魔道師の月

  • 東京創元社
4.04
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本棚登録 : 597
感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024895

感想・レビュー・書評

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  • どうしても1作目と比べてしまうので、インパクトがないぶん、アドバンテージはあちらにあるのは致し方なし。
    けれど、結末を早く知りたいとページを繰る手をとめられなくなってしまうので、面白さは変わらずです。
    なんとなく意味がわからないところもあるけれど、2度3度と読むと、理解度が深まるかな。
    今作も表紙が美しい。単行本でそろえたいシリーズであることに変わりはない。

    キアルス(同一人物)が出てくるので、連作といえなくもないけれど、これはこれで独立した世界、ここから読んでも齟齬はないはずです。

    次の太陽の石も読むのが楽しみ!さっそく図書館に予約しました。

  •  日本人作家のファンタジーといえば、たいていが児童書かラノベだった。でも乾石さんの作品は、児童書のように「ねえねえお母さん、ご本読んで」と寝る前の子供がせがむような物語ではないし、ラノベのようにつるつるしたアニメ風の挿絵が入ったライトな物語でもない。
     自分で物語の世界に分け入っていかなければ面白くならない。だから、それなりの集中力と想像力とを要するけど、いったんのめりこんだら、至福の時間が待っている。すばらしい。

     前作『夜の写本師』もすごくよかったが、こちらの方が緩急がきいてキャラクターも個性豊かで更にいい。素敵なファンタジー作家さんに出会えて、すごくうれしい。(前作、とは言ったけど、このシリーズは別にどこから読んでも問題なさげ。それぞれ独立した物語だし、ひとつの作品の中でも時系列とびまくりだし。)
     キャラクターだけでなく、草も木も風も動物たちも、光も闇も表情豊か。それと、メシが旨そう。これ、ファンタジーにはとても重要なことだと思う。おすすめです。いま手元には続巻『太陽の石』もあるので、そちらも楽しみ。(続刊、とは言ったけど以下略)

     よく「光あるところに闇あり。わしは何度でも甦るのだゲハハ」みたいなラスボス見かける(気がする)けど、それがどういうことなのか、すごくよく分かった。
     現実には、暗樹は存在しないけど、それでも戦争とか終わらないんだから、現実は物語よりもよっぽどタチが悪いな、などと思ったりもした。

     おお、キアルスって、そういえば、前作にいた気がするわ(←解説を読んで思い出したやつ)
     そして……うおおおおおおムラカンーーーーーー!!(泣)

  •  発売と同時に購入して、今まで放置していたのは確実に面白いことはわかっているけれど、読んだら終わってしまうじゃないか……! という、矛盾した気持ちの表れであるわけで。

     結論から言うと、以前から唱えているように、「食べ物・食事の描写がおいしそうにされている作品に外れなし」というジンクスは、やはり破られることがなかった。パンの描写だのカラン麦だの、読んでるとおなかがすいてくるんだよちくしょうううううううorz まずそうな食べ物もちゃんとまずそうだし!

     それはさておき。
     ファンタジーの一番の面白さというのは、未熟者がさまざまな出会いや経験を重ね、そして成長してゆくところにあると考えている。
     そういう意味でこの小説(シリーズ)は、ファンタジーの王道中の王道を行っているわけ―――なのだが。
     だがしかし、その「経験」は、過去の人物の体験を共有するものであったり、他人の生き様を再体験するものであったりするので、多少読みにくいといえば読みにくい。
     注意深く読み進めないと時系列が混乱し、どの時代の誰の話だかごっちゃになってきてしまうのだ。
     物語の先が気になって、ついつい速読してしまう自分のようなタイプとは、ちょっと相性が悪いかもしれない。

     でもやっぱり、この本はものすごく面白い。可愛い女の子のイラストが一枚もなくっても、2100円はりこむだけの価値はある一冊である。

  • 前作と絡めての感想。
    魔道師キアルスの物語。前作の「事件」のその後が解る。キアルスがギデスディンの魔法を作り上げていく描写もある。

    傷を抱えたキアルスと、一度は逃げ出したレイサンダー。テイバドールが父から受け継いだ星の光をキアルスが継ぎ、レイサンダーと星の歌を分かち合い「暗樹」の闇に立ち向かっていく。

    前作から「魔道師は闇を背負うもの」と書かれているけれど、レイサンダーは闇を持っていない。魔道師としては半人前だったのかもしれない。しかし、稲妻によって暗樹と結び付き、最後には暗樹そのものを胸の中に押し込んでしまう。
    暗樹が溶け込んだレイサンダーがその後魔道師としてどんな生き方をしたのか気になる。

    暗樹との戦いの物語でもあるし、キアルスが「事件」の傷を乗り越えていく物語でもある。
    前作を読んでいると、エブンに魔道師の抱える闇について教えるシーンや、キアルスの眼に映る月の描写が非常に印象的。テイバドールの父の「憎むな」という言葉がキアルスにも受け継がれている。シルヴァインにとっては千年続いた憎しみなのに、キアルスは数年でアンジストへの憎しみを乗り越えてしまった。

    この世界の中では、呪いに引きずられなくとも転生はするのか?カリュドウの生まれた時代にレイサンダー、カーラン、エブンはいるのか?

