王とサーカス

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 3253
レビュー : 515
  • Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027513

感想・レビュー・書評

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  • 誰でも
    (自分とは何者なのか?)
    フト、わからなくなる時がある。

    ここ、カトマンズに滞在している
    日本からやってきた女。
    彼女もまた、魂が抜けた線の様なシルエットしか見えず、
    (私は前作を読んでいないので特に。)
    最初、見知らぬ女の案内で
    初めて訪れる異国を巡ってでもいるかの様な旅気分でぼんやりと、ページを捲っていた。

    そんな女の二の腕を
    いきなり掴む冷たい手。

    「おい、
     この国の王が今、死んだぞ!
     殺したのは息子で
     家族も巻き添え、
     しかも自身は自殺を図ったそうだ。」
     
    そのNEWSを聞いた途端、
    彼女の体に熱い血がどっと流れた。
    (そうだ、私はジャーナリスト!)
    我に返った彼女は
    さながら目を描き入れた仏像に魂が宿るがごとく
    自分が何者であったか?に気付いた。

    なぜ、息子は王を殺した?
    さらに、家族をも殺す必要がどこにあった?
    そして
    自分の命を立つ事情とは…

    国は必死で事実を隠蔽しようとする。
    彼女は自らの身に危険が迫りつつも
    (それでも事実を暴き、
     国民に伝えるのが私の役目。)
    と、使命に燃え、ペンを握るのだが

    「一体、それは何の為だ?
     民衆とは自分の身に降りかからぬ陰惨な事件は好物だ。  
    それは、さながらサーカスでも見るようにな。
    お前らジャーナリストは
    民衆の好奇心を満たし、その見返りでただ飯を食っているだけじゃないのか?」
    と、問う者。

    更に
    ジャーナリストの存在意義に対する否定的な正論に揺らぐ彼女。

    何の罪もない市民を無残に殺す兵士を撮った写真を世界に配信し、賞賛を受けるカメラマン。
    それで戦争の悲惨さを伝えたつもりか…
    写真一枚撮ってるヒマがあれば、人の命を救えたのではないか…

    読者はジャーナリストなんかじゃない。
    が、それは
    死刑制度の賛否を問われて
    正しい答えを導き出せぬ事と同様、
    全ての人達に隣接している真っすぐな問いかけ。

    ミステリー要素も加わり、
    深い霧の中を彷徨うような物語の中にあって、
    それでも
    彼女が一歩一歩すすむべき方向を選択し、
    歩む道の後からは、柔らかい光が追いかけている様に思えた。

    正解も間違いもないこの世界で
    <正しい>を導き出すのは
    やはり人が持つ信念なんだなぁ。

    貴重なゲラ刷りの献本、ありがとうございました!

  • 王とサーカスという題名に象徴されるが、この本にはミステリーという範疇を超えた深みを感じた。
    今まで、テレビや新聞で事件を見聞きするたびに感じる、引っかかりが何なのかを、この本は伝えてくる。
    「悲劇は楽しまれるという宿命、自分に降りかからない惨劇はこの上もなく刺激的なこと」ラジュスワルの言葉は潜在的な認識を表にださせた。
    知は尊いとした時に、では知の意味は何か。多くの人たちが、それぞれの視点で書き伝える事で、この世界がどういう場所なのかがわかっていく、完成に近づいていく事で、自分はどんな世界に生きているのかを認識できると、万智は悟るが、「尊きは脆く、地獄は近い」という八津田の最後の言葉は、重い。何事にも表裏があり、信念や使命感が必ずしも正しいものではなく、間違った道しるべになる事を歴史は示している。
    本の中でのサガルの行為は、真実が持つ深い影ではないだろうか。
    作者の文章はとても巧みである、ちょっとした描写、食事、カトマンズにいることをリアルに感じさせるとともに、舞台の小道具のように意味を持ち、やがて繋がりを読み進めめるうちに感じ始める。
    一気に読み終えてしまった。

  • 大刀洗万智のフリー記者としての初仕事であり、取材すること報道することに対する意味を見つけていくネパールでの事件。ネパール王族殺害事件を題材にとりながら、それ以外のネパールの国情、そして報道による影響といった重いテーマを思いがけない事件の真相としてエンターテインメントにしている。
    17-75

  • 作品の舞台であるネパールに馴染みも興味もさほどなかったので、街や人々、習慣などの描写になかなか馴染めず読み進められるか最初は苦労したが、それを補って余りある太刀洗万智(主人公)の活躍とキャラクターにどんどん引き込まれた。

    タイトルの意味は途中(序盤に近い)に出てくるけど、すごくストンと落ちると言うか大きく納得するし、登場人物のキャラクターの濃さや裏表の描き方がとても興味をそそられる!
    作家の意図するままなのかもしれないけど犯人が何となくわかった状態で最後まで引っ張られるようにして読めた。

