞受賞作家マリオ・バルガス・リョサを驚嘆せしめたゴンクール賞最優秀新人賞受賞作。金髪の野獣と呼ばれたナチのユダヤ人大量虐殺の責任者ハイドリヒと彼の暗殺者である二人の青年をノンフィクション的手法で描き読者を慄然させる傑作。

  • アルファベットが 4文字並んだ奇妙なタイトルに惹かれて手に取った一冊は、しかし、中身はもっと奇妙だった。

    タイトルは Himmlers Hirn heißt Heydrich (ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)の意味。Heydrich はナチス・ドイツにおいて親衛隊(SS)を率いたヒムラーの片腕として、「金髪の野獣」「第三帝国で最も危険な男」「プラハの死刑執行人」など数々の異名を持つ男、ラインハルト・ハイドリヒのことで、彼がこの小説の最も重要な登場人物の一人。彼をプラハの街角で暗殺すべく、イギリスからプラハにパラシュート降下した 2人(3人?)の若者が、また別の最も重要な登場人物。

    ここまで書くと、ハラハラ、ドキドキのスパイ小説を期待させるが、しかし、著者の筆は極めて冷静で、歴史とは何か? 歴史小説とは何か? 歴史小説には、どこまで小説(虚構)が許されるのかを自問自答しながら、物語はゆっくりと、極めて静かにクライマックスへと向かう。教会での銃撃戦シーンは 2008年の虚構として描かれ、ここだけが著者の創作が少なからず入った箇所だと暗示される(しかし、大半は史料に基づく)が、このパートが無ければ歴史書と呼ぶべき一冊だっただろう。

  • ラインハルト・ハイドリヒ暗殺のノンフィクション風フィクション.で,手法が少し変わっていて,書き手がそこらじゅうに登場する.それを斬新と見るかうるさいと見るかが評価の分かれ目だろう.私には少し作品の印象が散漫になったような気がして好みではなかった.

  • この斬新さにはっとした。小説でもない、ノンフィクションでもない。ナチ高官暗殺事件という史実についてのドキュメンタリーであり、それを書こうとする作家の自分語りであり、それらが交わる世界は作家の創作であり・・・ナチスものは数あれど、このアプローチは今までなかった。2013年のベスト入り決定。
    寡聞にしてこの事件について初めて知ったが、史実は凄惨だ。ナチスに占領されたチェコ、ユダヤ人の「最終処理」を手掛ける「野獣」たるハインリヒ。暗殺計画のもとイギリスから送り込まれるレジスタンスの青年たち。彼を支援する市井の人々。暗殺は危ういところで成功するが、数百人のナチに囲まれた激しい籠城戦の末、殺害され、水攻めにあい自害する。ナチスの報復により無実の人が住む村が丸ごと虐殺にあい、支援者親戚根こそぎ収容所に送られて殺される。
    語り手である「作者」は、悲劇的すぎる事実に圧倒され、青年たちと彼らを囲む人々のささやかな人生と勇敢な行いに心を打たれながら、極力感傷的な言葉や、想像による装飾的な表現を排除し、事実のみを述べようとする。頻繁な自分語りは、理不尽な悪に立ち向かう人間を誠実に表現しようとする作家の葛藤であり、それが読者の葛藤にもなる。その結果、客観的な表現を持って、事実と本質に限りなく肉薄している。

  • ごく短い断章で歴史上の人物についてぽつりぽつりと語られていく。さらに作者らしき青年の生活や思いも同時に語られていく。ネットサーフィンをしているかのように次々断章が現れては消えていくようであるが、次第に作者の熱く誠実な思いが命がけの青年達に重なりやがて読者である私達をも巻き込んでいく。独創的な素晴らしい小説であった。(アンチではあるが)フローベール、クンデラ、ウェルベックの流れをくみつつ圧巻の後半のリアリズムが見事であった。傑作である。そして同時に勇敢な兵士、名もなきレジスタンスの人々、多くの犠牲者を誠実に描く姿勢から真の尊敬や愛を作者に教わった。

  •  2010年度ゴンクール賞最優秀新人賞、2014年度本屋大賞(翻訳小説部門)第1位の作品。タイトルはドイツ語の Himmlers Hirn heißt Heydrich(ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる)の頭文字4つから取ったもの。
     ストーリーは、かつてフリッツ・ラングとブレヒトが『死刑執行人もまた死す』(1943)で描いたナチのチェコ副総督にして実質的な支配者だった、ラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件に取材している。しかし作者は、すでに何度も作品化されたこの題材を、いたずらに物語化しなかった。徹底して資料にあたり、同じテーマを扱った過去の作品を批判・批評しながら、「歴史小説を書く小説」という自己言及的なスタイルで貫徹させた。そうすることで作者は、過去に生きた人々の「声」と同時に、その「声」を探りあてていく時間、その「声」と出会えたことの静かな亢奮の双方を、小説の言葉に刻むことができた。
     物語化・英雄化の欲望に抗いながら史料と向き合うことで、侵入パラシュート部隊のメンバーの勇敢さと同時に、彼等を助けた人々がいたこと、彼等彼女らの肖像も歴史の中に刻みつけること。本作によって、小説というジャンルができることが、またひとつ付け加わったと感じられた。

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