双頭のバビロン

著者 :
  • 東京創元社
4.17
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本棚登録 : 581
レビュー : 86
  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024932

作品紹介・あらすじ

爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。オーストリア貴族の血を引く双子は、ある秘密のため、引き離されて育てられた。ゲオルクは名家の跡取りとして陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸へ渡る。一方、存在を抹消されたその半身ユリアンは、ボヘミアの〈芸術家の家〉で謎の少年ツヴェンゲルと共に高度な教育を受けて育つ。アメリカで映画制作に足を踏み入れ、成功に向け邁進するゲオルクの前にちらつく半身の影。廃城で静かに暮らすユリアンに保護者から課される謎の“実験”。交錯しては離れていく二人の運命は、それぞれの戦場へと導かれてゆく。動乱の1920年代、野心と欲望が狂奔するハリウッドと、鴉片と悪徳が蔓延する上海。二大魔都を舞台に繰り広げられる、壮麗な運命譚。

感想・レビュー・書評

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  •  目を逸らしたくなるほど写実的且つグロテスクだが、不思議とどこを切り取っても倒錯的な美しさがあった。芳しい幻想と過酷な現実が裏表する世界へ、陶酔に似た心地で没入した。五感すべてで読む生々しいほどの描写は、厖大な下調べと、著者の感性と理性があわさっての妙技だと思う。

     文章のどこを抜き取っても美しかった。過不足なく、省略し、装飾されていた。"朗読したくなる一文"がたくさんあった。皆川さんの単語の置き方は、それとなく見えるものでもすべて超絶技巧だと思う。私にはそれだけで完成された美しさに思える。

     絡み合う因果関係が三人を奔流にのみこんでいく様は見事だった。淡々と描かれてはいるが積み重ねと奥行きがすごい。ところどころ深淵が見えた。
     皆川さんのファンでよかったと思った。

     見た目からは想像もつかなかったのだけど、この話は映画を軸にした話だった。
     中でもゲオルクは、シナリオをつくれる人、「客観的に物語を俯瞰できる人」だ。
     なので、箱を閉じる前にユリアンがゲオルクにたくしたものは、ゲオルクにとけ込まないのではないかと少し思った。どれほど精神感応しようと、それはゲオルクにとっては客観的に"俯瞰"できる"シナリオ"なのでは、と。
     ゲオルクが綴ったツヴェンゲルの最期と、ユリアンが語ったツヴェンゲルの最期は、私には【感情】と【冷静】の対比のように見えた。すべてのデータを転送し、データリンクを完了し、あらゆる経験を共有したはずの双子だが、最終的に非対称的なところへ行き着いたのだ、と思った。シャム双生児のシンメトリー性が崩れた瞬間のように感じた。それを崩したのはツヴェンゲルだった。双子はこうして初めて、(データリンクを完了したことで、)個別の人間として切り離されたのだと思えた。
     また、終盤の二度描かれた結末は、この作品通して描写される【幻想】と【現実】の対比のようにも感じた。

  • 皆川さんの本を読むと、どっと疲れが押し寄せてくる。
    でも決して嫌な疲れではなく、読み切った!という心地良い疲れ。
    あまりにこの世界にのめり込み過ぎて、現実に戻るのが難しくなる(笑)

    美しく退廃的で、背徳すら感じる皆川ワールド。
    ねっとりと絡みつくような濃厚な世界観に酔いしれました。

    幼い頃に切り離された結合双生児ゲオルクとユリアンの物語。
    一人は光の道を歩み、存在してはいけないもう一人は影の道。
    ウィーン、ハリウッド、上海と舞台は次々と入れ替わり、
    双子の運命もまた翻弄されていく。

    糞尿と汚水にまみれた目を背けたくなる描写も、
    皆川さんにかかれば、毒々しいまでに美しく妖艶な色合いを帯びる。

    ユリアンとツヴェンゲルの性を超えた繋がりが、
    あまりにも歪で悲しく、そしてたまらなく愛おしい。

  • かなりスローペースでしたが、読み終えた後は溜め息しか出ませんでした。
    癒着双生児として生まれたゲオルクとユリアン。ユリアンと双子以上の絆を持ったツヴェンゲル。別の場所で生きていた双子の人生が少しずつ繋がっていく。

    章毎に時代が前後し、徐々に見えてくる他の章との接点。
    人物名をタイトルに用いた章立てや自動書記という方法を使って語られるストーリー、という仕掛け。
    皆川さんの構成力に圧倒されます。

    スクリーンが「異界への窓」だという表現が印象に残りました。

  • オーストリア貴族の家に生を受けた双子、ゲオルクとユリアン。二人で「ひとつの生」として生まれ落ち、幼い頃に引き離された彼らの運命は、上海と聖林、混沌の2大魔都を舞台に、時を経て繋がってゆく―。