    太刀洗万智シリーズをどんどん読みたいなぁー。

  • フリーランスの記者となった太刀洗万智。ネパールのカトマンズで王の一家が殺される事件に巻き込まれる。万智はネパールの軍人の一人に接触することに成功。だがその軍人は殺害され、遺体を晒される。犯人はもちろん意外な人なのだが、その謎解きなんかどうでもいいと思わせるほどのミステリがネパールという国に潜んでいる。また、最後に意外な人物が、思いもよらない秘めた感情に胸を締め付けられる。いや、本当は気づかなければならないのかもしれない。正論が人々を不幸にすることに。ジャーナリストとなった万智には正論を語るしかない。真実と正義を報じるしかない。ジャーナリストの仕事の苦悩も本書では味わえる。

  • ジャーナリズムとは何かを考えさせられる作品。ネパールを舞台に太刀洗さんが苦悩する姿を描く。
    ミステリーでありながら、国内事情にも斬り込んだり、仕事の原点を見つめたりと本当に盛り沢山。ラストは人間の本質にも迫るシュールな展開もあって、深いなぁとただただ感嘆。細かな伏線を回収するところも秀悦。

  • 2001年6月1日。カトマンズ。
    ニュートーキョーロッジ202号室。

    フリーの記者・太刀洗万智は、雑誌編集部から海外旅行記事の依頼を受け、スケジュールに間があったので個人的に下調べを、とネパールに旅に出た。

    現地の物売りの少年と仲良くなったり、アメリカ人の若者に口説かれそうになったり、長期滞在の日本人の僧と知り合ったり。
    異国情緒漂う、旅行記のような始まりだ。

    しかし、王族間の大量殺人事件が勃発し、のんびりした旅行記どころではなく、国の存亡に揺れる緊迫した情勢を取材することとなる。

    アメリカの青年は言う。
    面白くなってきたのに…
    アメリカの自分の部屋でこの事件を楽しみたかった。
    今、自分は危険に近すぎる…と
    万智は、自分は記者として近くに居られたことをチャンスと思う。
    自分は情報の送り手で、彼のような受け手がいることを意識する。

    彼女の取材を拒む王宮軍人。
    今回の事件は国の恥。
    「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ」
    それを待っている人々の望みを叶えたくはない。
    『なぜ報じなければならないのか』
    軍人の問いに答える事が出来なかった。

    万智の前に死体が転がる。
    裸の背中に文字を刻まれた衝撃的な姿。
    良い写真が撮れた。
    これは、王宮の事件に関係するのか、しないのか。
    これを使えば非常にインパクトのある記事に仕上がると思うが…

    そして、万智を取り巻く人々の意外な秘密が明るみに出る。
    少年の、ジャーナリズムに対する激しい憎しみに、しかし、万智は、自分の居る場所を確かめるため、ここはこういう場所だ、と知らせるため、見る事、書くことをやめるつもりはないと言いきった。

    毎日、「報道」の無い日は無い。
    国民の「知る権利」を満たす、政治にかかわる重要な報道や、芸能人の下らないゴシップ。
    「今のお気持ちは~?」という、ファストフード店の店員のようなマニュアルの問いかけ。

    『何を報じないか』それが重要である、と万智は、時に立ち止まり、自分を振り返るのだ。
    ジャーナリストが皆、万智のような良心を少しでも持ってくれたらいいと思うけれど、下衆な記事を求める人々がいる限り、与える者も絶えないのだろうなと感じる。

    旅の終わりを読む時はいつも、夢から覚めて日常に還る感じ。
    読書の終わりに似ている。

  • 読了後、すぐに知ったんだけど、この作品で2015年度のミステリー賞3冠をとったらしい。さすがの米澤ブランド。これから先、宮部みゆきや東野圭吾のような大御所となっていくんだろうなぁ。イチゴタルトあたりを読んでる時はここまでの成功ぶりを予測できなかったが、ホント凄い小説家だと思う。

    この作品も面白かった。日本人の多くが知らない(忘れた)2001年王宮での悲惨な事件が起こったネパールを舞台に、その事件を負う女性フリーライターが謎の殺人事件に出会い謎解きが始まる。王宮事件と殺人事件の関連は?犯人は?登場人物たちの関連は?ミステリー素人の俺には十分面白い仕上がり。

    でも、この作品実は、主人公がジャーナリストとして、どんな矜持を持って取材し記事を書き犯人を探していくのかっていうところの方が、俺にとっては核心だった。

    バブル世代で目立ちたがりでお祭り好きの俺にとって、マスコミ報道業界ってのはずっと魅力的でカッチョ良くてあこがれていた。でもある時気付いてしまう。
    「肝心なニュースは真実を報道せず偏向報道ばかり、芸能人の惚れた腫れただの離婚だのに露骨な野次馬目線で切り込み、いいことがあれば業界全体でまつりあげ、悪いことがあれば一斉に梯子をはずして奈落にたたき落とす。こんな悪道非道なやり口のドコがカッチョ良いと思ってたんだろう」と。

