双頭のバビロン

著者 :
  • 東京創元社
4.16
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本棚登録 : 635
感想 : 87
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  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024932

作品紹介・あらすじ

爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。オーストリア貴族の血を引く双子は、ある秘密のため、引き離されて育てられた。ゲオルクは名家の跡取りとして陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸へ渡る。一方、存在を抹消されたその半身ユリアンは、ボヘミアの〈芸術家の家〉で謎の少年ツヴェンゲルと共に高度な教育を受けて育つ。アメリカで映画制作に足を踏み入れ、成功に向け邁進するゲオルクの前にちらつく半身の影。廃城で静かに暮らすユリアンに保護者から課される謎の“実験”。交錯しては離れていく二人の運命は、それぞれの戦場へと導かれてゆく。動乱の1920年代、野心と欲望が狂奔するハリウッドと、鴉片と悪徳が蔓延する上海。二大魔都を舞台に繰り広げられる、壮麗な運命譚。

感想・レビュー・書評

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  • 余韻からまだ覚めやらぬ一冊。

    重厚さと装丁に惹かれて手にした世界。

    一ページ目から抜け出せない予感が的中。ゲオルク、ユリアン、ツヴェンケル、皆川さんの紡ぐ三人の時間に、心に、たゆたいながら酔わされ、ひたすら絡めとられた。

    自分がどこに連れていかれるのか果てしない酔いの旅。
    そしてとてつもない余韻と共に終わりを告げた酔いの旅だった。

    非在の存在ユリアンとツヴェンケルの二人の世界は美しい。
    そして心に浮かぶのは美しさを感じる傷跡。

    彼の傷跡に触れたい、覚めやらぬ余韻と共にそう感じたのは自分だけだろうか。

  •  目を逸らしたくなるほど写実的且つグロテスクだが、不思議とどこを切り取っても倒錯的な美しさがあった。芳しい幻想と過酷な現実が裏表する世界へ、陶酔に似た心地で没入した。五感すべてで読む生々しいほどの描写は、厖大な下調べと、著者の感性と理性があわさっての妙技だと思う。

     文章のどこを抜き取っても美しかった。過不足なく、省略し、装飾されていた。"朗読したくなる一文"がたくさんあった。皆川さんの単語の置き方は、それとなく見えるものでもすべて超絶技巧だと思う。私にはそれだけで完成された美しさに思える。

     絡み合う因果関係が三人を奔流にのみこんでいく様は見事だった。淡々と描かれてはいるが積み重ねと奥行きがすごい。ところどころ深淵が見えた。
     皆川さんのファンでよかったと思った。

     見た目からは想像もつかなかったのだけど、この話は映画を軸にした話だった。
     中でもゲオルクは、シナリオをつくれる人、「客観的に物語を俯瞰できる人」だ。
     なので、箱を閉じる前にユリアンがゲオルクにたくしたものは、ゲオルクにとけ込まないのではないかと少し思った。どれほど精神感応しようと、それはゲオルクにとっては客観的に"俯瞰"できる"シナリオ"なのでは、と。
     ゲオルクが綴ったツヴェンゲルの最期と、ユリアンが語ったツヴェンゲルの最期は、私には【感情】と【冷静】の対比のように見えた。すべてのデータを転送し、データリンクを完了し、あらゆる経験を共有したはずの双子だが、最終的に非対称的なところへ行き着いたのだ、と思った。シャム双生児のシンメトリー性が崩れた瞬間のように感じた。それを崩したのはツヴェンゲルだった。双子はこうして初めて、(データリンクを完了したことで、)個別の人間として切り離されたのだと思えた。
     また、終盤の二度描かれた結末は、この作品通して描写される【幻想】と【現実】の対比のようにも感じた。

  • 世界史に明るくない私は、皆川先生の物語で勉強する。

  • 単行本の大きさで上下2段組みビッシリの538P。中味もゴッテリな壮大さの大河小説。さすが皆川博子、少々食べ過ぎた感があるくらいお腹いっぱいの1冊である。

    20世紀初頭から第二次大戦前夜までのハリウッド、上海という2大退廃都市(バビロニア)を中心舞台に、癒着双生児として生まれた2人のゲオルグとその二人をつなぐツベンゲルらの生き様を描く。

    この作品に漂うのはひたすらに退廃とか爛熟とか腐敗とか魔窟とか…そういう類のものばかり。特に上海租界の描写ときたら文字で読んでるだけでも鼻をつまみたくなるくらいの圧倒的不潔感。