    「写本師」でも「魔道師」でも過去編に半分くらい割いてる。過去のエピソードをこんなにしっかり書く人は稀だと思う。過去からの繋がりが強く、物語の根っこが深いからそこからの広がりがしっかりしている。

    乾石さんの何が凄いかと言うと、夜の写本師も魔道師の月もそんなに厚みがあるわけじゃないのに物語の密度が濃い。しかも駆け足感がない。気分的には上下巻の大長編を読み終えた感じ。この世界観の話をもっと読みたい。
    書店で貰ったフリーペーパーに「十四大魔法」の簡単な説明があった。この中には名前が出てきただけのものが多い。これだけ設定を作り込んでいるならまだまだ物語は生まれそう。

    どっちから読んでも良さそうだけど、やっぱり写本師から読んでほしい。

    表紙は前作:シルヴァイン、今作:テイバドールかな?

  • 読み始めはなかなか集中できなかったがどんどん引きづり込まれ背景や描写が細かく日本人の感覚で比喩表現されているので違和感なく没頭する。ただカタカナ名前は最後まで慣れずに調べながらの読書だったので時間がかかった。
    十二国記みたいな人間の本性や駆け引きはなく物足りないが教訓などを求めず現実逃避するためだけだと最高の世界観。

  • 前作が面白かったので手に取りました。
    今回も入れ子構造というか、別の誰かの人生を体験するパートがあって、そこのボリュームが結構ありました。
    影の主人公はテイバドールかなと思ったり。
    テイバドール編のラストは少し涙ぐんでしまいました。

    次作は「太陽の石」だからレイサンダーが主役かな?
    彼の行く末も気になるしぜひ読みたいです。

  • 一作目だけがすごい作家ではないことが、これで証明された。しかし筆力に関しては前作同様の感想を持っているけれども。ただ、解説を書いていた人は、筆力にも満足しているようで、ファンタジーを専門としてきた人と、私のように純文学を主としている者とでは感じ方が違うのだろうか。
    それはともかくとして、光と闇が表裏一体であるということへの言及は、大人が読んでも納得のいく世界観の構築へ一役買っていると思う。魔法というファンタジックな心躍る描写だけでなく、その奥に一つの真理をも包含している奥深い作品だ。そしてなぜ題名が「月」なのかについて。確かに所々で月の描写は出てくるけれども、物語の中でそれほど重要な要素として出てきているわけではない。それでも「月」なのは、満ち欠けする月に光と闇の暗喩を担わせているからではないかと思う。そう考えると、最後の〈暗樹〉の言葉がいかに肝であるかということに思い至る。

  • こんなにも禍々しく、これほど強烈な悪意を発散する怖ろしい太古の闇に、なぜ誰も気づかないのか・・・。繁栄と平和を謳歌するコンスル帝国の皇帝のもとに、ある日献上された幸運のお守り「暗樹」。だが、それは次第に帝国の中枢を蝕みはじめる。コンスル帝国お抱えの大地の魔道師でありながら、自らのうちに闇をもたぬ稀有な存在レイサンダー。大切な少女の悲惨な死を防げず、おのれの無力さと喪失感にうちのめされている、書物の魔道師キアルス。若きふたりの魔道師の、そして四百年の昔、すべてを賭して闇と戦ったひとりの青年の運命が、時を超えて交錯する。人々の心に潜み棲み、破滅に導く太古の闇を退けることはかなうのか?

    『夜の写本師』のときも設定の巧みさと独特な言葉の使い方に感嘆しましたが、同じ世界を舞台とした今作も良かった。闇と向かい合い自分なりに闘っていく魔道師たちの姿に、時代や風潮は違っても私たちが何と対面しなければならないのか、本当に恐ろしいものは過信した自分自身であると気づかされる。キアルスの過去がこんなものだったとは・・・ギデスディンの魔法はここから生まれたんですね。最後は怒涛の流れだったので、想像力が乏しいのか、いまいち映像が脳内で再現できない部分もあった。けど同時にこれがこの人の書く文章の魅力でもあるんだろうなぁ。カーランとの幸せな日々がもうちょっと書いてあればなお良かった。

  • 読みごたえがあってとても面白かったです。大地の魔術師のレイサンダー、本の魔術師のキアルス、星読みのティバドール、三人の人生が深く描かれていて、大河ドラマを観ているような気になりました。

    内容には辛い描写があるものの、常に希望も描かれていて、読む手が止まりませんでした。

    個人的に、作者さんのネーミングセンスがすごいと思っていて、作品内で説明無しに単語が出てきても音の響きと前後の描写でなんとなく意味がわかるので、ストレス無く読み進められました。

  • 読み応えはあります。ただ前作よりも話のレイヤー数が増えている印象で、大体の物語は多くても3レイヤーぐらいなのを、惜しみなく新規レイヤーで乗算で重ねてくるので、体調が万全でないときに読むと私も闇にのまれそうでした。個人的に中学生ぐらいのときに出会いたかったお話です。次作は体調を万全にして臨みます。

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾石智子の作品

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