    テレビのワイドショー、電車にかかってる週刊誌の吊り広告、大手新聞のねつ造記事…全部とは言わないけど、報道ってのは、覗き趣味と下世話な噂話好きの温床なんじゃないかと、そんな業界にあこがれたことに自己嫌悪すら催してしまったことも。

    作中、主人公は取材の過程で記事を書いている中で、幾度も逡巡し、迷い、人からも嫌われ、ののしられる。それでも記者としての彼女が見せたい真実とは?書きたいカトマンズとは?ここらの葛藤を経て得る覚悟の描写が凄くいい。

    主人公はあの「さよなら妖精」の登場人物でもある。そういう背景が分かっていれば、真実を伝えることの大切さ、彼女がその使命に突き動かされる意味が分かってくる。そこにうならされる。

    真実を知る権利、伝える権利、言論の自由、報道の自由。この権利や自由の重さをしっかり受け止めずに、権利と自由を乱用していると、ヤバいんじゃないか?いい加減そのことを自覚して修正していかないと、個人としても国としても、いつかきっとドえらい目に合ってしまいそうなイヤな予感がする。

  • ゲラプレゼントに当選し、読ませていただきました。
    とても面白かったです。
    ネパール紀行としても面白かったし、ミステリー部分は秀逸。登場人物が少なく、それぞれがストーリーに大きく関わっていて、たいへん読み応えありました。彼らが語る言葉には重みがあって、深くうなづけたりも。伏線の回収に至っては、見事とすら思いました。サガルの叫びは痛いほどです。語る、表現する、ということに対する矜恃も教えられたようで、深く心に響きました。これほど胸に染みるミステリーはこれまでなかったかもしれません。
    米澤穂信氏の作品を読んだのは初めてです。ずっと読みたいと思ってきましたが、今回の作品で制覇して行こう、と決意できました。彼の作品に出会わせてくれたことに感謝します。

  • 古典部シリーズやその他数点、著者の作品は読んできたけど、登場人物を一にする(らしい)「さよなら妖精」は未読。そんな背景を持つ自分が、本最新作を読んだ感想を書いてみます。
    まず最初に、主人公らの視線を通し、ネパールという国家の現状が示されていく。21世紀を迎える直前に、ようやく導入された民主制。とても整っているとはいえないインフラ環境。裏通りの退廃ぶりなどなど。でも一番気を引かれるのは、そういう生活環境の中を生き抜く上で、幼くして既に、狡猾さや穿った物の見方をするようになっている子供の存在。ほとんど知らないかの国のことを、少しずつ理解してきたところで、王宮で大事件が勃発する。記者である主人公は、事件の取材を進めていく中で、現場で働く軍人とつながる。
    その軍人との接触場面が、タイトルにもなっている「王とサーカス」という章で描かれているんだけど、この章のインパクトは強く、本書が何を論じたいのか、その核となる部分が提示される。記事は何のために、誰のために書くのか。当事者にとっての悲劇が、第三者の目に晒されたとき、興味を引くための見世物になってしまっているのではないか。
    巷間に溢れる写真や記事を、取り上げて議論して、は我々が日常的に行っていること。当たり前に享受している「知る権利」だけど、それって本当に当たり前?「知られない権利」も含めて言論の自由のはずなのに、数の暴力の前に少数意見が掻き消される場面は、きっと少なからずある。受け取る側も真剣に考えて、賢くならないといけない。そんなことも改めて考えさせられた。
    とまあつい鯱ばった事を書き連ねてはみたけど、同時にミステリーとしても十分楽しめたし、構えずに読める極上の娯楽作品だと思う。

著者プロフィール

米澤 穂信(よねざわ ほのぶ)
1978年、岐阜県生まれの小説家、推理作家。金沢大学文学部卒業。
大学在学中から、ネット小説サイト「汎夢殿(はんむでん)」を運営し、作品を発表。大学卒業後に岐阜県高山市で書店員として勤めながら、2001年『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞し、デビューに到る。同作は「古典部」シリーズとして大人気に。2011年『折れた竜骨』で第64回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)、2014年『満願』で第27回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。『満願』は2018年にドラマ化された。直木賞候補にも度々名が挙がる。
その他代表作として週刊文春ミステリーベスト10・このミステリーがすごい!・ミステリが読みたい!各1位となった『王とサーカス』がある。2018年12月14日、集英社から新刊『本と鍵の季節』を刊行。

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