    だからと言って、物語まで腐っているわけでは決してなく、ドラマの展開は素晴らしい。特に後半に登場人物たちのこれまでの所作がつながって全体像が俯瞰できるようになっていく描写は見事。腐敗臭の中でもため息をつきたくなるほどである(いや、実際に腐敗臭はしていないから)

    体力と気力にある程度余裕がないと、読み切れないかも知れないボリュームと雰囲気。それでもこの手の作品を許容できる人にはお勧め。若干苦手な俺でも面白かったし…。

    でも、今の気分は、ちょっとしたお手軽爽やかものを読んで疲れをほぐしたいような。

  • 皆川さんの本を読むと、どっと疲れが押し寄せてくる。
    でも決して嫌な疲れではなく、読み切った!という心地良い疲れ。
    あまりにこの世界にのめり込み過ぎて、現実に戻るのが難しくなる(笑)

    美しく退廃的で、背徳すら感じる皆川ワールド。
    ねっとりと絡みつくような濃厚な世界観に酔いしれました。

    幼い頃に切り離された結合双生児ゲオルクとユリアンの物語。
    一人は光の道を歩み、存在してはいけないもう一人は影の道。
    ウィーン、ハリウッド、上海と舞台は次々と入れ替わり、
    双子の運命もまた翻弄されていく。

    糞尿と汚水にまみれた目を背けたくなる描写も、
    皆川さんにかかれば、毒々しいまでに美しく妖艶な色合いを帯びる。

    ユリアンとツヴェンゲルの性を超えた繋がりが、
    あまりにも歪で悲しく、そしてたまらなく愛おしい。

  • かなりスローペースでしたが、読み終えた後は溜め息しか出ませんでした。
    癒着双生児として生まれたゲオルクとユリアン。ユリアンと双子以上の絆を持ったツヴェンゲル。別の場所で生きていた双子の人生が少しずつ繋がっていく。

    章毎に時代が前後し、徐々に見えてくる他の章との接点。
    人物名をタイトルに用いた章立てや自動書記という方法を使って語られるストーリー、という仕掛け。
    皆川さんの構成力に圧倒されます。

    スクリーンが「異界への窓」だという表現が印象に残りました。

  • オーストリア貴族の家に生を受けた双子、ゲオルクとユリアン。二人で「ひとつの生」として生まれ落ち、幼い頃に引き離された彼らの運命は、上海と聖林、混沌の2大魔都を舞台に、時を経て繋がってゆく―。

    もう素晴らしい、としか言いようがありません。
    繊細かつ壮大。幻想的かつリアリステックに綴られてゆく物語にひきこまれっぱなしでした。
    言いたいことは沢山あるような気がするのだけど、胸がいっぱいで言葉にできません。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「幻想的かつリアリステックに」
      どっぷり浸りました。素晴しい作品です!
      「幻想的かつリアリステックに」
      どっぷり浸りました。素晴しい作品です!
      2013/04/23
  • 久々の一気読み。これだけのボリュームをノンストップで読める持久力が残っていたことに我ながらビックリ。溢れ出る細かな描写とストレートな語り口に引き込まれ、その世界観がどんどん形作られていった。翻訳作品かと見紛うほどの質と厚みに押し潰されそうになる。

    二大魔都に巣食う光と影、辛辣を極める貧富の差、そして成長と混乱の中、己の欲望を掴み取ろうとする殺気立った情熱──容赦のないリアリズムをベースに展開するのは、幻想的な鬼ごっこ。ゲオルクとユリアンがそれぞれ覚悟を決めてから、更に一段、深みへハマり込んだような気がする。

    お互いの距離が縮まっていくと同時に、実は水面下で別のドラマが膨らんでいることに薄々気付かされる展開は素晴らしい。上海に舞台を移してからのサスペンスタッチな終盤には、異常なくらい感情移入してしまっているので、読んでて胃がキリキリするほど。

    キレイにまとまりすぎている感はあるものの、ここまで徹底されると逆に清清しい。行間から立ち上る薔薇の香りと鴉片の紫煙に思考はゆらゆらグラグラで、読後は強烈な余韻に支配されるがまま。女子受けするストーリーだと思うので、男子の率直な感想を聞いてみたい。このお歳でこういう大作が描けるとは…。傑作に脱帽です。

