蝉かえる (ミステリ・フロンティア)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 672
感想 : 86
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488020095

作品紹介・あらすじ

ブラウン神父、亜愛一郎に続く、”とぼけた切れ者”名探偵である、昆虫好きの青年・エリ沢泉(えりさわせん。「エリ」は「魚」偏に「入」)。彼が解く事件の真相は、いつだって人間の悲しみや愛おしさを秘めていたーー。 16年前、災害ボランティア中の青年が目撃した、神域とされる森に現れた少女の幽霊。その不思議な出来事に対し、エリ沢が語った意外な真相とは(表題作)。交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件の謎を解く、第73回日本推理作家協会賞候補作「コマチグモ」など5編を収録。注目の若手実力派・ミステリーズ!新人賞作家が贈る、ミステリ連作集。

感想・レビュー・書評

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  • 昆虫好き青年(えりさわせん)の冴え渡る推理に今作も楽しめた。
    「サーチライトと誘蛾灯」に続く第2弾。

    ○蝉かえる〜災害ボランティアの青年は、行方不明の少女の幽霊を見たのか?

    ○コマチグモ〜交差点での交通事故と団地で起きた負傷事件の繋がりは?

    ○彼方の甲虫〜ペンションから姿を消したアサルの死はどうして起こったのか?

    ○ホタルの計画〜オダマンナ斎藤にかかってきた電話の相手はナニサマバッタ。繭玉カイ子が行方不明だと言う。彼らたちは、何を探してた?

    ○サブサハラの蝿〜えりさわの大学の同期・江口が持ち帰ったものとは?

    どれも昆虫が関わってくるのだが、かなり詳しい内容でありながらも難しいとは感じなかったので、さくさくと読めて知識も得ることもできた。

    人間関係にしてもいろんな人が登場するので飽きることなく楽しめた。


  • 前作で次作を期待すると書いたが、素晴らしい出来栄えになった。探偵役の魞沢のふわふわした人柄が全編を貫いていて、作品の味わいを決めている。一見ぼうっとしているようでいて、物事の勘所は外さない魞沢。それが作品の深みに繋がっている。表題作の「蝉かえる」や「サブサハラの蠅」などはなかなかの感動作だ。ミステリーではあるが、謎を解明するのが終着ではなく、謎の背景をちゃんと味わせてくれるのだ。

    • nejidonさん
      もしやバリ猫さんでしたか?
      もしやバリ猫さんでしたか?
      2020/08/15
  • 前作ではたまたま偶然に笑事件現場に居合わせて
    モジモジしながら事件の核心に迫る推理をして周囲を驚かせたエリサワでした。
    読み手も驚き引き込まれていきましたが、肝心のエリサワについて謎のまま…

    今作はエリサワの中学時代、大学時代の短編があって更に面白くなってます。
    エリサワの事件解決で毎回救われる人がいる。
    それが切なくて本当に沁みるんです。

    帯にある「ブラウン神父」「亜愛一郎」は知らないけど笑
    法月綸太郎さんも読んだことないけど笑
    ホワットダニットもよくわかんないけど笑
    このシリーズが面白いのはわかりました\(//∇//)


    • たださん
      みんみんさん
      知らなくても、いいと思いますよ。変に前知識に左右されずに面白いと感じられた方が、その作品本来の素晴らしさを、より表しているよう...
      みんみんさん
      知らなくても、いいと思いますよ。変に前知識に左右されずに面白いと感じられた方が、その作品本来の素晴らしさを、より表しているように思われますし、私もブラウン神父、未読ですしね(^^)
      2023/06/19
    • みんみんさん
      たださんコメありがとうございます♪
      わたし今作後半でエリサワがわかって
      今までの事件がスッと腑に落ちるというか納得できて嬉しかったです\(/...
      たださんコメありがとうございます♪
      わたし今作後半でエリサワがわかって
      今までの事件がスッと腑に落ちるというか納得できて嬉しかったです\(//∇//)
      2023/06/19
    • たださん
      分かります。
      彼がやっと胸の内の思いを吐き出してくれた感じといいますか(´▽`)
      分かります。
      彼がやっと胸の内の思いを吐き出してくれた感じといいますか(´▽`)
      2023/06/19
  • 「サーチライトと誘蛾灯」の続編。
    昆虫に詳しい謎の青年・魞沢(えりさわ)がひょっこり現れサクッと事件の謎解きをしていく設定だった前作から少し変化があり、魞沢の感情や想いも盛り込んだ作品となっている。
    作家さんによるあとがきによると、これは作家さんの狙いのようだ。
    前作の謎めいた魞沢も良かったが、今作の人間的な魞沢も良い。

