夜の写本師

著者 :
  • 東京創元社
3.91
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  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024727

作品紹介・あらすじ

石、黒曜石、真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。だが、育ての親が目の前で殺されたことで、彼の運命は一変する。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジスト。アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。敵をうつべく、カリュドウは〈夜の写本師〉としての修行をつむが……。運命に翻弄される人々の姿を壮大なスケールで描く、日本ファンタジーの新星登場!

感想・レビュー・書評

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  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠をもって生まれてきたカリュドウ。
    〈夜の写本師〉となり、大いなる運命をうけとめていく。

    ファンタジー。

    魔術師が扱う、土地土地のさまざまな魔法は、設定がこまやか。
    人の悪意や闇とも真っ向から向き合っていて、大人にも読み応えのある、ダークな世界観。

    魔法に対抗しうるのが本である、という設定がよかった。
    本の力、文字の力。
    魔術師vs魔術師とは違った戦い方が、珍しかった。

    転生を繰り返す壮大な物語で、途中人物名がややごちゃごちゃしてしまった。

  • 前々から気になっていた作家さんの初読み。
    すでに何作も発表して審査員になっているような方ですが、これがデビュー作。
    日本のハイ・ファンタジーここにあり、という鮮烈な印象。

    異世界を舞台に、主人公はカリュドウという少年。
    右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠をもって生まれて来ました。
    平凡な村人の両親は驚き畏れ、村の魔道師の女性エイリャに預けます。
    小さな村ですが、何年生きているか知れない大魔道師アンジストが支配する都市エズキウムが近くにあります。

    老いたエイリャに可愛がられ、跡継ぎとみなされて育つカリュドウ。
    ある日、アンジストが現れ、エイリャとカリュドウの幼馴染の女の子フィンの命をあっさり奪って去っていく。
    カリュドウは逃げ延び、山を超えてパドゥキアへ。
    村の魔道師ガエルクの弟子となりましたが‥

    心中深く復讐を誓うカリュドウですが、それは容易なことではない。
    魔道師としてアンジストの目を逃れるのは難しく、さらにある事件で破門されてしまうことにも。
    写本師の修行を勧められたカリュドウはやがて、「夜の写本師」を目指すことに。

    魔力の強い女性からその力を奪ってきた大魔道師アンジスト。
    彼にも長い因縁があることを知ります。

    綾なす言葉のイメージが美しく、精緻に組み立てられた世界観が硬質な印象。
    それぞれの世界での修行の仕方がいきいきと描かれていて、興味が尽きません。
    (もっと書き込むことも出来そうだけど、そうすると付いて来る人が減る?)
    先を知りたくなって、どんどん読み進む状態に。
    文章も世界観もタニス・リーを思わせるレベルのハイ・ファンタジーで大きな動きによる悲劇もありますが、会話は現代的でわかりやすく、心情も現実とかけ離れてはいません。
    本が貴重品で印刷もない時代設定で、言葉や内容はもちろんのこと、紙や装丁なども大事にする感覚というのも
    本好きには嬉しいところ。

    これから買うなら文庫かと思いますけど~
    この表紙の絵がすばらしくて捨てがたいので、こちらもアップしておきます☆

  • これがデビュー作!?
    と思わず唸ってしまう濃厚で壮大な物語。

    主軸は千年の時をも超える「復讐」
    だから時折、エグい表現もあって。復讐するだけの理由づけが必要だからだというのは、大人になったわたしたちだから理解できること。
    これは、そういう意味でも、大人にこそ読んでほしいファンタジーだといえる。

    しかし、この作品が単なる復讐譚で終わらないのは、さらにその奥底に、さながら大地に育まれた水晶のように純粋で透明な愛があったように思えるから。

    斃すべき敵がステレオタイプの悪者で終わらず、
    そうならざるを得なかった背景を描いたのもよかった。
    いずれにしても、ほめられたものではないけれど、物語に更なる深みを与えている。

    表紙の雰囲気もとても素敵。
    文庫版も出ているようですが、単行本で手元に置いておきまた読もうと思える、希少な出合いに感謝です。

  • 本格ファンタジーとしてお勧めされていたので読んでみました。
    異世界、魔道士、呪法、運命の石を持つ生まれ変わり。
    古典的で暗くて重たい雰囲気がまとわりついてます。
    世界観や人物名も、あるようでない感じで西洋っぽいとか東洋ぽいとか中近東ぽいとかのイメージがなかなか浮かばず、地球上のどことも似ていない世界が広がりました。