  • 最初は生々しい複数人による一人称の歴史書といったような感覚で読み進めていたが、終盤の怒涛のミステリー展開にはゾクゾクした。入念すぎる前提部分の上に成り立つ極上のディストピア耽美。堪らん。私にとっての皆川小説は、半分くらい著者の執念を愉しむ為の媒体なのかも。
    読み終わると、ミステリー的要素は、ヴァルターの死の真相を追うというのが割と初期からあったんだなあと気付きました。まあそれ以外に結合双生児とか精神感応とか女装趣味とかの怪しいファクターがてんこ盛りなので、私の中では割と埋もれたのですが…。
    あのタイミングで出て来たユリアンとツヴェンゲルの結合写真には監督同様ガチで鳥肌。その後の天井の三つの顔も。怖いとか気持ち悪いでは済まない、ここに至るまでの物語を読んできた者のみが味わえる、不快なまでの不気味さ。そこになぜか恍惚とさせられるのが、皆川作品の魅力だと思う。

  • 特殊な双子の話。また読み返したくなった。
    影としてでしか生きられない存在って、哀しいなあ。

  • うおお?
    あれ、最後よくわからなかった…また他の方のレビュー読みます。
    どんどんぐんぐん引き込まれてページをめくる手が止まらなかった。
    「ツヴェンゲル」の本名が明かされた時の鳥肌をどう伝えたらいいだろう。

    レビュー読んで、この狂おしさに酔いしれています。
    私はこのゲオルクユリアンたまにパウルみたいなぐるんぐるん視点が変わる酩酊状態が大好物なのです。下手な人がやると不愉快だと思うけど、皆川先生はそれでもガンガン読ませてくださるから大好きです。
    お体に気をつけてもっともっとたくさんの良い作品読ませてください。
    終わりは少し切ないのに、何故だろう…何か救いのような、暖かいようなものを受け取った。

    「燃える火を、躰の中に抱えている。形にしなければそれは私を焼き尽くす」
    わかるわー

  • 「こんなにも、どうして寂しいのか。」

    世紀末のウィーン。ユダヤ人の一族でありながら貴族の身分を得たグリースバッハ家に、癒着双生児として生を享けたゲオルクとユリアンは手術によって分離させられ、ゲオルクは嫡子として、ユリアンはその存在を無き者としてボヘミアの施設「芸術家の家」に預けられる。成人したのち自然感応によって記憶を共有し、互いの存在を意識するようになった二人はやがて運命の糸に手繰り寄せられていく。

    全編を通してこんなにも寂しさにあふれた作品をいまだかつて読んだことがない。
    この寂しさはいったい何によるものなのだろう。
    それぞれの章が各人の独白によるものだからだろうか。
    あるいは世紀末という時代の空気のなせる技なのか。

    ラストに向けて、自然感応により畳み掛けるように交互に語られる
    ユリアンとゲオルクの相互の記憶。
    次第に交錯していく彼らの記憶を二人と縁浅からぬツヴェンゲルが縫うように繋いでいく。
    もはやそれはユリアンのものかゲオルクのものなのかも定かではなくなり
    二つの記憶はやがて全てが共有され融けあって一つになるのではとさえ思わせるのだが…。

    分離させれられた二人は全く別な人生を歩んでいるかに見えて
    記憶を共有してしまうことによってかつては自分の一部であった互いの分身を
    意識しないではいられなくなる。

    自らの分身が世にあるということはその照り返しとしての自分を意識するということであり
    同時に自分というものを常に客観的に見ずにはいられなくなることになりはしないか。

    そういう意味では、自分はどこまでいっても自分と同化することができない。
    きっと死ぬまで自分でない自分を追い続けることになる。
    人生は果てしなく孤独な旅となる。
    そうしてゲオルクも独り―。

  • 分厚いハードカバー、しかも2段組に、図書館で借りてから、しまった!と思ったのは私です(笑)最初は少し苦戦していたのですが、後半は一気に読みました。
    癒着して生まれた双子のゲオルクとユリアン。二人の人生を追っていく物語。存在を抹消されたユリアン。“恵まれている”のはゲオルクなのか。幸せなのはどちらなのか。世間から認められることと、ただ一人から必要とされること。自分の幸福観を試されているような気がします。

  • 何故こんなにも素晴らしい物語が書けるのだろう!

    読みおわって思わずそう呟いてしまうほど、心惹かれる物語でした。

    双生児、上海、聖林…皆川せんせいの手に掛かって、面白くならないはずがありません。

    双生児をはじめとする登場人物もよかったです。
    なかでもツヴェンゲルという、天使を名に持つ彼の健気さ。
    彼の幸せを願って、始終はらはらしてしまいました。