    もう素晴らしい、としか言いようがありません。
    繊細かつ壮大。幻想的かつリアリステックに綴られてゆく物語にひきこまれっぱなしでした。
    言いたいことは沢山あるような気がするのだけど、胸がいっぱいで言葉にできません。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「幻想的かつリアリステックに」
      どっぷり浸りました。素晴しい作品です!
      「幻想的かつリアリステックに」
      どっぷり浸りました。素晴しい作品です!
      2013/04/23
  • 久々の一気読み。これだけのボリュームをノンストップで読める持久力が残っていたことに我ながらビックリ。溢れ出る細かな描写とストレートな語り口に引き込まれ、その世界観がどんどん形作られていった。翻訳作品かと見紛うほどの質と厚みに押し潰されそうになる。

    二大魔都に巣食う光と影、辛辣を極める貧富の差、そして成長と混乱の中、己の欲望を掴み取ろうとする殺気立った情熱──容赦のないリアリズムをベースに展開するのは、幻想的な鬼ごっこ。ゲオルクとユリアンがそれぞれ覚悟を決めてから、更に一段、深みへハマり込んだような気がする。

    お互いの距離が縮まっていくと同時に、実は水面下で別のドラマが膨らんでいることに薄々気付かされる展開は素晴らしい。上海に舞台を移してからのサスペンスタッチな終盤には、異常なくらい感情移入してしまっているので、読んでて胃がキリキリするほど。

    キレイにまとまりすぎている感はあるものの、ここまで徹底されると逆に清清しい。行間から立ち上る薔薇の香りと鴉片の紫煙に思考はゆらゆらグラグラで、読後は強烈な余韻に支配されるがまま。女子受けするストーリーだと思うので、男子の率直な感想を聞いてみたい。このお歳でこういう大作が描けるとは…。傑作に脱帽です。

  • 最初は生々しい複数人による一人称の歴史書といったような感覚で読み進めていたが、終盤の怒涛のミステリー展開にはゾクゾクした。入念すぎる前提部分の上に成り立つ極上のディストピア耽美。堪らん。私にとっての皆川小説は、半分くらい著者の執念を愉しむ為の媒体なのかも。
    読み終わると、ミステリー的要素は、ヴァルターの死の真相を追うというのが割と初期からあったんだなあと気付きました。まあそれ以外に結合双生児とか精神感応とか女装趣味とかの怪しいファクターがてんこ盛りなので、私の中では割と埋もれたのですが…。
    あのタイミングで出て来たユリアンとツヴェンゲルの結合写真には監督同様ガチで鳥肌。その後の天井の三つの顔も。怖いとか気持ち悪いでは済まない、ここに至るまでの物語を読んできた者のみが味わえる、不快なまでの不気味さ。そこになぜか恍惚とさせられるのが、皆川作品の魅力だと思う。

  • 余韻からまだ覚めやらぬ一冊。

    重厚さと装丁に惹かれて手にした世界。

    一ページ目から抜け出せない予感が的中。ゲオルク、ユリアン、ツヴェンケル、皆川さんの紡ぐ三人の時間に、心に、たゆたいながら酔わされ、ひたすら絡めとられた。

    自分がどこに連れていかれるのか果てしない酔いの旅。
    そしてとてつもない余韻と共に終わりを告げた酔いの旅だった。

    非在の存在ユリアンとツヴェンケルの二人の世界は美しい。
    そして心に浮かぶのは美しさを感じる傷跡。

    彼の傷跡に触れたい、覚めやらぬ余韻と共にそう感じたのは自分だけだろうか。

  • 特殊な双子の話。また読み返したくなった。
    影としてでしか生きられない存在って、哀しいなあ。

  • うおお?
    あれ、最後よくわからなかった…また他の方のレビュー読みます。
    どんどんぐんぐん引き込まれてページをめくる手が止まらなかった。
    「ツヴェンゲル」の本名が明かされた時の鳥肌をどう伝えたらいいだろう。

    レビュー読んで、この狂おしさに酔いしれています。
    私はこのゲオルクユリアンたまにパウルみたいなぐるんぐるん視点が変わる酩酊状態が大好物なのです。下手な人がやると不愉快だと思うけど、皆川先生はそれでもガンガン読ませてくださるから大好きです。
    お体に気をつけてもっともっとたくさんの良い作品読ませてください。
    終わりは少し切ないのに、何故だろう…何か救いのような、暖かいようなものを受け取った。

    「燃える火を、躰の中に抱えている。形にしなければそれは私を焼き尽くす」
    わかるわー

  • ごてごての帯文にちょっと笑ったけど間違ってなかった…どっぷり皆川博子に浸れる贅沢な一冊でした。
    この世界から出たくなくて読み進めるのが勿体ない、でも展開が気になって手が勝手にページをめくってしまっています。
    読み終えたあとも、しばらくこの作品のことで頭がいっぱいでした。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ ひろこ)
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁・旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)を、『恋紅』で第95回直木賞を、『開かせていただき光栄です‐DILATED TO MEET YOU‐』で第12回本格ミステリ大賞に輝き、15年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。著作に『倒立する塔の殺人』『クロコダイル路地』『U』など多数。2019年8月7日、『彗星図書館』を刊行。

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