    話はちょっと難しいというか、よく分からない部分があって消化不良気味ではあったけど、全体的にはおもしろかったです。
    そもそも写本師の力とはなんなのか、とか
    夜の写本師ってどう特別なのか、とか
    どう魔道士に匹敵するのか、とか。
    シリーズみたいなので他のも読めばわかるのかな。
    運命の石を持つ魔女たちを殺して力を奪い、その呪いを恐れる大魔道士アンジストの壮大な戦いの一方で、育ての親や幼馴染が目の前で殺された仇をうとうとするカリュドウの呪縛された運命が悲しかった。

  • とにかく面白かった!!洋画みたいなファンタジーで好き。装丁の雰囲気も良い。文章はちょっと淡々としてるかな。分厚い本ではないけれど、物語がぎっしり詰まってる。
    しっかりと造り込まれた世界観や魔術の描写が素晴らしい。写本師ってのが本好きにはたまらない感じ。ヴェルネの「人を孤独にするのは~」と言う台詞が良かった。 

    「男性」対「女性」のテーマが面白い。「VS」じゃ無くて「ツイ」の方の「対」。
    カリュドウが男性なのは「過去の三人とは異なる存在」と言うことに意味があるからだと思う。(月と闇と海の力全て奪われたからというのもあるのかも?)
    「魔道師」でなかったから、アンジストに勝つ術を身に着けた。
    「女」でなかったから、シルヴァイン、イルーシア、ルッカードと違う心でアンジストに向き合った。

    3人の憎悪を背負いながらも飲み込まれることはなかったのも、アンジストの女性への憧れや、3人の憎悪の真意?に気付いたのも、彼女達と違うからこそ一歩引いた目線で見れたんじゃないか。
    「二度もあいつの手にかかったのは自らの不明」とまで言っているし。エイリャとフィンのことが重く圧し掛かっていたというものあると思うけど。

    女の力に憧れ、妬み、奪い続けてきたアンジストが最後は女性に転生する。カリュドウが男なのはここに繋がるからでもあると思う。お互いの性別が逆になるというのも面白い。
    エマに話しかけるカリュドウがとても優しげで、彼は千年の間巡っていた闇のすべてと向き合ったんだと感じた。
    「時はめぐり、やっと満ちた」というラストシーンが綺麗でした。

    4月に出る「魔道師の月」はスピンオフ的なもの?
    間をあけて読み返したい。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「洋画みたいなファンタジー」
      早く文庫にならないかなぁ~、タイトルと装丁に惹かれてます。。。
      「洋画みたいなファンタジー」
      早く文庫にならないかなぁ~、タイトルと装丁に惹かれてます。。。
      2013/04/03
  • すごく丁寧に書かれた文章と世界観で素敵なお話でした。ダークファンタジーという部類なのかな。でもダークさがくどくなくて、いい具合に古めかしいので、薄っぺらくなっていないし。魔術やら古い書物やら月の力やら前世やら。こういう要素にうっとりする人は読んで損はないと思います。書物をある意味テーマにしてるってこともあって装丁も素敵だし。

    ただし、素敵な作品すぎて納得のいかないところが目立ってしまう…まずヴェルネと出会ってからの描写がなんだかとんとん拍子すぎる。そこにいくまでカリュドウは勧善懲悪ではなく、闇を理解して背負うっていう綺麗事じゃないスタンスでとてもいい感じだったのに、しかもそのスタンスで長年大変な修行もしてきたのに、最後私たちが手伝うわって言われて簡単に…なんだかパーティに仲間が加わって当たり前のようにボスを倒しに行くRPGの簡単なやつみたいに思えてしまって…。カリュドウのスペックが高いのは別に構わない。でもその分辛い思いをしてきたんだし、精神的な葛藤や闇をもっと書いて欲しかったな…
    あと個人的には何よりもカリュドウが女性でないことが不満だった…!
    女性の力や存在を大きく扱っているのに、ずっと女性が続いたのに、なぜ男になっちゃうの?だったらそれなりの理由があるかなと思ったら「男性になったことが贈り物」ってそれだけ…?その表現にえええって思ったな、男のほうが優れてるっていうエズキウムの思考じゃない…ヴェルネを気に入ったのも何だか優秀なのに可哀想な思いをしてるからってだけに見えてしまうし。
    せっかく魔術や写本の要素がある力だけではない世界なんだし、女性の力を彼は恐れてる。社会で権力を握る魔道師(男)と、邪の道として夜の写本師(女)じゃあだめだったのか。夜=月=女性だし、夜の写本師は実は女性のほうが向いてたりしたらよかったのに。カリュドウがずっと終盤まで男のように描いてて、最後で女ってなってもいいし。
    あとここからは完全に私の好みなのですが、カリュドウを女性にして壮大で悲しくて残酷な恋愛小説にもしてほしかった。紫水晶を見つけたシルヴァインの生まれ変わりとして、最後まで見守って、引導を渡して欲しかったよ。シルヴァインを愛した記憶に女性として触れて、最後を見守って欲しかった。そうすると少女漫画ぽくなっちゃうのかしら…でも男性である理由がいまいちわからない…よっぽどそのほうがしっくりくると思うんだけど。あああ、こんなに著者の方に聞いてみたいと思ったのは初めてです。