    時に汚濁にまみれ、薄暗い雰囲気のなか進んでいくストーリーですが、ひとつの純愛が静かに光る小説です。

    装丁も美しく、購入してからずっと本棚に飾っています。

  • 数奇な運命の双子を巡る物語。
    別々の人生を歩まされることになった二人の物語がやがて交錯し融合していくまでの過程が実に壮大。さらにそこに絡むさまざまな人物の物語もあって、読み応え満点です。
    映画の世界の華やかさと、経済的な世知辛さ。そして庶民の生活の荒廃した様の対比がとても皮肉。でもこれは双子の人生にも通ずるところがあるのかも。
    だけど。この物語の真の主役ってツヴェンゲルなんじゃあ、という気もしました。すべてが彼を中心に動いていた気がするなあ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「この物語の真の主役って」
      ツヴァンゲルによって補われていますから、、、しかし皆川博子って凄いです。
      「この物語の真の主役って」
      ツヴァンゲルによって補われていますから、、、しかし皆川博子って凄いです。
      2013/03/26
    • ao-nekoさん
      皆川さんは本当にすごいですよねえ。未読もかなりあるので、がしがし読もうと思っています。
      皆川さんは本当にすごいですよねえ。未読もかなりあるので、がしがし読もうと思っています。
      2013/03/26
  • その世界にはいるのにやや苦労しましたが、引き込まれてしまえばノンストップで一気読み、至福の時でした。
    圧倒的な物語世界に酔いました。なかなか酔いが醒めません。
    それにしてもツヴェンゲルの魅力的なこと。
    鳥肌ものの傑作です。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「引き込まれてしまえばノンストップ」
      幻想的で耽美な世界。。。←実は文庫化待ちで読んでません。早く読みたい!
      「引き込まれてしまえばノンストップ」
      幻想的で耽美な世界。。。←実は文庫化待ちで読んでません。早く読みたい!
      2013/03/25
  • 単行本、二段組、540ページ。分厚くて重たかった。それに見合うように、最高に面白くて読み続けた。
    作者の博識が、ストーリーの展開、時代背景、登場人物の動きまでいきわたって、興味が尽きない上に勉強にもなった。
    文章は耽美的、幻想的なのに読みやすく、舞台になった都市の描写も、物語にしっくり馴染んでいた。

    題名のように、双頭は双子の意味で、脇腹で癒着した子供が4歳の時、手術で分離されて、お互いに数奇な運命を辿る。
    オーストリアの貴族の家に生まれた子供は二人になり、ひとりは家の跡を継ぎ、一人は存在を消されて「芸術家の家」と呼ばれる施設に入れられる。
    そこは精神に異常がある人たちを収容した施設だった。

    あとを継いだゲオルクは順調に教育を受け陸軍学校にすすむ。そこで決闘騒ぎを起こし、家からは廃嫡され、アメリカにわたる。
    もう一人ユリアンは施設で高度な教育を受けて育つ。そこには一つ年下のツヴェンゲルという少年がいた。

    ゲオルクはアメリカで死亡したとされ、折から勃発した戦争に、ユリアンはゲオルクになり、ツヴェンゲルとともに志願して戦場に出て行く。
    そこで初めて非在であった身分が公に認められ、国籍を持てることになる。

    だが、ゲオルクはアメリカで映画監督になっていた。

    二人の運命が交差する様子は夢のようで、胎内の記憶が現れること、自動書記の形で覚えのない出来事が記録されること。まだ会ってもいない頃から不思議な現象で繋がっている。

    ゲオルクは映画を作るために上海に来ていた。

    ユリアンは映画館のアルバイトでピアノを弾いていた。そこで画面にゲオルクの名前を見つける。

    教育係で父親のように親しんでいたヴァルターが殺された、ゲオルクの影を見たと思う、かれの仕業ではないか、問い詰めるために彼もアメリカへそして上海に渡る。

    いつ二人は出会うのか、読むのが止められなかった。

    ツヴェンゲルもアメリカにわたり、速記士のなってゲオルクのもとで助監督をしていた。

    こうしてそれぞれの行く先は奇妙な偶然が重なり、時に意図的で絡まった糸が次第にほぐれてくる。

    ゲオルクの生家(養家)は戦後の民主化で没落していたが、教育係をしたブルーノもまたユリアンのいた収容所で死んだ。

    これらの真相がミステリの部分で、最後には悲劇的な形で明らかになる。

    ゲオルクとユリアンの交互の語りという形で時間が進み、それにツヴェンゲルが絡む。

    上海の、眼を覆うばかりの汚泥と糞尿、貧民屈、鴉片の臭いの立ち込めた風景を生生しく描写した所もある。

    無声映画時代のハリウッドの映画事情、当時の俳優たち、まさにトーキーにうつる頃の映画界も興味深い。

    二人の見る悪夢のような共通の記憶も、距離のある場所でそれぞれに現れる幻影も、それに悩まされ、過去の姿を見ることが悲劇的で哀しい。
    忘我の中で白紙の書き連ねられる文字、現れる過去の出来事など。不思議な繋がりを重厚な物語にした、実に読み応えのある作品だった。