    「蝉かえる」
    十六年前、災害ボランティアが見たのは翌日池から引き揚げられた遺体の少女の幽霊だったのか。

    「コマチグモ」
    交差点での事故とすぐ近くの団地の一室で起きた事故の繋がりは。

    「彼方の甲虫」
    留学を終え間もなく帰国する予定の中東の青年。ペンション滞在中に転落死した彼は自殺したのか?

    「ホタル計画」
    サイエンス雑誌のライターとして期待を寄せていた青年か姿を消して五年、読者から青年の行方が分かったと同時に再び行方不明になったことを知らされ、雑誌の編集長は青年の行方を探すが…。

    「サブサハラの蠅」
    南スーダンでのボランティア活動を終え帰国した医師は、何故蠅のサナギを持ち帰ったのか。

    前作同様、そこに至る何があったのか、何故そうなったのかが焦点になっている。
    全体的に切なく苦しい話が多いが、最後の最後に救いがあるものもあった。
    そして冒頭にも書いたが、魞沢の感情や想いが溢れるシーンも幾つもあった。

    『きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界、生きていけないじゃないですか』

    魞沢は自分が友達が少ないというが、それは彼の素直さ率直さ、そして清らかさにあるのかも知れない。
    同時にこの作品で彼の原点も少し見えてきた。苦しくても切なくても受け入れる強さもあった。
    また昆虫を通して様々な世界の一端を見ることも出来てあれこれ考えさせられた。
    さらなる続編があるかどうかは分からないが、今後もこの作家さんに注目したい。

    • goya626さん
      この作家はこれから注目ですね。
      この作家はこれから注目ですね。
      2020/08/18
    • fuku ※たまにレビューします さん
      goya626さん
      そうですね。また注目の作家さんが一人増えました(^.^)
      goya626さん
      そうですね。また注目の作家さんが一人増えました(^.^)
      2020/08/18
  •  昆虫オタクの青年、魞沢泉。趣味が高じて正業には就かず、昆虫を求めて全国を貧乏旅行して回っている。ところが行く先々で事件に巻き込まれ……。
     トボけた天然キャラの魞沢が鮮やかな推理で遭遇した事件を解決する連作短編ミステリー。シリーズ2作目。
    表題作は第74回日本推理作家協会賞および第21回本格ミステリ大賞受賞作。
              ◇
    16年前に山形県を襲った大地震。被害は大きく全国から災害ボランティアが集まった。その1人だった糸瓜京介が、久しぶりにかつての震災地を訪れた。
     森の奥にある御隠神社で感慨に耽っていた糸瓜の耳に、あとから境内に入ってきた男女の話が聞こえてきた。どうやら蝉の話らしい。何気なく話しかけたところ話が弾み、いつしか糸瓜はかつて体験した奇妙な出来事について話していた。

     ボランティア最終日の朝、糸瓜が見かけた少女の幽霊の謎。いきさつをじっと聴いていた魞沢は……。(表題作「蝉かえる」)全5話。

          * * * * *

     前作と作品の雰囲気が全然違っていました。それは魞沢泉の持つ雰囲気が違うからです。

     トボけた味わいは同じでも、本作の魞沢にはおちゃらけたところが影を潜めているし、事件の謎解きをする姿にも、どこか他人事のように見える軽さがなくなっています。つまり落ち着きが出てきたのです。
     また、思ったことをすぐ口にする前作と違って、自身の言動を省みられるようになっているほか、コミュニケーション能力の行き届かなさや友人の少なさに忸怩たる気持ちを持っていることがわかる描写もありました。

