あがり (創元日本SF叢書 1)

著者 :
  • 東京創元社
3.24
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本棚登録 : 159
感想 : 33
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  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488018146

作品紹介・あらすじ

女子学生アトリと同じ生命科学研究所にかよう、おさななじみの男子学生イカルが、夏のある日、一心不乱に奇妙な実験をはじめた。彼は、亡くなった心の師を追悼する実験だ、というのだが…。夏休みの閑散とした研究室で、人知れず行われた秘密の実験と、予想だにしなかったその顛末とは。第一回創元SF短編賞受賞の表題作をはじめ、少しだけ浮世離れした、しかしあくまでも日常的な空間-研究室を舞台に起こるSF事件、全五編。理系女子の著者ならではの奇想SF連作集。

感想・レビュー・書評

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  • すっかり春。この時期になるとなぜか学生のころを思い出してしまいます。

    古い大学の研究所を舞台にしたSF連作集。テーマは生命進化、不老長寿、運を科学するだったりと、SF的にも古くからあるテーマですが、展開される論理とオチに落語の薫りが。そんなバカなと思いつつ、いや待てよ、という感じからでしょうか。おもしろい。

    架空の街である「北の街」を設定していますが、完全に仙台市です。地名も漢字は別文字があてられていますが読みはそのまま。さすがに、お店は架空のものですが、モデルになったのはどこかと探したくなります。

    また、タイムリーにSTAP細胞の報道(2番じゃダメなんですか発言より笑える)。小説の中の研究者たちは、結局「成果を出せているか=論文を短期間に出せているか」という点ではダメダメな人たちですが、食えなくても実験や研究において捏造は大犯罪との認識とプライドをもった人々。大学時代から、このような教育を徹底して受けているはずなのに、あのようなみっともない事件が起こってしまうのは、よほど背景に黒いものがあるか、そもそもそのような教育を受けていないか(とすると今度は出身学校が槍玉に挙げられる?)いずれにしても、研究するということはどういうことなのか、もう一度考えさせられる風変わりなSFでした。

  • これは…SFなのか?
    SFでくくる意味、必要がまったくないように感じる。

    「あがり」「ぼくの手のなかでしずかに」「代書屋ミクラの幸運」「不可能もなく裏切りもなく」「へむ」の5編。
    5編は人物や研究室などを介してつながっっていて、全部読むと、蛸足大学の地図がなんとなく浮かんでくるようである。

    キャンパスノベル、青春小説とも言える。
    タイトルからして、理系を超えたセンスのよさが滲む。

    「ぼくの手のなかでしずかに」が私は一番気に入ったけれど、これなど、「私を離さないで」「アルジャーノンに花束を」を連想させられる。設定と言うより、静かな諦観のようなものが。
    諦観というのとも、ちょっと違うのかな。なにせ「 自然とは本質的に、無目的で無作為」(「不可能もなく裏切りもなく」)なのだから。

    全体に温度が低め、と感じる。
    淡々というのともまた違うのだれど、アップダウンしたり熱したりするストーリーではない。

    理系女子…これはまだ面白いジャンルが登場したな、と思う。

  • 2020.3.31市立図書館 →2020.7.31文庫本購入
    「5まで数える」が自分と高2長女にとって「あたり」だったので、芋づる式に読んでみることにした著者のデビュー作を含むSF連作短編集。北の街の大学を舞台に、「(論文を)出すか(学会から追い)出されるか法(=三年以内に論文を出さないと即クビ)」という架空の法律がいいスパイスになって閉塞感漂う学内各所でくりひろげられるささやかでペーソスあふれる物語たち。文理の違いはあれど私自身大学院までお世話になっただけに、研究室の日常にも、論文が書けるかどうか、研究の世界に残れるかどうかといった不安な心理にも覚えがあり、共感しながら読んだ。巻末に町の地図もあり、学内外にいくつか共通の舞台があったり、別のお話の登場人物が関わってきたりと、読むにつれて北の街の大学とこの世界の住人への親近感が増してくる。理系なのだけれど、人の心の機微がていねいに描かれていて胸にせまってくるもののある作風がいい。
    「代書屋ミクラ」と「不可能も裏切りもなく」は論文執筆(アカデミックライティング)入門としてもよくできている。

    「あがり」(第一回創元推理SF短編賞受賞作)研究地区(生物学)
    「ぼくの手のなかでしずかに」理学部(数学)+医学部
    「代書屋ミクラの幸運」文学部(社会学)
    「不可能も裏切りもなく」理学部(生物学)
    「へむ」(書き下ろし)医学部・付属病院を舞台にした小学生の物語。前日譚風でこれだけやや異色。

  • も少し論理的に詰めて行って欲しいかな、或いは感情でも

  • 視点がおもしろい。
    カタカナ禁止令的なこだわりも読み慣れると不思議な世界観。短編集というより、「ショートショートの長編」みたいな印象を受けました。

    出身高校同じ、かつ(同期ではないけど)同世代ってことで、贔屓目に他作品も読んでみたいなと(笑)

  • 9:女性作家による近未来SF短編集。新人さんで女性でSF(というよりは、理系の作品、というほうがしっくりくるかな)というのはすごく珍しい気がしたので読んでみました。
    ちょっとあっさりめだけど、全編通して不思議な静謐さ、切なさがありました。科学という学問が持つ、根本的なおもしろさと表裏一体の危険性が絶妙なバランスで描かれていて、好きな感じ。
    ネタとしてすごく面白い(理解できてるかどうかはともかく)と思うので、もう少しガッツリめの作品だともっと嬉しいかなぁ。

  • 最初の3編は中編だがエッセンスというかプロット的に星新一のショートショートのような印象を受けた。いろんな短編読んでみたい。

  • 【収録作品】あがり/ぼくの手のなかでしずかに/代書屋ミクラの幸運/不可能もなく裏切りもなく/へむ 
    *理系の話は難しい。

  • 昔ながらの中華そばみたいな、その懐かしさを経験したことはないはずなのになぜか知っているような気がしてしまうそっと心に灯るほっこり感と、由来がわからない懐かしさを噛みしめる浮遊感のある不思議さ。すこしふしぎを体現しながらもぴりりと胡椒を効かせることも忘れない。

  • 理系小説?先に代書屋のほうを読んでいたので読みやすかった。専門の内容はわからないけど、論文を書くにあたってのいろいろが興味深かった。

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著者プロフィール

1972年茨城県生まれ。東北大学理学部卒。2010年に「あがり」で第1回創元SF短編賞を受賞。著作に同作を収録したSF連作集『あがり』のほか、『架空論文投稿計画』『5まで数える』『イヴの末裔たちの明日』などがある。

「2022年 『シュレーディンガーの少女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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