    描写も素敵だった。必然的にカタカナ語が増えるファンタジーに、古めかしい言葉を上手くちりばめて、用言もすごく豊かな表現ばかりだし。こういう文章が書けたらいいのになあ。ストーリーもお上手でした。お上手だからこそ自分と意見が違うところが気になったんだろうな。ファンタジー好きな方にぜひ読んでもらって、感想を話し合いたいです。

  • 文句なしの★5つ。正統派のファンタジーです。
    言葉の使い方も美しく、ストーリーもしっかりしているので
    大人の鑑賞にもきちんと耐える作品になっています。

    コナン・ザ・バーバリアンがお好きであるらしい作者様。
    栗本薫女史の亡き後、チャラついていないがっしりした
    ファンタジーの後継者はいらっしゃるんだと。

    転生と復讐と、愛の撚り合わされた物語は、ラストに
    パンドラの箱のごとく希望をもって閉じられます。

    愛と孤独と力に彩られた悲しい物語は、底流に男女が共生
    してゆく、未来を紡ぐための方途を探そうとしています。

    ゲド戦記・グイン・サーガ・そしてこのシリーズ…。
    どれも素敵。和製ファンタジーにも、こんな香り高い本が
    あるのですものね。

    ストーリーをここに書きたくて書きたくて仕方ないのですけど
    ネタバレはもったいなすぎる。

    主人公のカリュドウには、先入観なく出会って下さい。
    敵役のアンジストも、ちゃんと魅力的なので
    何故ふたりが戦うという形で繋がり続けていたのかも
    一つの愛の形として、読めると思います。

    シリーズなのなら、ぜひ先を読みたい。
    期待の作品でした。

  • 物語はオーソドックスな、世代と時を超えた復讐譚。月、海、闇の力を秘めた石を持って生まれて来たカリュドウという青年が、はるか過去の呪いを解き放つ物語。魔法の内容もカリュドウが操る写本師の技も面白い。真新しさはないが、ファンタジーの基本的な面白さを忠実に描いているという印象。魔法同士の戦いの描写など、文章も美しい。ファンタジーの醍醐味はその美しい文章なのだから、これはよい。次の作品も読んでみようと思えるデビュー作。解説が井辻さんというのもよい。

  • がっつりしたファンタジーが読みたくなって手に取る。せっかくなので読んだことの無いものを。

    思ったより王道な流れのハイファンタジーだった。テーマがテーマなだけに残酷な描写も多いけれど、筆致がドライなのでそこまで気持ち悪くはない。かな。

    一息に読めたし、世界観も文章も作り込まれていて好感が持てる。
    国内ファンタジーにはなかなか無い本格硬派。現実なのか夢なのか、ないまぜになる場面があって詩的。

    ただ、地の文が重厚にされている分、比べて会話文が軽いのは気になった。
    もう少し登場人物ひとりひとりのことやエピソードが掘り下げられていれば、もっとガツンとした読みごたえなったんじゃないかとも思われてちょっと惜しい!

    と、何だか表面的なレビューになっちゃったけど、とりあえずもう一冊読んでみようと思える作家さんでした。

  • ハイファンタジーは苦手と思い込んでいましたが、見事にひっくり返りました。どっぷり物語の世界にはまることが出来て現実に戻ってくるのがちょっと大変……あ〜!これぞ読書の醍醐味!という感じ。読んでいる間とても幸せでした。後数作出ているようなので、追いかけたいと思います。こんな魅力的なお話に巡り合えて本当に嬉しいです。

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾石智子の作品

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