     魞沢泉は彼なりに苦悩しながら、自分の短所を補うべく努力してきたのだということがわかるのが、第4話「ホタル計画」です。
     決して社交的ではなく、むしろ内気な少年だった中学時代の魞沢が描かれていて、とても興味深かった。

     構成としては前作と同じところもあります。
     全5話で、3話目から本格的なミステリーらしくなるところです。
     特に第4話の「ホタル計画」と第5話の「サブサハラの蠅」には昆虫好きを満足させる蘊蓄が盛り込まれており、非常に読み応えがありました。

     この、序盤を小手調べ的な軽めの話で始め、中盤からしっかりしたミステリーでしめていくという作りは好きなので、魞沢シリーズのカタチにしてもいいのではないでしょうか。魞沢泉の名探偵としての落ち着きと合わせて、十分な魅力になると思います。

  • 良質ミステリ、の一冊。

    あの前作「サーチライトと誘蛾灯」の魞沢(えりさわ)くんが謎を解き明かす五編の連作短編集。

    良かった…!
    読後、この言葉しか思いしか浮かばなかった。

    こういうのを良質ミステリというんだろうな。

    こうだと思わされていたことがパッと翻る瞬間、姿を現わすのはせつなさ。
    もうこれがたまらなく心を震わせる、最高の味わい。

    ただ単に謎を解明するだけでなく人の心の細部を掬い出し寄り添いながらの魞沢くんの姿、言葉にたまらなく魅了される。

    まるで蛍のような淡い光でそっと人の心を優しく照らす魞沢くん…君は最高だ。

  • 川瀬七緒作、「法医昆虫学捜査官」シリーズが好きなので、この作品に興味を持った。
    でもこちらの主人公は、あくまでも虫好きな、観察眼の鋭い青年。そんな彼が、関わった事件を解決していく。

    一作目の「サーチライトと誘蛾灯」の方は
    出だしでつまづき、最後まで読めずに終了。
    「蝉かえる」は、前回のおちゃらけた部分を残しつつ、
    ちょっとせつなかったり、シリアスな描写が増えたりして、物語に深みが加わった。
    短編だけど、少しずつ内容がつながっているところも良かった。

  • 昆虫好きの魞沢泉が推理をする連作短編集。

    『サーチライトと誘蛾灯』の続編。

    大学の同期だったり、交流のある相手だったり。
    人となりを知る人物が相手だと、魞沢泉の不審者感はなくなり、とぼけた味わいと変人ぶりがやや薄まる。

    ロジカルなミステリという面白さは、変わらなかった。

  • 魞沢くんシリーズ第2弾。あとがきで書かれてるように前作で「記号としての探偵」だった彼が今回は事件を通して生い立ちや社会問題等への関わりも出てきてもっと魅力的になった。飄々としてとぼけた味と鮮やかな謎解きは変わらずとても面白かった!

  • 昆虫マニアの魞沢泉が事件の謎を解くミステリー。「コマチグモ」「ホタル計画」が印象深い。「コマチグモ」交差点事故とアパートでの負傷事件の謎。親子の愛情を昆虫の生態で表現。「ホタル計画」元サイエンスライター失踪と遺伝子組換研究の闇。

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著者プロフィール

1977年北海道生まれ。埼玉大学大学院修士課程修了。2013年「サーチライトと誘蛾灯」で第10回ミステリーズ!新人賞を受賞。17年、受賞作を表題作にした連作短編集でデビュー。18年、同書収録の「火事と標本」が第71回日本推理作家協会賞候補になった。21年、『蝉かえる』で第74回日本推理作家協会賞と第21回本格ミステリ大賞を受賞。

「2023年 『蝉かえる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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