  • 19世紀末〜20世紀初頭のウィーン、ハリウッド(トーキー前の揺籃期の)、上海と、これ以上はないくらい豪勢にセッティングされた魔都に、幼児期に分離された癒着双生児の人生が幾重にも重なるようにして描かれる。緻密で叙情もあり、読み応え充分。途中で何度もはっとして以前の場面に戻り、ああそうだったのか、と。最後の最後まで、薄く豪奢なヴェールに包まれた秘密のような話が展開する。
    本当に美味しかったです。皆川氏を知ることができてとても幸せ。

  • 16:分離手術を受けて、別々に生きることを定められたシャム双生児、ゲオルクとユリアンの物語。
    映画、そしてツヴェンゲルの存在によって二人の人生が重なるかに見えた瞬間の激動。ラストまでの展開が美しくも悲しすぎる……!

  • すばらしかった

  • 結合双生児だったゲオルクとユリアンの数奇な人生…そこに絡みつくツヴェンゲルという少年…。
    いや~~壮大だった…。
    ゲオルクもユリアンと同じようにツヴェンゲルに惹かれたのが判明したシーンすげえドキッとした…でもツヴェンゲルはユリアンしか見てないの…。
    二人が再会して手を重ね肌を重ね合うシーンは…言い様のない耽美さが…皆川先生すごい…。

  • 時間と空間が交差し、精神と肉体が感応する。
    分離した双生児。

  • 『開かせていただき光栄です』
    『アルモニカ・ディアボリカ 』と読んで
    スーパーおばあちゃん皆川博子さん 3冊目

    難語、分野専門語がチョコチョコ、
    スマホで調べながら重厚感のある美しい文章を
    味わう。


    完璧な時代考証がなされて描かれる舞台設定
    タイムマシンに乗せられ
    皆川ワールドへ連れていかれる。


    ユリアンとツヴェンゲルにとって
    幸せな最期だと思いたい( ノД`)シクシク…。

  • あらすじを読んで、読み始めというか半分くらいまでは小難しい表現が多くて、ふーんという感じだったのだけれど、最後に泣くとは思わなかった。
    こんなに心を引っ張られたのは久しぶりでした。

  • 感無量!

  • 通常の双生児として生まれることが出来なかったゲオルグとユリアンの数奇な運命。
    彼等を繋ぐツヴェンゲルの心情を思うと遣る瀬無くなります。

    帝国時代の爛熟したウィーンから始まった人生が欲望のぎらつくハリウッドへ、猥雑で汚穢に塗れた上海へと移り運命の過酷さ、空しさに読むうちに引きずり込まれました。
    そしてどんなに混沌とした汚濁溢れる世界でも妖しく美しい皆川ワールドにどっぷりと沈み込みました。この作者の表現は本当に美しくて陶酔してしまいます。

  • 幻想と現実の狭間、、世界と時間軸の深いズレ・ユガミの中に迷い込む。この共振・共鳴・感応は万華鏡の中なのか、デジャヴなのか、合わせ鏡なのか、、二人の壮大かつ麗美な追いかけっこがシンクロに向かう。裂かれた切れ目を繕い直す様な光と影の物語♪。

  • 「2013年 インターンシップ学生のオススメ本」

    http://opac.lib.tokushima-u.ac.jp/mylimedio/search/search.do?materialid=212004922

  • 皆川さんらしい、グロテスクで壮大な物語でした。タブーや怪奇現象など、私の好みでないところをチクチク刺してくるのに、なぜか目が離せない。この世界観はすごいなと思う。長いお話で、場面もあちこちに飛ぶのに、決して迷子になることがない。ゲオルクの映画を心から見たいと思った。
    最後、ユリアンとツヴェンゲルの2種類のラスト。哀しみと安らぎがごちゃまぜになって、まだ心がさまよっている。

  • 読み進むのが惜しいのに文字を追うことを止められない。結局一日で読み終えてしまい、今はなんだか幸せでちょっと淋しい気分。膨大な情報と時代の匂い、焦らされるような物語の展開、これでもかというくらい圧倒的な言葉の質量で、本の世界へ繋ぎとめられていた数時間。ふ~~しあわせでした♪
    読んでいるあいだ中、私の中のこれまでの読書経験やなにやらから得たモチーフの数々がこの作品に集大成されていたかのような錯覚がしてしまって怖かった…。読みながら、頭の隅っこであの作品やあの本やあの音楽がちらちら浮かんでくる感じ。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

皆川博子の作品

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